第36話 ダンゴムシコンベアー

 女性の部屋と言われると少しだけ興奮……しないな。


 だって、母親同伴だし。


 ただ男性用と女性用で部屋が違うのかは気になるところだ。


 ちなみに女性陣の部屋は三階だったのだが、三階まで来たところで俺は再び異様な光景を目にする。



「まぁ……うん、あれがどうやってああなっているのかはわからないけど、そういうものだと思うしかないな」



 なんと、三階の通路では料理の乗った木製のお盆が連なる球体の上をベルトコンベアーのように移動していたのだ。


 準備が整ったとはなんぞ?


 いやこれを見せるのもデモンストレーションの一つなのかもしれない。


 だがそれを良しとしない者もいる。



「サクセス。ここを案内したお前の彼女を悪くいうつもりじゃないけど、あれは流石に気持ち悪いぞ。」



 実に同感だ。



 通路一帯に丸まったダンゴムシが連なり、それがぐるぐるその場で回転し、運ばれゆく我らの夕食。


 ぶっちゃけみたくはない光景だ。


 あんな風に運ばれるのを見たい者が……いたわ。



「うっわーー! なにこれ超面白い!」


「ですね。これは興味深いです」



 シロマとリーチュンはそれを目を輝かせながら面白そうに見ていた。


 女性と男性ではやはり感性が違うのか。


 というか、普通逆じゃね?


 しばらくその光景を前に立ち尽くしていたが、ダンゴムシコンベアーの横には人が一人通れるようなスペースがあったので、その横をすり抜けるようにして俺達は進んで行く。


 少しだけ食欲が削がれた俺だったが、ダンゴムシはともかくとして皿に乗った料理は美味そうだ。


 ようやく部屋までたどり着くと、女性陣が泊まっている部屋は俺達の部屋より一回り大きかった。


 作りはほとんど俺達の部屋と同じだが、壁際に三面鏡が二つ設置されているところだけが違う。


 

「へぇ、広いな。」


「だよねぇー。かなりいい部屋だよね! サクセスの部屋も同じ感じ?」


「うん。露天風呂とかサウナもあるようだし、同じだね。それよりもとりあえず座って飯にしようか」



 リーチュンはそう聞きながら、俺の横に座る。


 ちなみに反対側にはシロマが座った。



「イーゼはまだ来ないけど、先に始めるか。」



 とそこに丁度イーゼが戻って来る。



「すみません、遅くなりました。サクセス様、これをどうぞ」



 イーゼは戻って来るなり、俺に冊子を渡してくる。



「これは……メニュー表か。ん? 追加で頼めるってこと?」


「はい。それと飲み物等もそちらから選ぶ用になっています。部屋の隅に従業員がおりますので、言っていただければすぐに持ってきてもらえますわ」



 おぉ、そういえば飲み物がないな。



「いいね。じゃあ適当に飲み物とか頼んでもらっていいか? メニュー見ても俺はよくわからないし」


「わかりましたわ。では、そちらはおまかせを」



 そう言ってイーゼは、緑色のダンゴムシに何かを伝えている。


 まぁ母親の前で変な物を飲ませようとはしないだろう。


 とにかく今は飯だ!!



「サクセス、もう食べちゃうからね!」



 おっと、リーチュンは我慢の限界だったようだ。


 俺もそうだけど。


 よし、いただきますか!!



※  ※  ※



「うまい!! どれもうまいぞ!」



 イーゼが言っていただけあって、出てきた料理はどれも美味しく口に合う。


 肉はなんの肉かはわかないがプリプリしていてうまいし、その他も見たことがない料理ながらも舌鼓を打つほど美味だ。



「お口にあったようで光栄ですわ」


「ああ、流石イーゼだな。ちなみにこの肉は何かわかるか?」


「すっぽんですわね。後はマム……なんでもないですわ。食材にこだわっている宿ですので、特に気にしなくてよろしいかと」



 すっぽん? あとなんか言いかけてたな。


 もしかしたらイーゼも詳しくは知らないのかもしれない。


 まぁなんにせよ、うまいんだから気にしてもしょうがないか。


 ふぅ~、それにしても食った食った!


 まさかエルフの国でこんなうまい物を食べられるなんてな。



「さて、そろそろ部屋に戻るかな。イーゼ、明日の予定は?」


「はい、わたくしは王城へと向かいますので別行動となりますが、みなさまはそれぞれ街を散策してはいかがでしょうか?」


「散策か、いいね。朝飯は自分達の部屋で食べる? それともこっちに来た方がいいかな?」


「朝食は各部屋となっておりますので、そちらでお食べ下さい。それに折角ですので、明日は各人で見て回るのをお勧めしますわ。皆さまには興味深いものも多いでしょうし、たまには一人でのんびりしていただければと」



 ん? イーゼにしては珍しいことを言うな。


 ただ、それも悪くない。まだ日にちもあるだろうし、気のみ気のままに一人で散策するのもいいな。



「わかった。じゃあ明日の夜に色々と聞かせてくれ。じゃあ戻るね」



 そう言って俺達男性陣&ゲロゲロは自分の部屋に戻る。



「なかなか旨かったな」


「カリーの口にも合ったみたいで良かったよ」


「ゲロ(美味しかった!!)」



 出てきた飯の感想を口にしながら、その日の夜はゆっくり露天風呂に入ったり、サウナで汗を流したりして緩やかな時間を過ごす。


 ちなみに露天風呂が二つあったのは、一つが水風呂だったせいだ。


 最初、間違えて水の方に入ってしまって驚いたが、そっちはサウナの後に入るもの。


 サウナで火照った身体に水風呂は本当に最高だった。


 それと露天風呂のある庭にも蚊帳があるのだが、その中に二つリクライニングチェアが置いてあり、そこで横になって火照った身体を静めながら空を見上げる。


 これで満天の星空でも眺められたら最高なのにと思うも、残念ながら何も見えない。


 実際この上には更に大きな木の枝や葉っぱで覆われているのだから、それは仕方ないのだけどね。



「なぁ、サクセス。」


「ん?」



 俺とカリーが二つ並んだリクライニングチェアの上で横になっていると、カリーが話しかけてきた。



「お前は姉さんを本当に母親だと思うか?」


「え? どうしたんだよ、急に」


「いや、お前にとっても突然だったろ? だから実際どう思ってるのか気になってな」


「うーん、まだ実感はないというのが正直なところかな。だけど、やっぱ何か感じるものはあるよ」


「そっか。悪いな、変なこと聞いて」



 どうしたんだろうか?


 なんか少しだけカリーの様子がおかしく見える。


 いやおかしいっていうより、なんだろな? 


 不安? うーん、よくわからん。



「別に変じゃないさ。それより俺の彼女たちは凄いだろ!」


「あぁ、本当にな。まさかあれほどとは思わなかったぜ。だからこそ思う。お前はやっぱりフェイルに守られてる」


「それはよくわからないけど、確かに色々と運が良かったとは思うよ。こうやってカリーにも出会えた訳だし」


「言うじゃねぇか。まぁ俺も同じだ。お前が生きていてくれたことがここに来ての一番の幸運かもな」



 その言葉を最後にカリーは黙って目を瞑った。


 なんというか落ち着いた雰囲気の影響でお互い本音が口から出やすくなっているのかもしれない。



「じゃあ先に上がるわ。カリーもそこで寝たら風邪ひくからほどほどにな」



 俺はそう言って立ち上がると、カリーは片手だけヒラヒラとさせてわかったと伝える。


 その後風呂上りに冷たい水を飲みつつって、まだダンゴムシおるんかい!!


 そんな丸くなってオブジェみたいに擬態しててもわかるからね!



「あの、もしかしてずっとそこにいる予定ですか?」


「はい。お気になさらず。飲み物や必要な物があればお伝えください」



 うーん、確かにここにいてもらえると便利だけど何か気になっちゃうな。



「ところでお客様。お客様宛にドッキングルームへの招待状が届いております」



 そう言ってダンゴムシは館内地図が描かれた紙と招待状を渡してくる。


 招待状は、表に招待状とだけ書かれており、下には俺の名前があった。


 表と裏をひっくり返して確認するも、それ以上は何も書かれていない。



「これは?」


「そこの赤く丸で囲われた場所が指定の場所となります。どうぞお楽しみください」



 俺は招待状についてダンゴムシ君に聞いたつもりなのだが……


 何故か返ってきた答えは地図の説明と楽しんでくださいとの言葉。


 これだけじゃ何のことかさっぱりだわ。



「え? ちょっと意味がわからないんだけど。俺はもう寝たいのだが、行かないとダメ?」


「ここではそういうルールとなっておりますので」



 ルール?


 せっかく気持ちよくなっているのにこれから何を作れと……


 つか、その部屋を使うか使わないかは自由だって言ってたじゃん、イーゼが。


 あれは嘘だったのか、それともルールが変わったのか?


 いずれにせよ、招待されたなら行くべきなんだろうな。


 めんどくさいが仕方ない。今日だけだぞ。



「じゃあカリーを呼んでくるか」


「お待ちください。そちらの案内状はサクセス様宛となっております。行く場合は御一人でお願いします」



 一人?


 俺だけ招待?


 まじで何なの? 俺手先はそこまで器用じゃないんだけど。



「なんだそれ? ちっ、じゃあいいや。さっさと行って戻って来るか。どうせ俺に作れるものなんてないだろう」



 俺はそう言って一人、部屋を出る。


 まさかこの後あんなことになるとも知らずに……


 そう、俺にもあったのだ。


 一つだけ作れるものが……。

 


 

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