第35話 サムスピ会議1

「そう言う事でしたか……。色々とわからなかった部分がこれで合点しました。」


 シロマがそう口にすると、俺は静かにうなずく。


 俺達はあの後直ぐに宿に戻ると、早速俺の部屋に集まってもらい全員にソレイユから聞いた事を話した。


 当然ここでもライトプリズンを使っているので、外部に俺達の話が漏れる心配はない。



「それではサクセス様。私からもよろしいでしょうか?」


「あぁ、もちろんだセイメイ。みんなの意見が聞きたい。」


「それでは僭越ながら、いくつか私の知っている情報を伝えたく思います。」


「頼む。」



 俺がそう答えると、セイメイは話し始める。



「まず初めにそのサイトウという男ですが、私の知るサイトウであれば商人であったはずです。それなので、立場的に考えれば邪魔大国の使者にはなりえない存在と言えます。」


「まじで?」



 いきなり一番怪しい奴の情報が手に入るとは……。

 しかし、商人とはな。

 確かに商人なら、あのヤバイ物を持っていても不思議ではない。



「はい。ですが、城主様が使者として扱ったという事であれば、何かしら卑弥呼様から書状等をもらっているはずでございます。そこについては後程確認しましょう。」



 ふむふむ、やはりセイメイに話したのは正解だな。

 こいつは色々と詳しいし、頭もキレる。



「なるほど。やっぱそいつ色々と怪しいな。ちなみにどんな奴なんだ?」


「クズですね。」


「ク、クズ?」



 セイメイは汚物を見るような嫌悪の表情を浮かべると、一言で切り捨てた。


 話を聞く限り、いい人間ではないと思っていたが……セイメイがこんな風に言う位だから、言葉以上にクズなのかもしれない。



「はい。悪い噂しかありません。私も一度お会いしたことはありますが、一見すると人当たりのいい男にも見えますが、性根は腐ってます。人を物としか見ておらず、平気で残酷な事を行う最低の男です。」



 サイトウの事を口にするセイメイは、未だに嫌悪の表情が消えていない。


 情報通のセイメイであるからこそ、色んな事を耳にしているのだろう。



 しかし、人を物として……か。

 どこにでもいるんだな、そういう人の皮を被った獣が。



「某も耳にしたことはあるでござる。実際には会った事はないでござるが、某の部下だった者は、そいつに家族全員を殺されたと言っていたでござるよ。」



 イモコもまた、何かを思い出したのか、平然と話しながらも若干殺意のオーラが漏れている。



「殺された? え? なんでそんな奴が未だにのさばってるの?」



 この大陸は殺人はあまり罪にならないのか?

 そう言えば、イモコもすぐ自害しようとするし、死生観が俺達とは違うのかもしれない。

 

 でも普通にだめだろ。

 そんな奴があちこちにいたら、平穏な暮らしなんかできないぞ?



「詳しい事はわからないでござるが、部下の家族は友人に騙され、そしてサイトウから金を借りたでござる。しかし、それは闇金と言われる高い利息が伴う金であり、遂には破産したようでござる。」


「んー、なんでそんなところから金を借りたんだろうね?」


「騙されたと言っていたでござる。そして借金の形に家族全員が奴隷となり、そこからは地獄だったようでござる。部下はなんとか家族の協力で逃げ出したでござるが、戻った時には全員死んでいたとの事でござるよ。」



 その話に一気に雰囲気は重くなる。

 そして俺は内心怒りが爆発しそうになっていた。


 奴隷という言葉は聞いた事があったが、実際にはよく理解できていない。


 しかし人を物として……というのはそう言う事なんだろう。


 更には家族一人逃げだしただけで全員殺すとか……そんな奴は人間じゃねぇ!



「胸糞悪い話だな。それで仇は討たなかったのか? というか、町の城主がそんな事を許さないだろ?」


「無理でござる。サイトウは権力の中枢に深く入り込んでいたようでござる。故に手出ししたくともできないでござるよ。」



 これ以上は耳を塞ぎたくなるほど、心の底から嫌悪の情が沸き上がってくる。



 セイメイが最初にクズと一刀両断した意味がわかったわ。


 だが今はそんな話に時間を費やす訳にはいかない。


 気を取り直して、話を進めないとな。



「腐ってやがる……。おほん。話は脱線したが、少なくともサイトウというやつがろくでもないという事だけはわかった。」


「はい、その通りでございます。しかし、困りましたね。そうなると色々と厄介な事になりそうでございます。」



 セイメイは顎に指をあてて、思案顔をしながら話す。


 サイトウがクズというのはわかったが、一体何が厄介なのだろうか?


 商人であれば、そこまで関わることもないと思うのだが。



「どういう事だ?」


「もしも今回の事がサイトウの仕組んだ事であれば、卑弥呼様が知らぬはずがございません。そして卑弥呼様が知っていたのであれば、このような事が起こるはずはないのです。」



「ん? ごめん。ちょっと理解が追いつかないんだけど。」



 俺はセイメイの言っている事の意味がわからず、首を傾げた。


 すると、今度はイモコがセイメイに代わって説明を続ける。



「師匠。卑弥呼様は清廉潔白な方でござる。つまりセイメイが言いたいのは、卑弥呼様が知っていてこれが起きたというならば、卑弥呼様の身に何かが起きている可能性があるという事でござる。そうであるな? セイメイ。」



 イモコの言葉にセイメイが頷く。



 ふむ。どうやら卑弥呼様ってのは、相当な人格者のようだな。


 イモコとセイメイがそう思える程の者なら、かなりの人物なのだろう。



「イモコ殿の仰るとおりです。現在、邪魔大国で何が起きているのかはわかりかねますが、私共が想像していたよりも卑弥呼様に謁見するのはかなり難しい事になる可能性があります。いえ、謁見すらさせてもらえないかもしれません。」



「それは卑弥呼様が軟禁状態とかの可能性があるって事か?」


「その可能性もあります。しかし、最悪な事で言えば既に暗殺されていることでしょうか。」



 声だけ聴けば淡々と話しているようだが、その表情を見れば違う事に気付く。


 セイメイがこれほど不安そうな顔をするのを初めて見た。



「暗殺!? いや、だって卑弥呼様ってめっちゃ強いんでしょ? それにそんな要人なら警護も厳重なはずだよな?」


「はい。普通に考えれば暗殺など万に一つもないでしょう。ですから、それは最悪の状況を想定したものにすぎません。しかし、ここ最近起きている予想外な出来事を考えれば、そういった事も想定に入れておくことべきかと。」



 大陸一の権力者の暗殺。


 確かにそれが事実なら、ウロボロスが復活する前にこの大陸がヤバイ事になるのは目に見えてわかるな。



 だけど……それだけじゃないはずだ、あの顔は。



「確かにそうだな。んで、まだあるんだろ? セイメイ。」


「はい。先ほど卑弥呼様が暗殺されている事を最悪な状況と話しましたが、もう一つ同じくらい最悪な状況がございます。そして、多分ですがそれは可能性として一番高い状況でございます。」


「もったいつけるなよ。はっきり言ってくれ。」


「失礼しました。それは、卑弥呼様が何者かに操られている状況でございます。」



 操られる?

 


「ん? それはさっき話した軟禁状態って事と同じじゃないのか?」


「違います。もっと根本的にです。卑弥呼様の力が使われるほどの状態という事にございます。」


「悪い。そもそも卑弥呼様の力っていうのからわからないんだけど。」


「卑弥呼様はこの大陸で一番の力を持っているのですが、その力とは……呪いです。」



 ひと呼吸開けてセイメイは卑弥呼の力について発する。


 そしてその言葉に、俺だけでなくカリーも反応した。



「まさか!?」



 どうやらカリーも俺と同じ事を考えたらしい。

 呪いと聞けば、思い浮かぶのはそれしかないだろう。



 ロゼちゃんだ。



「はい。ロゼ様の状態を聞く限り、それほど強い呪いをかけられる者は卑弥呼様しかおりませぬ。そしてそれを解呪できるのも卑弥呼様だけでございます。」


「つまり……卑弥呼様は敵だと?」


「いいえ。それはありえません。ですので、何らかの力で操られているのではないかと推察したのでございます。」



 なんでそこまでセイメイは卑弥呼様を信頼しているのだろうか?



 だが、そこを今議論する必要はない。

 セイメイは感情だけで判断する男ではないからだ。

 そんな事は今までのセイメイを見ていればわかる。

 

 しかし、そうなると薄っすらとだがこれまでの流れが見えてきたな。



 とはいえ、目的自体はさっぱりわからんが。


 

「まじかよ……。確かにその仮定だと全ての点が線で繋がる……最悪じゃねぇか。」


「しかしセイメイよ。卑弥呼様程のお方が、何者かの傀儡になるようには思えぬでござるが。何か心辺りでもあるでござるか?」



 どうやらイモコも卑弥呼様とやらを相当信頼しているみたいだ。


 でも確かに俺もそれは気になる。

 話を聞く限り、どちらかというと卑弥呼様の力の方が他者を傀儡にできそうだ。


 そんな人物相手に、どうやって傀儡にするというのだろうか?


 何か弱みでも握られてるのかな? 

 

くらいしか想像できない俺は黙って聞いておこう。



「申し訳ありません。正直、私にも心当たりはございません。」



 わからんのかーい!



 まぁ、そこまで知ってたらセイメイがこんなに焦っているはずないか。



「八方塞りか。だけどそれでいくと、状況次第では卑弥呼を俺達で殺すしかないかもしれないな。」


「それはいけませぬ!!」



 俺の何気ない一言に、セイメイは強い拒絶を見せる。



 普段のセイメイならあり得ない事だが、それでも俺の考えは変わらない。


 仲間に危険が及ぶくらいなら、俺は迷わずその元を断つ。

 

 俺は全てを救える程、全知でも全能でもないからな。



「なんでだ? もし傀儡が解除できなかった場合、今度は俺達が呪いでやられるかもしれないだろ。そうなる前に殺す事も一つの方法として考えておいた方がいいはずだ。」


「おっしゃることはわかります。しかし、呪いというのは相手を殺した場合、一生解呪できなくなる可能性があります。術者の死後強まる呪いというのもあるくらいですので。」



「まじかよ……。」



「それに、卑弥呼様は我が大陸唯一の絶対者。もしも卑弥呼様が亡くなられれば、再び世は戦乱の時代に舞い戻るでしょう。」


  

 確かに一度戦いの火蓋が切られたら、大陸全土に伝播して、収めるのは容易ではないだろう。

 しかし、例えそうだとしても、やはり俺は仲間の命を優先したい。



 俺がセイメイの話を聞いて尚、そう考えていると、今度はイモコが口を開く。



「そうなれば、ウロボロスに滅ぼされるのは確実でござるな……。師匠の援軍を待つ前にこの大陸に住む者はいなくなっている可能性があるでござる。セイメイの言う通り、卑弥呼様を殺すというのは最悪手だと具申するでござるよ。」



 イモコまでが俺の考えを否定する。



 と言っても、俺は必ず殺すという訳ではなく、そういった気概の話なんだが……。


 しかし二人がそこまで言うのであれば、卑弥呼様を殺すという事については本当に最終手段として考えた方がよさそうだな。

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