第101話 妲己ちゃんのお遊戯①

 カリーは考えていた。



 どうすれば妲己にダメージを与える事ができるのか?



 遠距離からの物理攻撃は完全に無効化される。

 属性攻撃も然り。



 それであれば近距離ならばどうか?



 それはまだわからない。


 なぜならば妲己は空中に浮かんでおり、一度だけならジャンプして接近することは可能かもしれないが、その後自分は穴の中に落下していくだろう。そこに可能性があるのであればそれでも構わないが、現状無理だ。



 そもそも妲己の体は今自分が見ている場所にあるのだろうか?



 ハンゾウは言っていた。



 妲己はそこにいるようで、そこにいないと。



 それが事実であれば、一か八かで落下覚悟の玉砕戦法等できるはずもない。



 ではどうすればいい?



 このまま遠距離から攻撃し続けても、いずれ妲己は自分を相手にしなくなるだろう。

 やはり接近し、妲己の実体を確認するべきだ。

 そこまで考えたところで、ある仮説を立てる。


 仮説と言っても、妲己の実体についてではない。

 そんなものはいくら考えたって、今のままでは情報が少なすぎてわからない。


 では何の仮説なのか?



 それは【結界】だ。



 結界について、分かった事が一つある。


 それは、上からは結界が作用しないが、下からは作用するというものではない。


 という事。


 少し回りくどい説明だが、要は結界の上を歩くことができるという事である。


 なぜそう言えるかというと、一発だけ実体のある矢を穴に向けて放っていたのだ。

 もしも、上からは結界の効果がないという事なら、その矢は下に向かって落ちていくはず。

 


……だが落ちなかった。


 

 今なお、カリーの放った矢は宙に浮いた状態である。

 これは僥倖だった。

 つまり、結界の上を歩くことができるかもしれないという事。

 それであれば一か八かの賭けでなく、妲己に近づくことができる。


 

 とはいえ、それも含めて妲己の罠かもしれないとも考えたのだが、この仮説は間違ってない可能性が高い。


 理由は簡単だ。


 もしも上からは結界の作用がないというのであれば、それはカリー達にとって逃げ道になる。


 少しリスキーではあるが、もしもそうなら全員が穴に飛び込めばいいだけ。


 そうすれば無事にサクセスとも合流できるし、逃げる事も追う事も可能である。


 当然落下後に氷の足場を作るなり、ゲロゲロに回収してもらうなりしなければ、みんなまとめてお陀仏ではあるが、逆に言えばその選択肢があるということだ。


 そしてハンゾウの行動が筒抜けならば、それを妲己も知っているはず。


 つまり、そんな穴のある結界を妲己が展開するはずがないという結論に行きついた。


 そうと決まればやる事は決まっている。



 カリーは武器を大剣(ブレイブソード)に変えると、スキルを発動させた。



  【ブレイブモード】



 これはブレイブロードが、装備全てをブレイブシリーズにする事で発動できる奥の手である。

 このモードを発動させている間、あらゆる属性攻撃が使用不可となるが、その分恩恵は大きい。

 自身のステータス全てを1・5倍に向上させてくれるのだ。


 妲己に対して属性攻撃が無意味とわかった今、必要なのは力と敏捷性。

 宙に浮いている妲己に攻撃を届けるには、相応のジャンプ力が必要だった。

 その為カリーは一日に一度しか使えない、この奥の手を使う。



「行くぜ、妲己!!」



 カリーはためらいもせず、穴に向かって全力でダッシュすると吹き抜けの上を走り始めた。



(正解だ! やっぱこの上は歩ける!)



 予想通り結界の上に立つことができたカリーは、そのまま大剣を肩に担ぎながら妲己に向かってジャンプする。


 そしてそのまま妲己目掛けて大剣を振り抜いた!


 妲己はカリーが近づいてきても、全く動こうとしない。


 そしてカリーの斬撃は妲己を頭から真っ二つにする……かに思えたが、やはりそのまま空を斬ってしまう。


 

「妾にそんなに近づきたかったでありんすかぇ? よく見ればそなた……いい男でありんすねぇ~」



 空中で無防備となったカリーの頬を、妲己は片手でそっと撫でた。



 カリーの全身にゾワッと寒気が走る。



「クソっ!!」



 カリーはそのまま反撃をくらう事なく落下すると、結界の上に着地した。


 そして今しがた妲己に撫でられた頬を自分で触れる。


 自分は妲己を間違いなく斬った……にもかかわらず、そこに実体は感じられなかった。

 それなのに妲己に触れられた時、確かにその実体を感じたのである。


 明らかにおかしい。

 完全に矛盾している。


 もしも今見ている妲己が幻影であれば、自分に触れられるのはおかしいのだ。

 仮にあれが幻影みたいなものだったならば、近くに本体がいるはずであり、それを見つけることこそがカリーの目論見であった。


 攻撃を仕掛ければ、なんらかの反応を示すだろうし、それをヒントに探る計画。

 しかし、それはものの見事に頓挫する。


 妲己は間違いなくあの場所にいる。あれは幻影でも何でもない。本物だ。


 そこで再度思い出す。ハンゾウの言葉を。


 妲己は間違いなくそこにいるが、攻撃が届くことはないと。


 その原因についてハンゾウはまだわからないと言っていた。


 今やっとその言葉の意味を知る。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



※余談であるが、実はハンゾウはサイトウの記憶をヒントに、ある仮説を立てると、最終会議の後に封魔札という妲己への切り札を見つけた。


 そしてそれの効果を確かめようと、妲己のいる城に忍び込むも、妲己に見つかってしまい魅了されてしまう。


 つまりハンゾウが魅了され、傀儡化されたのは最終会議の後であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 妲己に対する対抗策を見いだせなくなったカリーであったが、本来カリーの目的は妲己を倒す事ではない。

 もちろん倒すつもりで攻撃をしているし、できるならば討ち取りたいとは思う。

 だがそれは最上の結果であって、目標ではない。


 カリーの目標はあくまでサクセスが戻るまでの時間稼ぎだ。

 そして仲間達が逃げ延びる時間稼ぎでもある。


 幸運な事に妲己は未だ余裕を見せており、直接的に攻撃を仕掛けてきてはいなかった。

 さっき頬を触れられた瞬間、もしかしたら魅了されたかもしれないと疑ったが、今のところ変化はない。

 

 つまりサクセス達がいなければどうにでもなると、ナメプしているわけだ。


 そこまで思い立ったカリーは、その幸運にフッと笑みが零れる。



「どうしたでありんすか? 妾に触れられた事がそんなに嬉しかったでありんす?」


「あぁ、最高だよ。できるなら俺からも触らせて欲しいくらいだぜ。」


「それは困ったでありんすね。妾はそなたを気に入ったでありんす。できるならばペットとして永遠に妾の傍においておきたいでありんすよ。」


「あいにく俺はペットには興味ねぇな。だけど、あんたの体には興味があるぜ。」


「コココココ……。いいでありんすねぇ。その目、好きでありんすよ。しかし、今はダメでありんす。全てが終わったら可愛がってあげるでありんすよ。」



 カリーの雑談にまんまと応じる妲己。

 まさか妲己が自分に興味を示してくれるとは思わなかった。

 あわよくば、その秘密についても話してほしかったが、流石にそれは無理みたいである。


 しかし、自分に興味を持ってくれたならば、猶更他の仲間への注意力が散漫になってくれる。


 これはカリーにとって願ってもいないチャンスだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る