第116話 第二ラウンド 後編

「やめろ、ロゼ。今はそんな話をしている場合じゃねぇ。気持ちは嬉しいが後にしてくれ。ごめんな、ロゼ」


「謝らないでカリー。あたしが……あたしが……」


「すみません皆さま。苛立つ気持ちはわかりますが、そろそろ卑弥呼様に話をさせてもらってもよろしいでしょうか?」



 カリーとロゼのやり取りを見て、セイメイが口を開いた。


 確かに今はそんな事を気にしている場合ではないな。

 シルクが今何をしているかは気になるが、それはこれが終わってからでも遅くはない。



「すまぬな、セイメイ。では続きを話すですじゃ。それでやれることについてじゃが、ウロボロスの再封印ですじゃ。サクセス殿にはウロボロス復活後に、再度さっきと同じ魔法で邪神体を破壊してもらい、再び集まってくる邪神体を封じ込めるのじゃ。」



 もう一発アレをか。

 まぁそれだけなら、問題ない。



「なるほど。でも、シルバーオーブもそうだけど、封じ込める玉は用意できるのか?」


「……できるですじゃ。一ヵ月もあれば……じゃが。」


「一ヵ月!? どういうことだ? もしかしてウロボロスが復活するのに一ヵ月の時間があるって事か?」



 どうやら俺のさっきの攻撃は無駄じゃなかったらしい。

 一ヵ月も時間があるなら……



「その問いに対する答えは否ですじゃ。ウロボロスは直ぐに元に戻るですじゃ。もって3時間、早くて2時間というところですじゃな。」


「え? じゃあ一ヵ月っていうのは?」


「その間は国を挙げて時間を稼ぐですじゃ。人口の8割は死ぬとは思うのじゃが……何もしなければ絶滅するだけ故、致し方ないかのう。」



 さも当然のように人口の8割を殺すという卑弥呼。


 あまりに狂気じみた言葉を平然と口にする卑弥呼に、俺は一瞬ポカンと口を開いてしまった。


 ありえない。この大陸の人口が何人かはわからないけど、8割は異常だ。


 そんな事を当たり前の事のように口にする卑弥呼に俺は怒りを覚える。



 人の命をなんだと思ってんだ、このババァ!



「はぁぁ? 何言ってんだよ、ばぁさん! 狂ったか? それなら一ヵ月間俺が戦う。何も国民を無駄に死なすことはねぇだろ?」


「ダメですじゃ。サクセス殿は世界の光。いつまでもサクセス殿に頼ってばかりではダメですじゃ。」


「いや、いいよ。そんなの気にしねぇ。俺は守るって決めたんだ。俺は一人だって死なせたくないんだよ!」



 俺がそこまで言っても卑弥呼は首を横に振る。

 しかし、しばらく沈黙が続くと再び卑弥呼は口を開いた。



「……そうじゃの。サクセス殿は優しすぎるのじゃ。しかし、頼んでいるのは此方。故にその気持ちは無下にできないですじゃ。仕方ない……もう一つの案を採用するかのう」



 思いの外あっさりと引いた卑弥呼。


 つかもう一つあるなら先に言って欲しい。



「なんだよ、勿体つけるなよ。最初から二つあるって言ってくれればいいのに。」


「すまんかったじゃ。しかし、これはサクセス殿達に大きな負担をかける故……」



 卑弥呼は深刻そうな顔つきでそう呟く。

 大きな負担って言われると身構えたくもなるけど、まずは聞いてからだな。



「いいから言ってくれ。でもその前に最初に言っておくが、仲間が死ぬのは無しだぞ。」


「わかっておるじゃ。負担と言っても死ぬ可能性は低いじゃろう。絶対とは言い切れぬのじゃが、まず問題なかろう。ただ、かなりきついのじゃ。それに成功する可能性は最初の案より低い。ただし、成功すればこの大陸の者が死ぬことはほぼない。」


「なんだよ、そんな事か。それなら今更じゃねぇか。最初の案だってやってみないとわからないけど、相当厳しいだろ? 人が多く死ななくて、仲間が死ぬ可能性も低いならそっちのほうがいい。」



 当然だといった感じで、ウンウンと頷く俺。

 俺としてはどんだけきつくても、仲間が犠牲になるのも、人が多く死ぬのも避けたい。



「わかったのじゃ。それではそっちの案でいくとするかのう。」



 卑弥呼がそう言って話を終わらせようとした時、カリーが口を開く。



「ちょっと待て。肝心の内容をまだ聞いてねぇ。どういうつもりだよ?」



 おっと。

 そういえば、聞いてなかったな。

 危ない危ない。

 でもやっぱ今日のカリーはどこかケンカ腰だ。

 情緒不安定なのか?



「すまないがそれは言えぬのじゃ。ただ今言った言葉に嘘はない。お主たちが死ぬ可能性は極めて低いじゃろう。信じて欲しいのじゃ。」


「言えない訳があるってことか?」



 カリーは更に卑弥呼を追求する。



「その通りじゃ。これはどうしても言えぬのじゃ。言えば必ず失敗するであろう。」



 その言葉を聞き、しばらく卑弥呼とカリーは睨み合っていた。

 しかし、暫くしてカリーがフゥっと溜息をついて、口を開く。

 どうやら折れてくれたようだ。



「……わかった。俺はお前を信じる。サクセス、お前はどうだ?」

 

「まぁ気にはなるけど、失敗すると言われたら無理に聞く訳にもいかないだろ。それに仲間が無事なら俺に文句はないよ。」


「だそうだ、卑弥呼さんよ。じゃあ早速何をすればいいか教えてくれ。」



 カリーの言葉に卑弥呼は頷く。



「わかったですじゃ。まずワシがウロボロスにある呪いを使う故、近づいて欲しいですじゃ。その次の事は随時指示していくでのう。」



 呪いか。前回と同じなら、結構時間を食うよな。

 早めに出発した方が良さそうだ。



「オッケー。みんな体調は平気か? 疲れていたり、怪我しているやつは残ってくれ……って残りたい奴なんていないか。んじゃシロマ、さっきの場所にゲートを繋げてくれ。できるか?」


「はい。問題ありません。」


「んじゃ行くぞ、みんな! 第二ラウンドだ!」



 こうして遂にこの後、ウロボロスとの本当の戦いが始まるのであった。

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