第50話 ヒルダームの町

 次に俺達が訪れたのは、リザーブの町とマーダ神殿の丁度中間にある、


 ヒルダーム


という城下町だ。


 つまり、この町には城がある。

 とはいえ、特にお城に用があるわけではないので、ここでもリザーブと同じ様に冒険者ギルドでガンダッタ情報を収集したらすぐに旅立つ予定だ。


 まぁ、リリィちゃんの話が本当ならば、ガンダッタはこの大陸から移動しているわけだから、良い情報はないと思う。


 正直、アバロン王には、ガンダッタは俺が捕まえると言ったものの、財宝は奪い返したし、店は潰したし、今更無理にガンダッタを捕まえる必要性はないのかなとも思い始めてきた。


 しかし、約束は約束。


 頑張っている河童……じゃなかったカッパの為にも、できる事ならば捕まえてあげたいとは思う。



「なかなかいい町ね。アバロン程ではないけど、それなり大きいし、色々ありそうだわ。」



 久しぶりの大きな町のせいか、リーチュンは嬉しそうだ。

 なんだかんだ言って、アバロンから旅立って半月は経った。


 イーゼがいうにはここからマーダ神殿までは馬車で五日位らしい。

 なので、今回はここに数日滞在して、旅の疲れを取りながら英気を養いたいと思う。



「イーゼ、ここにお勧めのお店とか宿屋はあるか?」


「そうですわねぇ……ここの騎士は強いと聞きますが、お店についてはあまり詳しくありませんわ。」


「珍しいな、イーゼがお店に詳しくないなんて。」


「ちょっと昔嫌なことがあった町ですので、あまり興味がなかったのですわ。」


「……そうか。じゃあ3、4日滞在しようと思ったけどやめておくか。ギルドにいって何も情報がなかったら、明日には出発にしよう。」



 俺がそういうとリーチュンとシロマは明らかに残念そうな顔をした。


 だけど嫌な思い出のあるメンバーがいるならば、早く出たほうがいいだろう。

 俺が逆の立場ならそうしたいからな。



「サクセス様、正直過去の私はこの町が嫌いです。しかし、今の私は別人ですので、是非この町でサクセス様と思い出を作って、好きな町にしたいです。」


「ん? じゃあ滞在してもいいってことか? 無理しなくていいぞ?」


「全く問題ありません。それに知らないのであれば一緒に知る喜びを味わえますからね、ぐふふ。」



 そう言って不敵に笑うイーゼ。


 多分こいつなりにみんなに気を遣ったのだろう。

 いや、まてよ?

 そういえばこの間、今日は何もしないとか意味深な事言ってたな……。


 すると、さっきの笑いは……。

 ダメだ、やっぱり女の考えは分からん!



「サクセスさん、私はこの町については文献で読んだことがあります。確か地下闘技場や芸術劇場が有名だったはずです。」


「おぉ! 闘技場か! なんか面白そうだな! 劇場もいつかは行ってみたいと思ってたんだ。」


「いいねぇ、アタイも行きたい! 闘技場で戦いたい! じゃあさ、今日を抜かして三日滞在しようよ。そしたら全員サクセスと遊べるじゃん!」


「え? 普通にみんなでまわればよくね? 何も二人になる必要はないのでは?」


「いいえ、これには私もリーチュンに賛成です。チャンスは平等であるべきです!」



 シロマがいつになく真剣だ。



「うーん、じゃあとりあえずさ、今日はみんなで宿屋を探そう。ちょっと高くてもいいからさ、温泉のあるいいところに泊まろうぜ!」


「さんせーーい! やったぁ! お・ん・せ・ん! お・ん・せ・ん!」



 リーチュンは嬉しそうに歌いながら飛び跳ねている。


「おーい、そんなに街中で飛び跳ねてるとぶつかるぞぉ。」



 ドンっ!!



 すると、リーチュンは、走って来た誰かにぶつかった。


 いわんこっちゃない。



「気を付けろ! ばかやろぉ!」


 フードを被った小柄のそいつは、ぶつかりざまにそう言うと駆け抜けていった。



「だからいったじゃないか、危ないって。」



 俺がそう言うと、なぜかリーチュンは自分の体をあちこち触り始める。



「ない……ない!!」



 いやいや、立派なもの二つもあるじゃないですか。

 シロマに失礼ですぞ。



「財布が……ない!!」


「なんだとぉぉぉぉ!」



 俺はリーチュンの衝撃の告白に驚き叫んだ。


「さっきのあいつか!? スリだったか!」



 どうやら油断していたリーチュンが狙われたらしい。

 こんな白昼堂々と……これだから都会は嫌いだ。

 俺は農村育ちだからか、都会のこういうところは好きになれない。



「あなたがそんな隙だらけにしているからですわ。」



 イーゼの言葉は冷たかった。

 しかし、リーチュンはそれどころではない。

 


「アタイの……アタイの全財産が!!」


「リーチュン、早くさっきの人を捕まえましょう! いいですか? サクセスさん。」


「それは全然かまわないが、もう完全に見失ったぞ。ゲロゲロ、臭いで追えるか?」



 ゲロォ(無理)



「サクセスさん、相手は臭いを辿られないようにこの場所に臭い玉を撒いてます。さっきから変な臭いがします。」



 シロマはそういって鼻をつまむ。


 へ? 屁?

 こ、こいてねぇっぺよ?

 おらじゃないっぺ!


 なぜか焦りだす俺……。

 どうしてだろ、絶対自分がしてなくても、屁の臭いがすると焦ってしまうのは……。



「はぁ……これだからガサツな女は嫌ですわ。サクセス様、安心してください。さっきの人は、私が既に魔法でマーキングしてありますから、逃げられませんわ。」



 イーゼの言葉にリーチュンの瞳がキラキラし始め、そして抱き着いた。



「イーゼ!! アンタやっぱ最高よ!」



 こいつら、やっぱそんな仲悪くないんじゃね?



「離れなさい! 私は女が嫌いですわ! 特にガサツで無神経な奴はね! さっさと行きますわよ。」



 うん、やっぱあんまよくはないな……。

 いや、しかし……

 どうやら最初にイーゼが冷たくいったのは、リーチュンに反省してもらうためだったみたいだ。

 相変わらずこいつは、冷たそうに見えて、人情味がある女だ。

 俺は、そういうところが結構好きだぞ。



「イーゼ……よくやった。」



 俺は暖かい眼差しでイーゼを褒めると、顔を赤くして照れ始める。


 普段、恥ずかしい事を平気で言うくせに、言われると弱いのがイーゼだ。

 大分イーゼの事がわかってきた気がする。

 たまには逆襲してやらないとな。



「そ、それでは行きましょうか。泥棒退治に!」



 イーゼはそう言うと、迷いなき足取りで、この町の路地裏を歩き始めるのだった。

 

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