第8話 初パーティ

 現在俺達は、スライムが大繁殖している草原を抜け、北の森に辿り着いている。

 道中スライムと戦闘になるかと思っていたのだが、どうやらスライムたちは強い冒険者がわかるようで、あまり近づいて来ることがない。 

 つまり、ほとんど戦闘はなかった。 


 そして夜の間は、見張りを一人づつ交代で行う。 


 夜間のモンスターは昼に比べて危険な魔物が多いため、道具屋で買った聖水をまかなければならない。 

 それで100%大丈夫ということではないため、見張りをたてるのだが、滅多な事では襲われないらしい。 


 うん、勉強になる。 

 やっぱパーティっていいね! 


 馬車に100ゴールド。 

 食料や聖水、薬草、キャンプファイヤーセット、お鍋等雑貨品、これら全て合わせて130ゴールド。


 俺は合計で230ゴールド消費した。 

 260ゴールドという俺にとっての大金は、一気に30ゴールドまで減ってしまう。 


 当然リーチュン達もお金を払うと申し出てきたのだが、それは断った。

 こういう時に男の甲斐性を見せるべきだと、生前父に厳しく教えてもらったからだ。 


 まぁ父生きてますけど。 


 なんにせよ、みみっちいところは余り見せたくない。 

 貧乏家庭で育って貧乏性の俺だけどそのくらいの気概はあるつもりさ! 

 二人には、お金が無くてどうしても困ったら貸してもらえるように伝える事で納得してもらった。 



「なんかドキドキするな……。魔物が出る森はちょっと怖いかも……。」 


「アタイも最初は怖かったけど、入ってみたら大したことなかったよ。っと、いいつつニッカクウサギの集団に襲われて全滅しかけたんだけどねぇ。ただ、サクセス位の力があれば問題ないと思うよ。」 


 俺は二人に聞こえないように呟いたつもりだったが、普通にリーチュンに聞かれていた。 



「そうか。ならいいんだけど。ところで質問してもいいか? パーティを組むっていうのは具体的にどういう事なんだ? 特に経験値配分とか気になるんだが。」 


「アタイも詳しくはわからないけど、なんか普通に4人までなら経験値は分配されるみたいよ。シロマなら詳しいかもね。」 


「パーティは同じチームという意思があれば、共有されるようです。経験値は人数で分配されます。なので、近くにいるメンバーに分配されるというわけではなく、あくまでパーティであるという共通認識が必要です。この間助けてもらった時は、パーティという認識は無かったので、サクセスさんが倒した経験値は私達には入っていません。」 



 リーチュンがシロマに話を振ると、直ぐに答えてくれた。 


 シロマ、お前は天才か? 



「そうなのか。ふむふむ。」 



 とりあえずそれを聞いて俺は、セットスキルにある経験値10倍がパーティにも影響するのかが気になった。 

 まぁなんにせよ戦ってみればわかる。 そしてそんな話をしていると、タイミング良くモンスターと遭遇した。 



「おっと、早速お出ましよ。あれはゴンドラフライとニッカクラビットね。アタイがウサギをやるからサクセスはあっちのゴンドラフライを頼むわ。」 


「ゴンドラフライ?」 


「サクセスさん、ゴンドラフライというのはあの飛んでいる虫です。麻痺の粘液を出してくるので気を付けてください。」 



 なるほど、あの巨大なトンボの魔物がゴンドラフライか。 

 変な名前だな。 


 シロマの助言を聞きつつ、俺はさっそくゴンドラフライに向かって走っていく。 

 レベル7に上がった事で素早さが高くなった影響か、一気に敵に接近できた。 


 俺の攻撃が森のモンスターにどの程度通用するかはわからないが、とりあえず全力で斬りつけてみる。 



 バキッ! 



 俺の攻撃はゴンドラフライにヒットすると、一撃で地上に沈んだ。 



「流石です、サクセスさん! あ! またきます! 増援です。今度は多いです! 気を付けてください!」 



 シロマは、回復専門の為、後方で指示を出しながら支援する。

 なんでも素早さを上げる魔法や風で切り裂く魔法は使えるらしいが、とりあえず回復が第一優先なのでそれは温存してもらうことにした。 


 相変わらず俺の作戦は【いのちだいじに】だ。 


 しかしどうやら今の俺の能力だと、ゴンドラフライは雑魚のようである。 

 俺の戦闘は終わっても、まだリーチュンはニッカクラビット2匹と戦闘をしていた。 

 なので、手が空いた俺は、増援で現れたゴンドラフライの大群を相手にすることにする。 


 後にシロマから聞いた話だと、ゴンドラフライは、単体なら弱いモンスターらしいが、場所が悪いと沢山集まってくるため非常にやっかいな敵らしい。 

 麻痺の粘液でこちらの動きを止めると一斉に襲い掛かってくる獰猛かつ賢い魔物だそうだ。 


 しかしなんのことはない。 

 今の俺は60レベル相当。 

 こいつらの討伐平均レベルが10であるならば苦戦するはずもない。 

 

 故に俺は素早い動きでバッタバッタと敵を倒していく。 


 え? バッタじゃないよ? トンボだよ? 


 俺がゴンドラフライを10匹倒すと、どうやらリーチュンの方も終わったようだ。 



「終わったな……。」 



 俺がそう呟くとリーチュンとシロマはなぜかボーっとしていた。 



「どうした? ケガでもしたか?」 



 気になった俺は、リーチュンに近づいて声をかける。 



「あ、ごめん。ううん、攻撃はくらってないよ。素早さだけは自信があるからね。だけど、アタイ……。」 



 リーチュンは何か不思議な事でも起こったかのように自分の手を見つめていた。 

 リーチュンの武器は鉄の爪だ。 鉄の爪が壊れたのかな? 



「あの……。サクセスさん。私達に何かしました?」 



 すると突然、シロマが怪訝な目を俺に向けて聞いてくる。 



 待ってくれ! 

 まだなんもしてないって! 

 少しチャイナ服からパンチラが見えないか集中していただけだってばよ! 



「二人とも一体どうしたって言うんだ。俺はなんもして……ないっぺよ。」 


「嘘です! だっておかしいですよ。確かにサクセスさんのお蔭で、今回10匹のゴンドラフライを倒せました。でも、パーティを組んでるから経験値は3分の1。つまり1回の戦闘でそこまで経験値が増えることはないのです。」 


「うん、それは聞いたよ。当然だよな、俺も今回1レベルしか上がってないしな。」 



 多分俺は、昨日のニッカクウサギを30匹倒したことで、次のレベルアップ近かくまで経験値が溜まっていた。

 それで今回の戦闘で1レベル上がって8になっている。 

 特に変わった事はない。 



「え、1? 1だけですか?」 



 だが、シロマの反応は違った。 



「いや、え? だってそんな簡単に上がらないだろ?」 


「はい。私の場合、ゴンドラフライ相手ならソロで10匹、パーティなら30から40匹は倒さないと上がらないと思います。だから不思議なんです。私はさっきの戦闘だけでレベルが3つ上がりました。それなのに、私達よりレベルが低いサクセスさんが、1しかあがらないことはおかしいです……。」 



 まじか……。 

 え? 

 と言う事はやっぱり俺のセットスキルの経験値10倍はパーティにも適用されるのか? 


 いや待てよ。

 それなら必要経験値も10倍だから結局は変わらないはずだ。 

 どういう事か確認するべきだな。 



「なぁ、シロマ。ちょっと冒険者カード見せてもらってもいいか?」 



 俺は能力向上の効果を確認すべく、シロマに冒険者カードを見せてもらう。


 シロマ 僧侶 レベル15

 力   12 

 体力  18 

 素早さ 9 

 知力  45 

 運   11


 うん。 

 前回と比べて合計で15上がっている。 

 つまり能力向上の効果は認められない。 


 どういうことだ? 


 俺のセットスキルの経験値10倍は、パーティにも影響はあるが、必要経験値10倍と能力向上10倍は適用されないのか? 


 例えば30の経験値の場合、これは300となって、それが3人に分配される。

 つまり、一人頭100の経験値というわけだ。 


 俺の経験値は減るけど、二人にとっては単独で倒した経験値の3.3倍入るって事だよな。 

 

 やっぱりそうか。 

 経験値10倍だけが適応されている。 


 仕方ない、もう全部話すか。 



「シロマ、すまない。実は内緒にしていたことがあるんだ。それは、俺とパーティを組むと、倒した経験値の10倍がもらえるようになるという事だ。俺はそういうスキルを持っている。だけど、これは知られると色々と面倒なんで黙っていた。誰にも言わないで欲しい。」 



 俺がそういうと、シロマは驚きつつも何故か納得をした顔で静かに頷く……が黙ってないのも一人いた。 


 リーチュンだ。 



「それほんと!? じゃあ黙ってる代わりにこれからもずっと一緒にパーティ組んで!!」 



 ずっと一緒……ずっと一緒……。

 あぁ~なんて甘美な響きなんだ! 



「あ、あぁ……かまわないっぺよ……。」 



 ちなみにシロマよりレベルが1つ高かったリーチュンは、今回レベルが2つ上がったらしい。 


 これからもよろしくな、二人とも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る