第32話 大作戦!

 翌朝早朝、ビビアンは目が覚めるとふかふかなベッドの中にいることに気付く。



「あれ? アタシいつの間に寝たのかしら? 確かお風呂に入って、その後にテラスでみんなと……そうだわ、お酒を飲んだんだわ。その後寝ちゃったのかしら……。」



 そう呟きながらベッドから起き上がると、ソファに座って読書をしているマネアと目が合った。



「おはようございます、ビビアン様。昨晩はグッスリでしたね。」


「おはようマネア。ごめんね、アタシいつの間にか寝ちゃってたみたい。マネアがベッドに運んでくれたの?」


「はい、とても気持ちよさそうに寝ていましたよ。いい夢は見れましたか?」


「夢……うーん、覚えてないわね。まぁ、でもなんかスッキリしているわ。ところでミーニャは?」


 

 ビビアンはミーニャがいない事に気付く。



「ミーニャは大浴場に行きましたよ。朝風呂は気持ちがいいですからね。ビビアン様も行かれてはどうですか? ここのお風呂より広いですよ。」


「あ、そっか。ここにお風呂があったから忘れてたわ。そっちの露天風呂も気になるわね。あれ? マネアはもう行ったの?」



 ビビアンはマネアの髪が少ししっとりとしている事に気付いた。



「はい。私もお風呂は好きですので、既に入りました。まだ朝食まで時間がありますので、それまで読書でもしていようかと。」


「そう、じゃあ私も行ってくるわね。朝食前には戻るわ。」


「いってらっしゃいませ。朝食はこの部屋に届けれくれるそうですので、ゆっくりしてきてください。朝食が終わりましたら、1階のラウンジでシャナクさんと合流しましよう。」



 流石はスィートルーム。


 朝食はここで食べられるようだ。


 せっかくなので、ビビアンはテラスで食べようと思う。



「じゃあ行ってくるわね! 朝食はテラスに運ぶように言っておいてね。」


「わかりました。それではごゆっくりと。」


 

 そう言うと、早速ビビアンは大浴場に向かうのだが、脱衣所でミーニャと鉢合わせになった。



「あ、師匠。もう上がったの?」


「あら、おはようビビアン。ええ、もう十分満喫したわ。これから部屋に戻ってお肌の手入れと化粧をしなくちゃね。」


「ミーニャって化粧してたんだ。アタシも後で行くから、化粧教えてね。」


「オッケー。でもビビアンには必要ないと思うけどね。まぁいいわ、先に戻ってるわね。」



 そういうと、ミーニャは脱衣所から部屋に戻っていった。



「あれ? なんだろ? なんか忘れている気が……。まぁいいわ、それよりお風呂よ!」



 昨日の事を一部忘れているビビアン。


 ミーニャを見た時、何か聞くことがあったような気がしたが思い出せないでいる。


 モヤッとはしたが、思い出せないなら大した事ではないと言い聞かせ、そのままプライベート風呂より大きな露天風呂を満喫して部屋に戻った。



「うわ! なにこれ!? 朝から随分豪勢ね!」



 ビビアンは部屋に戻り、二人がいるテラスに行ってみると、テーブルにのりきらない程の豪勢な料理が並んでいるのを目にする。



「あら、おかえりビビアン。ほんと凄いわね、朝からこれじゃ太っちゃうわ。」



 ビビアンに気付いたミーニャは、自分の体を見ながらぼやくも、ビビアンから見てミーニャの体に余計な脂肪は見当たらない。



「おかえりなさいませビビアン様。私も朝はあまり食べれませんので、次からは少なめにしてもらうようにお願いしておきますね。」



 どうやら、マネアも朝はあまり食べれないらしい。



「でも残したらもったいないわね。アタシが頑張って食べるわ!」



 ビビアンは朝から気合十分だ。



「じゃあ揃った事だし、食べましょうか。」



 マネアがそういうと全員「いただきます」をしてから朝食を食べ始める。



「うん! おいっしいい! これ本当に美味しいわ。」



 ビビアンが食べているのは、フルーツと生クリームがふんだんに使われたパンケーキ。


 頬をリスの様にパンパンに膨らませながら、満面の笑みを浮かべるビビアン。


 その様子をみてミーニャは注意した。



「ちょっと、ビビアン。そういうところもダメよ。もうちょっと可愛らしく食べる練習しなきゃ。」


「ふぁって うぉいひぃんだもん(だって おいしいんだもん)」


「いってるそばから……。口の中の物を片付けてから喋りなさいね。」


 

 ビビアンは言われた通りゴックンと口の中の物を飲み込むと、ミルクでそれを流し込む。



「なんだか今日の師匠はお母さんみたいね。どうしたの?」



 ミーニャがいつもよりも細かい事を口にするので、ビビアンは気になった。


 普段ならこんな事言わないのに、珍しい。


 それもそのはず。


 ミーニャは、もしもサクセスとビビアンが会った時に少しでもうまくいくように、教育するつもりであったのだ。


 少なくとも、今サクセスが一緒にいる女性達に笑われないくらいには。



 サクセスと会う日は近い。それまでに少しでも淑女のマナーを教えなければ……それがミーニャの思いだった。



「うーん、なんていうかな。多分だけどもうすぐサクセス君に会えると思うのよ。だから、その時に少しでもビビアンが素敵になれるように気合を入れてるの。もう時間があまりなさそうだからね。」



 ミーニャは正直な気持ちを話すと、その本気の思いにビビアンは感動する。



「師匠! アタシ嬉しいわ。もっとどんどん言ってくれて構わないわ。そうよね、もうすぐ会えるんだもんね!」



 ビビアンはサクセスにもうすぐ会えると思うと嬉しくて仕方ない。


 だが、ビビアン以外の二人は正直、嬉しい半分、怖い半分でもあった。



「私からも気づいた事があれば助言させていただきます。」


「マネアもありがとう! それで今日はどこいくの? 町案内? デートスポット巡り?」



 ビビアンは朝からテンションマックスである。



「そうですね。ビビアン様のお蔭でモンスターの大群は倒せましたが、あれで全てではありません。まだ魔王が現れていないことから、近い内に再び大群が押し寄せてくるでしょう。」


「それでマネアはどうしたいの?」


「ですから、まずはマーダ神殿に訪れてお祈りを済ませた後、然るべく者と話し合いを済ませるべきだと思います。それが終わった後、デートスポット等を巡ればよろしいかと。」



 その言葉にビビアンは少し考え込んだ。



「……そうね。確かにサクセスに被害が及ばないようにするのが第一優先だわ。……はっ!」



 そして、突然ビビアンが固まる。



「どうしたの!? ビビアン?」


「アタシ……いい事思いついたわ! そうよ! これよ! うふふふふ……。」



※ ビビアン は ぶきみにほほえんでいる。



 その不敵な笑みを見て、不安を隠せないマネアとミーニャ。



「大丈夫ですかビビアン様? 何か変な物でも食べましたか?」


「変な物なんて食べてないわ。アタシね、いい作戦を思いついたの! えっとね、魔王軍が襲い掛かってきても早く倒さないで、サクセスが来てから倒すの。」



「……え?」



 ビビアンが意味のわからない事を言い出したのを聞いて、マネア達はポカンと口を開いた。


 しかし、ビビアンは嬉しそうに話を続ける。



「それでね、サクセスがピンチになった時に颯爽と現れてサクセスを守るのよ! どう!? いい作戦じゃない?」


「ビビアン……それはちょっと……。悪くはないけどさ。」


「それですと、待っている間に町にも被害が及ぶ可能性があります。そうなれば、もし成功しても町を二人で散策等できませんよ?」



 ミーニャが言葉を詰まらせると、その先をマネアが説明した。


 その説明で自分の作戦に大きな穴があった事に気づくビビアン。

 


「そうだったわ! ここが壊されるのは困るわ! そうね、じゃあ町に侵入されないようにうまく手加減するわ! これなら文句ないでしょ!?」



 どうやらビビアンは作戦を変える気がなさそうである。


 多分、今何を言っても無駄だと思ったマネア達は、もしもの事があれば自分達でなんとかしようと考えるのだった。

 

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