第16話 三色丼
重兵衛に案内されて宿屋に入った俺達は、とりあえずシロマを部屋で寝かせた後、一度食堂に集まった。食堂といっても俺達が暮らしていた大陸にある食堂とは違い、畳が敷かれた場所が襖(ふすま)と呼ばれる扉のような物で仕切られており、完全に個室となっている。
そんな個室がいくつも設置されていて、「すいません」と声を掛けると係の人が来て、注文等をとってくれる仕様のようだ。
ここに現在いるのは、俺とゲロゲロ、そしてカリーとイモコの4人である。セイメイはまだ城主のところから戻っておらず、シロマは休んでいる。そしてここまで案内してくれた重兵衛と小五郎は、職安に向かって今回の事を報告しにいったようだ。本来ならば、もうここで二人とはお別れなのだが、なぜか職安に向かう前……
「サクセス殿……いえ、師匠。必ず某らは戻ってくるでござる!」
と鼻息を荒げながら顔を近づけて報告すると、走って出て行ってしまった。それを聞いていたイモコは何やら憤慨していたが、何となく理由はわかる。つか、なんだよ。いつの間に俺は師匠になったんだ……。まぁこの案件はイモコに投げておけば平気か。うまくやってくれるだろう。
ーーそれよりも……
「イモコ……今回の事、お前はどう思う?」
「正直わからないでござる。ウロボロスの復活前には魔獣が活性化すると云われているでござるが、ウロボロスの復活まではまだ3年あるでござる。故に、某には今回の状況に思い当たることがないでござるよ。しかし、二つだけわかることがあるでござる。」
「なんだ??」
「一つは、今この国が未曾有の窮地に立たされている事、そしてその今、この大陸にはそれを救える英雄がいるという幸運でござる。」
イモコは目を輝かせながら語った。その期待に満ちた目をされると、何ともこそばゆい感じと共に、俺にこの大陸を救う事が本当にできるだろうかという不安に襲われる。そして、そもそも俺はここにオーブを探しに来たわけで、それを疎かにすることはできないし、かといって、知ってしまったこの状況を放置することもできない。
本当に困った。
「心配すんな、サクセス。お前だけに背負わせるつもりはねぇよ。それにイモコ、おまえよ、あんま勘違いすんなよ? 確かに俺達は出来る限りここに住んでいる人を助けるのも吝か(やぶさか)じゃねぇが本来の目的は違う。あまりサクセスに無理言うんじゃねぇ。こいつは何でもしょい込む悪い癖があるからな。まぁ、それがサクセスの良いところでもあるけどな。」
そういって、ニカっと軽い感じで笑いかけるカリー。
やっぱりカリーは優しいな。
俺に兄貴がいたらこんな感じなのだろうか。
「失礼したでござる。当然、この国の事はこの国の者で何とかするべきでござる。」
「いや、俺も流石に苦しんでいる人たちを放置はできないから、全力で助けるつもりだよ。目の前の人すら救えないで、世界を救うことなんかできないだろ?」
「そうだな……。まぁそれよりも、俺が気になるのは重兵衛達が見たっていう3体の魔獣だ。本来ならここに来る間に遭遇するか、ここがそいつらに襲われていてもおかしくねぇはずだ。だけどいなかった……。」
カリーの疑問は俺も思っていたところだった。下尾はたった3体の魔獣に滅ぼされた。今回、皮肥に襲い掛かって来た魔獣にそれはいないという。何か嫌な予感がするな。
俺がそんな事を考えていると、突然襖の外から声が聞こえてくる。
「こちらでございます。」
女性の声が聞こえると同時に、襖が開いた。すると、セイメイが中に入ってくる。どうやら城主への説明が終わったようだ。今後の事を話すのにセイメイが必要だったので、グッドタイミングである。
「皆さま、遅れてしまい申し訳ございませんでした。」
入ってくるなり、深々の頭を下げるセイメイ。
「あぁ、全然大丈夫だ。むしろちょうどいいタイミングだった。とりあえず、入って座りなよ。」
「はい。それではお言葉に甘えさせていただきます。」
そう言って何故か俺の隣に座るセイメイ。
いや、別にいいんだけどさ……。他にも空いてるところ沢山あるでしょ?
「んで、どうだったんだ? 城主に何か言われたか?」
「はい。城主様は大変感謝されております。色々とお伝えすることもありますが、まずは皆さまお疲れでお腹もすいているでしょうから、先に食事をされてからがよろしいかと。」
セイメイはカリーの質問に、たんたんと答える。そして言われてみれば、俺は腹ペコだ。そして、ゲロゲロもまた腹がすきすぎてか省エネモードになって、胡坐をかいた俺の足の上で丸くなっている。
「そうだな。まずはじゃあ腹ごしらえだな。シロマの分は後で部屋に持っていっていくかな。」
こうして、とりあえず俺は久しぶりに落ち着いた食事をとった。久しぶりと言っても、そこまで経ってはいないんだけどね。それにしても、サムスピジャポンの料理は美味しい。オオワライでもそうだったが、刺身という生魚がとにかくうまくてご飯がすすむ。
中でも、セイメイがお勧めしてくれた三色丼はヤバうまだった。
ウニ、イクラ、ネギトロ、と呼ばれる海産物がどっさり乗せられており、その3つのどれもが旨いのだが、3つ合わさる事で絶妙のハーモニーを口の中で奏でていた。
舌の上で濃厚な味を残してとろけるウニ。
プチプチっと弾力のある表面が弾けて、中から強い甘味のある液体が溢れ出るイクラ。
そして、柔らかくも口の中を幸せで満たしてくれるネギトロ。
思わず俺は3杯もお替りしてしまった。実はどれも高級な食事らしいのだが、今回俺達が泊まる分のお金と食事代は全て城主が払ってくれるとのこと。別にお金に困っている訳ではないが、ただ飯程うまい物はないと思うのは、やはり俺が貧乏症が抜けないからだろうか。
「それでは、そろそろ報告させていただいてもよろしいでしょうか? サクセス様。」
丁度俺達が食事を終え、最後のデザートのクリームあんみつを食べ終わった頃にセイメイが話を切り出す。まったりし始めそうだったから、その前に話してくれるのは逆に良かったかもしれない。流石セイメイだ。
「あぁ、頼む。できるだけ俺にもわかるようにな。」
一応念を押しておく俺。正直、カリーもイモコもセイメイも優秀過ぎて話についていけないことが多いからだ。あまり先読みされた話は苦手である。
「わかりました。まずは要点だけを順に説明させていただきます。一つ目は、今回の討伐報酬について、明日、直接皮肥城において城主自らがお渡しするとのこと。二つ目は、下尾を壊滅させた魔獣の討伐若しくは調査依頼でございます。」
「なるほど、わかりやすい。んで、何時に謁見予定なんだ?」
「いつでもよろしいそうです。この国を救った英雄に時間を決めて呼びつける等恐れ多いとおっしゃっていました。」
「へぇ~。珍しい王様? 城主様だな。それを聞くだけでも話がわかりそうな人だとわかるわ。でも、魔獣については俺も心配だけど……正直どうすればいいかわからないな。ゲロゲロに乗って、空から探すとかがベストだろうか?」
「それについては、私の方からも城主様に説明させていただきました。しかし、とりあえず詳しい話は会ってから考えるとのことです。そしてこの町の城主様は、人徳が優れているという事で有名でございます。生まれはこの大陸ではなかったそうですが、昔大きな人同士の戦があった頃、圧倒的な戦闘力でこの国を守り切り、当時の姫様と結婚されて城主になった方でございます。」
「そういうことか。だから、話が分かる人なんだな。じゃあとりあえず、今後どうするかは明日話し合えばいいか。今日はみんな疲れてるだろうし、風呂にでも入ってゆっくり休もう。」
俺がそう言って話を締めると、既にお腹いっぱいで爆睡しているゲロゲロを抱いて部屋に戻る。シロマはまだ寝ているようだったので、女将にはシロマが起きたら料理を出してもらうように伝えてから、俺も風呂に入ってからゆっくり休むのであった。
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