第63話 サクセス会議2

 俺とシロマは劇場を沈痛な面持ちで後にする。

 あれだけバニースーツやら、何やらを交換しようと息巻いていた俺だったが、あの公演を観た後ではそんな気も失せていた。


 隣にいるシロマは、あれから一言も話さない。

 きっと今頃、今後の事を色々考えているのだろう……。



 しばらくすると、俺たちの泊まっている宿が見えてきた。



「シロマ、とりあえず今日俺たちが知った事をみんなに話して、今後どうするか考えよう。」


「はい……。」



 シロマは未だに思い詰めた顔をしながら返事を返すと、一緒に中に入っていく。


 宿屋の一階は、酒場兼食堂となっており、既にテーブルで食事をしているイーゼとゲロゲロを見つけた。


 だが、なぜかそこに、リーチュンとちびうさはいない。



 ゲロ!(おかえり)



 俺たちが宿屋に入ると、ゲロゲロは音と匂いで気づき、直ぐに俺のところに来た。

 俺は、近づいて来たゲロゲロを抱き抱えると、ゲロゲロの喉を撫でる。



「ただいま、ゲロゲロ。」



 ゲロゲロォ~。



 ゲロゲロは、気持ち良さそうに目を閉じて小さく鳴いた。

 その姿を見て、荒んだ心が少し癒された気がする。



「おかえりなさいませ、サクセス様。お疲れでしょう、先にお風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも……。サクセス様? 何かありましたか?」



 ゲロゲロに続いてイーゼも近づいて来た。

 普段ならそのままいつものお誘い文句を言うイーゼであったが、俺とシロマの様子をみて異変に気づいたようだ。



「あぁ、ちょっとな。それより、ちびうさとリーチュンはどうした?」


「はい、今日街を一緒に歩いていると、突然ちびうさちゃんが走り出してしまい、そのままカジノに入ってしまったんです。そして地下の闘技場まで行くと、突然そこのモンスターに向かってパパ、パパと叫んでは暴れ出し、そのモンスターがいなくなると泣き始めてしまったのです。その後宿屋に連れて行くも、ご飯も食べずに泣いてしまい……それで今、リーチュンが一緒にいて、あやしているところです。」



 イーゼの説明は、概ね俺の予想通りだった。

 俺からも話さなきゃな……。

 でも、もう少し頭を整理する時間が欲しい。



「……そうか。イーゼ、その事で話がある。とりあえず俺は、まだ気持ちが落ち着いていないから、先に風呂に入りたい。その後、今日俺たちが何を知ったかを話す。みんなの意見が聞きたい。シロマもそれでいいか?」


「はい、そうしていただけると助かります。まだ少し情報の整理が追いついていませんので……。」



 どうやらシロマは、ただ落ち込んでいるだけじゃなく、既に今後の事を考えていたようだった。

 シロマがどう考えているのか、俺も気になるところである。



「わかりましたわ、ところで夕食は既に済まされてらっしゃいますか?」


「あぁ、すまない。カジノで先に食べて来た。」


「構いませんわ。それでは、ゆっくりと湯船で疲れを癒して下さい。今日はお邪魔しませんので……。」



 今日はって……。



 まぁイーゼなりに気を遣ってくれてのだろう。


 とりあえず俺は、一度部屋に戻って布団にダイブすると、今日の事を思い出していた。

 楽しい事ばかりであったが、やはり最後のアレがどうしても頭から離れない。

 

 あれが本当ならば悲しすぎる。



「まぁ、ここでウダウダしてても仕方ないか。風呂にでも入って、頭をシャキッとさせるかな……。」



 俺はそう呟くと、他の冒険者達が数人入っている浴場で汗を流した。

 温かい湯に浸かると気持ちがホッとする。



 俺は、風呂から上がると早速みんなを自分の部屋に呼ぶ事にした。

 ちびうさは既に泣き疲れて寝ているらしい。

 一人にするのは心配だったので、ゲロゲロだけは、ちびうさの側にいてもらった。



「早速だがこれから今日、俺とシロマが知ったことについて話したいーーが、その前にイーゼ達が今日手に入れた情報を話してくれ。」


「わかりましたわ、それでは僭越ながらわたくしから、お話させていただきます。」



 イーゼは、今日あった事や手に入れた情報について話し始めた。

 闘技場での事については俺も知っている話であったが、その前にイーゼ達が見聞きして来た話が非常に気になる。



 まず初めに、やはりというか……城には入れなかったらしい。

 城の門の前は、警備の兵士が厳重に警戒していたようだ。

 それなので、イーゼ達は無理に入ろうとせず、怪しまれないように通り過ぎたらしい。


 次に、冒険者ギルドで聞いた話だと、この国の王は30年前からずっと変わってないそうだ。

 王は、滅多に国民の前に出ないそうだが、噂だと年もとっている感じがないらしい。

 そして、現在の王になってからカジノが国営となり、闘技場なども全て城が管理するようになったと……凄く、きな臭い。



 最後になるが、これが今回一番驚いた情報だ。



 なんとちびうさは、俺たち以外には見えていないらしい。

 たしかに闘技場で、ちびうさがあれだけ騒いでいたのに誰も見向きもしなかった。



 しかし、そうなるとおかしい。



 ボッサンは、間違いなくちびうさが見えていた。

 もしも何らかの理由で俺たちにしか見えないならば、ボッサンに見えるはずがない。



 あいつが嘘をついていたか?

 いや、それはない。

 断言できる。

 あいつは間違いなくちびうさが見えていた。



 なら、どうして?



 ふとシロマを見ると、シロマも難しそうな顔をして考えている。

 多分、俺と同じ事を考えているのであろう。


 しかし、シロマは天才だ。

 きっと今、頭の中では凄い勢いで情報が整理され、予想ができているはずだ。



「私達がわかったのは、それで全てです。色々サクセス様にも意見を聞いておきたいところですが、その前にサクセス様達がわかった事を話していただいてもよろしいですか?」



 イーゼは話が終わると、その話についての意見を求める前に、俺たちの情報を優先した。

 そして今度は俺がイーゼ達に、今回俺たちが手に入れた情報を説明した。

 俺が劇場での話を終えると、突然リーチュンが泣き叫ぶ。



「そんなの……そんなのってないわ!」


「落ち着けリーチュン。どこまで信用できるかわからない話だ。ちびうさの名前だって偶々同じだっただけかもしれない。だから冷静に情報を整理するんだ。」


「アタイ、ちびうさちゃんのところ行ってくる! 一人にさせておくなんて可哀想だわ!」



 俺は興奮しながらも泣き出したリーチュンを宥めるも、リーチュンは俺の手を振り切って、部屋から出て行った。

 リーチュンも流石に寝ているちびうさを起こして聞く事はないだろう。

 多分一時的に困惑してちびうさのところにいてあげたいだけだと思う。

 だから俺は、そのままにしておいた。



「サクセス様、いいので?」


「仕方ないだろう。今はそっとしておいてあげよう。それに、今のリーチュンに意見を求めても、多分まともな答えは返ってこないと思う。」


「サクセスさんの言う通りだと思います。今はそっとしてあげましょう。私だってあんな話を聞いた後では大分……いえ、今はそんな話はいいです。それよりも、私なりに考えが纏まったので話してもいいですか?」


「勿論だ、シロマの意見を聞かせてくれ。」


「まずこれまでの情報を整理した結果、劇場に出てきたちびうさちゃんは、今、私たちが目にしているちびうさちゃんに間違いないと思います。」


「そうか、シロマもそう思うか。」


「はい、理由は後で話します。それで、先に今後するべき事を話させて下さい。」



 シロマの話はこうだった。


 

 一つ、ちびうさから赤色のオーブについて聞くこと。


 二つ、もう一度ボッサンに会って問い詰めること。

 その際に自分がいると警戒されるから他の人とが良いと言っている。


 三つ、城の牢獄に繋がる隠し扉を探すこと。



 これがシロマから提案された内容だ。



「私も概ねシロマさんと同じ意見ですわ。今度は私がサクセス様と一緒に、そのボッサンとやらを問い詰めましょう。」


 イーゼは、シロマと同意見のようだ。

 追加はないが、その後、今回の話を全て要約してイーゼがシロマに変わって説明した。


 不思議な事に今回の件は、全て一つの線で繋がっている。

 まるで、こうなるよう誰かに導かれてるように……。



「わかった。それじゃあ、明日は俺とイーゼでボッサンを探す。シロマ達は、赤のオーブと城への隠し扉を探してくれ。」



 俺たちはそこで話を終えて、それぞれ自分の部屋に戻っていった。



 この後、更に過酷な運命が俺たちを待ち受けている事に、その時はまだ知る由もなかった……。

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