第80話 束の間のバカンス

「それで明日以降、俺達はどうすればいいんだ?」



 サイトウの処遇について話し終わった俺は、今後の行動について尋ねる。



「そうでごじゃるな。一週間位は今まで通り目立たないように観光をしていて欲しいでごじゃる。その間に僕チンが色々しているから、すべて終わったらまたここに来るでごじゃるよ。」


「了解。うまくいくことを願ってる。じゃあとりあえず当面は静かに観光させてもらうわ。」


「そうするといいでごじゃる。一応僕チンに何かあった場合は、サスケが僕チンの代わりに動くからサスケの指示に従って欲しいでごじゃる。」


「サスケ? 仲間の名前を言ってもいいのか?」



 これまでハンゾウは自分の身内の名前を一切教えず、影とだけ伝えていた。しかし今回はちゃんとした名前を教えて来たので、それだけ自分もヤバイ橋を渡ると覚悟しているのだろう。



「必要だから伝えただけでごじゃる。僕チンがヘマをする事はないから問題ないとは思うでごじゃるが。」



 そう自信満々に言ってはいるが、実際に後任の名前を伝えているのだから不安はあるはず。俺としてもせっかく知り合えたハンゾウに何かあるのは嫌だが、ここは信じるしかない。



「わかった。じゃあソレ頼むわ。また一週間後な。」



 俺は横たわっているサイトウを一瞥して言うと、作戦部屋から出て行った。この後、ハンゾウが何をするのか気にはなったが、それ以上に今は眠い。よく考えたら、既に日が昇り始める時間だ。仲間達が起きたら今回の結果について話そうと思っていたが、よく考えたらハンゾウならそれを代わりにやってくれるだろう。というわけで、俺は一度部屋に戻って爆睡する事とした。




 ※  ※  ※



 その日目が覚めた俺は、時計を見るとお昼の1時になっていた事に気付く。寝たのが大体5時位だから8時間は寝ていたらしい。一応、宿の中でもイモコとシルク以外は他人の振りをしないといけないので、その二人の部屋だけ訪れてみるが、鍵が掛かっているので外出中みたいだ。


 という事で夜まで暇になった俺は、食堂で飯を食った後、ゆっくり温泉に浸かりながら皆を待つ事にする。



 そして日が沈んだ頃に作戦部屋に入ってみんなを待っていると、しばらくして全員が戻ってきた。



「サクセス様。昨日は大変ご苦労様でございました。無事サイトウを捕縛したとハンゾウより伺っております。流石はサクセス様でございます。」



 俺を見つけたセイメイは、真っ先に近づいて褒めてくれる。大分慣れたとはいえ、その女装姿で近づかれて褒められるとなんだか胸がドキドキしちゃう。



「サクセスさん、お疲れ様です。一応セイメイさんから話は聞いていますが、昨日の話を聞かせてもらえますか?」



 シロマは俺に近づくセイメイを引きはがしながらそう口にする。一瞬セイメイが怒りの表情をシロマに向けた気がしたが、きっと気のせいだろう。



「オッケー。じゃあ昨日俺が見た事を話すわ。と言っても、あまり口にするのもいい気分ではない話だけどね。」



 そう前置きをしながらも俺は昨日見た事について話し始めた。


 やはりっと言ってはなんだが、ロゼッタはかなりのショックを受けている。できるだけ生々しく話さないように気を付けたのだが、やっぱ無理だった。あの光景をぼかして話す語彙力は俺にはない。


 しかし意外だったのはシロマだ。出会った頃ならこういった話を聞くと気分を悪くしていたのだが、今は普通に話を聞いている。もしかしたら天空職の試練で精神力が鍛えられたのかもしれない。


 まぁそんな感じで俺からの報告が終わると、意外にも一番最初に口を開いたのはイモコだった。



「これで某の部下も浮かばれるでござる。師匠、本当にありがとうございました。」



 そういえばイモコからサイトウの話を聞いた時、部下がひどい目に遭ったと聞いたな。感謝されるのは嬉しいが、俺は別に大したことをしていない。逆に前の部下の事で頭を下げられるイモコを俺は尊敬する。



「やっぱりイモコは凄いな。でも感謝されるべきはイモコだよ。イモコがいたから結果として俺はここでサイトウを捕えることができた。それを忘れないでくれ。」



 俺は少し照れながらもそう口にすると、イモコは黙って再度頭を下げてきた。



「言うようになったじゃねぇか、サクセス。成長したな。」


「茶化すなよ、カリー。本心だ。」


「まぁ何にせよ、とりあえず暇になっちまったなぁ。観光といっても、やっぱお前がいねぇとつまんねぇよ。」


「え? 何? カリーってそんなに俺の事好きなん?」


「あぁ、嫌いじゃないぜ。」



 冗談で言い返すも、真顔で返された俺はクソ恥ずかしくなる。



(クソ! イケメンの力半端ねぇ。)



 ふとロゼッタを見ると、カリーの事をうっとり見つめている。それを見て少しだけ俺は冷静になる。イケメン爆発しろっと。



「しかし観光かぁ……そうだ! 海行かね? 海!」


「いいですね! 海! 一度行ってみたかったんです!」



 俺が何気なくそんな事を言うと、ロゼッタがテンション高めに乗ってくる。そういえば外に出た事がなかったロゼッタは海を見てみたいと言っていたような気がする……。



「私もそれは賛成ですが、それだと私達が仲間とバレてしまうのではないですか?」


「シロマ殿。それであれば別々に行けばいいでござる。何も一緒に行く必要はないでござるよ。」


「確かにそうですね。では行きましょうか。」



 イモコの返しに納得するシロマ。しかし俺は正直最初に口にした時よりテンションが下がった。



 だって、シロマやロゼッタの水着が見れると思ってワクワクしていたのであって、別に海が見たいわけじゃない。


 カリーはハーレム軍団引き連れてワイワイキャイキャイできるかもしれないが……俺が連れていくのはオッサンと爺さんだけだ。何が悲しくてそんな事をしなきゃいけない。



 するとイモコが俺にそっと近づいて耳打ちする。



「近くの海に若い娘が沢山あつまる場所があるでござる。」



 その言葉を聞いて、俺はテンションが再度上がった。シロマ達の水着が見れないのは残念だが、逆に言えば、これは合法的に多くのギャルの水着を眺められるチャンスではないか。それに同じ海に行く必要もないというか、行ってはまずい。ならば、これはこれでありだ!



「よっしゃ! じゃあみんな決戦に向けてリラックスして遊ぼうぜ!」



 俺が元気にそういうと、みんな顔が明るくなる。シロマだけは急に元気になった俺を見て怪訝な目を向けているが……そんな目でみないでくれよ。


 まぁ実際作戦が始まれば、気を緩めることもできなくなるのだから丁度いいだろう。いい加減、観光巡りも飽きて来たし、何より俺は水着ギャルが楽しみだ!!




 おかず……ゲットだぜ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る