第18話 凄惨
ダークマドウを追うべく、急いで隠しアジトを後にしたフェイル達であるが、外の森に出たところで思わずその足を止めた。
そこで彼らが目にしたのは、あまりに凄惨な光景であった。
至る所に転がるは、かつて人の形をしていただろう血まみれの肉塊達。
シルクとゼンは、その全てが自分達と共にこの地に向かった戦士達だと気付いた。
シルクが選出したメンバーは、メリッサ国において最も強く優秀な戦士達。
その誰もがゼン程でないにせよ、魔物10匹程度ならば単騎で全滅できるほどの力を持っている。
故にアジトの外に多くの魔物が現れたのは知っていたが、半刻も経たない内に全滅しているとは夢にも思わなかった。
ーーましてや、こんな無残な死に方をしているなどとは……。
「これは……まさか!? すまない……みんな。」
シルクは、自分の判断で味方を全滅させたと責任を感じている。
当然、こんなところに多くの魔物が一気に現れる事など誰にも予測等不可能であるし、それを全てシルクの責任というのはあんまりであろう。
しかしどんな理由があるにせよ、その結果を上官であるシルクが負うのは当然だった。
「これは酷い死に方だな。魔物と戦って死んだようには見えないが……とりあえず生きている奴がいればバーラに回復してもらえ。それとこの中にさっき王子が話していた大臣がいるかも確認して欲しい。」
シルクと違いこのような光景は見慣れていたフェイルは、冷静に指示を出す。
鋭利な物で斬り刻まれた死体
体中、何かに刺された穴がある死体。
至る所を噛み千切られている死体。
そのどれもがアンデッド系の魔物と戦って死んだ状態ではない。
そのためフェイルは、死んでいる事よりも、不自然な外傷の方が気になっていた。
「聞いた? 生きている人がいたらすぐに私に教えて! ……でも変ね、これだけ仲間が死んでいるのに魔物が一匹も見当たらないわ。それに何故か馬は無事みたいだし……」
「あぁ、確かに気配からして付近に魔物はいなそうだ。」
バーラとカリーは倒れている者を確認しながらも、その現状に疑問を浮かべた。
これだけの戦死者がいるにも関わらず、馬は木に縄で繋がれたままで生きている。
それに兵士達が全てのモンスターと相打ちになったとも考えにくい。
すると突然シルクが声を上げた。
「勇者様!! ここにまだ息がある者がおります。」
「バーラ!! 直ぐに回復してくれ!」
「わかったわ! もう大丈夫よ! 【エクスヒーリング】」
シルクの前で倒れている戦士に、バーラの杖から癒しの光が迸る(ほとばしる)。
すると瀕死の重傷だった兵士はその光を受けて回復していき、その目を開いた。
「ウォリア! しっかりしろ! 意識はあるか!?」
「た、隊長……? すみません。王子は無事ですか?」
ゼンがその兵士に近づいて呼びかけると、大分回復したのかウォリアと呼ばれた戦士は口を開く。
「謝らなくていい。安心しろ、王子は無事だ。」
「ウォリア、すまなかった。私は勇者様達のお蔭でなんとか生き残った。それより何があったか教えてくれないか?」
「はい。突然、地面から大量の魔物が現れまして、我らはそれと戦っておりました。魔物は倒しても倒しても一向にその数が減る事がなく、際限なく沸き出てきたのです。やがて疲弊し始めた頃に、ズーク大臣が我々に回復ポーションを渡してくれました。」
ゼンに続いて近づいてきたシルクが尋ねると、ウォリアは矢継ぎ早に報告する。
そしてその報告にシルクは驚いた。
敵のはずのズークが仲間を回復させるとは思えない。
「ズークが回復薬を?」
「はい。ですが、それは回復薬なんかではありませんでした。確かに最初は疲れが吹き飛んでいくのを感じると胸の奥から熱い感じが湧き出てきて、全員の戦闘力が上がった感じになったのです。そしてその薬のお蔭で付近にいる魔物を倒しきることができ、それを確認した大臣がどこかに走りだした後……そこで異変が起きました。」
「ふむ。ズークはやはり逃げていたか。それで異変とは?」
「今度は、仲間全員が同士討ちを始めてしまったのです。私も記憶が定かではないのですが、こう、なんというか殺戮衝動というか……とにかく誰かを殺したくて仕方なくなり……。」
そこまでウォリアが話したところで、バーラが口を挟む。
「それはバーサク薬ね、それを飲むと疲れを感じなくなって戦闘力が上がるわ。その代償として自制心を失って、死ぬまで戦い続けるの。あなたが生きていたのは、最後の一人になった事と流した血で薬の効果が切れたからね。」
その言葉にウォリアは顔を青ざめさせる。
「そ、そんな……。それじゃまさか、まさか俺がみんなを!? 俺は仲間を殺したのか!?」
「いいえ、それは違うわ。全員が全員で殺し合ったのよ。あなたが全員殺したわけではないし、そもそもあなたに罪はないわ。悪いのはその薬を飲ませた大臣よ。」
バンバーラが冷静に宥めるも、ウォリアの顔はどんどんと青ざめていき、遂には発狂した。
「う……うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
突然頭を地面に打ち付け始めるウォリア。
仲間を殺した……その記憶はうっすらとしか残っていないが、何故か手には仲間を殺した感触が残っている。
そしてその体に付いた仲間の血が、その事実を裏付けていた。
「やめろバカ者!! お前のせいではない、断じてお前のせいなどではない!!」
「そうだ。悪いのは全て私だ。許してくれとは言わない。だが、その責任と贖罪は必ず私がする。」
自傷行為を繰り返すウォリアをゼンが羽交い絞めにして抑えると、シルクは両手でウォリアの顔を挟んで目を見て言った。
ゼンに押さえつけられながらも、力の限り暴れて続けるウォリア。
しかしその目に映るシルクの眼を見て落ち着きを取り戻すと、力が抜け落ちたようにその場にへたれこんだ。
「違うだろ。悪いのはズークだ。あんたじゃない。」
「いや、これも全て私の考えが浅く、そしてズークの罠に嵌ってしまった私の責任だ。」
カリーの言葉に申し訳なさそうに返すシルク。
「そうか。まぁ俺には関係のない事だったな。それよりもフェイル。ダークマドウの向かった方角が分かったかもしれない。」
「本当か?」
「あぁ、人が走っていった痕跡が見える。多分、そのズークってクズ野郎のものだ。ズークとダークマドウは繋がっているはず、それなら今頃合流しているかもしれない。」
カリーは倒れている者を確認しながらも、周囲の状況を念入りに観察していた。
一見しただけではわかりづらいが、カリーは草葉の損傷から足跡を辿る事が出来る。
これもレンジャーの時に鍛えた経験の賜物であった。
「よくやった、カリー。じゃあ馬に乗って追うぞ。シルク王子、あなたにはついて来てもらう。悪いが時間がないから直ぐに追うぞ。」
「当然です。ゼン、すまないがウォリアを頼む。それと亡くなった仲間の体を集めておいてくれ。ローズを助けた後、彼らをしっかりと家族の下に返し、そして丁重に弔いたい。」
「はっ! し、しかし……。」
ゼンは迷っていた。
シルクが言う事は最もだし、自分がいなくとも勇者パーティがいれば自分といるより安全かもしれない。
とはいえ、勇者とてずっとシルクの護衛はできないだろう。
何があった時に、やはり身を挺してシルクを守れるのは自分だけ……。
どうすればいいのか、続く言葉に窮したゼンであったが、その時突然地面に突っ伏していたウォリアが立ち上がった。
「私なら問題ございませぬ! 隊長! あなたは王子を守って下さい。逝った仲間の為にも、王子を守りきってください。そして、ここにいる倒れた仲間達は……私が責任をもって対応します。」
「大丈夫なのかウォリア? お前はそれでいいのか?」
「本当は私の手でズークを八つ裂きにしてやりたいです……が、それよりも殺してしまった仲間の……」
「わかった。それ以上言わなくていい。お前の気持ちは私が受け取った。王子は必ず守る。だから……頼んだぞ、ウォリア!」
ゼンがそう言うと、ウォリアは大きくうなずく。
そしてフェイル達は馬に跨ると、カリーを先頭に再び進み始めるのであった。
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