第31話 続・ガールズトーク 後編

「それで師匠、早く続きを!」



 マネアが怒って離席をしなかったことから、美女三人によるガールズトークは続いていた。



「わかったわかった、慌てないで。そうねぇ、まずビビアンはお酒が飲めるのかしら? そこからよねぇ。」


「どうなんだろ、村では飲んだ事なかったわ。ちょっとそれ貰うわね!」



 ビビアンはそう言うと、ミーニャの前に置かれたワイングラスを奪い取って、一気に中身を飲み干す。



「ちょ、ちょっとそれ結構強いわよ? 一気に飲んで大丈夫?」



 ミーニャはビビアンの行動に焦るも、ビビアンは、ぷはぁ~っと息を吐き出し、何事もなかったかのようにキョトンとしている。



「おいしいわね、これ。これがお酒なの? なんともないわよ? あ、でもなんか少しワクワクしてきたかも。面白いわね! お酒って!」



 どうやらビビアンは酒豪であった。


 次の称号は


   酒豪の勇者


だろうか。



「どうやら問題なさそうね。でも、そんなはしたない姿は絶対男に見せちゃだめよ。間違いなくヒクわ。いえ、ドン引きよ。」


「え? なんでなの? いいじゃない、お酒に強くたって。」


「ダメに決まってるでしょ。こういう場ではいいけど、男の前では絶対ダメ。お酒の強い女ってだけで、男は身構えるんだから。」


「そうなの!?」



 その言葉にビビアンが驚くと、ミーニャが説明を続ける。



「そうよ。酔っていなくても、上品にちびりちびりと上品かつエレガントに飲んで、酔っ払った振りをしなきゃダメ。演技は女の武器よ!」



 ミーニャはそう言って力説するも、ビビアンにはよく理解できない。



「えぇー、そんなの難しいわ。演技なんてしたこともないし。大体なんでそんな事で男が身構えるわけ? 意味がわからないわ。」


「そりゃあ男はね、狙っている女性がすぐに酔ってくれた方が楽なのよ。酒に強い女じゃそれが厳しいから近づかないわね。」



 それを聞いてビビアンはムッとする。



「そういう下心のある男は嫌いだわ。サクセスは絶対違うもん!」



注 サクセスはそういう男です。

  下心しかありません。



「まぁそれは世間一般の話よ。サクセス君はよくわからないわ。でもね、やっぱり男って生き物は女性にお淑やかさを求めるものなのよ。ガサツな女は嫌われるわ、これについてはサクセス君もそうだと思う。」



 まるで見てきたかのように話すミーニャに、ビビアンは怒りを覚え始めた。



「なんでそんな事が言えるのよ? 会った事もないくせに! サクセスはいつだってアタシの事を可愛いって言ってくれたわ!」



※ これは事実である。


 サクセスにとって身近な可愛い子はビビアンだけだった……以前までは。



 しかし、そんな事を知らないビビアンは、流石にこれには怒った。


 師匠であっても、大好きなサクセスを語る女は許せない。


 だが、実はミーニャはサクセスに二度会っている。


 一度目は劇場で、二度目はカフェで。



「ごめんごめん、別にビビアンの事を悪く言ったわけでも、サクセス君について知ってるわけでもないわ。でもね、これについては、ほとんどの男がそうだってこと。それにサクセス君の近く……なんでもないわ。少し酔い過ぎたかしら。」



 危なかった!



 危うく、うっかり爆弾を投下するところだった。



 ミーニャはそう思いながらも、ギリギリで言わなかった事にほっとする。



「えぇ!? 今絶対何か言おうとしたわよね! 隠してないで話しなさいよ!」


 ビビアンは今まではっきりとなんでも言ってきたミーニャが、突然会話を打ち切った事に疑念を抱いた。


 女の直感がミーニャが何かを大事な事を隠しているとかぎつけたのである。


 しかし、ミーニャは決して口を割ることはない。


 もしもあのまま続けていたら、この町がビビアンによって滅ぼされるかもしれないからだ。


 いや、下手したらこの世界そのものが……。


それこそ、



 大魔王ビビアン爆誕!



である。



 何を隠そう、ミーニャはサクセスの現状を知っていた。


 当然、複数の美女を連れていることも……。


 劇場ではお淑やかな可愛い少女を連れており、カフェでは落ち着いた雰囲気の綺麗なエルフを連れていたのを見ている。


 そして、遠目でしかみていないが、セクシーな女武闘家も一緒にいるのを見ていた。


 流石に大分懐いてくれたとは言え、ミーニャだってそれを話せばどうなるかぐらいわかっていたし、マネアに口酸っぱく内緒にするように言われている。


 なので、いくらビビアンに問い詰められても口を割らないつもりだった。



「気のせいよ、それよりお酒が無くなったからフロントまで行って取ってくるわ。続きはまた後でね。」



 そういってはぐらかすように、その場を離れるミーニャ。



「ちょっと待ちなさいよ! まだ話は終わってないわ!」



 後ろからビビアンの声が聞こえるが、ミーニャは振り返らずにその場を去った。



 残されたビビアンは、納得がいかない顔をしながらマネアに詰め寄る。



「ねぇマネア、ちょっとマネア! 聞いてる? ミーニャなんか隠してない?」



 ミーニャがいなくなったことで、白羽の矢がマネアに刺さった。


 マネアも内心ドキドキしており、


 

 ミーニャのバカ!!


 

と叫びたいくらいだった。


 しかも、それだけ言ってミーニャは逃げてしまったのだから、許せるはずもない。


 ただこの場に残る方が危険だったので、むしろ良かったかもしれないが。



 しかし、何をどう話せばいいのだろうか……。



 ミーニャは、どうやって誤魔化せばいいかで頭を悩ませる。



「そうですね、あの子は酔っ払うと直ぐに記憶が混同したり、話が滅茶苦茶になりますからね。だからお酒は嫌いなんですよ!」



 とりあえず、捲し立てるように強めの語気でミーニャを非難してみたが、ビビアンは納得していない。



「でも酔っ払った振りしてるって言ってたわよ。」



 思わず、「ちっ!」と舌打ちしそうになるマネア。


 しかし、彼女は冷静だった。



「いえ、酔っ払っていますよ。あれだけお酒臭いんですよ。ここまで臭いますわ。せっかくの花のいい香りが台無しです。それにですね、ミーニャが何と言おうとビビアン様はサクセスさんを好きなのに変わりはないでしょう?」


「当たり前よ! 一番大切な人よ。」


「それならば信じてあげればよろしいかと。どんなビビアン様でも、きっとサクセスさんは大切にしてくれるでしょう。これは占いではありませんが、確信しています。」



 ビビアンはその言葉に救われると、突然泣き出してしまった。



「アタシ……サクセスに嫌われたらどうしようって……だって……だって……こんなに好きなんだもん。サクセスの事が大好きなんだもん。絶対嫌われたくないわ!」



 どうやら、ビビアンは泣き上戸らしい。


 マネアはそんなビビアンの頭を自分の胸に抱え込んで、そっと髪を撫でていった。



「いいんですよ、泣いても。会えないのは寂しいですものね。不安になりますよね。でもいつか必ず会えますから。」


「……んぐ。えっぐ……。」


「前にご自分でも言ってらしたけど、もしもサクセスさんに好きな人がいても、絶対振り向かせるんですよね? それでいいんですよ。」


「……でも、そんなのアタシには……。」


「いいですか? 誰かの心を誰かが縛ることなんて、誰にもできないのです。それにそれは許されない事でもあります。当然自分の心を縛ることも同じですよ。いつでも自然でいてください。それが一番大事な事なんです。」



 まるで、聖母のように優しい口調で語り聞かせるマネア。


 その言葉を聞いて、ビビアンもゆっくりと泣き止んでいった。



「……でも、サクセスは私の事好きでいてくれるかな? 大丈夫かな?」



 まるで幼い子供が母親に甘えるように泣きながら尋ねるその姿。


 そんなビビアンを愛おしそうな目でマネアは優しく見つめる。



「はい、もちろんですよ。こんなに愛されているんですもの、その心はきっとサクセスさんにも届くはずです。だからもう泣かなくていいのですよ。」



 そんな二人の様子を、戻ってきたミーニャが見つめている。



 その瞳はどこか悲しそうに見えた。




 そして泣きつかれたのか、そのままビビアンは眠ってしまうと、ミーニャはマネアにゆっくりと近づいて行く。



「姉さん、ごめん。あと、ありがとう。」



 珍しくミーニャは素直な言葉でマネアに謝った。



「もういいです。でも気を付けてくださいね。まだ早いです。もう少し、ビビアン様の精神が落ち着いて、成長するまでは秘密です。」


「わかってるわ。あ~あ、一気に酔いが覚めちゃったわね。ちょっと私はもう一度露天風呂に入るわね。姉さんは?」


「私はビビアン様を寝かせたら、少し読書をして休みます。」


「そう……わかったわ。じゃあビビアンを頼むわ。」



 そういってミーニャは、その場でバスローブを脱ぐと露天風呂に入り始める。


 そしてマネアは、ビビアンをふかふかで大きなベッドに寝かせると近くのソファで読書を始めた。



「やっぱりまだ危ういですね……それに水晶に陰りが見えます。何もないと良いのですが……。」



 マネアは手にした本をたたんで、じっと水晶を見つめるのだった。

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