第37話 聖騎士(パラディン)
「おじい様、私……行きたいです!」
城主の間では、ロゼが真剣な目をしてソレイユを見つめていた。
皮肥城に到着した俺達は、早速ソレイユに今後の予定について報告し終えたところなのだが、そこで真っ先に声を上げたのがロゼである。
どうやら話を聞いて、反対されると思っていたらしい。
そして、一呼吸おいてソレイユがそれに答えた。
「ふむ。安心するがよい。ワシもロゼを一緒に連れて行ってもらう事には賛成しておる。むしろ、ワシの方からお願いしたいくらいじゃ。」
その言葉を聞いて、ロゼはホッとした顔で安堵する。
「よかったですね。ロゼちゃん。」
「うん! よろしくね、シロマちゃん。」
二人は嬉しそうに笑っていた。
「ところでソレイユさん。セイメイからサイトウが持ってきた書状を確認するように言われたのですが、見せてもらえますか?」
俺がそう言うと、ソレイユは懐から一通の手紙を取り出す。
「うむ。そう言うと思って持ってきておる。」
俺はソレイユからその書状を受け取ると、直ぐにそれをシロマに渡した。
「頼むわ。俺じゃよくわかんないと思う。」
「はい。それでは確認しますね。」
俺から書状を渡されたシロマは、封筒の封印をじっくり観察した後、中の手紙を確認する。
「これは間違いなく卑弥呼様の書状ですね。封印が書物庫で見た邪魔大国のものと一致しています。」
おぉ、流石シロマだ。
そんなところまで調べていたのか。
そして更にシロマは続ける。
「それと内容についてですが……サイトウという者がこの国の視察をするから便宜を図って欲しいという事ですが……。」
そこで一旦シロマの言葉が停まった。
不思議に思ってシロマの顔を見ると、何か言いづらそうにしている。
すると、シロマに代わってソレイユが話し始めた。
「シロマ殿。そなたが感じた通りじゃよ。内容だけ見れば大した事はあるまいが、それは明らかにこちらに対する絶対的服従を求めた意図が込められておる。」
ん?
「どういう事でしょう?」
俺はよく意味がわからないため確認した。
「シロマ殿は内容を要約したようじゃが、実際に書かれている内容は脅迫文じゃ。サイトウの行動に干渉すればただでは済ませないといった感じであるな。」
それは何となくわかったけど、それの何がおかしいんだ?
「んー、でも邪魔大国はこの大陸で一番の権力を持った国ですよね? 言葉は悪いですが、そう言った命令も仕方ないように思うんですけど?」
強国が他の国に上から目線で何か言うのは不自然ではない。
農民だった俺には無縁の世界だが、何となく国の付き合いってそういうイメージがある。
しかしこれに対して、今度はシロマが説明した。
「サクセスさん。違うんです。確かにこの大陸の中心国は邪魔大国ですが、卑弥呼様は各国は対等の関係を保持し、協力国として友好的に付き合うよう取り決めています。」
「その通りじゃ。つまりこの手紙の内容は、卑弥呼様の考えを真っ向から否定する内容なのじゃ。故に、明らかに卑弥呼様以外が書いたものじゃろう。」
そう言う事か。
その話を聞くだけでも、卑弥呼という人物がどれだけ素晴らしい人かわかるわ。
あのセイメイやイモコすら崇拝しているのだから、やはり卑弥呼様は立派な人なんだろう。
「それなら手紙の内容に従う必要ないんじゃないですか?」
「いや、そういう訳にもいかんのじゃ。書状の封印が本物である故、安易に偽物として扱う訳にもいかぬ。」
ソレイユは難しそうな顔をしている。
なんだか政治ってややこしいな。
まっ、俺には関係ない事だけど。
「でもそうなると、やっぱり邪魔大国では、何かよからぬ事が起きているのですかね?」
「その可能性は大いにあるじゃろうな。ワシもこの手紙を受け取った後、邪魔大国に隠密を向けたのじゃが……誰も帰って来ぬ。既に殺されているじゃろう。」
もう動いていたのね。
でも、国でお抱えの隠密でダメなら、事は想像よりもヤバイ状態なのかもしれない。
「じゃあ俺達が向かうのも結構危険かもしれないですね。ロゼちゃんが危ない目に遭わないよう注意します。」
「そうしてくれるとありがたい……が、そこは心配せずとよい。サクセス殿はやるべき事に集中してもらえれば良いのじゃ。」
その言葉に驚く俺。
あれだけ心配していた孫なのに、心配じゃないのか?
俺が顔に疑問を浮かべていると、ソレイユは更に驚くべき事を口にした。
「ロゼはワシが守るからのう。」
「……は?」
一瞬、俺の中で時が停まる。
おじいちゃん、ボケちゃったかな?
すると、それを見ていたカリーが笑い始めた。
「あははっ。だと思ったぜ。やっぱり行くつもりだったか。」
「もちろんじゃよ、カリー。」
ソレイユがニヤリと笑う。
ーーだけど……
もちろんじゃよ……じゃねぇだろ。
この国どうすんのよ!
放置プレイか!?
俺が脳内でそんなツッコミを入れていると、シロマが尋ねた。
「失礼ですが、城主不在では色々と問題があるのではないでしょうか?」
うんうん、その通りだよ。
それが普通の反応だよな。
……だが、ソレイユは落ち着いた様子でそれに答える。
「案ずることは無い。明日以降の国政は既に息子のトッテムに任せておる。それとワシが死んだ時には、トッテムが城主になる旨の内容を書簡に残しておる故、心配はいらぬよ。」
まじか。
この短い間にそこまで進めていたのかよ。
ソレイユはやはり相当頭が切れるな。
ボケ老人とか疑ってごめんちゃい。
……でも、問題はそれだけじゃないっしょ?
「それはわかりましたが……ちょっと言いづらいのですが……その……まだ戦えるんですか?」
そう。そもそもこの老人にロゼが守れるとは思えない。
秘密裏に少数で向かうのだから、護衛もつける予定はないはずだ。
任せろと言われて、はい、わかりましたという訳にはいかないよ。
だがそんな不安を他所に、ソレイユは自信満々に笑ってみせた。
「フォッフォッフォ! もちろんじゃ。昔ほどではないとはいえ、鍛錬は続けておる。そこらへんの者にはまだ負けぬよ。」
どうやらソレイユには自信があるらしい。
そしてその言葉を聞いて、カリーも頷いている。
「ソレイユの戦力については心配いらねぇよ。とはいえ、お前と比べたらあれだけどな。イモコ位には頼りにしていいと思うぞ。」
「イモコと同じ?」
イモコは天空職ではないとはいえ、レベルは99だ。
それは普通の人類が達せられる最高峰の高みであり、それと同じという事は相当強い事になる。
「あぁ、ソレイユは強いよ。」
「カリーにそう言われると些か照れるの。そこまでは期待はせんでほしいものじゃな。フォッフォッフォ。」
「まさか……ソレイユさんも天空職?」
二人がそれだけ自信に満ちた目をしているなら、考えられるのは天空職という事だろう。
カリーがそうなんだから、ソレイユが天空職であっても不思議ではない。
まぁ、職業がカリーと同じという事はないだろうけど。
だが、この予想は次の言葉で覆される。
「残念じゃが……ワシは違う。ワシの職業はパラディンじゃ。パラディンとは、聖属性魔法が使える槍使いの事じゃ。そしてレベルは99じゃのう。」
まじか!
流石に天空職ではなかったみたいだけど、パラディンは知ってる。
僧侶と戦士を極めた者が転職できる上位職だ。
しかも99レベルなら、イモコと同じ位強いと言われても理解できる。
それを聞いた俺は、とりあえず安心した。
そこまで強いなら、ロゼちゃんは任せても平気だろう。
「わかりました。それでは頼りにさせてもらいます。それで、出発はいつにしますか?」
俺は心配の種も無くなった所で話を進める事にした。
今回、城主と姫が国から離れるのだから、普通に街から出発という訳にもいかないはず。
当然、周囲にバレることなく国を出る事が必要だ。
「ふむ、出発は明日の深夜でどうじゃ? 集合場所はこの城の中庭じゃ。そこに隠し通路がある故、馬車を2台忍ばせておく。」
「わかりました。それではそれまでの間、こちらも準備しておきます。今後の詳しい予定は馬車で話ましょう。セイメイからも色々と聞きたい事があると思いますので。」
「うむ。わかった。」
俺の言葉にソレイユが深く頷く。
「それじゃ私は一旦戻りますが……カリーはどうする?」
「ん? 俺も一緒に戻るぜ。準備するにも人手が必要だろ。」
「私はしばらくこちらでロゼちゃんとお話しながら支度を手伝います。あまり遅くならない内に戻りますので、心配はいりません。」
どうやらシロマは残るらしい。
確かにロゼちゃんの準備には、シロマの補助があった方がいいだろう。
それに、二人ともなんだか楽しそうだ。
「オッケー。それじゃ頼んだぞ、シロマ。それとロゼちゃん、これからよろしくね。」
「はい! こちらこそ不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。できるだけ足手まといにならないよう頑張らせていただきます。」
俺の言葉に、若干緊張気味に答えるロゼ。
まぁ緊張するよね、初めての旅なら猶更だ。
でも気合入り過ぎて無茶だけはしないでほしいな。
「いや、ロゼちゃんは無理しなくていい。それよりも自分の体調に注意してくれ。何かあったら直ぐシロマに相談してほしい。」
「はい、わかりました。ありがとうございます。」
ロゼは俺の言葉に素直に感謝を述べた。
色々と心配はあるが、性格も良さそうだし、うまくやっていけるだろ。
なによりシロマが嬉しそうだから、俺としてもロゼちゃんが一緒なのはありがたい。
そして俺は、最後にソレイユに挨拶を残して城を出る。
さぁて、新しい旅の始まりだ!
まずはイモコの転職だな。
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