第45話 王国裁判

 現在俺は、体を縛られた状態で、ゴツい男に紐を引かれて謁見の間に連行されている。


 違うからね?

 別にプレイじゃないからね?


 俺は、しばらくその辱めを受けながら歩かされていると、目の前にデカくて豪華な扉が見えた。

 どうやらあの先に、俺の人生を左右する王の間があるっぽい。


 その扉が開くと、足元には豪華なレッドカーペットが敷かれており、その先に玉座に座った中年のオッサンこと王様が座っている。

 その横にちょび髭をはやした、これまた落武者ヘアーの男。


 多分、あいつは大臣だろう。


 そしてレッドカーペットの左右には、見た事があるフルプレートの騎士がズラリと並んでおり、王に一番近い位置には、あのくそやろう……そう、人の話を聞かない金ピカ隊長が立っていた。


 俺は、当然王に近づく事を許されずに、レッドカーペットの一番端っこに立たされている。



「それでは、これよりガンダッダの裁判を行う、証人は前へ!」



 大臣がいきなりそんな事を告げると、金ピカやろうは、レッドカーペットの中央に立って王に敬礼をした。



「はは! それでは僭越ながら、私、ネマネマより詳細を説明させていただいてもよろしいでしょうか?」


「よろしい、話せ。」



 王がそう答えると、ネマネマは語り始める。


 どうでもいいが、あの金ぴか野郎の名前はネマネマだそうだ。

 変な名前だな。

 そして奴は語る。



 やれ、嘘の情報でアバロン王を騙し、ロイヤルガードを派遣させた上、王都にモンスターを放ち、王国を滅亡に追い込もうとした。


 やれ、奪った財宝を隠した上、それを理由に金を強請ろうとした。


 やれ、いにしえ塔の結界を破って、ガンダッダを捕まえたと自作自演した。



 うーん、なんだろ。

 全く意味不明だ。

 そいつ、すげぇ悪いやつだなぁ~という感想しか出てこないわ。

 誰なん? そいつ。

 死刑でいいよ。

 え? それ俺なの?


 報告を受けた王は「ふむ」とだけ答える。

 まぁ、既に話は決まっているのだろう。

 三文芝居だな。 



「それでは、ガンダッダよ。今の話に何か言い逃れはあるか?」



 王に代わって、大臣が聞いて来た。


 当然俺の答えは一つ。 



「全く身に覚えがありません。」



 すると大臣とネマネマの眉間に皺が寄った。 



「お聞きになりましたか王よ。この者は全く反省をしておりまぬ。死刑を今すぐに執行すべきかと進言致します。」



 ネマネマが王にそう進言すると、王が話し始めた。 



「まぁ待つのじゃ、まだこの者はオーブの在処を話しておらぬ。もしもオーブの在処が分かれば、それだけの罪を背負いし罪人であっても減刑し、終身刑にしてもよかろう。」



 その言葉に大臣がわざとらしく反応した。 



「おぉ! なんと寛大なお言葉! お前のようなクズにはありがたい話であるぞ! さぁ直ぐに話すのだ。」



 これはなんの喜劇であろうか?

 アホくさ。

 もうめんどくさいから、逃げちまおうかな?


 え? なんで俺が焦ってないかって?

 当たり前だ。

 こんな雑魚だけなら、俺はいつでも逃げられる。

 俺を縛る鎖だって、本気を出せば簡単に千切れるわ。


 だが、俺は仲間を信じて待っている。

 きっとイーゼ達は、俺の意思をゲロゲロから聞いて動いてくれているはずだ。

 ゲロゲロも、この金ピカが人間でなく魔物である事を伝えてくれているだろう。


 あの時俺は、金ぴかに近づいた時、そいつが魔物である事に気付いていた。

 だが周り全てが魔物かどうかの判断できずに、こうしてわざと捕まったわけであるが……。

 それはゲロゲロには伝えてある。


 だから大丈夫……あ!?


 俺がいないとゲロゲロは、意思の疎通ができないのでは?

 しまったぁぁぁぁ!

 大事な事を忘れていた。


 これやばくないか?

 やっぱ逃げるか?


 俺は、作戦に大きな穴があった事に気づき焦り始める。

 ちなみにここにいる奴らは、実は、大臣以外はみんなモンスターだった。

 牢獄の中でこの冠の能力【光の波動】を試していて色々わかった。


 この能力は効果を打ち消すだけではない。

 発動する量を制御すると、人か魔物かの区別もできるようだ。

 しかし、これだけの数の魔物と戦うとなると、流石に武器がいるだろうな。

 もし戦闘になれば、逃げの一手でいこう。


 でもまさかなぁ、王まで偽物とは思わなかったよ……。

 んで、唯一人間の大臣はどうするかって?

 知るか、あんな落武者!

 禿げて死ね!

 いや、もう手遅れか。


 しかしどうしたものかな……。



 すると痺れを切らした大臣が詰め寄ってくる。 



「どうしたのだ? そんなに汗をかいて。こんなに寛大なお言葉はないぞ? 早く話したらどうだ?」



 こいつ……マジでいざとなったら見捨ててやる!



「わかりました。オーブについては王に話しましょう。そこにいるのが本物であれば……ね。」



 俺がそう言うとネマネマが叫んだ。 



「無礼であるぞ! 王よ、もうこんな茶番はやめましょうぞ! 即刻こいつを拷問して吐かせて見せましょう!」



 すると偽王もそれに頷く。



「よかろう。残念だ、ガンダッダよ。それではこの者を拷問の上、死刑とし、その後見せしめに町に首を晒す。これにて……」



 バン!



 偽王が話を終わらせようとした瞬間、俺の後ろの扉が勢いよく開いた。 



「ちょっとまったぁぁ! そこにいる王は偽物よ! 本物の王はもう助けたわ! だからサクセスは返してもらうわ!」



 そう叫んで入ってきたのはリーチュン、そして俺の仲間達だった。

 イーゼの横には、玉座に座る王とそっくりの者が立っている。 



「これは……一体?」



 大臣が二人の王を交互に見て困惑する。

 だが、ネマネマは直ぐに剣を抜いた。 



「無礼者! 誰かはわからぬが、そのような者を王などと! ひっ捕らえよ!」



 ネマネマがそう叫ぶと、周りに立っているロイヤルガード達がリーチュン達に襲いかかる……が、その瞬間そいつらは凍った。



 【ブリザック】



 イーゼの上級凍り魔法だ。 



「みんなっ!」



 俺は仲間が助けに来てくれた事に感謝すると同時に安心する。

 よかった。ちゃんと逃げれたんだな。

 しかも王様をちゃっかり助けてるし!

 流石俺のハニー達!


 シロマは俺に近づき鎖を解く。 



「サクセスさん! 大丈夫でしたか? お怪我はありませんか? すぐに回復魔法を……」


「大丈夫だ! むしろスッキリした!」


「えっ?」



 俺が言ったセリフになんのことなのかわからず驚くシロマ。

 うっかり口が滑ったが、言えるわけねぇ。

 牢獄で毎日線香花火をしていただなんて……。


 するとイーゼも近づく……いや、すげぇ勢いで抱きついてきた。 



「サクセス様! サクセス様! この胸が張り裂けそうなほど心配でした!」 


「そ、そうか。心配かけてすまなかった、それで俺の装備は?」 


「はい、ここに!」



 イーゼは俺に装備を渡す。


 よし、準備は整った。

 反撃返しだ! 



「何をしている! 敵は少数だぞ! 早く捕らえよ!」



 偽王が叫ぶ。 そして俺は使った。



 ……そう。光の波動だ。


 謁見の間は一面がまばゆい光に包まれると、人に化けていた王と兵士達が、一斉に魔物の姿に変わる。 



「ぎゃぁぁ! 何をした! 大臣! 早く奴を捕まえよ!」



 そう大臣に命令したのは金の冠を被ったスケルトン。 



「スケルトンキング!?」



 イーゼが叫んだ。

 そして、隣にいるのがモンスターと知った大臣は腰を抜かして気絶してしまう。 



「何をしている!」



 スケルトンキングはまだ気づいていない。

 自分の姿が魔物に戻っている事に。 



「サクセス様、あれは強敵です。あと周りの敵は、ソルジャースケルトンですわ。一匹だけヘルスケルトンも混じってますが。」



 どうやら、あのネマネマだけは、上位種のヘルスケルトンというようだ。

 まずはあいつからだな。 



「シロマは王を護衛しつつ、あそこの落武者を確保しろ。一応、後で色々ききたいことがある。他のメンバーは雑魚の排除と王の護衛だ。」



 俺がそう言うと、みんな一斉に行動に移った。


 イーゼは爆裂魔法で敵を殲滅し、リーチュンとゲロゲロは素早い動きで敵をどんどん斬り裂いていく。

 しかし、魔法で砕いた敵以外は、しばらくすると復活してしまった。

 今のところ、敵を確実に倒せているのは俺とイーゼだけだ。


 敵が多くて、中々ネマネマに辿り着かない。 



「サクセス! ダメだわ! この骨、直ぐに復活しちゃう!」



 その言葉に、俺はまだ使ってない魔法があるのを思い出した。

 なんとなくだが、その効果がどんなものかわかる。

 そう、今の状況に最適だ。



 【光の加護】



 俺がそう唱えると仲間の武器を光のオーラが包み込んだ。

 すると、今までいくら倒しても復活していた敵が、簡単に塵となって消えていく。 



「凄いわ、サクセス! これでアタイでもやれるわ!」



 リーチュンは、更に勢いよく敵を駆逐し始めた。

 光の加護は、パーティメンバーに、光属性の力を付与する魔法。

 これでイーゼの魔法以外でも敵を倒せるようになった。


 そして、敵が減った事で、俺はネマネマの前にたどり着く。 



「テメェよくもやってくれたな! 覚悟しろ! 倍返しだ!」 


「お前如きに負ける私ではない!」


 俺がそう言うと、そいつも自信ありげに言い返してくる。

 そいつは6本の腕にそれぞれ剣を持ち、俺に襲いかかってきた。 



「しねーー!!」



 凄まじい勢いで、そいつは連撃を繰り出す。


 だか遅い。

 止まって見える。


 俺は、剣を横凪に一振りすると、それだけでそいつの胴体は真っ二つとなり、塵と化した。 



「弱っ! 見掛け倒しかよ、この雑魚が!」



 あまりにも呆気なく終わってしまい、俺は逆に残念だった。

 だがそいつは、本来弱い魔物ではない。

 レベル50のパーティであっても倒す事が困難な魔物。

 しかし、それよりも俺が強すぎた。


 今の俺のステータスは普通のレベルで言うと、余裕で250を超えている。


 つまらなすぎる。


 そう思った瞬間、突然目の前に巨大な火の玉が迫ってきた。

 どうやら俺の隙を見て、スケルトンキングが魔法を放ったようだ。


 俺は咄嗟に盾で防ぐも、その威力は強く、体に火傷を負う……だが、それだけだ。 



「サクセスさん!」



 それをみたシロマが叫んだ。



「安心しろシロマ。大丈夫、かすり傷程度しかくらっていない。」



 俺はそう言うが、今くらった魔法は火の最上位魔法。

 普通の人間なら、一撃で丸焦げになるほどの強い魔法だった。


 シロマが心配する訳である。 



「ば、ばかな……今のは最上位の火魔法であるぞ!」



 スケルトンキングは驚く。 



「生憎だったな、悪いがお前は俺の敵じゃない。」 


「ま、まさか! お前はまさか! 勇者なのか!?」



 その言葉に俺は、答える。 



「いーや、違うね。俺は、ただのハーレム系主人公だぁぁぁぁ!」



 【ディバインチャージ】



 今俺にできる最強の魔法。

 それをそいつに放つ。


 するとその斬撃はスケルトンキングを斬り裂くと、城の壁までも貫通した。

 相変わらず凄い威力だ。 



「後……少しだったのに……」



 それだけ口にするとスケルトンキングは灰に変わる。

 そして他の敵も既に仲間達が倒していた。



 俺たちの勝利だ! 



「流石ね、サクセス!」

「サクセスさん、格好いいです!」 

「私が……ハーレム筆頭ですわ!」



 なんか一人変な事を言っている奴もいるが、まぁいい。

 全員が勝利に喜んだ。

 すると、本物の王が俺に近づいてくる。 



「お主は、本当に勇者であるか?」



「あぁ、そうだ。俺はこの女神達だけの勇者だ!」



 俺はその問に、



  キリッ!



 っとキメ顔で答えた。


 っふ、決まったぜ!

 見てみろ、みんな顔を赤くしてるぜ。

 ちょっと照れるな。


 だがしかし、王に冗談は通じない。 



「そうか、やはり貴殿は、勇者であったか。この度は大儀であった! この礼は必ずする。」



 普通に流された……。

 あれぇ?

 このままだと、また嘘をついたとか言って裁判になったりしないよね?


 ちょっと俺は、心配になり始める。

 そんな俺の心配を他所に、王は寝そべっている大臣を蹴り飛ばして、無理矢理起こした。 



「おい! カッパ大臣! 起きよ! このたわけが!」 


「は!? ここは? 王? 本物の王でございますか!?」 


「バカもん! あんな化け物と余を一緒にしよって! ただじゃおかぬぞ! だがそれよりも先に、この勇者たちに今すぐおもてなしの準備をするのじゃ! わかったか!」 


「は、はい!! 今すぐに!」


 カッパ大臣は、そう言うと、勇者が誰なのかを確認もせずに謁見の間から走り去っていく……。



 このハゲ、後でなんて言っていじめてやろうか、今から俺は楽しみだ……。

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