第47話 王国祝賀会

 目の前に広がる無数の見たことがない豪華絢爛な料理の数々。



 ……ジュルリ。



 さっきから見るだけで、涎がとどまる事を知らない俺。

 貧乏農家の三男である俺にとって、このような派手な場所で立食パーティは当然経験もしたことはないし、もはやこんな光景を目に入れるだけでも、夢のまた夢であった。


 しかも俺の隣にはこの国で一番偉い王様が立っているときたもんだ。

 涎と涙の一つくらいは、出て当然だろう。


 早速王様は、酒が注がれた杯を手に取ると高らかに掲げる。 


「今日、わが国に英雄が誕生した。その者達は魔王の手の者を滅ぼし、更にはこの国の危機を救ったのである。今日という日は、正にこの英雄達の伝説の幕開けとあるであろう。それでは皆の者、杯を掲げよ! 救国の英雄達に乾杯!」



 王様ことセンニンが乾杯の挨拶をすると、いつから来たのか、この国の重鎮と思われる者達が一斉に杯を掲げて乾杯をした。

 当然英雄とは、俺達の事であるのは言うまでもない。

 王様の隣には俺が立ち、その隣には仲間達が並んでいる。


 センニンの挨拶が終わると貴族たちは、普段なら偉い順番に挨拶に来るようだが今日は違った。

 俺達がいるから、王の邪魔することはできない。

 故に、最初は近くの者達と今回の件について話し合っているようだったが、その内に俺達に直接話を聞こうとじわじわと近づいて来る。


 そして見た目麗しい俺の仲間達を一目見て、あわよくば声をかけようと画策していた。

 ただ一つ、不思議な事は、大臣が見当たらないことだ。 



「本日はパーティの裏方に専念致します。」



と言って引っ込んでしまったらしい。


 まぁそんなことは、この俺が許さんがね。

 ちゃんと謝罪をしてもらうまでは許しませんよ? 



「いやぁ! 本当に豪華な食事だなぁ。しかもどれも美味しい! センニンありがとな!」



 俺は、既にこの国の王様とタメ口だ。

 周りに人がいる時は、遠慮しておくと言ったのだが…… 



「英雄なんだから遠慮はいらない。サクセスと余は対等である。」



 とかいって普通に話すように言われてしまった。

 俺の中でセンニンの好感度は急上昇中。

 冒険者を辞めたら、この国に住むのもありかもな。



「こんな事ぐらいでは感謝しきれんじゃろ。余は、いや、この国はサクセス達によって救われたのじゃからな。改めて申す、ありがとう。」 


「もういいって。そんなに王様が頭下げたらまずいって。感謝は十分受け取ったよ。それに俺達はもう友達だろ?」


「……サクセス。余は生まれて初めて心を許せる者を得た気がする。これが友というやつなのだな。」



 センニンが涙を流し始めた。 



「ちょッ! やめてくれよまじで。それより大臣はこないのか? 色々聞きたい事があるんだけど、呼べないかな?」 


「お安い御用じゃ、おい! カッパを連れて参れ! 大至急だ!」



 センニンは、隣のメイドにそう伝えると、メイドは一礼をした後、大急ぎで大臣を呼びにいった。 



「ねぇサクセス! あっちに美味しそうなのあるから、食べにいっていい?」



 リーチュンは目の前に広がる宝(飯)の山に目を輝かせている。 



「おう、みんなも好きにしてくれ。俺はちょっと大臣を交えて話したい事があるから、自由に楽しんでくれよ。」


「わかったわ! よし! シロマ、食べるわよ!」



 リーチュンはそう言うと無理矢理シロマを連れて、奥に並んでいる宝の山の攻略を始めた。


 パーティは、前衛リーチュン、ゲロゲロ、後衛シロマの三人である。

 多分作戦は【ガンガンいこうぜ】で間違いないだろう。

 こんな時ぐらいはそれでいいと思う。


 じゃあ俺の作戦は【みんながんばれ】だな。


 と言いつつ、さっきから俺の箸も止まらないんだけどね。 



「ふふふ、邪魔者は消えましたわ。サクセス様、はい、あ~ん。」



 リーチュン達が消えるまで、影を潜めていたイーゼが俺に飯をあ~んさせてくる。

 俺にとって人生初あ~んは、王様の羨ましそうな目線の下で行われることになった。



 もぐもぐもぐっ……。 



「うん、うまい。けど自分で食べるからいいよ。イーゼも好きに食べてくれ。」 


「料理など目に入りません。私が見たいのはサクセス様だけ。あ~んしてくれるだけで十分ですわ。もしくは私にあ~んあんあん……させてくれるでもいいですわよ。うふふ。」



 おい!

 この変態エルフはこんなところでなんっつう事を口走るんだ。

 何が、ア~ンアンアン……だよ!

 見て見ろ!

 隣のセンニンが羨ましいを通り越して、虫の息になってるぞ! 



「だ、大丈夫かセンニン! あれは冗談だ、冗談なんだよ。お前には言うけどな……俺まだ童貞なんだ。」



 すると、センニンの目に光が戻る。 



「なんと! そんな馬鹿な! こんな見た目麗しい女性に囲まれているのにか!」 


「そうなんだ。仲間に手を出したら冒険者はやってられないだろ? だから毎日違う意味で苦しんでいる。正直永遠の毒状態だよ。」 


「そうじゃったか……余に何か手伝えることはないか? そうだ、余の秘蔵の……。」



 センニンが何か重要な事を言おうとした時、イーゼが割って入ってくる。



「あら? そんな事を気にしてらっしゃったのですか? 私なら全く気にしませんわ。別に私以外の者を抱いても、私さえ愛してくれるなら構いませんわよ。なんなら全員同時に愛してくれても……。」



 ブファッ!



 俺は思わず吹き出してしまった。 



「ななな、何言ってんだ。できるわけないだろ! そげな高度なこと!」



 童貞に4Pとか、いきなりできるはずもない!

 いやいや違う、そこじゃない! 



「うふふ、私がリードしてあげますわ。」



 え? リードしてもらえるなら……俺にもできるかな?

 ってちが~う!

 ダメだ! 乗るな、悪魔の誘惑に! 



「いいのうぅ、いいのうぅ、うらやましいのう。わしも入れてくれんかのう。」



 さっきまで同情していたセンニンだったが、今はまるで友達のいない少年が、楽しそうに遊んでいる子達の輪に入ろうとモジモジしているような状態になっている。 



 【センニンは仲間になりたそうにこちらを見ている】


 【仲間にしますか? はい いいえ】



 いいえ 一択だ!

 いくら友とはいえ、それだけはダメだ。

 というか、そもそもの前提が土台無理な話である。


 職業【童貞】


 にそんなスキルはない!

 ん? いや待てよ?

 今の職業は【性戦士】だっけか?


 ってんな訳あるかぁ!



 そこに突然、息を切らしたメイドが戻ってきた。 



「お話中、申し訳ございません、連れて参りました。」



 見ると、そこには顔から汗を流しまくっている大臣が立っている。



「遅れて申し訳ございませぬ!」 


「馬鹿もん! 余が来いといったら三秒で来い! 大臣が来ないせいで余は劣等感で自殺しそうになったわい! どうしてくれるのじゃ!」



 八つ当たりの様に大臣を責め立てるセンニン。

 それを見ると、大臣に仕返しをする気分も若干萎えてくる。

 つか、自殺とか物騒な事言うなや、そんなにか!? 



「た、たいへん申し訳ございませぬ。自殺などと……ご容赦ください!」 


「ふん! 聞いたぞカッパよ。お前はこの英雄にとんだ無礼を働いたようだな。余だけでなく、あまつさえガンダッダを捕縛したと報告をした英雄を牢獄に入れるなど、恥を知れ!」



 あっれ~、これ、もう俺何もしなくていいんじゃね?

 なんかめっちゃ周りに注目されてるし。

 一部はリーチュン達に接触しようと必死に声をかけて返り討ちになってるけど……ざまあ。


 うん、もういいかな。

 こいつのことはセンニンに任せよう。 



「返す言葉もございません。このカッパ、どんな処分も受ける所存でございます。」 


「余に謝ってどうするのじゃ! サクセスに謝らんかバカ者!」 


「はは! この度は大変なご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございません。」



 大臣は俺の目の前で土下座した。

 こうして謝罪もしてくれたんだ、水に流すか。 



「謝罪は受け取った。許すよ。でもな、大臣という立場であれば、もう少し冷静に判断するんだな。それと聞きたい事が二つある。一つは緊急クエストをギルドに出した後、何を偽物の王に命令されたか、そして俺が捕縛した本物のガンダッダやその一味についてだ。」


 俺はずっと気になっていた事を確認する。

 すると、大臣は更に大量の汗をかきだし、報告するのをためらっている。 



「そ、それが……実を言いますと、偽物の命令でガンダッダとその一味は……その……言いにくいのですが、サクセス様に騙された被害者だから解放せよと命を受けて……」 


「まさか逃がしたのか!?」



 俺はつい大声をあげてしまった。 



「……はい。現在軍を上げて捜索しております。ギルドにも捜索と捕縛依頼を出してきたところです。」



 カッパは震える声で報告した。

 どおりでここにいなかったわけだ。

 色々やる事が多かったのか。


 だがそれを聞いたセンニンは激昂した。 



「なんじゃとぉぉ! 余は全くそのような話は聞いておらぬぞ! なぜ黙っていた! なぜ伺いを立てぬ! クビだ! カッパ、お前はクビだ! いやこれだけの事をしでかしたのじゃ! 一族郎党全員打ち首じゃぁぁぁ!」



 まぁ失敗はもとより、報告連絡の不徹底は致命的だな。

 しかし、打ち首は流石に可哀そうだろう。


 王に激怒されたカッパは顔を真っ青にして、今にも倒れそうだった。

 報告連絡はともかく、こいつも騙されていただけの被害者には間違いはない。

 しかも魔物だったとは言え、王と信じた者から命令されれば断れるはずもないよな。


 うん、やっぱり死刑はダメだ。

 こいつが悪意をもってやったなら、それでいいとは思うけど。 



「センニン、落ち着いてくれ。確かにこいつは重大な事を報告しなかった。それ相応の罰を受けるべきだ。」 


「そうじゃろ! せっかくサクセスが捕縛したものを……許せるはずもない。」 


「いや、許してやれ。奴らは俺が必ず捕縛する。」 


「ゆ、許せじゃと? なぜじゃ! サクセスは余以上にカッパに酷い目に遭わされたはずじゃろ?」 


「そうだな、さっきまでは、このハゲー! っと言ってやりたい気持ちで一杯だったが、今はその気も失せた。こいつも被害者だからな。偽物に騙されたとは言え、それを看破するのは普通に無理だよセンニン。絶対無理な事を言われて、できなかったら死刑って、それが王様のすることか? それならあの魔物の王と同じだぞ?」 


「そ、それは……そうじゃの。わかった。サクセスがそういうなら、騙されて行った事には目を瞑ろう。しかし! それでもただ騙されるだけの無能な大臣はいらぬ。よってお前には、今日からこの城の小間使いを命ずる。サクセスに感謝をするんじゃぞ!」



 よかった。流石に一族郎党打ち首はやり過ぎだ。

 センニンが人の意見を尊重してくれる王でよかった。 



「さすがはサクセス様ですわ。懐が深いですわ。素晴らしいですわ。」



 イーゼはとろけたような表情で俺を見つめながら、ぶつぶつ呟いている。 



「サ、サクセス殿! 本当にありがとうございます! ありがとうございます!」



 そしてカッパは跪きながら、涙を流して俺の足に顔をこすり付ける。



 キショ!!



 普通にやめてほしい。

 つか、鼻水ついてるじゃねぇか! 



「これに懲りたら、また一からやり直すんだな。もしも、お前が本当に有能ならば、センニンはまた要職に据えるだろ。そうだろ?」 


「普通ならありえない事じゃが……そうじゃな。もしも有能であればそれを使わないのは王としての能力が疑われるじゃろう。うむ、精進するのだなカッパ。」 


「はは! ありがたきお言葉! このカッパ、一から出直したいと思います!」



 そういって再度、センニンに頭を下げるカッパ。

 しかしガンダッダの野郎は逃げたか。

 すると、ワイフマン達もか?


 あの精神状態から逃げるという選択肢があるとは思えないが……。

 逃げるという事は、俺にまた追われるという事。

 それに耐えられるとは思えない。


 まぁいい、やる事は決まった。

 マーダ神殿にオーブを届ける事と、ガンダッダの捜索だ。

 とりあえず、今日くらいはみんなで騒いで楽しもう。


 そう決めると、俺は旨そうなワインに手を付け始めた。

 大事な事を聞くまでは控えていたのである。



 ゴクゴクゴクッ! 



「う、うみゃい! 今日はどんどん飲むべさ!」



 酒で一気にテンションが上がった俺は、翌日起きた後、その後の記憶を失うのだった……。

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