第40話 激情

 俺がビビアンの説得に失敗していると、馬車が近づく音がしてくる。



 パカッ パカッ パカッ パカッ



 ヒヒィーーーーン!



「サクセス様! ご無事ですか!」


 イーゼ達だ。


「あぁ、俺は平気だ……だが、ビビアンが……。」


 俺が続きを発するよりも先に、イーゼは目の前の状況から、イーゼなりに理解した。


「流石サクセス様ですわ。もう魔王は倒したのですね? ……そうですか、後はそこにいるデスバトラーだけですわね?」


 イーゼ達も、どうやらあのどでかい竜の魔王は遠くから見えていたようだ。

 そして到着してみると、そこにいるのは、俺とビビアンとデスバトラーの三人。

 勘違いしてもおかしくはない。


「ビビアン! 大丈夫だった!! ケガはない?」


 ミーニャは馬車から飛び降りると、駆け足でビビアンに向かって走っていった。

 ーーがビビアンは……。


「誰よアンタ? アタシはビビアンじゃないわ。さっきからサクセスも言ってたけど、誰かと勘違いしているわね。アタシはビビアム。魔王よ。アンタ達なんか知らないわ。」


「う、うそでしょ? ビビアン! 正気に戻って! お願い! 姉さん、魔法を早く!」


「しつこいわね! 邪魔よ!」



 バン……!



「きゃあぁぁ!!」



 ドン!



 ビビアンに突き飛ばされたミーニャは、吹き飛ぶと、木に体を思いきりぶつける。

 そしてすぐにマネアが駆け寄った。


「大丈夫!? ミーニャ。【ハイヒール】」


「だ、だいじょうぶよ……それよりビビアンがおかしいわ。サクセス君!! どういうことなの?」


 倒れながらも、ミーニャは俺を睨みつけてくる。


「すまない。俺にもわからないんだ。俺が来た時には既にこんな感じだった。心が……ビビアンの記憶がないんだ……。」


「う、嘘よね? そんなの信じられないわ! サクセス君! あなたビビアンに何言ったのよ!!」


「いや……俺は……なにも……。」


「ちょっとおちついてください、ミーニャさん。サクセスさんが何かするはずないです。冷静になって下さい。」


 シロマが俺に突っかかってきたミーニャの間に入った。


「あなたは関係ないわ! それより、サクセス君! ビビアンが記憶無くす程のショックを、あなたが与えたんじゃないの? どうなの? ねぇ、はっきり言いなさいよ!」


 シロマを押しのけて、ミーニャは掴みかかってくる。

 が、それをマネアが後ろから抑え込んだ。


「ミーニャ落ち着いて。サクセス様は、来た時には記憶を無くしていたといっています。今はそんな事を言ってる場合ではないでしょ。」


「そう言ってもね! 姉さんは……シャナクがああなっても同じ事言えるわけ?」


「それは……それとこれとは……あ! サクセス様、シャナクさんはどこですか?」


 どうやらマネアもシャナクの存在がいない事に気付いたようだ。


「シャナクというのが誰かはわからない。だからこれは予想だが、あそこにいる魔人……デスバトラーがシャナクだと思う……ビビアンがそう言っていたからな……。」


「どういうことですか! シャナクさんが魔人? ふざけないで下さい! どこに隠しているんですか!」


 今度は、マネアに詰められた……。

 いや、もう本当に勘弁してほしい。

 そんな事言ってる場合じゃ……。


「アンタ達、さっきからビビアンだの、シャナクだのうるさいわね。目障りよ! 一度しか言わないわ。サクセス以外は失せなさい。」


 ビビアムから殺気が漏れる。

 その殺気は強く、その場にいた俺以外の全員が震え始めた。


「悪いみんな。一旦下がっててくれないか? 俺がどうにか説得してみるから、その間に、何か対策はないか考えて欲しい。」


 今は時間が必要だ。

 それと、今のビビアンはあまりに危険すぎる。

 これ以上、仲間を近づけさせるわけには行かない。


「できるわけないでしょ! ビビアンはあんなだし、シャナクは魔人? もうわけがわからないわ!」


「いい加減にしろ! わからないのは俺も同じだ!! そんな事言ってる場合じゃないんだ! 今のビビアンは恐ろしく危険なんだ……頼むから一回引いてくれ!」


 俺は大声で叫んだ。

 しかし、ミーニャとマネア、そして俺の仲間達も引き下がらない。



 どうしてわかってくれないんだ……。



「あら、サクセスがこんなに言ってくれてるのに、言う事聞かないなんて……サクセスが可哀そうね。いいわ、アタシが全員殺してあげるわ!」


「ま、まってくれビビアム!!」


「もう遅いわ! 死になさい! 【ダークネスタイフーン】」



 ビュゥゥゥゥゥ!



 ビビアンが剣を振ると、辺り一帯に暗黒の風が吹き荒れる。


 【ギバタイフーン】


 すかさず、シロマとマネアも同じ魔法を唱えた。



 バチバチバチバチ!



 黒と白の竜巻がぶつかり合う……が、直ぐに白い竜巻は消滅した。

 そして、そのままそこにいたシロマ、マネア、リーチュンが吹き飛ばされて、全身に大ダメージを負う。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


 一撃だった……。

 一瞬で3人が戦闘不能になる。


 まずいぞ!

 すぐに回復だ!


 【ライトヒール】


 【ギガナゾン】


 俺が三人に回復魔法を使うと同時に、イーゼがビビアムに攻撃魔法を放った。


「ちょっと! あんた、何ビビアンに攻撃してんのよ!」


「あれはビビアンではありませんわ。魔王ですわよ。いい加減目を覚ましていただけないかしら?」



 ドーン!!



 そう言った瞬間、イーゼが大爆発した。


 ビビアンの装備の魔法反射である……。

 しかし、幸いにもイーゼのダメージは少ない。

 元々魔法防御が高いのもあって、軽傷は負うも、重症には至らなかった。

 が、足から出血している。


「し、失敗しましたわ……。まさか反射スキルがあるとは思いませんでしたわ。」


 イーゼは痛そうにしながらも立ち上がろうとした。

 だが、今の魔法で完全にビビアンの敵意がイーゼに向いてしまう。


「今、アタシに魔法で攻撃したのはあなたね? 初めて見た時から、アンタ不快だったわ。死になさい!」


 まずい!!!


 俺はすぐにイーゼの前に駆けつけた。



 ガキーーン!!



 ビビアムと俺の剣がぶつかりあう。

 ギリギリだったが間に合った……。

 この斬撃は間違いなくイーゼを殺すつもりだ。


「サクセス? 何しているの? どきなさいよ、殺せないでしょ?」


「目を覚ませ! ビビアン! 仲間を殺すのはやめてくれ!! 頼む! 正気に戻ってくれ!」


 つばぜり合いをしながら、必死に説得を続ける。

 しかし、ビビアンの方が力が強い。

 

 まずいぞ……このままだと押し負ける……。


 そう思った瞬間だった。

 ふっと、ビビアムの押し込む力が緩む。

 そして剣を引いた。


「わかったわ……。このままだとあなたを殺してしまいそうだわ。」


「ビビアン……ありがと……?」


 俺がそう言った瞬間、ビビアンは一度バックステップし、再度イーゼに斬りかかった。

 

 ダメだ!! 間に合わない!

 くそ! 油断した!!


 一瞬だけ、ビビアンに理性が戻ったと期待した俺は出遅れる。

 そして、既にビビアムはイーゼの前で剣を振る瞬間だった。


「やめろぉぉぉぉぉ!!」


 俺は叫ぶもビビアムは止まらない……そして……


 

 ズバッ……。



 一刀両断してしまった……ゲロゲロを……



 体が真っ二つになるゲロゲロ。



 俺の反応は遅れていたが、ビビアムの殺気を本能で感じたゲロゲロは、瞬時に飛び出し、イーゼを突き飛ばしたのだった。



 げろぉ(サク……セス……。)



「ゲロゲロォォォォ!!」


 俺はゲロゲロの下にダッシュし、ゲロゲロに抱き着いた。

 が、その瞬間、ゲロゲロはそのまま塵となり……白い魔石を残して俺の腕から消えてしまう。



「嘘だろ? なぁゲロゲロ? 嘘だといってくれ!! ゲロゲロぉぉぉ!」


 家族のように可愛がっていたゲロゲロ……。

 辛い時も、楽しい時もいつも俺の傍にいてくれた。

 いつだって俺に離れずに、俺の心を癒してくれる。

 そんな……ゲロゲロが。


 ビビアンに殺されてしまった……。


「ふん、命拾いしたわね。まぁいいわ、どの道全員殺すつもりだし。」


 内から湧き上がる激情。

 怒り、悲しみ……それらが、俺の中で渦巻いた!


「ビビアン……てめぇぇぇ!! よくも! よくもゲロゲロを……なんでゲロゲロを殺した!」


「何よ? 獣一匹くらいで、何をそんなに怒っているのかしら? そういう顔、アタシに向けないでくれる? 不快だわ……。」


 ビビアンは平然としていた。

 その顔に感情はない。


「あぁ……わかったよ。やっとわかったよ。お前はビビアンじゃねぇ! 魔王だ!」


「何? やる気? あまりアンタは殺したくないんだけど? まぁいいわ、半殺しにして調教してあげるわよ!」


「びびあああぁぁぁん!!」


 そして、これより二人の激闘が始まる。

 二人の戦いの行方は



……次回に続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る