第48話 朝チュン
チュンチュンチュン……。
「……ん、んん~、ん!? あれ? ここは?」
鳥の鳴き声で目が覚めた俺は、真っ白の大きなベッドの中にいた。
服は……うん、着ていない。
まるで生まれたばかりのような姿だ。
一体、昨日俺に何が……。
毎回酒を飲むたびに記憶が無くなるのはどうにかならんかねぇ。
ふと、俺は気づいた。
布団の中に大きな膨らみがある事に。
「え? 嘘!? 嘘だろ!? まさかの、朝チュン!?」
まさかな……きっとゲロゲロが大きく成長したんだな。
あはは……。
やめてくれ!
どうせ手を出すなら記憶は残してくれ!
その膨らみはゆっくりと俺に近づいてくる。
やめて! 来ないで! 誰!? 誰なの!?
そしてその膨らみは、俺の前まで来ると被っている布団を剥ぐ。
「わしじゃよぉ!!」
布団から出てきたのは、やべぇ水着を装着したセンニンだった。
そしてセンニンは、顔を赤らめて俺にトドメを刺した。
「……昨日は……よかったぞ!」
ポッ……。
「うそだあああぁぁぁぁぁぁ!」
ガバっ!!
俺は目が覚めた。
「はぁ……はぁ……はぁ……。ひでぇ夢だ!」
どうやら夢だったようだ。
今度は自分の頬をつねって確かめてみたが、痛かったので間違いない現実だ。
昨日は、大分酔っ払ってしまったようだな。
あの夢が現実だったらと思うと死にたくなる。
うん、ちゃんと服を着てるじゃないか。
あれ? でもここで俺が寝てるってことは?
すると、まるでデジャブのようにベッドの布団が膨らんでいるのに気付く。
!?
俺の顔は、真っ青になった。
嘘だろ、今度も夢落ちだよね?
やめてくれ! 知りたくない!
俺は朝からとてつもない恐怖に襲われる。
そしてさっきの夢と同じように、その膨らみは近づいて来た。
ガバっ!!
布団が剥がれる。
さっきと同じだった。
俺は思わず目を瞑る。
頼む!
センニンはやめてくれ!
センニンだけは勘弁してくれ!
俺がそう願っていると、出て来た何かは俺の鼻をつまんだ。
「おはようございます、サクセス様。うなされていましたけど大丈夫ですか?」
「……イージェ?」
俺はイーゼの声を聞き、安心して目を開ける。
ん? イーゼ? 安心?
現実に返った俺がふとイーゼに目を向けると……そこには。
ベッドの上に女の子座りをしている……
やべぇやつがいた!!!
「お、おまっ! なんでそれを……。」
俺は言葉を失う。
「ふふふ、今頃起きるなんてお寝坊さんね。」
イーゼは俺の息子を見て呟く。
どこに言ってるっぺよ! これは、朝モッコ……て違う。
そうじゃない。
そんな事よりもそ、それは……まさか……!?
俺の息子の戦闘力がどんどん上がっていく……。
19000……20000……21000!?
ベリベリッ!!
スカウターが壊れただと!?
(パンツが破れただと!?)
こんな数値は間違いだ!
スカウターの故障だ!
なんと、目の前にいるやべぇやつは、伝説の防具
【やっべぇ水着】
を装備していた。
「うふふ、昨日はよかったですわぁ……サクセス様ったら、これを付けた瞬間……あぁ、思い出すだけで……。」
え? まじ?
まさか俺、大人になったの?
うそ……だろ……。
だって何にも覚えてないぞ?
嫌だ! こんなの嫌だ!
バンっ!
すると扉が勢いよく開く。
「見つけたわよ! イーゼ!」
「もう言い逃れはできませんよ!」
リーチュンとシロマが入ってきた。
しかもなんかすごく怒ってる……。
「……ちッ! 後少しでしたのに……。」
イーゼは舌打ちした。
だが、俺はそれどころではない。
「お、俺は……やっちゃったのか!? なぁ誰か教えてくれ! 記憶がないんだ!」
俺は困惑しながらも叫ぶ。
「アンタ何言ったのよ? ねぇイーゼ。怒らないから白状しな?」
「イーゼさん、その水着……昨日誰が最初に着て見せるか話し合いましたよね?」
二人が何いってるかわからない。
けど、俺には怒りの矛先は向かっていないようだ。
少しホッとしたが、これはいったい……。
「ごめんなさい、サクセス様が随分うなされていましたので、心配になって来ただけですわ。」
「嘘おっしゃい! この部屋には入らないって約束したわよね?」
「あら? わたくしとしたことが、ちょっとお酒が回りすぎて忘れていましたわ、ごめんなさい。」
「ん。白々しいですね、昨日は飲んでいませんでしたよね? 私は見てましたよイーゼさん。」
昨日は、入らない?
ん? どういうことだ?
つまり、俺はヤってない!?
俺は安心すると同時に少しがっかりした。
「はいはい、わかりました。白状しますわ。朝寝ぼけているサクセス様をそのまま誘惑して襲おうとしました、すいませんでした。」
イーゼは完全に開き直って話す。
「イーゼさん、あなたはどうしていつもこうなんですか? 少しは自重してください。」
「そうよ! アタイが先にその水着を見せるはずだったのに!」
「では、イーゼさん今回は1回分前借ですからね、次は私の番ですからね!」
シロマが珍しくよくわからないことを言っている。
実は、これは女子会で決めたルールの一つ
「誘惑の権」
という身も蓋もない権利である。
誰が一番最初に俺を落とすか、そのチャンスを平等にしていた。
当然、それを俺は知らない。
むしろ違う事に焦っている。
なぜ【やっべぇ水着】が奴らの手にあるかだ。
多分、昨日俺が酔っ払って寝てしまった時に、メイドか誰かが脱がしてくれたのを渡したのだろう。
しかし、俺があんなのを着ていたなんて知ったのに、何も言ってこない。
なぜだ!
「あの~すみません。その水着は……。」
俺は、勇気を出して尋ねてみる。
「大丈夫ですよ、サクセスさん。人には言えない趣味の一つや二つありますから。むしろそういった所があって安心しました。」
え?
安心するようなところあった?
ま、まぁいい。 侮蔑の目で蔑まれるよりかはましか……。
いや、いいのかそれで?
「とりあえずイーゼ! それ脱ぎなさいよ! それはアタイが着るの!」
「いいんですの? サクセス様の前で着替えても? それでは喜んで……」
イーゼは、装着した紐を解除しようとする。
「待て待て待て! とりあえず落ち着け! な?」
俺はイーゼを止めようとすると、胸の紐に指が引っかかった。
ポロッ……。
イーゼが乳ポロする。
「あん、サクセス様に脱がされるわぁん。」
「ちょっといい加減にしなさいよ! サクセスは出てって!」
そう言うとリーチュンは、俺を綺麗な背負い投げでドアの外へ投げ飛ばす。
お、俺が何したっていうんだよぉ……。
まぁでも、脳内にはキチンと録画はしておいたから、後で再生しながら右手とダンスだ!
朝からそんなハプニングに見舞われた俺であったが、その後、服を着替えて豪勢な朝食をとった。
朝食を終えると、小間使いのような恰好をしたカッパが現れ、俺達を呼びに来る。
その姿は、以前と比べるとみすぼらしくもみえるが、顔は生き生きとしていた。
もちろん、頭の方も一段と輝いている。
かくして俺達は、謁見の間に向かうこととなる。
謁見の間は、一日で大分修復されていた。
しかし、それでもまだ戦いの傷跡は大きく残っている。
それと昨日と違うのはそれだけではない。
玉座の前に宝箱が置かれていたのだ。
ちょっと期待しちゃうな、おい。
「英雄サクセスよ、前に!」
昨日とは打って変わって、威厳ある声で俺に命じるセンニン。
「はっ! ただいま参ります。」
俺も空気は読めるから、当然礼儀正しくする返事をする。
だが、どうにも朝の夢のせいでセンニンの顔をまともに見れない。
「それでは、英雄サクセスに対して、国から褒賞を贈呈する。宝箱を開けるが良い。」
俺は、言われた通り宝箱を開けた。
そして中に入っていた物は……。
【50000ゴールド】
【女神の指輪】 知力+30 消費精神 50%減 レアリティ15
【スーパーリング】 全ステータス+5 状態異常無効 レアリティ12
【豪傑の腕輪】 攻撃力30 会心の一撃率UP レアリティ45
そのどれもが、非常に高価かつ最高級の装飾品であった。
「こ、これは……すごい!」
俺は思わず声が漏れた。
「それは我が国に代々伝わる秘宝中の秘宝じゃ。今回の報酬とオーブの運搬等全ての報酬である。さぁ受け取るがよい」
「ありがたき幸せ!!」
俺は褒賞を手にいれると、センニンは、再度威厳のある声で俺達を送り出した。
「それでは、旅立つがよい! 英雄達よ!!」
パチパチパツパチ……!!
謁見の間に雷鳴のような喝采が鳴り響く。
なんだか自分が本当に勇者になったようにすら感じた。
センニン、ありがとう!
また必ず来るよ!
こうして、俺達はアバロン王に見送られ、また新たな旅に出るのであった。
だがこれは、最弱装備から始める俺の伝説の序章に過ぎない。
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【★あとがき★】
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