第42話 愛は永遠

「このままだと、埒が明かないな……。」


「どうしたの? もう遊びは終わり? アタシはまだまだ遊べるわよ。でも、そろそろさっきのお仕置きしないといけないわね。」


 俺とビビアンはあれから数十分斬り合っている。

 そしてお互いダメージはない……

 というのも、ビビアンが俺を斬らないようにしているからだ。

 そして、俺もやはりビビアンに技を使ったりしたくはない。


 ビビアムは許せないけど、多分、その体はビビアンだ。

 最初はゲロゲロへの怒りで、がむしゃらに攻撃していたが、少しづつ冷静さが戻ってきた。


「なぁ、遊ぶならルールを決めて遊ばないか? 俺はビビアムを傷つけたくない、そしてビビアムもそうなんだろ?」


「ルール? 面白そうね、でも決めるのはアタシよ。」


「あぁ、それで構わない。でもどんなルールにするんだ?」


 俺がそう言った瞬間、ビビアムは止まった。

 そういえば、昔からビビアンは考え事をする時、必ずアゴに手をくっつけて考える。

 

 変わらないな……。

 やはり、こいつはビビアンだ。

 でも、一体どうすれば……。


「そうね、じゃあこういうのはどうかしら? ここからは剣を使わないで、殴り合う。当然蹴りもオッケーよ。それで相手を気絶させた方が勝ち。負けたら、なんでも言う事を聞くってのはどう?」


 ふむ。

 ビビアンにしてはまともだ。

 それに、それなら俺が勝てば、誰にも攻撃をしないで俺達と一緒に来るっていう選択もできる。


 悪くない!


「流石ビビアムだな。面白そうなルールだ。じゃあ……いくぜ!!」


「望むところよ! ワクワクしてきたわ!」


 二人は剣をしまうと、こぶしを振り上げて激突する。


「オラオラオラオラオラオラぁ!」


「無駄無駄無駄無駄むだぁ!!」



 ドドドドドドドドドドドッドン!



 目に見えない程の拳の連打の打ち合い。

 まるでそこだけ、時が止まっているかのように激しく打ち合っている。


 

 ドン!



「グハっ!!」


 だが、やはり素のステータスで俺はビビアムに敵わない。

 拳の打ち合いの隙に、ビビアムの蹴りが俺の腹に炸裂した。


「あら? ちょっと強すぎたかしら? でもやっぱりいいわ。シャナクなら死んでるわね、今ので。」


「あぁ、これでもタフさには自信があるんだ。お前を守るために強くなったからな。どうだ? 少しは思い出してきたか?」


「またそれ? でも、なんか悪い気はしないわね。なんだか、本当にアンタの事が好きになってきたわ……サクセス!!」


 そういいながらも、ビビアムは俺に追撃する。


 どうする!?

 このまま打ち合っていても勝てる気配はないぞ。

 どうすれば……。



 ブワッ!!



 すると、急に俺の体に異変が起きた。

 力が湧いてきたのだ。

 

 この感覚……!?


 そう、イーゼとシロマによる支援魔法だった。


 サクセスの力が上がった……

 サクセスの素早さが上がった……

 サクセスの防御力が上がった……

 サクセスのスタミナが上がった……


「いくぞ! ビビアム!」



 ダダダダダダダダっ!



 今度は俺の連打がビビアムを押している。

 だが、それでもほぼ互角。


「あら? どうしたの? 急に強くなったじゃない?」


「油断したな!!」



 ガン!



 俺の拳がビビアムの右肩にヒットする。


「いったぁぁい! やったわね! でもやっぱりおかしいわね……。」


 ビビアムはふと、イーゼ達の方に目を向ける。

 そして気付いた。


「あの虫けら達ね。アタシの遊びの邪魔をするのは許せないわ。ルール違反よ!!」


 そして、怒ったビビアンはそのままシロマに襲い掛かった。


「待て!! ビビアム! お前の相手は俺だろう!」


 だがビビアムは止まらない。

 

 まずい……素手とは言え、ビビアンの本気は普通に仲間を殺せる。

 そして、さっきの事がフラッシュバックする。


 いやだ!!

 もう誰も死んでほしくない!


 俺は必死にビビアンを追うが、やはり先に動いたビビアンが早い。



 ドン!!



 そして、ビビアンの一撃は、その衝撃波だけでも辺りを吹き飛ばす。

 なんと、今の一撃で俺の仲間は全員吹き飛ばされて、倒れた。

 


「みんな!!」


 俺は仲間の下に駆け付ける。

 普通に直撃を食らったら、多分シロマは死んでいる。


 やめてくれ……

 頼む。

 もうやめてくれ!!


 見たくない映像に一瞬目を瞑ったが、ゆっくりと目を開けると……シロマは形が残っている!

 そして、リーチュンが血だらけになっていた。


 どうやら、リーチュンは手に闘気を集めて、シロマを庇って防御したらしい。

 俺はすぐに回復魔法をかけようと仲間の下に行こうとするが……


 

 ドガっ!!



 吹き飛ばされた。


 ビビアムの蹴りである。


「くそ、ビビアム! 仲間に攻撃するのはやめてくれ!!」


「ルールを先に破ったのはあいつらよ。文句は言わせないわ。」


 にらみ合う、俺とビビアム。


 ダメだ、行かせてくれそうにない。

 なら、全力だ!!


「そう……かよっ!!」


「やらせないわ!!」


 再度戦いが始まる。

 

 時間がない!!

 早く決着をつけないと!!


 俺は焦った。

 シロマ達はまだ生きている……。

 だが、見るからにダメージが大きい。

 早くしないと手遅れになる。


 

 ダダダダダっ!


 バン!!



 俺の連打でビビアムが押されると、なんとビビアムの腕を弾くことができた。


「チャンス!! おらぁぁぁ!!」


 その隙を逃さない。

 全力で次の一撃で決めようとする……。


ーーが、それはビビアムのフェイクだった。


「かかったわね!!」


 ビビアムはそのままのけぞるようにバク転をすると、一気に加速した。


「これでアンタは私の物よ!!」


 バァァン!!



 …………バタっ……。


 ビビアムの拳が俺の顔面に直撃すると、そのまま後方に倒れ込んだ。

 

ーーそして、そのまま俺は気絶するのであった。


「やったーー! アタシの勝ちよ!! これでサクセスは私の物ね!」


 ビビアムはウキウキしながら、そのままサクセスを担ぎ上げる。


「待ちなさい!! サクセス様は渡さないわ!!」


 そこにイーゼが立ちはだかった。


 ビビアムにやられた三人は、マネアによって回復を施されている。

 重症のリーチュンとシロマは、まだ意識は戻らないが、イーゼだけは動けた。


「は? またアンタ? なんなの? これはサクセスとアタシのゲームよ。邪魔するなら殺すわよ? いえ、邪魔しないでも殺しておこうかしら。さっきも邪魔してくれたしね。」


「サクセス様……必ず助けます。そして、先に逝くわたくしを許して下さい。」


 ビビアムの前に立ったイーゼは死を覚悟した。

 魔法が効かないビビアム。

 素早さも違い過ぎるため、鞭も無理だとわかっている。


 つまり、打つ手はない。


「リーチュン、シロマさん。後は頼みますわ……。」


「見上げた根性ね。アンタ死ぬ気ね? いいわ、望み通り殺してあげる。でも、そうね、それじゃつまらないわね……。」


 

 ビビアムはどうせなら、もっと絶望を味合わせて殺してやろうと考えた。

 周りの仲間を殺してからにするか……それとも……



 ピキーーん!



 ビビアムは閃く。


 ここでただ殺したとなっては、サクセスに言い訳がつかない。

 サクセスは自分の物だけど、できれば自分を愛してほしいと魂が叫んだ。


 故に……理由が欲しい。

 だから、先に一撃だけ攻撃させてあげよう。


「ねぇ、アタシはこれでもあんたの根性を認めてるわ。だから、一発だけ先に殴らせてあげる。どう? 優しいでしょ?」


 ビビアムの予想外の言葉にイーゼは驚いた。

 そして、チャンスだとも……。


「流石は寛大な魔王様ですわ。立場が違えば仲良くなれたかもしれませんわね。」


「やめて気持ち悪い。アンタなんかとは絶対仲良くなれないわ。じゃあさっさとして。」


 ビビアムは邪悪な笑みを浮かべる。

 目の前の雑魚が何しようと、自分は一切ダメージを受けない自信があった。

 故に、殴られた瞬間、殺してやろうと……。


「それでは……いきます!!」


 イーゼはビビアンに向かって拳を振り上げる……。

 そして、こぶしの中には……あの時サクセスと一緒に買った【どくばり】が仕込まれていた。


 毒が効くとは思わない。

 しかし、奇跡を祈ってビビアンの首元に刺した!



 チクッ……



「いた!! 何すんのよ! 卑怯よ!!」


 直ぐに反撃しようと思ったビビアムだが、首筋に刺さった何かの痛みに驚き、攻撃するのを一瞬忘れた。


「ダメ……ですか……。さぁ、殺しなさい。わたくしが死んでも、サクセス様への愛は永遠ですわ。」


 イーゼは死を覚悟し、目を閉じる。


「いい覚悟ね。最後はムカついたけど、一瞬で消してやるわ! いくわ……よ……。」


 突然、ビビアンの動きが止まった。


「な、なに? なによこれ? い、いたああい! あんただれよ!! 消えなさい!!」


 イーゼはビビアムの声を聞いて目を開けた。

 すると、なぜか目の前のビビアンが頭を押さえて発狂している。


「痛い痛い痛い痛い!! あんた……何……したのよ!? いやよ! 消えて!! これは私よ!!」


 ビビアンが意味不明な言葉を叫んでいる。

 最初はイーゼに向けた言葉だと思ったが、どうやら違う。

 ビビアムは別の何かに向けて、叫んでいるのだった……。





 

 

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