第118話 相違
卑弥呼を見送った俺達は、その様子をライトプリズンの中から窺っていた。
既に周囲に危険な魔獣等は存在しない事から、卑弥呼一人でも問題はないのだが、それでもやはり心配である。
というか、さっきから妙な胸騒ぎが止まらない。
だが隣で同じように卑弥呼に目を向けているカリーには心配している様子がないのだから、ただの杞憂かもしれない……いや、そうであってほしい。
一体卑弥呼は何をしようとしているのか
それさえわかればここまで心配する事もないのだが、卑弥呼がいなくなってからカリーに聞いてみるもまともな答えては返ってこなかった。
「大丈夫だ、卑弥呼に任せればいい」
とだけ口にする。
それであれば俺はもう信じるしかない。
ただ、卑弥呼の無事と作戦の成功を祈ろう。
そしてしばらくすると、卑弥呼は漆黒の大渦の前に到着した。
もしかしたら大渦はあの状態でも何らかの攻撃を卑弥呼に仕掛けるかもと不安にも思ったが、その様子はない。
少しだけホッとしていると、卑弥呼は杖を大きく掲げて何かをし始める。
そして次の瞬間……
ーーー卑弥呼は大渦に飲み込まれた……。
「なっ!! どういうことだカリー!」
「落ち着けサクセス。あれが作戦の一部だ。問題ない。」
俺が慌てふためていると、カリーは冷静にその様子を見続けている。
「あれが問題ないだと? どういうことだよ。いい加減教えろよ! 教える気がないなら、俺は行くぞ。」
「やめておけ。卑弥呼の覚悟を無駄にする気か?」
「はぁ? 俺は言ったよな? 仲間を犠牲にするような作戦は認めないって。二人して俺をだましたのかよ? 見損なったぞ、カリー。」
俺はカリーの胸倉を勢いよく掴み上げる。
「殴りたければ殴れよ? だがな、その前によく聞け。ウロボロスを滅ぼすには、実体のある核が必要なんだ。つまり遅かれ早かれ、誰かが犠牲にならなければ国民全てが死ぬ。お前はいいのか、それでも?」
今やっとわかった。
卑弥呼が俺に言わなかった理由が。
そしてカリーにだけに伝えた理由も。
最初から卑弥呼はこうするつもりだったんだ。
卑弥呼は俺の攻撃が失敗に終わった時から、自分の身を犠牲にすると覚悟していたのだろう。
だからあの時も最初にこの話はしないで、違う作戦を話したに違いない。
その上で誰も仲間が犠牲にならない方法があると聞けば、間違いなく俺はそれを選ぶ。
だけどな……
卑弥呼だって俺の仲間なんだよ!!
ふざけんじゃねぇ!
俺はこんなの絶対認めねぇぞ!!
「落ち着いてください! サクセスさん、そしてカリーさんも!」
「その手を放してください、サクセスさん。カリーは悪くないわ。」
そんな二人の間にシロマが入ってくる……そしてロゼも。
「お前ら……お前たちもなのか? 卑弥呼は仲間じゃないっていうのかよ! あいつは死ぬ気なんだぞ!」
「わかっているわ! 卑弥呼様の気持ちも……おじい様の気持ちも……。だけど! だからこそ、私達はそれに報いるべきじゃないの!? それにきっとあれで終わりではないはず、そうよね? カリー?」
「あぁ……。ロゼの言う通りだ。俺が卑弥呼に言われたのは、ウロボロスの核となった後、復活したウロボロスを殺す事。そして復活したウロボロスには、サクセスがさっき使った魔法は効かねぇらしい。ウロボロスは復活する度にその力を増し、自らを滅した攻撃に耐性がつくみたいなんだ。」
カリー達の言葉がうまく頭に入らない。
なぜなら、俺が聞きたいのはそんな話ではないからだ。
「そんな事どうでもいい! 早く卑弥呼を助けにいくぞ。もしかしたら今なら間に合うかもしれない!」
「待て! サクセス!」
俺はこれ以上話している余裕がないと悟り、急ぎライトプリズンを出ようとすると、誰かが俺の肩を掴んだ。
ーーーセイメイだ。
「お待ちくださいサクセス様。」
「セイメイ……お前もか? お前は卑弥呼が大事なんだろ!?」
「はい。その通りでございます。私の命よりも卑弥呼様の命は重く、大切なのは間違いありません。そして同じように、この国の存在もまた、卑弥呼様の命より重いのです。それであれば私は卑弥呼様の意思に従い、国を……民を守るだけでございます。」
俺はあまりの衝撃に開いた口がふさがらなかった。
まさかあのセイメイまでが卑弥呼の死を受け入れるとは思わなかったのだ。
あれだけ大切に思っていた卑弥呼を……
セイメイはその死を受け入れるというのか?
なんでだよ、なんでみんなして……
俺がおかしいのか?
俺が間違っているのかよ!!
「はっ? ふざけんなよ、どいつもこいつも! なんでだよ! なんで簡単に諦められるんだよ! 俺は嫌だ! 絶対に嫌だ! 俺は卑弥呼を助けるぞ。こんなの俺は認めねぇ。」
俺がそう言うと、スッとシロマが俺の隣に立つ。
「私はサクセスさんについて行きます。サクセスさんは私達のリーダーですから。サクセスさんの想いは私と同じです。」
シロマはハッキリとその言葉を全員に伝えてくれた。
それが本当に俺には嬉しく思う。
だが……少しだけその顔が浮かないように見えるのはきのせいだろうか?
「そうか、じゃあ好きにしろ。サクセス。だけどな、もう遅い。既にウロボロスは覚醒している。だからお前がアレを倒すというなら、俺はサポートするだけだ。」
「勘違いするなよ? 俺は卑弥呼を救いにいくだけで、ウロボロスを倒す気はない。それでイモコ……お前はどうする? 卑弥呼を救うか? それとも……。」
「師匠……某は、セイメイと同じでござる。民を守る事こそが某の使命でござる。」
「そうか、お前ならそう言うと思ったよ。わかった、みんな勝手にしてくれ。俺も勝手にさせてもらう。行くぞ、ゲロゲロ、シロマ!」
俺は既に俺の意思を察したゲロゲロが古龍狼姿となっていた為、シロマと一緒に飛び乗った。
……卑弥呼は、絶対に救ってみせる!
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