第44話 最悪なトンズラ
「あれ? ここは?」
気が付くと、俺は辺りが真っ暗で何も見えない空間にいた。
すると突然、俺の目の前に青い光の粒子が集まってくる。
その光はやがて人の形となり、目の前に、見た事のない男が現れた。
「やぁ、初めましてかな? サクセス君。」
「え? なんで俺の名前を??」
そいつはなぜか俺の事を知っていて、気さくに話かけてくる。
「そりゃあ、知ってるさ。全部見てたし。君は本当に……ずるい……。」
そして、いきなり訳わからない事を言ってきた。
「え? ずるいって??」
「あんなに可愛い子達に囲まれて冒険していることだっぺ。俺の時なんて、ターニャが終始監視していたから、他の可愛い女の子に手を出そうものなら、鉄拳制裁を食らっていたべ。だから、君が羨ましい。妬ましい……死んでほしい……。」
おい……なんだこいつ!?
やばいやつか?
「あの? よく言ってる意味が分からないのですが。ターニャってあの変な女神ですか?」
「あぁすまない、そうだっぺ。ちょっとハーレム系主人公してる君への妬みが凄くて、話が逸れてしまったっちゃ。俺の名前はとんずら。まぁなんつうか、一応……勇者? みたいな? そんなもんだっぺ。」
げ、こいつがとんずらかよ。
思ったより、イケメンだな。
頭は悪そうだけど……。
「あなたがとんずらさんですか。というか、そろそろこの場所とか、色々聞きたいんですけど……。あ!! 仲間は!? ビビアンはどうなりましたか!?」
「知らん!!」
う、うそだろ!!
ここは親切丁寧に色々疑問に答えてくれる場面じゃないの!?
「え? 知らないって……。」
「いやね、俺ってさ。君の中にいるわけよ。つまり、君が見聞きしたことはわかるけど、それ以外はわからないっぺ。そげなこといきなり聞かれても困る!」
そんな事言われている俺が困るわ!!
「え? じゃあここがどこかもわからないんですか?」
「あぁ、それならわかるよ。当然じゃないか!」
わかるんかい!!
なら、言えや!
「じゃあどこですか? ここ。」
「ここは君の深層心理の中っとでも言えばいいかな? 俺もよくわからん。」
わかるのか、わからないのかはっきりせぇ!!
「つまり俺の意識の中って事でいいのかな? ん? つか、俺、もしかして死んだ?」
「いやいやそれはないっぺ。死んだら俺もいないっちゃよ。俺もよくわからないけど、気が付いたら、そこにサクセス君、君がいたってわけだ。」
「ふむ、ようはよくわからないと……。まぁいいや、死んでないならその内起きるだろ……。」
「随分ドライじゃないか。せっかくなんだ、俺の武勇伝やモテ期について聞かないか? 俺も久しぶりで色々話したかったんだよ。」
まぁ、俺の中にいたんじゃ、たまには誰かと話したくなるわな。
でも、ただの自慢話を聞く気はないぞ!
「わかりました。では率直に聞きます。夜の……初めての男がするべきテクニックとしちゃいけないタブーについて教えて下さい!!」
「ちょ……それを今聞くか……?」
「いや、武勇伝とかつまらないし、男二人なんだから、たまには下ネタトークしたいんですよ。色々気がまぎれるし……。」
そう、俺はまだゲロゲロの死を受けきれていない。
そして、ビビアンや他の仲間達が心配だ。
といっても、焦ったところでここから出られる訳ではないし、少しは為になる話で気を紛らわしたい。
「そうか……わかった。じゃあよく聞いてくれ。まず初めに言っておくぞ。俺は………童貞だ!!」
!?
「う、嘘だろ!? だってターニャさんと付き合っていたんじゃ……?」
「あぁ……そうだ。そして魔王を倒したら、一発やる事を約束していた。当時俺は、
俺……この戦いが終わったら童貞捨てるんだ。
って仲間に言ってたらさ、ターニャは魔王に攫われるわ、魔王攻撃効かないわ……挙句になんとか封印するために、ターニャは生命力を使って石になっちまうし……。それで封印できたと思ったら、俺、その隙を作る間に死ぬし……やってらんねぇよ。まじで。ほんと、運がねぇっぺよ。」
う、うわぁ……
なんか、すげえこいつ可哀そうに見えてきた。
「そ、そうか……それは残念でしたね……。」
「いや、でもね。俺の魂をさ、ターニャが可愛い女の子に送ってくれたわけよ。そりゃあ、俺は色々期待したっぺよ? だってさ、幼女の頃から、その成長をまじまじと見れるんだっぺ? 興奮しないわけないだろ!? なのに……大魔王の野郎……俺の夢を二度も邪魔しやがって!! あいつ絶対ぶっ殺す!! な? 絶対ぶっ殺そうな!!」
おい!
怖いから詰め寄ってくんな!!
「わかった、わかったから! ちゃんとぶっ殺すから! って、さり気なく、今大事な事言わなかった? なんか攻撃が効かないとか?」
「あぁ、あいつまじでチートだっぺよ! なんか闇のオーラとかで、攻撃全部無効化してきやんの。無理だっぺそんなの。倒せるわけないっぺよ。思い出したら腹立ってきたべ!」
いやいや、こいつ色々大事な事知ってるじゃん!
そういうの話してよ!
「んで、それってどうすればいいの?」
「知らん!! わかったら苦労しないわ!」
とんずらが逆切れした……。
ダメだこいつ……なんで、こんな奴が勇者なんだよ……。
「えぇぇ! じゃあどうやって俺はそいつを倒すのさ!!」
「俺にはわからないけど頑張ってくれ! ついでにターニャと俺も復活させてくれ! 俺を……俺を大人にしてほしいんだ……。頼む! な! 頼むよ! 俺達友達だろ!?」
うはあ……
こいつ本当に勇者なのかよ……。
でもなんだろ、嫌いになれない。
なんつうか、俺と似てるのかも……。
「いつ友達になったんだよ……。まぁわかんないなら、仕方ないな。ていうか、俺さ。とんずらさんと話す意味あったの?」
「あるさ! もちろんある!」
「お! なんか、とっておきの話があるの!?」
…………。
「えっと……その……すまないっぺ。やっぱないっちゃよ……。」
「ないんかよ!! あぁ、じゃあ多分知らないと思うけど、一応聞いておくわ。俺がさ、アリエヘンで買った装備について何か知ってたりする?」
「あぁ、あれね。それは知ってるっちゃよ。あれは、本当はただのゴミ装備だっぺ。俺もよくわからないけど、なんかサクセス君が手に取ったら、俺の魂がそれに移っちまってさ、そしたらあんなセット効果が出たってわけ。」
「え!? いや、ちょっとまて。じゃあ、俺の中にいるって言ってたのは?」
「俺の魂は装備に移ったけど、なぜかサクセス君の魂ともちゃんと繋がってるっぺよ。だから、サクセス君の中にいるっていうのも間違いではないっぺ。」
なんだか難しい話になってきたな……。
「んー。じゃあ結局とんずらさんは、俺の装備になったってことでいいの?」
「そういうことだっぺ。今はサクセス君の装備だな。元勇者が武器と防具とか笑えるっぺな。
~童貞勇者……転生したらゴミ装備になっていた件~
ぷ、ぷはははは!! うけるっちゃ! まじウケル!!」
おい……コイツ頭おかしいんじゃねぇか?
自分で自分にツッコミ入れて笑ってるぞ……。
「つか、それ自分じゃん。え? 今ふと思ったけど、もしも、とんずらさんを復活させたら俺の武器って……。」
「あぁ、よくわからんけど、多分無くなるんじゃね? まぁいいじゃん。大魔王倒したら、装備とか普通の剣でいいっぺよ。というか、ステータスがバカみたいに上がってるんだから、別によくね?」
「いや、まぁ……そうだけどさ……。武器にスキルとかもあるし……ん? じゃあ聖戦士って職業は!?」
「あぁあれね。あれさ、なんかよくわかんないけど、俺が書いた。格好いいっぺ? イカスっぺよ?」
「え? 何それ? 普通にスゲェじゃん……。なら、装備をもっと強くしてくれよ。」
「あぁ……すまん。それは無理。セットスキルに熟練度ってあったべ? あれな、俺のレベルとか経験値的なやつなのよ。んで、武器の進化は俺がやったんだけどさ、進化先の武器の能力やスキルはさ、最初から決まってて選べなかったのよ。でもなぜか、職業だけは名前をつけられたっぺ。まぁそう言う事だから、もうちょい頑張って俺のレベル上げてくれ。」
何!?
こいつが自分のタイミングで進化を……?
じゃあ、あの時、俺の願いに答えたのは……。
「もしかしてさ、イーゼが死にそうになった時、あのタイミングで進化できたのはとんずらさんのお蔭?」
「ああ、あんときゃやばかったな。俺も必死だったよ。あんな色っぺぇ素敵なねぇちゃんに死んで欲しくなかったからな。いやぁ、あのエルフは本当にいい女だっぺ。んで、その時、確かにサクセス君の祈りは俺に届いた。そして、それがきっかけで、進化を解放できたってわけだべ。」
「まじか……それじゃあ、感謝しないとだな。ありがとう、とんずらさん。ついでに教えてくれ。熟練度あげるにはどうしたらいい?」
「あぁ、それな。俺もよくわからないんだけど、ただモンスターを倒せばいいってわけじゃないっぽくてよ。剣で攻撃した回数や、光魔法の使用回数。他にも色んな項目があるんだわ。俺にもよくわからんけど、全部の熟練度がマックスになると進化できるっぽいぞ。」
「いやいや、項目あるなら、それを教えてよ。それでオッケーじゃないか。俺は早く強くならないといけないんだ。頼む!」
「うーん。そう言われてもなぁ……。解放された項目はわかるんだけど、その条件を一回でも満たしていないと、項目が【???】のまんまなんよ。だから……すまない。わからん。ちなみに、今の進化に必要だった最後の項目は【強い祈りを捧げる】だな。だから、あの時サクセス君が神に強い祈りを捧げた事で最後の項目がクリアできたってわけ。本当に運がいいよな。つうわけで、サクセス君の運は半端ないから、その内解放されるさ。」
運頼みか……。
そのうちじゃダメなんだけどな……。
「わかった。じゃあもしも、進化できるようになったら直ぐに進化させてくれ。俺は早く強くなりたい。」
「それはわかったっぺ。あ……嘘だろ……まだ話したいっちゃ! やめて……。」
それだけ言うと、突然とんずらは急に悶えだした。
そして、体がまた青い粒子に変わっていく。
「ちょ……まじ? 俺もまだ聞きたい事が……。」
「サクセス君、最後に一つだけ言わせてくれ……一生童貞の呪いは……。」
その言葉と共に、トンズラは完全に青い粒子に変わり……消えていった。
「え? 嘘だろおい! そこでやめるとかあり? おい!! ちょっ……ふざけんな!!」
とんずらは、その場からトンズラした。
不吉な言葉だけを残して……。
「あの野郎……最後に最悪な言葉をぶっこみやがって……まぁしかし、色々分かった事も多いな。またどうせ、どっかで現れるだろう……そん時はちゃんと聞かせてもらうぞ! 童貞の呪いについて!」
そして、その後……俺は宿屋のベッドで目覚めるのであった。
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