第63話 植物園②

「んで、シロマ。そろそろ説明してもらってもいいか?」


「あっ! はい、すいません。つい、説明するのを忘れていました。まず初めに時を進めることについてですが、これは問題なく成功しました。それにスイカくらいなら、ほとんど精神力を消費しません。ですが、その進める速度が早過ぎたみたいで失敗したんです。」



 ふむふむ、進める事は可能と。

 でも失敗した理由はそれじゃわかんないな。



「ごめん、ちょっと難しくてわからない。なんで早すぎるとダメなんだ?」


「畑に含まれていた水分が無くなったのです。さっき触ってみたら、全く水気を感じませんでした。多分、スイカが成長するために水分を吸収していったのでしょう。でも途中で土の水分が尽きてしまったのです。だから、最終的に枯れてしまったのだと思います。」



 シロマの説明はいつもわかりやすい。

 やはり、わからない事があったらシロマに聞くのが一番だな。



「なるほど! つまり、今度はさっきよりもゆっくり時を進めて、その間に畑に水を与え続けるということか!?」


「正解です。ですが、水は貴重な資源ですので一応確認しました。でも問題ないようなので、これなら作れる可能性が高いと思います。サクセスさんには、一応、私が言ったタイミングで肥料も撒いてもらえませんか?」


「全然かまわないよ! 俺元農民だし、そこらへんの加減は分かってるつもりだ。しかし、相変わらずシロマは頭がいいな。試練を受けて更に知識が増したんじゃないか?」


「はい! そう言う意味では、あの試練は私には凄く合っていましたね。あっ! イモコさんが戻ってきました。」



 そんな話をしていると、イモコが一人の綺麗な顔立ちをした青年を連れて植物縁に戻ってくる。



「お待たせしたでござる、こやつが陰陽師の羽部野晴明でござるよ。」


「皆様方、お初になります。私、ハベノセイメイと申します。この度はお呼びいただき、感謝しております。皆様のような英雄とお話をできることは、この上ない誉れでございます。」



 その青年の喋り方はゴザル語ではなかった。

 ゴザル語とは、俺が勝手に作ったイモコの話し方なんだが。

 しかし、この優男……血色が悪いと言えるほどの白い肌だが、大丈夫か?

 とても船乗りには見えないんだが。


  

 しかし、綺麗な白髪にスラっとしたスタイル。

 年齢は20代前半位で、目鼻立ちが整っている。

 つまり、イケメンだな。

 シロマに色目を使ったらただじゃおかないぞ。



「お忙しいところわざわざお呼びしてすみません。少しお力を貸していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」



 シロマはそのイケメンを見ても表情を変えず、丁寧にお願いをした。

 その反応を見て、少しだけ俺の嫉妬心が軽くなる。


 いつから俺はこんなに嫉妬深くなってしまったのだろう……。

 ずっと男が俺だけだったからあの時は感じなかったが、今は男も多いから不安なんだな。

 


 俺って……俺って……

 ちっちぇな……。

 


 またも自分の情けないところを知り、罪悪感を感じる俺。



 そんな俺の思いをよそに、セイメイはシロマに問いかける。



「いえ、私の力でよろしければ、いつでもお使い下さい。それで、私は何をすればよろしいでしょうか?」


「はい、この畑にゆっくりと水を与え続けて欲しいのです。できれば少量づつお願いしたいのですが、可能でしょうか?」


「畑に水……ですか? 可能ではありますが……。このような事を進言するのは失礼かと思いますが、畑に水を与え続けると根が腐ってしまいます。」



 セイメイは少し呆れた声を含んで確認する。

 普通に考えればそうなんだが、俺達は普通じゃない。



「はい、その通りです。しかし、今回は大丈夫です。とりあえず、私が畑に手を当て始めたら少しづつ畑に水を足していってもらえませんか?」


「はぁ……。わかりました、そのようにさせていただきます。」



 セイメイは少しやる気が無さそう答えた。



 多分、あれは心の中で馬鹿にしているな。

 なんというか、裏がありそうな性格というか……イモコと違って、あまり信用できないタイプだ。



 そして今度もシロマは、畑の盛り上がった部分に手を当て始める。

 それを見たセイメイが何やら呪文を唱え始めた。



 どうやら言われた事はちゃんとこなすらしい。

 やる気はなさそうだが……。



 しばらくすると、セイメイの手から水が放たれ始める。

 するとその水を畑がぐんぐん吸収し始めた。

 そして畑から芽が出てきて、それがグングン成長していく。

 さっきよりも成長が少し遅くみえるが、全く止まる気配がない。



「こ、これは!? 一体!?」



 セイメイはその様子を見て、目を大きく見開きながら驚く。

 そして、シロマは集中した目で畑を見つめながら、俺に声を掛けた。



「サクセスさん、かけてください。」


 

 え? どこにかけるの?

 なんかわからないけど、ちょっと興奮するぞ。

 まぁ、それは冗談として、とりあえずこんなもんでいいかな?



 俺はシロマに言われた通り、芽が出ている周りに少量の肥料をゆっくりとまぶしていく。



「これでいいか?」


「はい、完璧です。いい感じですよ。」



 シロマからオッケーが出た。

 ふふ、元農民なめんなよ!



 しばらくそのまま同じような工程を進めていくと、畑が大きく丸く盛り上がる。

 そして遂に奴(スイカ)が姿を現すと、みるみる大きく肥え太っていった。



 --そして



「成功です! やりました!!」


「私は……夢でもみているのでしょうか? これは、一体……。」



 シロマが歓喜の声をあげると、セイメイは驚きすぎてフリーズしている。

 目の前に出来上がったのは真ん丸大きなスイカ。

 まさか、船でスイカを育てるとは思わなかったよ。



 凄すぎるぜ、シロマ。

 農業界の革命児だ!



「これは本当に驚いたでござるよ! 流石師匠の奥方でござる!」


「よくやった! シロマ!」


「シロマちゃんすげぇな。これで種は無駄にならなくて済むな。」



 俺達はシロマを褒めたたえる。



「成功してよかったです。まだスイカは一つだけですが、木になるタイプも試してみませんか?」



 シロマは成功に喜びつつも、更なる高みへチャレンジする気満々だった。




※シロマは【豊穣の女神】の称号を獲得した。

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