第47話 Endless Waltz

 一方その頃ビビアン達は、戦術的指揮をするブライアンを後方に残すと、馬に乗ったまま一気に魔王目掛けて駆け抜けていた。


 ブライアンの獅子奮迅の活躍により、ビビアン達の前にいる敵は少ない。


 魔物達が人族の軍に合わせて大きく広がったおかげで、一点突破しやすくなっていたのだ。


 そんなビビアンは馬に跨ったまま剣を振り続けると、ぐんぐん前進していく。



 目的の魔王がいるのは、草原の先にある森の上空。



 その破壊神ドシーは、何故かこちらに攻撃することなく、不気味な笑みを浮かべて戦場を眺めていた。



「グベグベグベ……人間達も中々やるグベ。あいつグベ? あいつが邪魔だグベ。」



 ドシーの目には一人の男が映っていた。


 そして指先の標準をその男……ブライアンに合わせると、地獄の稲妻を呼び寄せるドシー最大の魔法



 【ヘルスパーキング】



を放とうとした



……がそれよりも早く、ビビアンがドシーに向けて魔法を放っていた。



 既にドシーに接近していたビビアンは、どうにか奴を下に降ろそうと、射程距離に入るや否や攻撃を開始している。



 【ギガドーン】



 その勇者のみが使える最強の雷魔法により、上空に黒い雲が集まると、激しい雷鳴をあげて雷が落ちる。



「グベぇぇ!?」



 正にカウンターとも呼べる絶妙なタイミングで放たれたその魔法は、ドシーに直撃した。



「何よ、大したことなかったわね。」



 その破壊神の叫び声を聞いて、ビビアンは余裕の笑みを漏らす。



「まだですビビアン様! 落ちてきません……え? 嘘? 火傷すら負っていない?」


 

 その声を聞き、ビビアンはドシーが浮かんでいた場所に目を凝らすと、煙が晴れた先にいたのは無傷のドシーだった。



 そいつは攻撃を受けたにも関わらず、気持ち笑い声をあげて浮かんでおり、どういう訳か全くダメージは見受けられない。



「グベグベグベ、もう来たキャ。勇者。おでに雷は効かないグベ。」



 余裕そうに笑い続けるドシー。



「ふん! 笑ってないで降りてきなさいよ、この臆病者!」


「良い度胸だグベ。これでも食らうグベ!」



 自分の土俵に引き摺り下ろす為、ビビアンはドシーを挑発するも、ドシーは全く意に返さない。


 それどころか、攻撃範囲外である上空に浮かんだまま、ビビアン達に向けてドス黒い煙を吐いてきた。



 その煙は、



  破壊の吐息



と呼ばれる破壊神のみが使用可能な最凶のブレス。


 その吐息は、触れたもの全てを腐敗させる凶悪なブレスであり、一度人間がその煙を吸えば、体内の細胞が腐りはじめ、麻痺、猛毒等の症状を引き起こし、体が衰弱した後、死に至る。


 このスキルこそが、魔王ドシーを破壊神と言わしめる技だった。


 そしてそんな恐ろしいブレスを浴びた森の自然は、息が吹きかかった瞬間、その色を失い、枯れて朽ちていく。



 だがしかし、ビビアンには効かない。



 彼女には、装備による状態異常無効のスキルがあった。



「マネア、ミーニャ! 下がって!」



 ビビアンは叫ぶと同時に剣を振りかざす。

 ギバタイフーンによって、その煙を吹き飛ばそうとしたのだ。


 だが、その煙は風や真空では止まらなかった。



「カハッ! カハッ!」



 地面に血の塊が落ちる。 


 それを吐いたのはマネアだった。



「姉さん! 大丈夫?」



 口をストールで塞いだミーニャがマネアを抱いて後方に下がる。



 三人の内、反応が遅れたマネアだけがその息を吸い込んでしまった。


 だがしかし、ミーニャの救出により、吸い込んだのは少量で済む……とはいえ、それでも状態異常(猛毒)を引き起こしている。


 この猛毒が続くと、続けて麻痺になるところであったが、マネアは即座に自分に対して状態異常回復魔法ケアリックを使用し、バッドステータスを解除した。


 ギリギリ間に合うその呪文。


 後数秒遅ければ呼吸困難により呪文は使えなくなっていた。


 それに気づいたマネアは、再度思い知る。


 破壊神を前にする事は、常に死と隣り合わせであるということに。


 それでもこの戦いに勝つには、ドシーを倒す以外方法はない。


 だが最悪な事に、このブレスは吐き終わって尚、その息が空気を汚染し、しばらく付近一体は死地と化す。



 いくら後方に下がったところでそれからは逃れられない。


 つまりマネアは、常に自分に対してケアリックをかけ続けなければならなかった。


 一方、ミーニャはあまりその息の効果を受けていない。何故ならば、彼女が今口を塞いでいるストールは、状態異常を軽減する効果があるからだ。


 しかし、そうはいっても大量に煙を吸ってしまえば、いくらその装備があっても状態異常からは逃れられない。



 このままでは、ミーニャもマネアもビビアンの足枷になることは確実。


 それがわかった二人は瞳を合わせると、二人同時にうなづいた。



 口を開けば、破壊の息を吸う。


 故に二人は無言で意思疎通したのである。


 姉妹だからこそわかる、お互いの行動。


 それは、ミーニャが息を止めてこの状態を打破するスキルを使う。そして、途中で息が必要になった時に直ぐにケアリックをかけるといったもの。



 そう。ミーニャには、この状態を打開するスキルがあった。



 スーパースターの固有スキル



ーー光の舞だ。



 そのスキル……いや、舞を踊る事で一定エリアに聖なる結界を張ることができる。


 その結界内では、悪しきものは浄化される為、そこでならビビアンの援護が可能だ。


 とはいえ、それを使うのに呼吸なしでは難しい。


 その為、もしもに備えてマネアには回復魔法を準備してもらう。


 その間、ドシーの相手はビビアンに任せ、ミーニャ達は光の舞に集中した。



 そしてそれは無事成功し、光のドームがマネア達を覆う。なんとか一呼吸で舞を終えはミーニャは、その中で大きく息を吸った。



「すぅ~はぁ~。ギリギリだったわね。」


「良くやりました、ミーニャ。ビビアン様、こちらは大丈夫です! あまり役に立てないかもしれないですが、後方から支援します。」



 マネアはブレスを受け続けているビビアンに叫んで伝えた。


 この一分間、ドシーはビビアン目掛けてブレスを吐きまくるも、一向に効果がないのを見て首を傾げている。



「おかしいグベ。なんで効かないグベか?」


「アンタの臭い息なんて効くわけないわ! それじゃあこっちも行かせてもらうわよ!」



 マネア達からその息を遠ざける為、逃げ惑っていたビビアンだが、二人の安全を確認したことで、今度は自分からドシーに仕掛け始めた。



 それと同時にマネアが、ビビアンに補助魔法をかける。



 【ペプシム】

 【ファンタム】

 【レッドブルー】



 魔法の光がビビアンを包み込むと、そのまま上空目掛けて飛び上がった。



「この卑怯者! くらいなさい!!」



 ビビアンはジャンプと同時に全力で斬りつけたのだが、ドシーは空中でスライドする様な移動をもって、それを回避する。



「グベグベグべ……弱い。弱いグベ。しょうがないグベ、卑怯卑怯と言われるのもムカつくから地上で八つ裂きにするグベ。」



 その攻撃を見て、ドシーは警戒の必要なしと判断して地上に降りた。


 事前にデスバトラーより、勇者の能力を聞かされ警戒していたのだったが、想定よりも数段劣ると判断する。



 それど同時に地上に降り立つビビアンは、遂にドシーと向かい合うと、皮肉を口にした。



「やっと降りてきたわね、卑怯者。破壊神っていうのは、空から卑怯な攻撃しか出来ないのかと思ったわ。」


「グベベ、生意気な小娘だグベ。お前如きに本気を出す気はないグベ。」

 

「なによ? 今から負けた時の言い訳かしら? 情けないわね。」


 ビビアンはそう言って更に挑発すると、遂にドシーは頭にあるブツブツから煙を出し始める。



 これはドシーの怒りが頂点にきていた事を表していた。



「もう許さないグベ! ぶっ殺すグベ!!」



 するとドシーは瞬間移動の様な動きで、突然ビビアンの前に接近すると、その六本ある手足を使って連続攻撃をする。


 だがこれをビビアンは、剣と盾を器用に使って弾き返した。


 一発一発を防ぐ度に鳴り響く、金属音。


 それは時間を追う毎に激しさを増していく。


 そして次第にビビアンは押されていった。


 流石に六本の手足からの連続攻撃を、盾と剣だけで捌くには素早さと技術が足りていない。 



 遂にはその腕の鉤爪がビビアンの足を切り裂いた。



「キャ!!」


 

 ビビアンは小さな悲鳴をあげると、足から血が流れ落ちる。



「グベグベグベ、どうした小娘。達者だったのは口だけだグベ?」



 再度ドシーは不気味な笑顔を浮かべるも、次の瞬間大きく目を見開いた。


 何故なら、ビビアンを傷つけた場所がみるみる塞がっていったからである。


 これもまた、ビビアンの最強装備のスキル



ーーオートヒールだ。



「ふん、こんな攻撃効かないわよ!」



そしてドシーはその驚愕から動きが一瞬止まると、今度はビビアンが反撃する。



 回避が遅れたドシーは、遂にビビアンの袈裟斬りを受けてしまい、六本ある腕の一つを斬り落とされた。



「グ、グベーー!」



 ドシーは痛そうに叫ぶも、今度はビビアンが驚く番だった。


 たった今斬り落としたドシーの腕が、一瞬で再生したからだ。



「気持ち悪いわね、モンスターのくせに回復してんじゃ無いわよ!」


「グベべ、それはお互い様だグベ。」



 そう言い合いながら、再度向かい合う魔王と勇者。


 二人の激しい戦闘はまだまだ続くのであった。

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