第63話 妄想プレイ

「ねぇ、シロマちゃん。一緒に体を洗いっこしない?」


「いいですね。そう言えば、私もそういった事はしたことがありませんでした。」



 女湯から漏れ聞こえる二人の美少女の会話。


 その一言一言を決して漏らさないように、全神経を片耳に注いで盗み聞きしている俺。


 俺は目を閉じながら、その声から想像される景色をイメージしていた。



 ※  ※  ※



「ちょっと、ロゼッタちゃん。くすぐったいです。もうっ! お返しです!」


「キャっ!! そこは敏感……やったわねぇ~!」



(……はぁはぁ。)



「あ、だめです。卑怯ですよ、先端は!」



(先端!? どこ? どこの先端!?)



「だってこんなにピンクで綺麗なんだもの。」


「ロゼッタちゃんだって、綺麗じゃないですか。」



(ピンク……はぁはぁ。)



 俺はおもむろに膨らむ股間に手が伸びる。


 もはやこれは、覗く以上に興奮するのではないだろうか?



「はい。終わりです。それじゃあ後は自分で洗いましょう。」


「え~。もう終わりなの? もっと色々洗いっこしようよぉ。」



(そうだ! もっとだ、もっとやれ! 止めるなシロマ!)



「ん~。ですが、後は大事なところくらいですし……。」



(だ、だ、大事なところ!? ……はぁはぁ。)



 そのフレーズだけで、脳からドーパミンがドピュドピュ出てくる。



「……じゃあ、お互い見せあいっこしようよ。私、自分以外がどうなってるのか興味あったの。」



(な、な、な、な……なんだって! ロゼッタちゃん! はよ、実況プリーーズ!!)



「イヤです! ロゼッタちゃんはエッチです。」


「えぇ~。いいじゃない。女同士なんだしぃ~。」


「い・や・です!」


「もう、シロマちゃんの恥ずかしがり屋さん。でもそんなに嫌なら今回は諦めるね。」



(うぉい! 諦めんな! 諦めたらそこで終わりだぞ! 頑張れロゼッタ!)



 俺は必死に心の中でロゼッタを応援する……がしかし、どうやらそこで終わってしまったようだ。


 するとしばらく会話が途切れて、体を洗う音とお湯を流す音のみが聞こえる。


 その音を聞くだけでも3回は昇天できそうだったが、俺は思い出した。


 この謎の色の変わったタイルのギミックについて。



 俺は再び音をたてないようにタイルを調べてみるも、やはり変化はない。


 そして、丁度諦めて他のところを探そうとし始めた時、再び女湯から会話が聞こえてきた。


 俺は素早く壁まで移動すると、再び耳をそれに押し付ける。



「そういえばシロマちゃん。シロマちゃんはサクセスさんのどこが良くて好きになったの?」



 その言葉は、俺の心に若干のダメージを与えた。


 なぜならその言い回しは、まるで「あんな人のどこがいいの?」と言われている風に聞こえたからである。


 しかし、その質問にシロマは



「ロゼッタちゃん。その言い方は失礼です。サクセスさんは素敵ですよ。」



と擁護してくれたため、俺は目から涙がでそうになる。



(ありがとう。こんな変態をそんな風にいってくれて……。)



 俺はそう心で感謝すると、さっきの言葉についてロゼッタが謝罪した。



「あっ! ごめん。そんなつもりじゃなかったの。ただ、私はあまり男の人と関わった事なかったから……ごめんね。」


「いいですよ。それにサクセスさんは確かにエッチですし、直ぐ綺麗な人に目がいってしまいますし……なんだか思い出したら腹が立ってきました。」



(グサッ!)



 思い当たる事があり過ぎる俺には、その言葉が深く突き刺さる。


 しかしその言葉を聞いたロゼッタは、楽しそうに笑い声を上げた。



「あはは、やっぱりシロマちゃんはサクセスさんを好きなんだね。いいなぁ~そういうの。」


「え? なぜそう思うんですか?」


「だって、サクセスさんが他の人を見るのが嫌な程好きって事じゃない。だから、いいなぁって。」


「そ、それは……そうですが。でも少しは自重して欲しいです。特にエッチなところは……。あっ! もしかしたら今も私達をどこかで覗いているかもしれませんよ?」



(ギクッ!!)



ーーー……シーン



 シロマのその声と同時に、二人から声が消えた。



「もう! シロマちゃん。ビックリしたじゃない。やっぱりいないですよ。」



 どうやら二人は俺が覗いていないか周囲を確認していたようだ。


 あまりのシロマの勘の良さに、俺は心臓が縮むような思いである。



「そうですね。流石にいつ私達がお風呂に入るかまではわからないですよね。部屋も食事も別々ですから。」


「問題はそこなの!? というか、それを知っていれば間違いなく覗くような口ぶりなのね。」


「だってサクセスさんですよ? 本人はバレてないと思ってるみたいですけど、サクセスさんはいつも覗きばっかりしてますから。」



(まじっすか!? ば、バレてる!?)



「えぇ~!? じゃあ私も気をつけないと。」


「はい。でも大丈夫です。ロゼッタちゃんはリーチュンのように前衛ではありませんし。」


「リーチュン?」


「はい、私の親友です。サクセスさんと一緒に旅をしてきた仲間なんです。明るい性格で、なんでもストレートで、それでいてとても優しい女性ですよ。」


「そうなんだぁ。素敵な人ね。会ってみたいなぁ。それでその人は今どこなの?」


「……わかりません。でもきっと必ず戻ってくると私は信じてます。」



 少しだけシロマの声のトーンが下がった。やはり、シロマも別れた仲間が心配らしい。特に自分も同じ試練を味わっているからこそ、猶更その身を案じているのだろう。



「そっかぁ。じゃあ遠い所にいるんだね。でもきっと大丈夫だよ。シロマちゃんの仲間ならきっと凄い人なはずだし。」


「そうですね。リーチュンは私よりも強いですしね。きっと今頃この世界に戻ってきて、私やサクセスさんを探すために走り回ってますよ。」



 そう言ったシロマの声は明るい。

 壁の向こう側は見えないが、きっとシロマは笑顔を見せているだろう。


 それを想像すると、俺も少しだけ安堵した。



「それよりも、ロゼッタちゃんの方こそどうなんですか?」


「どうって?」


「カリーさんですよ。ロゼッタちゃん、いつもカリーさんを目で追っていますよね。あれは完全に恋する乙女の眼です。」


「ええっ!? 嘘!? 私、そんなにカリーさんを見てた?」


「はい。あれだけ意識していたら、私でも気づきますよ。好きだって。」



(おっ!? まじか。やはり見た目か!? イケメン爆発しろ!)



「……ん~。好き……なのかな? 自分でもよくわからないの。でもなんか気になってしまって、見ちゃうんだよね。」


「どういう事ですか?」


「この気持ちが私のものなのか、それとも、ずっと聞かされてきた昔話のせいなのかわからないの。だって、カリーさんは……きっと今も傷ついているから。」


「前に話していた、カリーさんのいた世界での話ですか? 確か……ローズさんっていうお姫様と恋人だったという話でしたっけ?」



(そう言えば俺も詳しくは聞いていなかったな。)



「うん。でも恋人っていう訳ではなかったと思う。お互い好き合っていたけど、結局結ばれなかった。私はそれを聞く度に胸が痛くなってたの。もし私がそうだったらって。」


「そうでしたか。でも、実際ロゼッタちゃんはカリーさんをどう思っているのですか?」


「素敵だと思う。見た目も格好いいけど、纏う雰囲気がどこか切なくて、それでいて優しい感じがして。お爺ちゃんと一緒にいて楽しそうにしている顔も好き。あっ! 自分で言っててわかったわ。私、カリーさんの事好きみたい。」



 嬉しそうな声でカリーの事を話すロゼは、自分で説明していて、その気持ちに気付いたようだ。



「やっぱり好きなんじゃないですか。」


「えへへ。でもね、この気持ちはずっと閉まっておくつもり。」


「なんでですか?」


「だって、カリーさんの気持ちは多分永久にローズさんのものだから。私がそこに入り込む余地なんてないよ。」


「そんな事わからないじゃないですか。気持ちはきちんと口にしないとダメです。必ず後悔します。」


「やっぱり優しいね、シロマちゃんは。大好き! 本当にシロマちゃんと出会えてよかった。」



 その言葉と同時に、パチャっと水飛沫が上がる音が聞こえる。

 多分、ロゼッタが感情に身を任せてシロマを抱きしめたのだろう。



「ちょっと! 苦しいです。でも、私もロゼッタちゃんとこうやって一緒に旅ができて良かったですよ。」


「もう! 本当にシロマちゃんは可愛いんだから!」



 そんな感じで乳繰り合っているであろう二人。


 さっきまで真剣な話になっていて、息子が静かになっていたが、再び成長し始める。


 そんな中、突然男湯の扉がガラッと開いた。



「おぉ! すげぇじゃんシルク。こんな綺麗な温泉見た事ねぇよ。」


「そうでガスな。向こうの世界にはこういうところは無かったでがす。」



 その声を聞いて咄嗟にミラージュを使った俺は、そのまま湯舟に浸かるとミラージュを解いた。


 流石に息子を大きくさせて壁に耳を当てていたら、間違いなくシルクに問い詰められるだろう。


 思いの他冷静だった自分を褒めてあげたい。



「カリー、シルク。」



 俺は不自然にならないように手を上げて声をかけた。



「おっ! サクセス。服があったから誰かと思ったけど、一人で入ってたのか?」


「いや、さっきまでイモコとセイメイと一緒だったんだけど、俺はもう少し入りたくてさ。でも、もうのぼせそうだから上がるところだったんだよ。」


「それは残念でがんす。男三人でゆっくり湯に浸かりながら語りたかったでがんすよ。」


「悪いシルク。でもここには二日滞在することになったから、また機会はあるよ。」


「そうでがんすか。それでは、明日入る時には声を掛けるでがんす。」


「あぁ。じゃ、じゃあまた明日。俺は出るね。」



 そういってそそくさと俺は露天風呂から出ていく。


 結局覗きこそできなかったが、今回は今回でかなり楽しむ事が出来たので満足だ。


 しかし、完全にムラムラしていた俺はそれを解消すべくトイレに駆け込む。


 そしてすっきりした後、部屋に戻るのだが……



(あれ? そういえば……シロマ、俺の良いところについて何も言ってなくね?)

 


 と肝心な言葉を聞けなかったに気づくのであった。

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