第34話 秋風落莫(しゅうふうらくばく)
「話してくれてありがとうございます、ソレイユさん。それで一つ気になったのですが、そのサイトウとかいう使者はまだこの近くにいるのですか?」
しばらくの間、カリーとソレイユが抱き合った後、俺は口を開いた。
するとソレイユはカリーの抱擁を解き、俺に視線を向けて話す。
「……もう近くにはないじゃろう。奴が帰ったのは大分前の話じゃ。」
「ふむ。」
となると、やはり鍵を握るのは卑弥呼がいる邪魔大国か。
まぁどの道行く予定ではあったが……問題はロゼちゃんだな。
今はシロマのお蔭で落ち着いているが、もしその呪いが解呪できるにしても、いつになるかはわからない。
であれば、やはりついてきてもらうしかないか?
「なぁサクセス。お前の考えはわかる。そして俺はお前が決めた事であれば異論はないぜ。」
俺が考え込んでいると、カリーがそんな事を言い始める。
正直嬉しい気持ちもあるが、流石に俺の一存で決めるわけにはいかない。
できればみんなに相談したいところだが……。
俺はカリーの言葉に小さく頷きつつも、ソレイユの方を見る。
そして、事が事なだけに確認を取る事にした。
「ソレイユさん。申し訳ないけど、今の話を仲間に伝えても大丈夫ですか?」
ソレイユの話は、表に出ればかなりヤバイ事になる爆弾案件だ。
俺の仲間がそれを聞いて誰かに漏らす事はないとは思うが、当然そんな保障もなければ、ソレイユからすれば信頼できるはずもない。
ーーだが、ソレイユは一瞬の迷いもなく即答した。
「当然問題ないですじゃ。そもそもワシは国を……国民を裏切ったのじゃから、いつでもその制裁を受ける覚悟はある。」
そう宣言するソレイユの声には本気の意思が込められている。
「それに、カリーが見込んだ男の仲間じゃ。信用できないはずがないじゃろ。」
俺はその言葉を嬉しく思うと同時に、やはりこの人……いやロゼちゃんやこの国の人も救ってあげたいと思う。
「ありがとうございます。それなら、一度宿に戻ってみんなと今後について相談したいのですが……よろしいでしょうか?」
「もちろんじゃとも。すまない……巻き込んでしまって。」
その言葉にソレイユは申し訳なさそうに頭を下げる。
すると、カリーはそんなソレイユの肩をパンッと強く叩いた。
「心配すんなって。サクセスはな、こう見えて世界を救う男だ。世界を救う男がお前を救えない訳ないだろ? な、サクセス。」
その言葉に、ソレイユは叩かれた場所を痛そうに摩りながら声をあげる。
「おぉ! 流石はフェイル様……に似ているだけはあるのじゃ。というか、今のは痛かったぞカリー。思わず、あ、い、た! って叫びそうになったのじゃ。老人はもっと労わるもんじゃぞ。」
「はははっ! そうだった。今のソレイユはジジィだったな。まぁとにかくお前の悩み位すぐに吹っ飛ばしてみせるさ。」
自信満々に大きく笑うカリー。
いつの間にかさっきまでの深刻な雰囲気がどこかに行ってしまった。
それはそれでいいのだが、そんな事よりもだ……。
「いやいやいや、何そのプレッシャー!?」
「心配すんなって。お前は間違いなく成功する。知ってるかサクセス? 俺の世界ではな、サクセスって言葉は成功って意味もあるんだぜ? だから大丈夫だ。」
そう言いながら、うんうんっと首を振るカリー。
こいつまじでどうしたんだよ?
いつもと全然違うぞ。
ソレイユの前だとこんな風だったのか?
それよりも、サクセスにそんな意味があったとは……ってそうじゃねぇ。
なんだよそれ、何の根拠もないじゃん。
「んな安易な! まぁいいや、なんにせよ俺はやれる事に最善を尽くすだけだ。」
俺がそう口にすると、今度は突然カリーが鋭い目を俺に向ける。
「……それは違うだろ? 俺じゃねぇ、俺達だ。」
一瞬だけ、場の空気が凍った。
どうやら、カリーのタブーを踏んだらしい。
まぁ自然に出た言葉は、その人の本心を表すとか言ってたからな。
俺もまだ、どこか自分一人でやらなければという気持ちがあったのだろう。
「悪りぃ、間違いだったわ。俺達だったな。」
「そう。俺達は全員で一つだ。間違っても自分だけでなんとかしようなんて考えるなよ?」
「わかってるって。」
「ならいいってことよ。」
そう言って今度はニカっと笑うカリー。
今日のカリーは喜怒哀楽の変化が激しすぎるぜ。
まぁ何にせよ、今回の事を早くみんなに相談しないとな。
「よし! じゃあとりあえずみんなのところに戻るとするか。」
俺はそう言うと、再びソレイユの部屋から出てみんなの所に向かう。
そしてカリーも俺の後に続いて部屋を出た。
だが、ソレイユだけはその場からすぐには動かない。
ソレイユはしばらく俺達が部屋を出ていく様子を見守っていた。
その瞳には、何かを懐かしむような感情と少しばかりの悲しみを宿している。
「……時は残酷じゃな。」
そう呟いたソレイユは、ゆっくりとその部屋を後にしてロゼの部屋に向かうのであった。
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