第62話 植物園①

「ほぇ~、ここが植物園かぁ。うん、まだ芽も出てない畑もあるけど、結構広いのな。」



 イモコに案内された植物園は、大きなビニールハウスの中に作られた、THE畑であった。

 船が大きいのもあるせいか、思ったよりも広い場所である。



「一応、苗で買えた野菜もあるでござるから、それなら1,2週間で食べれる位には育つでござるよ。1ヵ月で作れるものだけを植えているでござる。」



 俺のさり気ない疑問にイモコはさっと答える。


 こういうところが優秀なんだよなぁ。



「なるほどね、ところでなんでビニールハウスなの?」


「海の上だと潮風に野菜がやられるでござるよ。だから、風よけでござる。」



 ほうほう。

 塩害ってやつか。

 俺も農民だったけど、海は遠かったし、あまり塩害には縁が無かったが聞いた事はある。

 だけどビニールハウスの発想はなかったなぁ。



「なぁ、イモコ。果物とかはないのか?」



 植物園に植えている野菜を注意深く眺めながらカリーが聞いた。



「残念ながら果物はないでござる。果物となると、木まで成長させなければならないでござるから、とても一ヵ月では無理にござるよ。ビタミン不足を補う為に果物は重要でござるから、できるならば作りたいでござるが。」



「そっかぁ。んじゃこれは無駄だったな。」



 カリーはそう言うと、何かが入っていそうな袋を取り出していった。



「それなんなの?」


「あぁ、これな。イモコから船で野菜とか作ってるって聞いたからよ、俺も町で果物の種を買っておいたんだわ。俺は、農業とか畑とか詳しくないから、適当に好きなもんしか買ってないけどな。」



 カリーはそう言いながら、袋の中から結構な数の種を床に置いた。



「残念でござるが、カリー殿の気持ちだけ頂くでござる……。」



 イモコはそれを一粒拾いあげて、まじまじと見ながら言った。

 すると……



「イモコさん。まだ、畑で空いてるスペースってありますか?」


 

 突然シロマがイモコに突然質問する。

 シロマもカリーが置いた種を拾うと、なにやら真剣に種を観察していた。



「スペースはまだまだあるでござるよ。どうしたでござるか?」


「はい。この種を確認したところ、そこまで大きな木にならない果実の種でしたので、作れるかと思いまして。確認したところ、これは、イチゴ、桃、スイカ、ブドウですか?」


「お! 正解だぜ、シロマちゃん。」



 え?

 種だけでわかるの!?

 元農民の俺でも流石に種だけではわからないぞ。



「シロマ……なんで、種で果物の種類がわかったんだ?」


「はい。天空職の試練で様々な本を読んでいましたので、果物や野菜、それからキノコ等にも詳しくなりました。それと多分ですが、私の力を使えば、実をつけるまで成長させることができると思います。」



 !?



 そうか!

 シロマは時を戻すだけじゃなくて、進めることもできるのか!

 こいつは、農業革命だべ!

 農家の嫁にほしいっぺよ!



「本当かシロマ!? 是非やってみてくれ! イモコ、どこが空いてる?」


「あっちの半分はまだ肥料しか撒いていないでござる。しかし、本当にそんなことができるでござるか?」


「正直わかりません。時を進めることはしたことがありませんので。しかし、戻せるなら進ませる事も可能かと思います。とりあえずやってみましょう。」



 シロマはそう言うと、一つの種を畑に等間隔で植えると、そこに畑の砂を盛っていく。

 俺はその様子から、なんとなくだが何の種を植えたか想像できた。



「これはもしや……スイカか? シロマ。」


「正解です。まずは、ちょっとスイカで試してみます。木となると、もしかしたら精神力が足りないかもしれませんので。」



 シロマはそういうと、盛り上がった畑に手を当てて、目を閉じ集中し始める。



 すると、畑から芽がムクムクッと出てきて……枯れた……。



「あぁ~! やっぱダメかぁ。芽が出たって事は、時を進めるのには成功してたんだろうけどなぁ。」



 俺はそれを見て残念そうに声を出すと、シロマも一瞬残念そうな顔をする。

 しかしその後、芽が出た畑の砂を手にとり、ブツブツと独り言を言い始めた。



「これなら……あまり……でも、あ、そう言う事ですか。失敗した原因がわかりましたサクセスさん。」



 どうやらシロマは何かに気付いたらしい。

 とりあえずシロマ博士の見解を聞いてみよう。



「どういう事だシロマ? やっぱり果物は無理そうか?」


「そうですね、木は結構難しいかもしれませんが、スイカなら多分できます。イモコさん、ちょっといいですか?」


「どうしたでござるか?」


「この船の水はどこにためていますか? 水は貴重でしょうけど、使う事は可能でしょうか?」


「水は貯水庫にたまっているでござるよ。それと、陰陽師の部下が水神様の力を借りて、空気から水を作っているでござる。故に、水の心配は一切無用でござるよ。」



 陰陽師?

 魔法使いみたいなものか。

 シロマは何がしたいんだろうか。



「わかりました。では、もしよろしければ、水を作れる方をこちらにお呼びすることは可能でしょうか?」


「問題ないでござるよ。陰陽師の部下はそれなりにいるでござるから、手が空いている者を連れてくるでござる。」



 イモコは特に理由等も尋ねることなく、そのまま植物園を出て行ってしまった。

 腰の軽さが半端ないな、イモコ。

 

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