第75話 イモコの智謀
無事拠点に戻った俺達は、早速作戦部屋に行ってイモコとシルクにこれまでの事を説明する。
ちなみに本来観光は日が落ちるまでとセイメイに言われていたが、今回は俺の独断でそれを破って帰還した。
日が落ちるにはまだ三時間程早いが、既に卑弥呼とは接触しているので遅くまで観光する必要はない。
とまぁそんなわけでセイメイ達が戻る前に、事前にイモコ達と話し合っておくことにした。
「それはまことでござるか!? 某らが女人と戯れている間に、師匠は……。」
「なんにせよ、卑弥呼様が無事でよかったでがんす。」
二人は俺の話を聞き、驚きながらも申し訳ない顔をしていた。まぁ、自分達だけチョメチョメしてて、俺だけがババァもとい卑弥呼を見つけるという役目を果たしていたのだ。後ろめたい気持ちはあるだろう。
「なんつうか、俺は運だけはいいから……いや、いいのか? まぁいいや、考えると悲しくなる。んでだ、今回の事で改めて妲己という奴の恐ろしさがわかったよ。つうか、やり方えげつないだろ。」
「そうでござるな。流石にあの場所に訪れる男は全員隙だらけになるでござる……面目ないでござる。」
「俺っちもでがんす。それに高齢女性を全員攫うとは、卑弥呼様一人を探すのになりふり構わないという姿勢も怖いでがんすな。」
そう。二人が言うように、今回妲己がやっている事はかなりえげつない。まぁそれを逆手にとって、娼館街に身を置いている卑弥呼も流石だけどな。
「とりあえず卑弥呼は俺とセイメイだけで来るように言っていた。なのでセイメイ達が戻ったら早速報告するつもりなんだが……。」
そこで俺の言葉の歯切れが悪くなる。
理由は簡単だ。卑弥呼を見つけた場所が悪すぎるのだ。
セイメイやカリーなら問題ないが、シロマやロゼッタに対して娼館街に行っていたと知られるのはまずい。とはいえ、見つけてしまった以上隠す訳にもいかないし……。
俺がそうやって悩んでいると、シルクも同じ事を思ったのか、「うーむ」と唸って考え込んでいる。その年になって娼館に行ったという事を孫に知られるのがきまずいのだろう。まぁ、お前はしっかり楽しんだのだから受け入れろと言いたいところだがな。
何かいい説明方法はないだろうか?
俺が悩んでいると、イモコが発言する。
「師匠、一つ良いでござるか?」
「おっ! なんかいい説明方法が浮かんだか?」
「名案とは言い難いでござるが、そもそも娼館と伝えなければよいのではござらぬか?」
「……と言うと?」
「トビタ区と言っても娼館街はトビタティンティンのみ。それをロゼッタ殿やシロマ殿は知らないはずでござる。となれば知っているのはセイメイのみ。わざわざ娼館と言わなければ良いと思ったでござる。」
「お前……天才か!」
イモコは名案でないと言ったが、それは正に名案と言って良い。イモコが言うようにシロマから聞かれない限りは詳しく説明する必要もないだろう。ましてや明日卑弥呼のところに行くのは、俺とセイメイだけだ。セイメイなら多分余計な事は口にしないだろう。最高だぜ、イモコ。
「確かにロゼッタも地理には明るくないでがんす。ここはイモコが言うようにスルーでいいでがすな。」
「しかし、問題は土地の詳細を聞かれた時でござる。下手な言い訳をしてはシロマ殿の事でござるから……」
イモコがそう言った瞬間、俺の背筋がゾワッとした。そういえば、シロマは書物庫でかなりの文献を読んでいる。という事は、そもそもトビタティンティンについても知っているのではないだろうか? そうなると、下手な言い訳は逆に火に油を注ぐようなものでは……。
「うし。まぁもしもさ、聞かれたら正直に話すよ。それに俺は何もしてないし!!」
俺がそう開き直って言うと、イモコとシルクが気まずそうな顔をした。二人はやる事をやっているが俺はやっていない。今思えば俺は未遂だ。それならば、何を恐れることがあろうか。
「し、師匠……。」
「頼むからロゼッタには言わないでくれでがんす。」
俺の言葉に弱弱しく懇願するシルク。その姿を見れた事で少しだけ俺の鬱憤は晴れた。
ーーー故に、満面の笑みで親指を立てる。
「任せておけ!!」
※ ※ ※
「なるほど、わかりました。流石はサクセス様でございます。まさか初日から卑弥呼様を見つけていただけるとは思いませんでした。」
その夜、セイメイ達が戻った事で再び同じ話を全員に話したところ、女装をしたままの超絶美人のセイメイが俺に感謝を述べた。その姿はまさしく俺が今日見た若かりし頃の卑弥呼とよく似ており、思わずドキっとする。
「あぁ、だから明日の明け方……向こうに行く時間を考えると今日の深夜にでも発つ必要があるな。今の内に休んでおこう。他のメンバーはとりあえずここに待機していて欲しい。何かあった時に直ぐに動いてもらいたいからな。」
俺はスムーズな流れで、追及をさせる間もなく話を終わらせる。
ーーしかし
「サクセスさん。一応教えてください。卑弥呼様はトビタ区のどこら辺にいるのですか? それがわかっているのとないのでは、今後の対応速度が変わります。」
シロマからの鋭い質問に俺は直ぐに答えることができない。なぜならば、今の質問は誰が聞いても正論だ。しかも……。
「確かにシロマちゃんの言うとおりだな。俺も知っておきたいぜ。」
なんとカリーまで追求してきやがった。空気読め、ハーレム系主人公め!
「そ、それは……えっと、俺もあまり土地勘がないからうまく説明ができない。行けばわかるんだけど……」
なんとか必死にはぐらかす俺。しかし、シロマの追求は終わらない。
「それでしたら、イモコさんたちは概ねの場所を伝えられますよね?」
(グハッ! そう来たか! まずいぞ、言い訳を間違えたかもしれん)
「そうでござるな。しかし、言えぬでござる。」
イモコがシロマの質問にそう答えると、シロマの眉間に皺が寄る。
「どういう事ですか? なんで隠すのですか?」
「シロマ殿程の方がまだ気づかないでござるか? 師匠が細かい事を口にしない理由を」
(おぉ! スゲェなイモコ。でも考えあるんだろうな? 俺にパスしてきたら、俺は全部暴露するぞ)
「申し訳ありませんがわかりません。ですので説明をお願いします。」
「わかったでござる。正直言いづらいでござるが……」
(おいおいおい……まじか。もしかして言うつもりなのか!?)
「今回師匠を除いて某達は妲己の手の者に呪いを掛けられたでござる。しかも、その呪いは情報を吸い上げるもの。もしも卑弥呼様の魔法の粉が無ければ、すべての情報が敵に筒抜けになったでござるよ。」
イモコが口にしたのは、自らが呪いにかかってしまったこと。まさかそこを突いてくるとは思わなかった。
「そういえば、さっきサクセスさんが話していましたね。あっ! そう言う事ですか!」
「そうでござる。今、この場にいるそちらのグループが呪われていないとも限らないでござる。その呪いはとても小さなもので、某であっても知覚できなかったでござる故。」
(うわぁぁぁ! やべぇぇ。そうきたか、イモコ。やっぱこいつ半端ねぇ。セイメイ並みじゃねぇかよ。)
「確かにおっしゃる通りですね。わかりました。それにイモコさんたちが残るという事は、聞かなくても私達も近くまで行けるという事ですね。」
「わかっていただけてよかったでござる。」
イモコがそう言うと、シルクがホッと息を吐いているのが見えた。命拾いしたな、シルク。
「まぁそう言う事だ。とりあえずみんなは俺達が戻るのを待っててくれ。そして時間がないから今日は解散だ。一応みんなも早めに休んでくれよ。」
「わかりました。それでは明日はサクセス様と二人で行って参ります。出発は6時間後くらいでよろしいでしょうか?」
「あぁ、そのくらいで丁度いいだろう。俺達は既に飯も食ったし、風呂にも入ったから後は寝るだけだ。セイメイも早めに休めよ。」
「はい。しかし、サクセス様と二人きりになれると思うと、興奮して寝付けないやもしれません。よろしければ今宵は一緒に……。」
そういいながらそっと寄り添ってくるセイメイ。見た目が完全な女であるため凄く色っぽい。だが直ぐにもシロマの鋭い視線を敏感に感じ取って、セイメイから離れた。
「じゃ、じゃあお休み!」
「あぁ……サクセスさまぁ。」
そしてセイメイの悩ましい声を振り切った俺はそのまま作戦部屋から出て行く。
(なんにせよ、ピンチは乗り切った。後は明日どうなるかだな……。)
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