第11話 イーゼ②

「本当にこんなところに、アレがいるんですの?」



 草木が鬱蒼と茂る樹海の中。


 黙々と前へと進んでいるリーチュンの背中に、イーゼは疑わし気な視線をに向けながらもその後ろを歩いて付いていく。


 現在二人は、マーダ神殿の街から南東にある大樹海の中を歩いていた。


 なぜ二人がこんな場所を歩いているかというと……リーチュンがとあるレアなものを発見したという話から始まる。


 二日前に再会を果たした二人であるが、その日、夜通しこれまでの事を話し合っていたのだが、その際にリーチュンは【メタル系モンスターの巣】を発見したという話をしたのであった。



※  ※  ※



 普段リーチュンは、基本的に街から離れた場所を散策しながらソロでモンスターと戦っている。


 その理由は、街から離れるほど経験値の多い……つまりは凶悪な魔物が出現するからだ。


 逆に言えば、街の近くは比較的出現する魔物は弱く(といっても、通常の冒険者たちにとっては強敵)それらの魔物は他の冒険者の獲物となっているため、できるだけ狩場を荒らさないようにしている。


 そういった事から、これまで結構な広範囲を探索してきたのだが、その日は偶然にも樹海で大きな湖を見つけた。


 燦燦と照らす太陽の光を反射させた湖面。


 その煌びやかな光景にリーチュンは目を奪われてしまうのだが、そこで驚くべき光景を目にした。


 なんとその湖の近くに、スライムメタルを始めとした、大量のメタル系モンスターが沸いていたのである。


 湖の周囲がキラキラ光っていたのは、太陽の光だけではなく、それらのメタル系モンスターもそうだった。



「うひゃ~!!」



 思わずリーチュンも変な声が出てしまう。


 それもそのはず。


 メタル系モンスターは倒すと手に入る経験値がかなり多いからだ。


 だからこそ、中々出くわす事がないレアモンスターであるのだが、それが目の前に大量に湧き出ている。


 これを見て、驚かない冒険者等はいないだろう。


 故にリーチュンは



「ヒャッハーー!!」



 と叫びながら、逃げ惑うメタル系モンスターを追いかけては、一撃で駆逐していくのだが、暫くその場でメタル狩りをしていると、ある場所を発見してしまった。


 それは



 ……モンスターの巣だ。


  この世界のモンスターがどうやって現れるのかというのは未だに解明されていないが、それでも一つだけ分かっていることがある。


 それは、ある一定のところからモンスターが湧き出る場所があるという事。


 その巣と呼ばれる場所の奥には、魔物核と呼ばれる謎の物体があり、それが壊されない限り、そこから魔物はどんどん湧いてくるのであった。


 とはいえ、それ以外でも魔物は色んなところから現れるので、魔物の出現方法がその魔物核によるものだけではないというのは事実だが、いずれにしてもこの世界のどこかに突然こういったモンスターの巣が現れる事がある。


 そして今回リーチュンが見つけたモンスターの巣は、湖に隣接する小山の穴だった。


 その穴は結構な大きさであり、中がどうなっているかはわからないが、少なくともメタル系モンスターがそこから出てくることはわかっている。



 そんな美味しい場所が見つかれば行かない理由はない。



 ましてや、メタル系モンスターの巣なんて今まで聞いた事もないので、かなりレアな場所だ。


 ここを上手く活用すれば、街にいる冒険者達の底上げにも利用できるし、この危機的な現状を打開するための大きなアドバンテージになるだろう。


 しかしながらこの場所は街からかなり離れており、かつ、此処に来るまでに現れる魔物は街の周囲に出現する魔物の強さの比ではなく、リーチュン以外の冒険者であれば、ここに来るまでに全滅する可能性が高い。


 もしもこの場所について広めてしまえば、ギルドの忠告を聞かずにこの場所へ向かってしまう無謀な冒険者が必ず現れる。



 そうなれば本末転倒だ。


 と、そこまでリーチュンは考えてはいないが、なんとなくこの場所を軽はずみに誰かに教えるのはやめておいた方がいい位に思っている。


 そしてそれよりも、そもそもあの穴の中が本当にメタル系モンスターの巣であるかの確認が先決あり、何よりもワクワクが止まらない。


 故に直ぐにでもその穴の中へ入ろうとするのだが、その時、突然上空からバサバサッという大きな音をたてて一匹の鷹が飛んでくるのを見て、リーチュンはその歩みと止める。



 リーチュンはその鷹がなんであるかを知っていた。



ーーーそれは、冒険者からの救難信号。



 第八冒険者小隊の隊長ザンダーは、現在ギルドの伝令役となっており、非常事態が陥った時にリーチュンに助力を得る方法として鷹を送る事になっている。


 リーチュンはその鷹の羽を身に着ける事で、常に自分の居場所をわかるようにしており、緊急事態にはこうやって鷹が飛んでくるのであった。



「あちゃ~! これからって時だけどね~。しゃぁない、早く助けに行かないとね!」



 そう呟くやいなや、リーチュンは即座に鷹が飛んできた方向へと全力で走り始めている。


 その後、窮地の冒険者達を助け、そのお礼やらなんやらで飯屋をはしごして宿屋に戻ったとことで、イーゼと再会したのであった。



※  ※  ※


話は現在に戻る。



「いるってば! 大丈夫、アタイに任せて! 確かこの先に湖があって……あっ! ほらっ!」



 イーゼの前を黙々と歩くリーチュンだったが、突然立ち止まって前方を指差した。


 すると丁度木々の切れ間から、日差しを反射させてキラキラと輝く湖が二人の目に映る。



「あら、本当にあったのですわね。地図にはなかったはずですが……」


「ふっふーん。どう? ほらあったでしょ」


「まぁ湖は見えましたが、肝心の……いますわね」


「でしょ~」



 イーゼの呟きに、リーチュンがにんまりと笑う。


 イーゼの目にもそれはハッキリ映った。


 湖の周りに光を反射してチョロチョロと動き回るメタルな奴らが。



「これは本当に凄いですわね。それであなたが見た小山っていうのは、あれですわね?」



 イーゼは湖の横に聳え立つ小さな山を指差す。



「あったりー。ね? ワクワクするでしょ?」


「……不本意ではありますが、経験値が欲しい今、願ってもないですわね」



 リーチュンの笑みに返すように、イーゼも笑顔を零した。



「じゃあ、いっちょアタイがあそこにいるの蹴散らしてくるねー!」


「あ、ちょっと待ちなさい!」



 リーチュンはそう言い残すと、イーゼの制止も聞かずにメタルモンスターの群れに飛び込んで行くのであった。

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