第100話 カリーの葛藤②
妲己はサクセス達さえいなければ、自分達をどうにかできると判断している。
そしてハンゾウが裏切ったのであれば、これまでの戦いは全て見ているはずだ。
その上でそう判断しているのであれば、この状況で戦って勝てる可能性は低い。
だが逆を言えば、サクセス達さえ戻ってこれたなら形勢は逆転するという事だ。
それならば誰かがここに残って妲己を引き付け、他のメンバーは逃がしてサクセス達と合流させる。
それが最善。
「なめんなよ、このビッチが! シルク! 一旦封印は中止だ。卑弥呼とロゼを連れてプリズンまで下がれ! セイメイ! お前もだ!」
カリーは叫んで妲己を挑発するとシルクに命令した。
シルクなら自分の考えをきっと理解すると考えてである。
そして雷属性を付与した槍を妲己に投擲すると、予想外な事に妲己はそれを避けようともしなかった。
結果、カリーの投げた槍は妲己の腹部を貫通する。
だが……貫いた手ごたえが全くない。
それはまるで何もないところに投げて通り抜けた感触であった。
今の攻撃は自分へ意識を向ける為だったので、倒せるとは思ってはいなかったがこれは予想外である。
物理攻撃だけでは受け止められると思い、雷属性を付与した一撃。
例え槍を弾かれようと、掠るだけでも電撃の効果を与える事ができる。
にもかかわらず、全く効果があったようには見えなかった。
投擲した槍はカリーの下に戻ってくる。
当然のことながらそれに血液等は付着していない。
「無駄でありんす。妾にそんな攻撃は効かないでありんすぇ。」
(そういえばハンゾウが言ってたな。攻撃が効かないと……。物理だけじゃなかったのか!?)
「それなら何度でも射貫くまでだ。」
どういう原理かはわからないが、弱点は必ずあるはず。
それならばと、カリーは弱点を探る為に装備を弓に変え、各属性を付与した矢を放ち続けた。
そしてその間に横目でシルクを見れば、さっき言った通り撤退に向けて動き出している。
(それでいいシルク。頼んだぞ。)
だがそこで問題が起こった。
なんとロゼが動こうとしなかったのである。
(……あいつ。ちっ! そんなところまで似てるのかよ。ローズ……。)
思い浮かぶのは、カリーが唯一愛した女性……ローズ。
彼女の笑顔を守る為に強くなるも、結果として守る事ができずに死んでしまった。
それを思い出したカリーは、胸がギュッと締め付けられる。
(……二度と……二度と俺は失わない!)
しかしシルクがローズの手を掴むも、ロゼはその手を振り払った。
その目が自分の事を見ているとわかる。
もしもローズと同じ性格なら、行けと言っても行かないだろう。
ならばどうする?
決まっている。ローズと似ているならば「逃げろ」ではなく、目的をしっかり伝えればいい。
「頼む! 行ってくれロゼ! そしてサクセスと合流するんだ! お前がサクセスを連れてくるんだよ!」
カリーは妲己に矢を放ちながら、振り向くことなく叫んだ。
ちなみにさっきから各属性の矢を切り替えて放っているが、妲己にはまるで効果が見られない。
それが更にカリーを焦らせる。
妲己は全くその場から動かずに、楽しそうな表情を浮かべてカリーの攻撃を受けているだけだ。
それはまるで、自分との実力差を痛感させるのを楽しんでいるようである。
だが今のカリーにとってはそれは願ってもいないチャンスだった。
今妲己に動かれるとまずい。
多分であるが自分が攻撃を止めた瞬間妲己は動き出すだろう。
もしくは、この攻撃を見るのに飽きたら……とにかく、時間がない。
だが、さっきの言葉を聞いてもローズは未だに動かなかった。
余裕がなくなったカリーは、さっきよりも語気を強めて叫ぶ。
「早くしろロゼ! 悩む暇はないんだよ! イモコ、時間稼ぎを一緒に頼む!」
このまま自分だけが攻撃をしていたのでは、妲己の視線が他に移る可能性があった。
だからこそ、イモコにも妲己の注意を引き付けるように伝える。
「わかったでござる! ロゼ殿。師匠を頼むでござる!」
イモコは直ぐに理解してくれたようで、俺の横に並び立った。
そしてイモコにも同じ事を言われたロゼは、ようやく動き始める。
(これでなんとかあいつらを逃がせられる。)
そう安堵するも、それは続くシルクの叫び声によって消え失せた。
「……嘘でがんす。ここを通って来れるはずがないでがんすよ!!」
一瞬だけ妲己から視線を外したカリーは、そこでとんでもないもの目にする。
それは入り口から溢れ出してくる魔物の大群だった。
(クソ! あの女、それがわかってて楽しんでいたってわけか!)
妲己はカリーが気になって動かなかったわけではない。
すべて無駄になるとわかっていたからこそ、それに抗おうとする姿を見て楽しんでいたのだ。
その性格の悪さに思わず舌打ちをする。
「シルク殿、卑弥呼様を私にお預け下さい。」
「セイメイ。わかったでがんす! カリー!!」
後ろから二人の声が聞こえた。
そして自分の名を呼んだシルクの意思をカリーは正確に汲み取る。
「わかってる! イモコ、あっちを頼む! こっちは俺が何とかする。」
「わかったでござる。シルク殿。今行くでござるよ!」
イモコの動きは早い。
それを見て、カリーはシルク達を気にするのをやめる。
カリーはイモコに全幅の信頼を置いていた。
あいつに任せれば、向こうは気にする必要がないと思える程に。
それほどまでにイモコの能力は高い。
転職したイモコの高い戦闘力もさることながら、それ以上に判断能力が優れていた。
伊達に国の大将軍をやっていなかったということだろう。
正直イモコさえいれば、自分は指示を出さなくてもいいとすら思っている。
その位、イモコは傑物であったのだ。
だからこそカリーは目の前の妲己にだけ集中することにしたのだが……そこでまたしても予想外の事が起きる。
ーーハンゾウの復活だ。
なんとシルクの下に駆け付けようとするイモコの前に、死んだはずのハンゾウが立ち塞がったのである。
イモコの言葉でそれを知ったが、それでもカリーは振り返らない。
イモコを……仲間達を信じる。
それにハンゾウが復活したのには驚いたが、イモコなら問題ないはず。
ハンゾウを一撃で倒したイモコであれば、例え復活しようとも敵ではないだろう。
とはいえ少しだけ不安は残るが、それは信じるしかない。
そしてある仮定を立てたカリー、これまでとは違った方法で妲己に挑むのであった。
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