第24話 灯台下暗し

「どういう事なんだ、ボクネン?」


「うむ、私も今しがた報告を受けたでアールよ。どうやら、我々の動きをガンダッダに報告していたのはノロウィルムスで間違いないでアール。そして、既にノロウィルムスは姿をくらましたでアール。」



 ボッサンの質問に、若干焦った感じで答えるボクネンジン。



「つまりあれか? 俺があれだけ疑われた……というよりも、ガンダッダ一味に仕立て上げられようとしていたのは……。」


「察しの通りでアール。ガンダッダ一味でない者をガンダッダ一味に仕立て上げて、本当の一味は素通りさせてたでアールよ。ノロの部屋から、ガンダッダと思われる者とのやり取りを記した手紙が見つかったでアール。金に釣られてやってたみたいでアール。」



 なるほどな。

 あれだけ無理矢理やってたのは、そう言う訳か。

 やはり縛り付けておくべきだったか……あの野郎。



「そうか、なら既に町の出入口は封鎖してあるのか? ここで逃げられたら今まで盗られた積み荷の在処まで見失うぞ。」


「当然、封鎖したでアールよ。今ギルドと町の衛兵を緊急招集して、検索にあてたばかりでアール。」


「なるほどな。流石ボクネンだ。動きが早いな、じゃあ俺達は……。」



 ボクネンの行動は早かった。

 やはりギルドマスターというだけあって手際がいい。

 そしてボッサンもまた、理解が早く、直ぐに次の行動を決めようとした瞬間……



「緊急!! 緊急!! 灯台近くから船が出航! 船が出航しました!! 緊急! 緊急!!」



 外から衛兵と思われる者の声が聞こえてきた。



「なぁにぃ? ま、まさかあいつら……封鎖された灯台に隠れて居やがったのか!? くそ!」



 俺達がさっきまで近くにいた灯台。



 確かに灯りも灯っていなければ、人の音も聞こえてこなかった。

 灯台がどういう作りになっているかわからないが、もしもそこを検索したのがノロであれば……。


 間違いなく見逃したであろう。



 こうしちゃいられないぞ!

 ガンダッダ一味の捕縛は、センニンから依頼されたクエストだからな!



「カリーー!! ゲロゲロ!! 起きろ! 緊急事態だ!」



 俺はすぐさまテーブルに突っ伏して寝ているカリーと、床でお腹を上にして寝転んでいるゲロゲロを叩き起こす。



「お? なんだ? 腕相撲は終わったのか?」



 そこからかよ!!



「そんなのとっくの前に終わってるよ。そうじゃない、悪名高い盗賊団がこの町から逃げようとしているんだ、俺達も追うぞ!! だから、起きろ!!」


「ん? なんだそりゃ? 俺達には関係ないじゃないか? 町の奴にやらせておけよ。」


「関係あるんだよ。いいから起きろ! 起きないなら、俺は一人で行くぞ。」



 カリーはどうやら旅の疲れが出ていたのか、まだ眠そうに目を擦っていた。

 確かにずっと夜の間、見張りをしていたのだからそれはわかる。

 しかし、今はそんな事は言ってられない。

 ガンダッダを今度こそ捕らえなければ!!



「ったく、しょうがねぇなぁ。わかったよ、お前を一人にさせるわけにはいかねぇからな。んで、どうすんだ?」



 頭をポリポリと掻いて面倒くさそうな顔をしながらも、一緒に行くと言ったカリー。

 確かにカリーが言うように、本来ならばこれは、俺達には関係のない事である。

 それなのに、理由も聞かずに同道してくれるんだ、こいつはやっぱり良い奴だな。



 だが……



「どうするって……えっと……。」



 カリーの質問に戸惑う俺。

 敵は既に港を出ている。



 確かに俺はどうすればいいんだ?



 何となく雰囲気に飲まれて焦っていたが、言われてみると、どうするかまだ決まっていなかった。

 俺がどうするかと聞かれて困っていると、そこにイモコが近づいてくる。



「師匠、少しですが仲間がここにいるでござる。近場だけなら、船を出せるでござるよ。」


「本当か!? でかしたイモコ。おし、じゃあカリー、ゲロゲロっておい! ゲロゲロ! 起きろ!」



 どうやらイモコが船を出してくれるらしい。

 イモコのお蔭で俺達のやるべきことが決まった。

 持つべき者は弟子だなって、まだ師弟関係らしいことは何もやっていないんだが……。



 つか、ゲロゲロいい加減起きてくれよ。



「おい、サクセス。こいつはあの時のデコピンじゃねぇか? どういうこった?」



 突然現れたイモコに、カリーは若干困惑する。


 確かにいきなり現れて、俺の事を師匠と呼んでいるんだから、意味わからないよな。

 しかし、そんな事を説明している暇はない。



「説明は後だ。こいつは色々成り行きで俺の弟子になった、イモコだ。とりあえず外に出るぞ。」


「よくわかんねぇが、まぁいいか。それより、あいつまだ寝てるけどいいのか?」



 カリーはゲロゲロを指差していった。

 なんと、ゲロゲロはまだ鼻で風船を膨らませて寝ていたのであった。

 その姿は可愛いが、今はそんな事を言っている場合ではない。



「仕方ない。ゲロゲロは俺が抱えて行く。じゃあ船のところまで案内してくれ、イモコ。」


「御意! おい、野郎共! 出航だ! 船まで走れ!!」



「御意!」

「御意御意!」

「ぎょぎょぎょ!?」



 イモコの合図で酒場にいた一部の連中が立ち上がると、勢いよく走って店を飛び出した。

 彼らは冒険者だと思っていたのだが、どうやらイモコと同じ剣闘士のようである。


 凄いな、何も聞かずに走っていったよ、あいつら。

 一人だけ、なんかおかしいというか、理解できてない感じの奴もいたが……。


 そして俺もゲロゲロを抱きかかえると、急いで外に出ようとする


ーーが、ボッサンには言っておかないとな。



「ボッサン、ボクネンさん、俺達はイモコの船で奴らを追う。ボッサン達も後に続いて来てくれ!」


「お? おう、本当か? 助かるぜ! 俺達も直ぐ追う。ボクネン、ギルドで船を動かせる奴を至急集めてくれ。」


「わかったでアール! 急ぐでアール!」



 ボクネンはそう言うと、直ぐに飛び出していった。

 多分、冒険者ギルドに向かったのであろう。



 そして俺もまた、再び灯台のある海岸の港までゲロゲロを抱えて向かうのであった。




 ゲロゲロ……そろそろ起きてくれよ……。


 げろぉぉ(もう食べれない……むにゃむにゃ……)

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