第62話 舞台開演(後編)

「サクセスさん! 始まっちゃいますよ、急いでください!」


「ちょ、ま! わかったわかった。直ぐイクから待って!」


「もう! どんだけ出したら気が済むんですか……。」



 え? 違いますよ?

 いきなりエロシーンじゃないですって!

 誤解だ!



 そう、現在俺達は、別に何も怪しい事をしていた訳ではない。


 後半の公演まで少々時間があったから、少しだけカジノでスロットをしていただけだ。

 相変わらずシロマは全然当たらないものの、俺は、回せば回すだけコインが増えていく。


 もうここで一生暮らせばいいんではないか? と思う位に。


 全くコインの増えないシロマは、沢山のコインを預り所まで運ぶ俺を急かしてくる。

 まだ公演まで少しは余裕があるはずなのに……。



 ようは悔しいのだろう……。

 しかし、こればかりは、俺にもどうすることもできない。

 まぁ、舞台を見たらすぐに機嫌も直るだろう。


 数分後、俺達は、何とか公演十分前に観覧席に座ることができた。



「ふぅ、なんとか間に合ったな。」


「サクセスさんが出しまくるからですよ、お蔭で私は、全然当たりませんでしたよ。」


「えぇ……それって単にシロマの運が……。」


「そうですよ、私は昔からじゃんけんをすれば必ず負けるし、こういう事は苦手なんです。」


「その割にはギャンブルが凄い好きそうに見えたな。」


「嫌いではありません。私はこう見えても負けず嫌いで勝負事が好きなんです。でも普段は運がない私ですが、いざという時は結構強運なんですよ。」



 シロマは、全く無い腕で力こぶを見せるポーズをしてそんな事をいうが、俺にはどうしても信じられない。

 なんと言っても、負けている姿しか見てないからな。



「……そうか、でも勝っているところは見た事ないんだが。」


「何言ってるんですか。勝ったじゃないですか。だって私は、今日こんなにもサクセスさんと楽しい事が出来てるんですよ。これを強運と言わずしてなんというんですか。それに……」



 突然、シロマは頬を紅潮させて、下を向く。


 シロマは、いつも恥ずかしい事を言う時はこうやってボソボソ呟くのだ。

 それがとても可愛い。

 お姫様みたいだ。

 だから、意地悪を言ってみたくなる。


「それに?」



 俺は、照れるシロマをニヤニヤしながら見て言った。



「な、なんでもありません。ほら、は、始まりますよ!」



 シロマは顔を真っ赤にしてそう言うと、丁度周りの灯りが消え始めた。


 第二幕の始まりだ。


 そう言えば、悲恋とか言ってたっけか?

 この最終章が悲しい話なのかな?


 そんな事を考えながらも俺は舞台に集中する。



 今回の話は、ヌーウとステテコ仮面が大臣を捕縛し、国に平和が訪れた後の話だった。

 その後二人は結婚し、小さな女の子が生まれた。


 偶然なのかわからないが、その子の名前は



【ちびうさ】



だった。


 ちびうさは、優しい両親に愛されて、すくすくと成長していく。

 しかし10年後、不幸は突然訪れた。


 なんと捕まっていたはずの大臣が脱走し、国王を殺害すると、自らが王を名乗ったのだった。


 そして、ヌーウとステテコ仮面に深い恨みを持っていた元大臣は、二人を探し始める。

 それを知ったヌーウ達は国から出ようとしたが、その途中でヌーウが攫われてしまった。


 父親のステテコ仮面(マモル)は、必死にヌーウを探し始める。



 そして……舞台は家の中へ……。



 そこにはテーブルを挟んでちびうさとまもるが座っていた。


マモル

「いいか、ちびうさ。パパはな、これからママを助けに行ってくる。もしかしたら、パパは帰ってこないかもしれない。だけどな、パパとママはいつだってちびうさを見てるからな。少ないがお金は置いてある。何かあったらギルドに言ってくれ。話はつけてきた。」



ちびうさ

「いや! あたちも連れてって! あたちもママに会いたい! パパと離れるなんて絶対イヤ!」



 ちびうさは、泣きながらまもるに抱き着いている。

 まもるもそんな可愛い娘を優しい目で見ながら、頭を撫でていた。



マモル

「大丈夫、パパは、こう見えて強いんだ。ママを必ず助け出して見せる。ちびうさは、パパとママの自慢の娘だ。いい子に待てると信じている。だからいい子で待っててほしい。」



ちびうさ

「うぅ……わかった……。絶対だよ! 絶対帰ってきてね! あたちずっと待ってるからね!」



マモル

「わかった、約束だ! パパは、絶対帰ってくる! それまでいい子にしててくれ。」



ちびうさ

「う、うん……うさ、いい子にしてる……。だから早く帰ってきて。」 



 そういってまもるは家を出ると、ギルドで調べた情報を元に王城への隠し通路に向かった。


 無事に隠し通路を見つけたまもるは、王城への侵入を果たす。

 隠し通路は、王城の地下に繋がっており、地下の牢獄に辿り着いた。


 しかし、そこでまもるが目にしたのは、変わり果てた愛する嫁の姿と、無数の兵士を引き連れた元大臣だった。



元大臣

「はっはっは、まさかこんな簡単に罠に引っかかるとはな。これでワシの復讐も果たせるぞい!」



 高笑いする元大臣。



マモル

「きさま! ヌーウに何をした!」



元大臣

「なにって、当然今までの報いを受けてもらったまでだ。安心したまえ。お前も同じ運命をたどることになるからのう。あ~はっはっは。愉快じゃ! 愉快じゃぞぉ!」



ヌーウ

「に、逃げて……あなた……私はいいから、ちびうさを連れて逃げて……。」



 ヌーウは、瀕死の状態であったが、なんとか力を振り絞って声を出す。



マモル

「馬鹿な! お前を置いて逃げれるわけがないだろ! 絶対助けてやる。」



ヌーウ

「お願い……だから……逃げて。あなたと出会えて……ちびうさと暮らせて……私はしあわ……。」



 最後の命の灯を燃やしながらヌーウはそう言うと……そのまま冷たくなった。



マモル

「ヌーウ! ヌーウ! しっかりしろ! 死ぬな……俺を置いて行かないでくれ!! ヌーウ!!」



元大臣

「はっはっは、茶番はもう終わったかの? 実に愉快である。これで復讐の半分は終わった。次はお前だ! お前たち! さぁやれ!」



 大臣は、兵士達に命令すると、兵士達は一斉にまもるに襲い掛かった。

 

マモル

「お前だけは! お前だけは絶対に許さない! 例え死んでも、必ずお前を殺してやる! 頼む! 赤のオーブよ! 俺に……俺に力を!」



 マモルがそう言って赤色のオーブをかざすと、オーブから光が溢れ出した。



元大臣

「ま、眩しい! 何をした! 貴様何をした!」



 大臣は、その光を嫌がるも、次第にオーブから光が消えていき、そしてマモルの手からオーブは消えた。



元大臣

「ふん、そんなこけおどしでどうにかなると思ったか! さぁ、早くこいつを始末しろ!」



 その後もマモルは、必死に戦った。

 次々と襲い掛かってくる兵士達をなぎ倒す!

 その顔はまさに憤怒の鬼。



マモル

「許さない! 許さないぞ! どうした! 俺はまだ生きているぞ!」



元大臣

「こしゃくな……おい、あれを出せ! あれでこいつを仕留めろ。」



兵士

「は! しかし、あれはまだ、完全には……。」



元大臣

「口答えをするな! ワシは王ぞ! さっさと持ってまいれ!」



 兵士

「はは!」



 命令をされた兵士は急いで城に戻っていく。

 何かを連れてこようとしているようだ。

 その間にもまもるは、次々と兵士を打倒していった。

 そして、後少しで元大臣に辿り着くといったところで……そいつは現れる。



 巨大な鉄の塊ーー否! 

 それはロボットだった。

 その手には、剣とボウガンが装備され、頭部には不気味に赤く光る目がある。



元大臣

「やっときたか! どうやらワシの勝ちのようじゃな。殺人マシンよ! やれ! あの目障りな男を殺せ!」


 殺人マシンは、大臣の声を聞くと……まずは近くにいた兵士達を一人残して皆殺しにした。


 回転する腕から放たれる剣戟。

 連続で腕から放たれるボウガンの矢。

 まさにそいつは、荒れ狂う殺人マシンであった。



 生残った兵士は、その場から逃げ出した。

 後に彼はこの国から姿を消し、吟遊詩人となるがそれはまた別の話である。(ナレーション) 



元大臣

「な、なにをしておる! やるのはあいつだ! こっちにくるんじゃない! やめろ! ワシは王ぞ!」



 なんと殺人マシンの次のターゲットは、元大臣であった。

 殺人マシンは、元大臣に向かって行き、剣を振ろうとした瞬間、その赤い目がグルっと動き出し、別の者を捉えた。


 マモルであった。

 マモルは、その化け物が兵士達を襲っている隙に、ヌーウの下に走っていったのだ。

 そして運悪く、殺人マシンは、動く者に反応するため、ターゲットをまもるに変更する。



元大臣

「ひえぇぇーーー。」



 九死に一生を得た大臣は、そのまま地下から脱出した。



マモル

「ヌーウ……守れなくてすまない。俺はお前を愛してる!」



 ズバ!



 まもるがヌーウを抱きしめ、そう叫んだ瞬間、殺人マシンの剣はまもるの背中を切り裂いた。



マモル

「ぐはっ! ちびうさ……すまない。パパは約束を守れなかった……どうか幸せに……。」



 こうしてヌーウを抱きしめながら、マモルは、牢獄の中で息絶えるのだった……。



 そしてシーンが変わり、今度はちびうさの場面になった。



「あ! なにこれ! 綺麗! パパとママが帰ってきたら絶対見せるんだもんね。」



 ちびうさは、家の外で赤いオーブを拾うと、嬉しそうに家の中に戻っていった。



「パパまだかなぁ……どのくらいで帰ってくるかなぁ……。



 テーブルに両手の肘をつけて、ルンルンと嬉しそうに笑顔でパパとママを待ち続けるちびうさ。



 ちびうさは知らない。

 既に父と母がこの世にいないことを。


 

 そして……ちびうさの前にパパとママが帰ってくることはなかった……。(ナレーション)



 こうして舞台の幕が下りた。

 完全なるバッドエンディングである。

 俺は自分の目から流れ落ちる涙が止まらなかった。


 隣を見ると、シロマも号泣している。



 胸が……苦しい……。



 観客席からはすすり泣く声で溢れかえっている。

 だれも喋らない。

 すでに周りに灯りが戻るも、誰も席を立とうともせずに泣いている。



「シ、シロマ……これって……ノンフィクションっていってたよな?」


「は、はい……。もしもこれが本当なら、ちびうさちゃんは……あーーん!!」



 シロマは、突然声をあげて泣き出してしまった。

 俺もシロマを抱きしめながら同じように泣いた。


 ちびうさの正体がやっとわかった。


 冊子にはこれは30年前の話と書いてあったが、どういうわけかちびうさは生きている。



 30年もずっと帰ってこない父と母を待っていたんだ。

 辛過ぎる……悲しすぎる!



 俺に何ができるかわからないけど……

 どうやって助ければいいのかわからないけど……



 俺は絶対にちびうさを助けてみせる!



 そう心に誓うのだった。

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