第10話 幻惑
俺は、うまく覗き行為を誤魔化すことができたため、その場からすぐさま離脱した。
向かうは、泉の対岸にある岩陰。
現在そこにはキラキラと光るチョウチョの大群がうじゃうじゃいる。
だが、近づいてみるとよくわかるが、あれはチョウチョであって俺の知っているチョウチョではない。
まず大きさが違う。
遠くから見た時はわからなかったが、羽を合わせると80センチはある超巨大チョウチョだ。
しかし、そんなことはどうでもいい。
なにがヤバイってチョウチョの顔だ……。
気持ち悪い……。
俺の本能がそう叫ぶ。
チョウチョの顔は人の顔に似ていた。
目も鼻も口もあり、口からは獰猛そうな牙までついている。
シロマは言った。鱗粉に気を付けろと……。
近づきすぎるのは危険かもしれない。
一匹づつヒット&アウェイだな。
シロマから言われた事を念頭に入れながらも、俺は注意深くチョウチョに近づいて行く。
すると、倒れている人がはっきり見えてきた。
倒れているのは、小柄な筋骨隆々の男で、顔の辺りにチョウチョが引っ付き現在食べられている。
やべぇグロいわ、これ……。
ホラーだよ、これ。
どうやら手遅れだったらしい。
その光景を見た俺は、一瞬吐きそうになった。
俺はちょっと目の前の光景に後退りしそうになるのをグッと堪え、視線を横に移す。
そこには女の様な綺麗な顔した長耳の者が、目を虚ろにさせてフラフラと歩きまわっている。
どうやらこっちはまだ生きているらしい。
多分、あれが幻惑にやられるということなのだろう。
チョウチョは、先に仕留めたドワーフの男を捕食するのに夢中だったため、まだもう一人の方に物理的な危害は加えられていないっぽい。
助けるなら今だ!
残念ながら一人は手遅れだったが、もう一人は助けられる!
俺はチョウチョの隙を見て、一気に接近すると、どうのつるぎで薙ぎ払う。
バシ! バシ! バス!
一気に三匹倒した。
今の俺のステータスなら、このチョウチョも余裕で倒せるが慢心はしない。
いくら一撃で倒せる相手であっても、幻惑にやられたら俺とてただじゃすまないだろう。
パタパタパタッ!
すると食事に夢中だった魔物達も、仲間がやられた事で俺の存在に気付き、囲むように一斉に俺の周りに羽ばたき始める。
チョウチョが羽を激しく動かすと、辺りにキラキラとひかる粒子のような物がばらまかれた。
もしかして、これが幻惑の鱗粉?
俺はすぐさまバックステップで囲みから離脱する。
そして距離を取りながらキラキラ光る粒子を避け、端っこの敵から順々に倒していくことにした。
「オラオラオラオラオラァ!」
俺の速度に人面チョウチョはついてこれるはずもなく、その数をどんどん減らしていく。
気付けばその場にいたチョウチョ全てを殲滅していた。
「ふぅ、なんとか全部片付いたな。」
俺は、周囲に飛んでいた蝶々がいなくなったのを見て安心し、ホッと一息ついていると、周囲が何故かキラキラ光っている。
「おぉ、綺麗だなぁ……。って、違う! これは鱗粉だ!」
気付くのが遅れた。
人面チョウチョは、一匹だけ俺の真上に逃げており、幻惑の鱗粉を俺に向けて降らせている。
「やばっ! 吸い込んじまった!」
早くこの場から離れないとまずいと思い、動き出そうとした時だった……。
どこから現れたのか、目の前に絶世の美女が裸で立っている。
その美女の背中には羽が生えていていることから、妖精のようだ。
その妖精は、その美しい顔で微笑むと、何も言わずに手招きをして俺を呼んでいる。
「うっほーー、いいっぺか? いいっぺか?」
俺は、一糸纏わずナイスバディを披露する妖精に目をくぎ付けにさせられると、誘われるがままにフラフラと近づいて行く。
「脱童貞! 脱童貞! 脱童貞!」
すると、俺の頭の中はそれで一杯になり、ひたすらその欲望を口にし始める。
そして後少しで、脱童貞の女神……いや裸の妖精と合体できる程に近づいた時、後ろから奇妙な叫び声が聞こえてきた。
「うきゃあぁぁ!!」
突然、醜いゴブリンが俺の美しい妖精に襲い掛かってくる。
「この野郎! 俺のハニーには指一本触れさせやしねぇ! ぶっ殺してやる!!」
そのゴブリンを見た瞬間、俺は、普段では考えられない程の殺意が沸き始めた。
後少しで念願の脱童貞を果たせるというのに、それを邪魔しようとする奴は全員皆殺しだ!
俺の全身から発せられる強い殺意を浴びたゴブリンは、一瞬だけ怯む。
その隙を見て、俺がどうのつるぎを振り上げた瞬間――何かが俺の頭部に当たった。
ポコッ!
なんだ? 何をされた?
いや、かまわない。
まずはコイツを殺……す?
あれ?
俺は、誰を殺そうとしているんだ?
なぜか急激に頭の中がクリアになっていく。
すると目の前に移る情景が、まるでモヤが晴れていくように色を取り戻した。
そして自分が今何をしていたかに気付く。
「っ!? リ、リーチュン!?」
俺は、目の前でしりもちをついて怯えているリーチュンに向かって剣を振り上げていた。
どういうことだ?
なぜリーチュンがここに?
ふと後ろに振り向くと、邪悪な笑みを浮かべたチョウチョが一匹羽ばたいて、逃げ出そうとしているのが見える。
ま、まさか……。
さっきのエロ妖精は……。
ってことは、俺が見ていたゴブリンは……リーチュン?
くそ!!
まんまと幻惑に掛かっちまっていた!
俺は、その場から逃げようとするチョウチョに後ろから急接近して近づくと、一撃で屠る。
「リーチュン! すまなかったリーチュン!」
最後の一匹を倒し終えた俺は、危うく殺しそうになったリーチュンに駆け寄ると、リーチュンの横にシロマが立っていた。
「よかったです。なんとか、魔法が間に合いました。」
間に合った?
どういうことだ?
「サクセスさんの動きが急に止まったので、もしかしたら幻惑に掛かっているかもしれないと思い、混乱を解く魔法を使いました。気付くのが遅れていたら、今頃リーチュンは死んでいましたね。」
「あの時の衝撃はシロマが……。だから急に幻惑から覚めたのか……。」
俺は、今更ながらリーチュンを殺しかけてしまったことに恐怖し、全身から力が抜けていき膝をついてしまう。
そしてリーチュンもまた、死を直前にして固まっていたのだが、目をパチパチさせながら状況を理解し、我に返った。
「あっぶなぁ! 後一歩でアタイお陀仏だったわよ、シロマさんきゅーー! ほらサクセス! アタイは無事だからそんな顔をしないで立ってよ!」
リーチュンがシロマに抱き着いて喜ぶと、悲惨な顔をしている俺に手を差し伸べた。
俺はその手を取る。
「すまなかった、リーチュン、シロマ。俺が油断したせいで……。」
俺はリーチュンに手を引っ張られて立ち上がると、即座に頭を下げて謝罪をした。
「大丈夫ですよ、サクセスさん。私達はパーティなんですから、みんなでカバーし合うのは当然です。気にしないでください。」
「そうよ、サクセス! ほら元気だして! サクセスが全部倒してくれたおかげでアタイ達は楽できたんだから! もう! いつまでもグジグジしないの!」
そういって二人は、俺を慰めてくれる。
本当にこの二人が俺の最初のパーティで良かったと、心からそう思う。
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