第68話 秘密会議 前編

「おぉ、すげぇ賑やかな街に出たな。ここってもう邪魔大国なんだよな?」



 俺は今、人がごった返す繁華街の中を歩いている。


 街は見渡す限り人で溢れており、店や家屋の間を通る道は広く舗装されているが、それでも行き交う人と肩がぶつかりそうになるほどの人込みだった。


 当然そんな道を進むのだから、馬車はこの街に入ってすぐの所に停めてきた。有料ではあるが、街の入り口付近には厩舎と馬車用の駐車場が設置されており、ここに訪れる者達はそこを必ず利用するらしい。



「そうでござる。ここがサムスピジャポン中心国の邪魔大国でござるよ。そして邪魔大国は多くの区画で分けられており、此処はナンパ区でござるな。」



 俺の質問にイモコが丁寧に説明して答えてくれる。ここはナンパ区と呼ばれる邪魔大国の中心地から少しだけ南方にある繁華街とのこと。そしてここから北に行けば、卑弥呼がいるハニワ区があり、そしてここから南西方には……トビタ区、通称トビタティンティンがあるのであった。



 つまり俺の目的はここより南西方にある。



といいたいところだが、実際にはそうも言ってられない。


 俺にとって一番の目的はオーブを入手することで、二番目が卑弥呼を探すことだ。



 女神の導は、ここから北方……ハニワ区を指している。



 つまり、俺が行くべきはハニワ区もしくはその更に北方であるが、今はまだそこに向かう事ができない。いや、正確に言えば行けるかもしれないが、リスクが大きいのだ。


 理由はわからないが、現在ハニワ区はロックダウンと呼ばれる状態らしく、外部から入る事ができないのである。しかし、回り込めばハニワ区の北側に出るのは難しくないが、ハンゾウからの情報だと現在邪魔大国の中に一度入ると出国手続きに時間が掛かるらしい。


 その為、邪魔大国に入る前にセイメイ達と相談した結果、二手に分かれる話も出たが、それを俺が却下した。



 セイメイとイモコが邪魔大国に入り、他のメンバーは回り込む。



 これは悪くない考えだが、俺にはベストな選択とは思えなかった。



 ここまで全員の知識と力を合わせて旅を続けてきた訳で、誰か一人でも欠けていたらうまくいかなかっただろう。それはこれから先もきっと同じであり、何をするにしても全員の力が必要だと思っている。


 それであれば、多少の時間を割いてでもパーティで行動した方が最善だ。ハンゾウの情報では、卑弥呼は邪魔大国から出てないという話もある。それもあって俺は、イモコやセイメイが優先する卑弥呼様探しを手伝う事に決めた。理由はわからないが、それがオーブに辿り着く最善の道のように俺は感じている。



 ということで、現在全員でナンパ区に来ているわけだ。



 まぁ内心では、トビタティンティンに早く行きたいから、回り込むのが嫌だというのもあったけどね。てへ。



「それでセイメイ。これから俺達はここを拠点に動くってことでいいのか?」


「その通りでございます。ひとまず、これから向かう宿を拠点にするつもりです。」



 今後の予定について口にする俺だが、あえて「動く」という言葉に留めている。そしてセイメイもまた、いつものように詳しい事は口にしない。


 なぜならば、ここは既に妲己の管轄、いや、掌握している場所だ。迂闊な事は口にできないし、絶対しないようにセイメイとイモコから言われている。必要な事は全てハンゾウが用意した宿でしか話さないという決まりが作られていたのだ。



「わかった。じゃあ腹ごしらえも兼ねて宿に向かうか。」



 俺の言葉を聞いてセイメイは頷くと、全員でこれから拠点となる宿へと向かった。



 ※  ※  ※



「さてと、ここなら平気なんだよな?」


「はい。防諜対策は完璧だと聞いております。」



 宿に入って昼飯を食べた後、俺達はハンゾウが用意した作戦部屋に集まっている。作戦部屋といっても、何もない6畳一間であるが。そしてこの部屋の扉の先は倉庫になっている。つまり、この部屋は倉庫の中からしか入れない秘密の部屋だ。


 この宿には、とある仕掛け……というかカラクリがある。俺達は一人一人部屋を用意されており、その各部屋の掛け軸の裏に隠し扉が設置されていた。その隠し扉の先は裏通路となっており、倉庫に繋がっている。そして、倉庫の中にある大きな木製の箱が積まれた間に、更にこの作戦部屋に通じる隠し扉が設置されているいう訳だ。



 本当にハンゾウは凄い。これだけ用意周到にこんな場所を作っているんだ、やはり、情報を集めるプロである故に、情報に対する対策が半端ない。しかし、それを俺達に教えていいのかは疑問だが。



 まぁ、そんな事を考えても仕方ないので、ここはお言葉に甘えてこの場所を活用させてもらうことにする。



「じゃあまず今後の予定について聞かせてくれ。」



 俺がそう言うと、セイメイが説明を始める。



「はい。まず最初に、邪魔大国ではできるだけ人と関わらないようにしてください。無理に情報を集めようと聞き込みをしたりはしないでいただきます。この国にいる者の内、ハンゾウに関係する者以外は全員敵と考えてもらって構いません。」


「なるほどね。それだけ妲己は警戒すべきという事か。んで、ハンゾウに関係する者はどうやって見分ければいいんだ?」



 当然の疑問だ。みんなもウンウンと頷いている。



「基本的に見分ける必要はありません。なぜなら、街中で接触する事はお互い無いと思いますので。本当に必要があった時、向こうから接近してくるとは思いますが、その時は……」


「その時は?」


「握手してください。いえ、向こうからそれを求めてくるはずです。その際に親指に小さく「八」と入れ墨があるはずなので、それで本物かどうか見極めてもらいます。」



(指に八? あぁ、なるほどな。だから握手か。)



 俺はその説明を聞いてその意味を理解した。普段から指の内側を人に見せることはない。特に手であれば、手袋をしていればその内側は見えないし、内側に彫られている数字なら尚の事気付くのは難しい。


 その判別の為に握手をするということだ。きっとその時は手袋を外してくれるだろうし、一瞬だけ指の内側を見る事が可能なのだろう。


 本当に抜け目ないというか、用意周到すぎるぜ。ハッタリハンゾウ。



「なるほどね。了解した。んで、じゃあ具体的に俺達がする事について教えてくれ。」


「はい。グループ別に分かれて観光をしてもらいます。」


「はい?」



 ちょっと意味がわからない。なぜ観光? 卑弥呼を探すんじゃないのか?



「驚くのも無理はありませんが、これには意味があります。卑弥呼様は非常に用心深い方ですので、探すのでは見つかりません。むしろ、見つけてもらう事が大切なのです。」



 ますます意味がわからない。卑弥呼が俺達を見つける? いや、百歩譲ってセイメイ達の様な顔見知りを見つけて卑弥呼が声を掛けるならわかる。しかし、逆に言えばそれ以外は無理だ。それに観光の意味がまだわからない。



「もっとわかりやすく教えてくれ。話についていけない。」



 見渡してみると、俺だけでなく他の面々の顔にも疑問が浮かんでいる。ただ、シルクだけは険しい顔で目を閉じているのでよくわからないが。



「率直に言います。卑弥呼様は私達がこの国に入った事も、そして探している事も分かっているはずです。それだけの力が卑弥呼様にはあるのでございます。」



 ほう。スゲェな、卑弥呼。例の呪いだか占いの力かな? よく知らんけど。



「ふむ。それで?」


「その為、卑弥呼様としても我々に接触したいはずです。しかし、そこで我々が探し回っていたら卑弥呼様が声を掛けられません。それですので、普通に観光客として振舞っていれば接触しやすいはずなのです。」



 うーん。セイメイの言葉を疑う訳ではないが、あまりにそれは希望的観測に過ぎると思う。それに俺達に接触したいなら、ハッタリハンゾウを経由すればいいだけだし……



「サクセス。ちょっと俺っちからもいいでがんすか?」



 ここでシルクが突然口を開いた。



「ん? いいよ。」



「全員が今の話を聞いて疑問に思っている事はわかるでがんす。セイメイは頭が良すぎる故に大事な事の説明が抜けているでがす。」


「大事な事?」



 俺はシルクの言葉を聞き返す。どうやら、シルクだけは全部理解しているようだ。



「妲己がハンゾウの存在を警戒しているという事でがんすよ。」



 ここにきて、何故か妲己とハンゾウの関係を話始めるシルク。ハンゾウがこの国の現状を危険と感じているのはしっているが、それがどうしたというのだろう?



「ん? それがどうしたの?」


「妲己は各国に人を送り込んでいるでがんす。そしてサイトウという悪い商人を手元においているでがす。もしも、本当に国をうまく回すならばハンゾウを使わない手がないでがんすよ。つまり、ハンゾウはうまく妲己から身を隠しつつ、妲己からの誘いを断っているでがんす。」



 つまり、敵対とまではいわないが、ハンゾウと妲己はお互いを警戒しているという事か?



(そう言う事か!!)



「だから卑弥呼は迂闊にハンゾウに関係する者と接触できないって事?」


「そうでがんす。セイメイ、それで合っているでがんすか?」


「その通りでございます。ちなみにこの宿もハンゾウの物だというのは、ハンゾウ個人もしくは我々以外は知らない情報でございます。」



 まじかよ。この宿って、実はハンゾウにとって滅茶苦茶重要な拠点なんじゃないか? まぁ、ハニワ区と近いし、当然と言えば当然か。



「なるほどな。話は理解したよ。ありがとうシルク。」


「いいってことでがんす。」



 ふむ。やはり城主ともなると、周りの顔を見ただけで俺達が何を疑問に思っていたかわかるんだな。シルクはやっぱりすげぇぜ。カリーが信頼するだけある。


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