第74話 ドMプレイ?
卑弥呼のいる娼館の場所を記憶した俺は、そこまでのルートを確認しつつ娼館街の入口付近へと戻っていく。
すると、再びエロいお姉さま達が娼館の前で呼び込みをしているのが目に映った。どうやら客との一戦が終わると、次の客を求めて外に出るっぽい。
(クソ……今なら選びたい放題じゃないか……。あんなことを知らなければ……。)
俺は今すぐにでも御姉様方へダイブしたい欲求を、堅忍の精神で抑え込んだ。鏡はないがきっと今の自分は血の涙を流しているだろう。そのくらい今の俺にとって、ここは辛すぎた。
そしてやっとの事で娼館街の入口を出た俺は、近くの茶屋に入ってイモコ達を待つことにする。
今の俺は、もしもこの茶屋の店員が若い女であれば、思わず襲ってしまうかもしれない心理状態。だが運がいいのか悪いのか、店員は俺のストライクゾーンから大きく外れた熟女であった。流石に暴発寸前の息子でも、母親より年上の女性には反応しない。
そんなこんなで茶屋では、団子を食べて美味しいお茶を飲みながら心を静める俺。
「……はぁ。落ち着くな、ここは。」
ここは娼館街の入口を出て直ぐの所であるが、娼館街とは打って変わって静かな場所である。近くには小さな川が流れており、道の両脇には青々しい樹木が立ち並んでいる。今朝トビタティンティンに向かう時は、エロい事しか頭になかったから周りの景色なんて全く目に入っていなかった。
(これだけ素晴らしい景観を見ながら美味しいお茶をゆっくり飲めたんだ……。いいじゃないか、クヨクヨするなよ俺。)
そう自分に言い聞かせる事で、俺は自分の昂る気持ちを完全に抑え込んでいたのだが……
ーーそこに一人の男が現れる。
「師匠!? 早かったでござるな! 某が一番かと思っていたでござるが……。」
俺を見つけた事で走って近づいてくるイモコ。俺はその嬉しそうな表情を見て、消えかけた火が再燃し始めてしまった。
それもそのはず、
片や裸の妖怪ババァを組み敷いた挙句、結局何もできなかった男。
片やこの娼館街が危険だとも知らず、欲望を吐き出し、満たされた男。
その差は大きすぎる。
だが俺は握りしめた拳を開いて手を上げた。流石に八つ当たりをするのは間違っていると理解している。
「おー。イモコ。待ってた……ぞ。」
なんとか己を律して作り笑顔まで見せた俺だが、近づいたイモコを見て、怒りの感情が沸き上がってしまった。
なぜならイモコの顔は妙にツヤツヤしており、首回りには唇の形で紅がついている。
それは正にこの世の幸福を味わった象徴。
自分が願い続けて尚、そこに行けない夢の領域。
そんなものを目の前で見せつけられてしまっては、もうこの感情を抑える事は無理である。
「お待たせして大変申し訳ないでござる。それで師匠はどうでござ……え? 師匠? なぜ拳を振りかぶっているでござる……ゴバァァ!!」
遂に俺はイモコのニヤけた面に一発お見舞いしてしまった。そして殴った事でハッと我に返る。
「すまん、イモコ! ライトヒール」
吹き飛んだイモコに対し、俺は直ぐに回復魔法を唱えて謝る。頭では我慢していたつもりだったが、咄嗟に手が出てしまった。こういう八つ当たりは男として格好悪すぎる。
「い、いえ、某が悪いでござる。」
「違うんだ。とにかくすまん。お前も俺を殴ってくれ。」
しかし、回復したイモコは再びその場で俺に土下座した。
「無理でござる。今回某は殴られて当然でござるよ。師匠は初めてと知っていたのに、師匠を置いて先に行ってしまったでござるから。よく考えれば、師匠がなぜ先にここにいるかわかるはずでござった。」
実はこの時、頭の良いイモコはこれだけでサクセスに何があったかを察する。
自分が先に入ったにも関わらず、サクセスが先にここで寛いでいるという事は、娼館に入らなかった……いや、入れなかったという事。
童貞アルアルとしてイモコは知っていたのだ。初めてを娼館で済まそうと思う男の大半は、一人で踏み出す勇気が足りなくて、店に入らずに戻ってしまう事を。
実際にはイモコの考えている事とはちょっと違うが、概ねそれは当たっていた。そして弟子であれば当然師匠を優先すべきであり、自分の欲望を先に満たすなど弟子の風上にも置けない所業。
故に、イモコは今の拳を自分への罰として受け止めたのだった。
「……イモコ。だがそれでも俺がイモコに当たったのは事実だ。やはり殴ってくれ。」
「拒否するでござる。むしろ某をもっと殴って欲しいでござるよ。」
ここに、何故か奇妙にもお互い「殴ってくれ合戦」が始まる。
お互いがお互いを罰して欲しいと願う現状だ。別にドエムに目覚めたわけでもないのだが、それを見ていた店員は少しだけ変人を見る目で二人を見つめている。
するとそこに最後の一人が現れた。
「サクセス、イモコ! どうしたでがんすか? 新しいプレイにハマったでがんす?」
「ち、ちげぇよ。ただちょっと俺が……。」
「いいえ、某が悪いでござる!」
「まぁまぁ。ちっと落ち着けでがんす。何があったかわからないが、みんなスッキリしたでがんすから仲良くするでがんす。がっはっは!」
仲介に入ったシルクは、両腕で俺とイモコの肩をガシっと抱えると豪快に笑った。これほどまで上機嫌のシルクは珍しい。よっぽどお相手とのチョメチョメが良かったのだろう。
そんなシルクの陽気さに当てられた俺達は「殴ってくれ合戦」を止めて冷静に戻った。
「そうだな。スッキリはしてないけど、とりあえずここを早く離れたい。」
「わかったでござる。今度こそ某は師匠のサポートに徹するでござるよ。」
俺とイモコがそう言うと、三人は再び拠点に向かって歩き始める。
帰り道では、シルクがイモコや俺に対して、今日のプレイはどうだったとかそういった話を延々と続けていたが、俺はそれを真剣に聞いていた。相手が熟女……おれにとってババァ枠だったのもあるので、不思議と羨ましいとは思えない。だが、実際の経験談については色々学ぶべきものも多いため、黙って聞くことにしていたのだった。
そうこうしている内に、気付けば俺達はトビタ区を抜けてナンパ区に辿りつく。
そこで俺は卑弥呼に言われた事を思い出した。
「さて、二人ともちょっといいか?」
歩きながら俺は二人に尋ねる。
「どうしたでござるか?」
「なんでがんす?」
不思議そうな顔をして二人が立ち止まると、俺は卑弥呼からもらった袋を取り出し紐を解く。
ーーーそして
「こんちくしょーーーー!」
と叫びながら、並んだ二人に向かって袋をブチ当てた。
ちなみに説明もなく粉をぶっかけたのは、やはりシルクの話を聞いてモンモンとしてしまったのが原因である。熟女というのはどうでもいいが、それでも楽しそうに話しているのを聞き続けるのは結構辛かったのだ。
「うわ! 何するでガンスか!?」
「師匠! お許しをでござる!」
いきなり変な粉をぶちまけられた二人は驚き戸惑うが、自分達の体から黒いもやもやが上がるのを見て冷静になる。
「なんでがんすか、これは?」
「こ、これは……呪いでござる!? いつ、某は……」
驚く二人に俺は軽く説明した。
「詳しい話は拠点に着いてからする。とりあえずこれで安心だから心配すんな。」
その言葉を聞いた二人は、険しい顔をしながらも黙って俺の後ろをついて歩き始めるのだった。
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