第61話 舞台開演(前編)

 俺は今……。

 ものすご~くドキドキしている。

 何にドキドキしているかって?

 だって、俺……。

 こんなの初めてだし……。



 薄暗い部屋。

 息遣いまで聞こえてくる静寂。

 ほのかに香る、鼻をくすぐる様な甘い香り……。

 隣にいるのは、超絶ロリ美少女。

 そして、俺の大事な部分は彼女と重なり……



 はい、すいません。

 ただ、劇場の観客席に座っているだけです。


 現在開演間近であり、周囲の灯りが消されていた。

 そして重なっているのは、俺とシロマの手……

 はたから見たら完全に恋人である。



 パン! パン! パン!



 その音と同時に、ステージに灯りが灯される。


 遂に舞台が始まった!


 舞台に立つのは褐色の美人。

 髪は長めのツインテールでスタイルも容姿も抜群の女性。

 どうやら彼女が、メインヒロインらしい。


 そして舞台は、彼女の歌と踊りから始まった。

 ミュージカルを見るのは初めてだったが、とても斬新で面白い。

 連載公演であったため、ストーリーについていけてない感じはある。

 しかし、歌はうまいし、踊りも素敵で俺はその舞台にくぎ付けになっていた。



 ちなみに内容は、冒険者をしている美少女戦士ヌーウが、夜はセーターを着て変装し、城下町の悪徳貴族やらを懲らしめる勧善懲悪ストーリーである。

 

 ただヌーウのピンチに駆け付けるは、変態だった……。


 その名もステテコ仮面様。

 ステテコパンツの股の部分から顔が出ており、裾からは手が出ている。

 もちろんズボンもステテコパンツだ。

 簡単に言えば、ステテコパンツの二刀流とでもいうのだろうか。


 まぁなんにせよ、変態だ。


 しかし、歌とダンスだけは非常にうまい。

 ちぐはぐなのに違和感が……あるけど、ない。


 そして前半ストーリーがラストに差し掛かる。



ステテコ

「このステテコが破れようとも……君だけは救って見せる!」


 ステテコ仮面の顔面の布が破れ、その素顔をさらけ出す。



 ーーその素顔はイケメンだった。



 ついでに、ズボンのステテコも破れて、すね毛もさらけ出す。



 --見た目に合わず剛毛だった。



ヌーウ

「ステテコ仮面様! いえ、あ、あなたは!?」



 ステテコ仮面の正体は、昼間一緒にパーティを組んでいる冒険者仲間と分かったヌーウ。

 彼女は、彼に恋心を抱いていたが、ステテコ仮面への憧れに似た恋心もあり、本当に好きなのはどちらであるか選べないでいたのだ。


 しかし今回、そのすね毛と顔を見て同一人物と知ると、ヌーウの思いも一つになった。



ステテコ

「隠していてすまない。そうだ、俺は同じパーティのマモルだ。さぁ行け! 俺が時間を稼ぐ!」


ヌーウ

「いやよ! ステテコ……いえ、マモルを置いてなんていけないわ! それなら最後まで足掻いて見せるわ! 二人の未来の為にも!」



 そして、二人は熱いキスを交わすと最後の力を振り絞って、敵の大臣を守る兵士達を倒し、大臣を無事捕らえた。



 そこで前半は終わり、舞台の幕が閉じる。


 舞台が閉じ始めると、観客席は大興奮に包まれて、大歓声が舞台に贈られた。

 当然、横にいるシロマも大興奮だ。


「サクセスさん! サクセスさん! 凄い面白いですね! 私、こんなに興奮したの初めてです!」



 うん、ちょっと前も闘技場で大興奮だったけどね。

 

 と言いたいところだが、そんな水を差すような事は言わない。

 俺は空気の読める童貞だからな。



「そうだな、俺も初めてだったけど、こんなに面白いとは思わなかったよ。でも、あの褐色のヒロインはどこかで見たような気が……。」


「またサクセスさんは……そうやって女性ばかり見ているんですから。」



 おっと、失言だったようだ。



「確かに美人だけどシロマ程じゃないさ。それより、ここでも何か情報収集しないとな。でもみんな興奮してるし、ちょっと声はかけづらいか。」


「そ、そうですか……。こんなにサクセスさんに可愛いって言われると、なんだか嬉しいを通り越して恥ずかしいです……。あ、そうでした! すっかりチビウサちゃんの事を忘れてしまいました。でも今日は、いい情報も手に入りましたし、最後くらいは純粋に楽しんでもいいかと……。」



 相変わらず照れたシロマは可愛い。

 舞台を見て興奮していたせいか、その白い肌がいつもよりも赤くなっている。



「あ、あぁ……そうだな。最後くらいは、こうやって二人でゆっくり楽しむのもいいな。」


「はい! 後半が楽しみです! それにこうやって二人でいられるのも……。」



 シロマは顔を下に伏せながらボソボソと呟いた。



 これ以上はやめてくれ!

 可愛すぎて舞台に集中できん!

 しかし、本当に今日は楽しいな。


 これが初めて体感するイケメンの世界か……。


 ふと気づくと、俺の手はまだシロマの手に重なっていた。

 俺は重なっていた手を返し、シロマの手を握った。

 シロマの手はスベスベしていて、とても気持ちい。


 少しだけ、手に汗がにじんでいるが、それが更に俺を興奮させる。

 俺がシロマの手を握ると、シロマもギュッと握り返してきた。


 俺の下のレバーもぎゅっと握ってほしい……。


 おっと、いかん。

 息子が目覚めた。

 もう子供は寝る時間ですよ!



 ふぅ~、もうこれは完全にデートだな。



 こうして興奮冷めぬ俺達は、後半の開演まで、しばらく余韻に浸るのだった。

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