第37話 マットプレイ

 部屋を出た俺は、とりあえず製作室までの道のりを地図で確認する。



「へぇ~、この宿は4階建てだったのか。赤丸が付いている部屋は……っと、4階の端か」



 赤く丸で囲まれた部屋の名前は


  【シード】


という部屋みたいだ。


 4階はほぼ全てが製作室となっているようなので、間違えないように部屋名を振ってるっぽい。


 どうしてこんなに製作室が存在するのかは謎だが、行ってみればわかるだろう。


 招待制みたいだし、招待されるっということはその部屋には既に誰かがいるということだ。


 何を作るのかはわからないが、できれば優しく教えてくれる先生であってほしい。



 そして願わくば……そこにいるのが男であってほしい。


 なぜ男の人がいいかって?


 そりゃ普段なら女性……もっと言えば、若くて可愛い子が良いに決まっている。


 だが今はダメだ。



「くっ! 静まれ! 静まるんだ息子よ!!」



 そう、今の俺は……いや俺の下半身はかつてないほどにいきり立っている。


 今のこいつは、例えるならば飢えた狼。


 食えるものならば、何にでも襲い掛かるだろう。


 特に若い女の子でも目にしたら止めることはできない。


 風呂に入っている時までは平気だったのだが、少し夜風に吹かれて休んでいたあたりからおかしくなっていった。


 エルフの国の食事は、もしかしたら人には精がつきすぎるのかもしれん。


 性欲増強スキルもせっかく体に馴染んできて、大分コントロールできてきたのにな……これはマジでやばい。


 さっきから体が火照りっぱなしで、息子がギンギンだ。


 もはや直立を越えて、腹に突き刺さる勢い。


 それと同時に急激なムラムラが抑えられなくなってきている。


 このままでは暴発する……もう二度と暴発はしないと決めていたのに……


 ここは製作室に行く前に一度、スッキリするべきではないだろうか?


 っと考えている間にも、いつの間にか俺は目的地である部屋の前に立っていた。



「どうする俺。まだ間に合うぞ。一発、いや二発程……」



 扉の前でそう一人事を呟きつつ、周囲を見渡す俺。


 近くにトイレでもないかと期待するも、やはり見当たらない。


 地図に書いてなかったのだから当然と言えば当然だった。


 今の俺の防御力は正に紙装甲といっても過言ではないため、ちょっとした衝撃だけでも危険な状況。


 そんな状態にも関わらず、空気を読まない音が聞こえてくる。



「このゴロゴロ音は……俺の所に向かってきてる!?」



 通路の奥から転がって来る赤い物体。


 あの色からして、多分最初に応対した仲居虫に間違いない。


 案の定仲居虫こと、赤色ダンゴムシは俺の前までくると、直立し頭を下げる。



「お待たせして申し訳ございません。鍵をお渡し忘れておりました」


「え? あ、はい。そういえば鍵を持ってなかったな」


「はい、こちらの手違いがございまして。ではこちらの鍵で……どうぞお楽しみください」



 そう言って赤色ダンゴムシは鍵穴に鍵を差し込み扉を開けると、俺はそのまま中へ入ってしまった。



「あ、ちょっと。鍵貰ってないよ!」


 

 その声は空しくもダンゴムシによって閉められた防音扉に阻まれ届かない。


 だがそれ以前に心の準備というか、下半身の準備ができないまま部屋に入ってしまった事に焦る俺。



ーーすると



「お待ちしておりましたわサクセス様。さぁどうぞこちらへ」



 そこには白いスケスケのネグリジェを着たイーゼがいた。


 そしてその白く細い腕で俺を中へと誘う。



「え? ちょっ、なんでイーゼが?」


「私が招待したからですわ」


「招待? なんで? って、イーゼならよかった。とりあえず俺は少し用があるから戻るわ」



 そういって踵を返した俺はドアノブに手を掛けるも……



「あれ? 閉まってる?」



 扉には鍵が掛けられていた。



「ここの扉はオートロックという仕様ですので、自動で鍵が掛かりますの。だ、か、ら、今日は誰にも邪魔されませんわ」



 いつのまにかイーゼに背後を取られた俺は、そのまま胸を押し当てられながら抱き着かれる。



「ま、まずいって! 今は、ちょっと……あ、あ、だ、だめだっぺ」



 なんとイーゼは右手で俺の息子を優しく撫で始め、敏感になった息子は今にも大量の涙がこぼれ落ちそうになる。


 

「そんな事を言っても体は正直ですわね。わかりましたわ、ではまずはあちらのマットへ向かいましょう」



 危うく暴発寸前だった俺だが、そっと手を離された事で何とか耐えることができた。



 しかし、マットって一体何を作るつもりなんだよ。



「ちょっとまってくれ、本当に。ここで俺達は何を作るって言うんだよ?」



 俺はそう質問すると、イーゼは妖艶な笑みを浮かべる。



「男と女が二人で作るものなんて一つだけですわ」



 その言葉を聞き、流石の俺も察する。


 ここが一体何のための部屋であるかということを。



「ま、まさか……ここは……」


「そのまさかですわ。この宿はパーティで入っても、二人になる事ができる素敵な宿ですの。今夜は寝かせませんわ」



 ま、まじか。


 あれ? 待てよ、全く何も問題ないじゃないか。


 この下半身の暴走もそういうことならばむしろ大歓迎なのでは?



 ふと冷静になって気付く。


 好きな者同士が落ち着いて事に至れるのならば、むしろこの状況はウェルカムだ!



 だが問題は…… 



「えっと、みんなにはバレない?」


「もちろんですわ。全員今頃グッスリなはずでしてよ」



 なぜそこまで自信があるのかはわからないが、多分イーゼの事だから色々と仕込んでいたのだろう。


 もしかして明日フリーにしたのも、このためだったのかもしれない。


 まぁなんにせよ、据え膳喰わぬは男の恥。


 童貞の呪いが若干気になるところだが、行けるところまでイッやんぜ!!



「よしイーゼ、雰囲気もへったくれもないが、俺に指示してくれ。俺はどうすればいい?」



 覚悟を決めた俺は、堂々とそんな情けないセリフを口にする。


 だって色々わからないし、ここは年上にリードを任せるべきだ。



「ではサクセス様。まずはお召し物を全て脱いで、このマットの上にうつ伏せで寝転がって下さい」


「うむ、わかった」



 緊張し過ぎて口調がおかしい俺だが、言われた通りにすっぽんぽんになる。


 そしてスベスベのマットの上にうつ伏せになると、突如部屋の天井の明りが消えた。


 暗くなった部屋には小さなランタンだけが妖艶な光を小さく灯し、同時に焚かれたお香から淫靡な香りが漂ってくる。



 何とも言えないエロシチュエーション。


 ドキドキドキ……


 余りの興奮に胸がはちきれそうだ。


 これは否が応でも期待が膨らんでいく。



 すると背中からイーゼの声が



「お待たせしましたわ。ではいきますわよ」



 ヌルッ……ヌルヌル……



「お、お、おっふ!」



 背中に感じる柔らかい二つの感触。


 それがまるでウネウネと生き物のように躍動していく。


 そして同時に俺の背中全身にヌルヌルが広がっていくのを感じた。



「あっ……ちょ、ま」



 突如として強烈に襲い掛かって来る快楽に、息子が遂に涙を流してしまう。



 あふぅ~……



「うふふ、どうでしょうか? サクセス様」


「く、くるしゅうない」


「では、もっといきますわよ」



 全身に広がっていく、かつてないほどの快楽。


 頭が真っ白になっていくのを感じる。


 こんな初めてがあっていいのだろうか?


 いや、良いに決まっている。


 もうこの身は全てイーゼに任せるんだ。



っと思った矢先、突然部屋が明るく照らされた。



「こういうことだと思ってましたよ。イーゼさん」



 背後から聞こえるシロマの声。


 なぜシロマがここに!?



「あら、シロマさんも混ざりたかったかしら?」



 え? シロマ!?

 え? 混ざる?



「な、な、なにを言っているんですか!! こういうのはちゃんと段階を踏んでですね……」



 シロマは恥ずかしそうに動揺した声で応戦するも



「段階なんて誰が決めたんですの? 好きな者同士自然な事ですわ」



 イーゼは一歩も引かなかった。


 この状況を目撃されておいて堂々としているのは流石としか言えない。


 つか、俺は大丈夫なのだろうか?


 怖くてうつ伏せから起き上がれないんですが……



「あーーー! 本当だ! 何やってんのさ!」



 すると今度はリーチュンの声まで。


 扉は鍵が掛かっていると言っていたが、いや、シロマのゲートがあればそんなものは意味がないか。



「あら、あなたまで来たんですの? 仕方ないですわね」



 流石のイーゼもシロマとリーチュン二人に見られて諦めた……と思ったのだが



「ではパーティ全員水入らずでいたしましょうか」



 !?



 なんとイーゼは俺の夢「いつかは4P」を叶えようとしていた。




 だが待て、流石に最初にそれは無理がある。


 いや無理という訳ではないのだが、それでいいのか俺!?



「結構です」


「アタイも流石にそれは無理かなぁ。てかさぁ、こういうのは大魔王倒すまではなしって話じゃなかったっけ?」


「そういう話もありましたわね」



 どうやら三人の話し合いではそう言う事になっていたらしい。


 つまりこれはイーゼがルールを破ったということだ。



「ではイーゼさん。約束を破ったのですからきっちり罰は受けてもらいますよ」


「あら? わたくしがいつ約束を破ったのですか?」


「白々しいわね! これを見れば言い逃れはできないでしょ!」



 確かにリーチュンの言う通り、この現場を見られては何も言い逃れはできない。


 そして俺も間違いなく折檻されるであろう……なんせ、もう出ちゃってるし。



「あら、何か勘違いしているようですわね。見てわかるようにわたくしはサクセス様の疲れを癒す為のオイルマッサージをしていただけですわ。ねぇサクセス様」



 おっと、空気を装っていた俺に振るなよ!



 数瞬答えに迷った俺だが、うつ伏せの状態のまま口にする。



「そうだっちゃ」



 …………。



「アウトですね」


「あの口調が出るってことはアウトだよねぇ~」



 なんでだぁぁぁ


 

「仕方ないですわ。ではそこで見ていればいいですわ、わたくしのマッサージの続きを」


「いや、もういいから! イーゼ、マッサージは終わり! もう寝よう!」


「ほら、サクセスも言ってるじゃん! でも詳しい話は聞かせてもらうわよ」


「そうですね。とりあえず今後この類の部屋は使用禁止です。わかりましたか。イーゼさん」


「わかりましたわ。残念ですが、今日はここまでのようですわね」



 遂にイーゼが折れた事で三人はそのまま部屋を出て行く。


 特に追及されなかった俺は、うつ伏せのまま安堵と先ほどの余韻に浸った。



 誰もいなくなった後に俺が何をしていたかは言うまでもないだろう。


 頭と体がスッキリしたころには、もう夜もかなり更けている。



「はぁ……惜しかったな。くそ、童貞の呪いめ!!」



 一人暗い部屋でそう毒付く俺だが、顔はにやけていた。


 だってそうだろ。


 こんなの期待するなという方が無理だ。


 確かに今は無理だが、それでも大魔王さえ倒せばすぐにでも解放される。


 そうすればめくるめくる官能の世界へと……



「ぐふ……ぐふふふ……ぐひゃひゃひゃひゃ。」



 気持ち悪い声を上げながら笑う俺だが、そこである事に気付く。



「あれ? そう言えばどうやって部屋から出るんだ?」



 そう、部屋は鍵が掛かったままであり、イーゼもシロマもいなくなった今、俺は部屋から出る手段を失くしていた。



「おーーーい! 出してくれぇぇぇ!! 誰かぁ!!」




 その夜、一晩中俺はその部屋で叫び続けるのであった……。


 防音部屋が憎い……

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