第10話 エロ川
「サクセス様。この川が国境の境となっており、川に架けられた橋を渡れば、もうそこは小江戸皮肥え領でございます。ちなみにこの川はエロ川と呼ばれ、この国で一番長い川ございます。」
そうセイメイが説明する川の上には、大層立派なつり橋が架かっている。その橋は川の大きさに合わせて作られているからか、馬車が横に5台並んでも渡れる程幅が広く、橋に架かっているロープも金属製のようで、とても頑丈そうだ。
現在俺達が来ているのは、山脈を越えた先の大きな川の下流である。
川幅が広く、底が浅そうに見える川は、風が川の表面をくすぐるように吹き抜け、その波紋が所々に蓮の花のように浮かんでいる。
そこに架かっている壮大な橋も相まって、絶好の風景だった。
そんな景色を感慨深げに見つめていたところで、さっきのセイメイの言葉よ。
エロ川ってなに!?
俺の感動返してよ!!
「しかしまぁ、こんな綺麗で大きな川なのにエロ川だなんて、酷いネーミングだな。その名前を付けた奴は頭のネジが数本ぶっ飛んでるんじゃないか?」
「はい。確かにその名前を命名した、松尾爆笑様はユーモアがお好きな方であったと伝えられております。しかし、そのような名前になった由来を考えれば、あながちおかしな名前でものうございます。」
既に名前に爆笑とついている時点でダメな気がするが……。
「んで、その由来ってのは?」
「昔々、この川には河童と呼ばれるモノノ怪がおりまして、そのモノノ怪は若い女子が川に入ると必ずその身ぐるみを剥がしてきたそうです。しかし、身ぐるみを剥がされた女子は特に怪我などはさせられることはなく、お尻を一撫でされて解放されたとのこと。故に、そのモノノ怪は俗にエロガッパとも呼ばれており、そのエロガッパが現れる川という事でエロ川となったそうでございます。」
うわぁ……すげぇ安直なネーミングセンス。
松尾爆笑さん、もう少し捻ったらどうだい?
しかし、可愛い女子の服を脱がして、お尻を触る変態妖怪か……。
とんでもねぇところだな、サムスピジャポン。
「なるほどな。それで、そのエロガッパはまだでるのか?」
「いえ、遠い昔に多くの陰陽師によって退治されており、今では現れることはありません。つまらない話を申し訳ございませんでした。」
「いやいや、なんか、こう、観光案内みたいな感じで悪くはなかったよ。また何かあったら教えてくれ。」
「はい! わかりました!」
なぜかセイメイは、凄く爽やかな笑顔を浮かべて良い返事をしている。
多分、こいつは知識欲の塊で、こうやって歴史とか話すの好きなんだろうな。
それならシロマと話が合いそうなものの、なぜかあまり二人の仲は良さそうではない。
まぁ、イーゼとリーチュンの時みたいに、あちこちところかまわず喧嘩しないだけましではあるが。
「確かにここはすげぇなぁ。俺も色々旅してきたけど、こういう風景は初めてだわ。」
「私達の大陸にはこのような橋はありませんね。これだけでも、この大陸の文明水準が高い事が窺えます。」
カリーとシロマもこの風景には驚いているようだ。
かく言う俺は、今ではこの川や橋よりも、河童という変態が気になってしょうがない。
多分出会ったら俺は仲良くなるだろう。
そしてお互い肩を組みながら、気になるお尻談義に花を咲かすであろう。
でも、討伐はされたくないな……。
「それでは師匠、そろそろ進むでござるよ。今は魔獣の気配はないでござるが、橋の上で襲われると厄介でござる。」
「そうだな。じゃあ行くか。確かに魔獣が近くにいない内に渡った方が賢明だな。よし、みんな、警戒は怠るなよ。いくぞ!」
俺がそう言うと、全員が気を引き締めて橋を渡った。橋を渡る時は、御者以外のメンバーは全員馬車から降りて渡っている。流石にこの場所で敵に襲われたり、何かあった時に馬車の中にいてはまずいからな。
そして実際橋を渡ってみると、結構下までの距離があるようで、下を見ると胸がなんかドキドキしてくる。
普段、空を飛んでみたり、高くジャンプすることはあるのだが、それとはまた別な感じだ。
シロマも少し緊張しているのか、胸を手で押さえている。
「大丈夫か? シロマ?」
「はい。問題ありません。ですが……やはり少し……怖く感じますね。」
ここは、やはり男として手を握るべきだろうか。もういいんじゃね? だって恋人だって宣言してるし。でも、みんなの前ではやっぱりちょっと恥ずかしいな。
「し、シロマ。手、に、にぎりっぺ……。」
俺はそっとシロマの方へ手を差し出した。しかし極度の緊張から拳を握りしめたまま開いておらず、更には方言が出て上手く言葉を言えない。
側から見たら、この状況は完全にあれだ。
そう、握りっぺ……
そして俺が握った拳を開いた瞬間、シロマは無言で鼻を摘まんだ。
ち、ちがうっぺ。
にぎりっぺじゃなくて、にぎるっぺ……いや握っておこうかって言おうとしたのに!!
こんな時、スマートに言えるイケメンが憎い!!
盛大に勘違いされる俺。顔から火が出そうな程恥ずかしい。
緊張しているシロマに握りっ屁かますとか、どんな奴だよ。
シロマが凄い目で見ているぞ。
そして何も言わず俺からそっと離れるシロマ。
OH ノーーー!
「サクセス様、間もなく橋が終わります。サクセス様? いかがされましたか?」
「あっ……いや、なんでもない。こ、こいてないから! 違うから!!」
シロマにも聞こえるように大声で弁解する俺。すると、セイメイはそんな俺を不思議そうに見つめている。
「なるほど。サクセス様でもかかるんですね。」
「かかる? いやかかってないって……違う! だから、こいてないってば!!」
「こいてないとは? てっきりサクセス様もつり橋効果にかかっているのかと……。」
「ん? つり橋効果?」
「はい。つり橋効果とは、つり橋を渡る時にかかる魔法のようなものでございます。それにかかるとなぜかドキドキしてしまうのです。今でこそ、魔物が多くなってここを通過される人は減りましたが、昔はこの橋に結構な数の若い男女が集まり、にぎわっておりました。」
確かにさっきまではつり橋効果とかいう奴にかかっていた気がする。
でも、今は違う意味でドキドキだっぺよ。
まぁ、上手く話しが逸れていいか。
「ところで、なぜそれが若い男女の集まる理由になるんだ?」
「そうですね。わかりやすく説明するならば、男女でつり橋を渡るとつり橋のドキドキと相手へのドキドキがごっちゃになるのです。そのドキドキが異性へのトキメキと錯覚し、より相手を求めるようになるとのことです。故に落としたい異性がいる場合や、刺激が欲しくなったカップルが訪れるにはうってつけなのですよ、ここは。」
は、はくしきぃぃぃーーー!
つか、もっと早く教えてくれよ!
「な、なるほど。流石、サムスピジャポン。」
俺がセイメイの説明に納得していると、いつのまにか隣に戻っていたシロマもなぜかフンフンしている。
俺の握りっ屁よりも、セイメイの話を聞きたい欲求が上回って前に出ちゃった系か。
それなら、もうさっきの事は忘れてくれるとありがたいな。
すると、シロマが俺の服の袖をそっと引っ張り、小さな声で耳打ちしてきた。
「サクセスさん……私はこんなのがなくてもドキドキしていますからね。」
「ファッ!! って変な声でちゃったよ。ビックリしたわ。つか、橋よりドキドキするからやめてけれ。」
「ん。さっき私の事を驚かせたことのお返しです。」
そういって話すシロマの笑顔はとても無邪気であった。
どうやら、シロマはさっきのが俺の誤爆と分かっててからかっていたらしい。
くそ! してやられたぜ!
しかし、前ならシロマはこんなお茶目な事はしなかったような……。
イーゼ達がいないからなのか、それともこの大自然の中で開放的になっているからなのか?
まぁいずれにしても、普段と違うシロマが見れて、俺は嬉しい。
というか、さっきのあれのせいでドキドキが止まらない。
これが全て終わった後での観光だったらどれだけよかっただろうか……。
こういう甘い状況にも関わらず、どうにも胸のモヤモヤがあって本気で楽しめない。
いや楽しんではいるのだけどね。
やっぱり早くオーブを見つけて、ビビアンを大魔王の手から解放してあげたい。
それにイーゼやリーチュンについても、まだ心配だ。未だに俺の不安は尽きない。
緩んでばかりじゃだめだろ、俺。
最速でオーブを集めるんだ。
その為ならなんだってやってやる!
ビビアン……待ってろよ!
必ず俺がお前を救ってみせるからな。
そう心に誓った俺は、再び小江戸皮肥えの都まで進んで行くのであった。
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