第41話 力への渇望

「オラァァァ!」


「まだまだそんなんじゃ、全然ダメよ! もっと本気を見せて! もっとアタシを楽しませて! もっと……もっとよ!!」



 ガキン! キンキンキン!



 俺は現在、ビビアムと斬り合っている。

 今まで、相手がビビアンという事もあって、力を抑えていたが、今は違う。

 本気だ。


 激情に駆られた俺は、力の加減なく、ビビアムを斬りつけている。

 正直、殺してしまうかもしれない程本気だ。


 だがしかし、俺の剣げきは全て防がれる。


 力、素早さ、その両方が俺はビビアムに劣っていた。

 俺に対して、ビビアムは本気ではない。

 できるだけ、俺を傷つけないように戦っている風にさえ思える。


「楽しいわね、サクセス。こんなに楽しいのは久しぶりよ。やっぱりあなたはいいわね。」


 俺の憤怒の表情に対し、ビビアムは楽しげだ。

 まるで、昔一緒に遊んでいたような表情をしている。


「俺は魔王ビビアム……そう、お前を倒して、絶対ビビアンを救って見せる! ゲロゲロの仇は討たせてもらうぞ! 悪く思うなよ!」


「何いってるかわからないわ。でも、こんなに楽しいのだもの。簡単に終わらせたくはないわね。」



 キンキンキン!



 二人の戦いは、常識から外れていた。

 魔王を超える力を持つ同士の一騎打ち。

 その一振り、一振りは、大地を削り、辺りに暴風をまき散らしている。


「姉さん、どうすればいいの? 姉さん! ねぇってば!」


 ミーニャはマネアに呼びかけるも、マネアは放心状態だ。

 そして、マネアの目線はデスバトラーに向いている。


「そんな……シャナクさん……本当にシャナクさんなの……?」


「姉さんってば! しっかりして! あれがシャナクなわけないでしょ! 惑わされないで!」


「ミーニャ……でも、確かにシャナクさんの面影が……。」


「もう! だったら、直接聞けばいいでしょ!」


 ミーニャの言葉にマネアはハッとする。


「そうですわ! 私、聞きます!」


「ちょ! 姉さん! ねぇっ! 危ないわよ!」


 そういうと、マネアはデスバトラーの下へ駆けていく。


 デスバトラーはというと、二人の戦いに巻き込まれないように、相変わらず、その存在感を消すように木の傍で突っ立っていた。


 そこにマネアは到着する。

 ミーニャは少し離れた場所で、いつでも助けられるように待機していた。

 一応、最初は二人だけにしてあげようと思ったのだ。

 

「あの……あなたはシャナクさん……本当にシャナクさんなんですか!?」


 マネアはデスバトラーに近づくと、大きな声で尋ねる。

 しかし、デスバトラーは視線もマネアに向けなければ、何も答えもしない。

 デスバトラーの視線は戦闘から外れることはなかった。

 なぜならば、とばっちりで攻撃されないように、いつでも逃げ出せる体勢を保持していたいからだ。


 これもビビアンと二人で旅をしていたころ、行っていた癖のようなものである。

 ビビアンへの恐怖は、ビビアムになっても変わらない。

 むしろ、何倍にも膨れ上がっている。


 そして口を開かないのには、もう一つ理由があった。

 ビビアムにしゃべるなと言われてからだ。

 戦闘中とはいえ、もしも、自分が口を開いていたと知ったら、どうなるかわかったもんじゃない。

 そんな爆弾は踏みたくなかった。


 しかし、マネアは何度でもデスバトラーに尋ねる。


「しつこいぞ! 死にたいのか!」


 と叫びたいくらいであるが、それでも黙る。

 

 だって、殴られたくないから……。

 そこにいたのは、まさしく紛れもなく、シャナクだった……。

 しかし、マネアのあまりのしつこさに、遂に折れる。


 小声で話せばバレないのでは?


 そう判断した。

 そして、遂にその口が開く……


「少し黙っててください。ビビアム様に聞かれたら殺されてしまいます。」


 その声はシャナクそのものだった。

 そして、話し方や内容も、まるで本人と何も変わらない。

 それに気づいたマネアは、この魔人がシャナクであることを信じ始めた。

 故に、ずっと言えなかった言葉を言った。

 

「シャナクさん……わかりました。必ず、あなたを元に戻す方法を探します。そして……戻ったら……私と結婚してください!!」


 突然のマネアの告白。

 流石に、このセリフにはシャナクも驚き、遂に視線をマネアに向けた。



 むむむ?

 この子……結構可愛いくないか?


 魔人となったシャナクであるが、内に眠っていた性欲が今目覚める。

 故に、勿体ないという思いから、助言をした。


「そうですか……。残念です。だが、なぜか貴方は殺したくなくなりましたよ。だからあえていいます。ここから、逃げなさい。ここにいたら……間違いなく死にますよ。」


 魔人のはずのシャナクが見せた優しさ。

 本当は、下心であったが、マネアにはそんなことはわからない。


 それをシャナクの本心だと誤解した。

 そして、その言葉でマネアは確信する。

 この魔人がシャナクであることを。


「わかりました。必ず私は生きます。だから、お願い。シャナクさん……死なないで。」


 そういうと、マネアはシャナクの下から離れていった。


「よかったわ。何もなくて……って姉さん? なんで泣いてるのよ!?」


「シャナクさんが……シャナクさんが生きていました! 今は魔人ですが……必ず元に戻して見せます!」


「え? 本当にあれがシャナクなの? 姉さん! ちょっと!!」


「ミーニャ……とにかく、私達はビビアン様とシャナクさんを元に戻す方法を探しますわよ。とりあえず、今のままでは無理です……。ですが、女神様に聞けば……。」


 


 一方、イーゼ達は……。




「サクセス様が……押されています……。」


「嘘でしょ? サクセスより強いって、おかしいわ。」


「皆さん、一度撤退しましょう。」


 3人は目の前の光景に驚愕している。

 人類最強、そして、圧倒的に強いと思っていたサクセスが負けているのだ。

 そしてビビアムが本気でない事にも気づいていた。


 ビビアムの笑顔を見て、背筋が凍る。

 立つのも辛いほどの恐怖が三人を襲っていた。

 だが、自分の愛する者が戦っている。

 目を背けるわけにはいかない。


「でも、逃げるっていったってどうすればいいのですの? サクセス様を助けるの最優先ですわ。」


「アタイは戦うわ! ゲロゲロの仇を討つまでは帰らないわ!」


「無理です! リーチュンが一緒に戦えば、逆にサクセスさんが戦えなくなります! 今は、私達足手まといが戦闘にいないから戦えているに過ぎません。」


 シロマの痛烈な言葉。

 しかし、リーチュンもそんな事はわかっていた。

 自分など、サクセスと一緒に戦えば、1秒もたずして死ぬであろうことを。

 だが、それでも、いてもたってもいられなかった……。

 大好きなゲロゲロが殺されたのだ、許せるはずもない。


 しかし、自分が戦闘に参加することで、サクセスの足を引っ張り、サクセスにもしもの事があったならば、もっと自分を許せない。

 だから我慢している。

 そしてその気持ちは、他の二人も同じだった……。


「情けないですわね、わたくしたち……。」

「何もできないのがこんなに辛いとは思いませんでした……。」

「アタイ……強くなりたい……。」



 力が欲しい……

 何もできない自分が許せない……



 三人は初めて心の底から



     強さ



を欲した。


 せめて、最愛の人の隣に立つ資格が欲しい……。

 今はただ、二人の戦いを眺めることしかできないのだった。

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