第17話 皮肥城

 翌朝、俺は日が昇るよりも早く目が覚める。昨日は温泉にゆっくり浸かって体を温めると、布団に入った瞬間眠ってしまったようだ。やはり馬車の中で寝るのと、布団で寝るのでは疲れのとれ具合が全く違う。



「カリーとイモコはまだ起きそうにないな。」



 一緒の部屋で寝ている二人を見て小さく呟くと、俺はできるだけ音をさせないように部屋を出た。俺達が泊まった宿は4階建てで、この部屋は最上階の4階である。温泉は2階にあり、ちょうど目も冴えてきたことだし、俺は朝風呂をしようと2階に降りて行った。



ーーすると



「あ、サクセスさん。おはようございます。昨日はすみませんでした。」



 2階に降りたところでシロマにばったり会った。昨日はかなり血色の悪い顔をしていたのだが、今は健康的な色白の肌に戻っている。どうやら、一日休んだ事で回復できたようだ。



「おはよう、シロマ。体の調子はもう大丈夫なのか? 飯は食べた??」


「はい。おかげ様でかなり疲れも取れました。ご飯はお風呂に入る前に頂きましたよ。とても美味しかったです。ありがとうございます、サクセスさん。」


「やめてくれよ。お礼を言われることなんて何もないさ。むしろ俺がシロマにお礼を言いたいよ。頑張ってくれてありがとな。」



 俺がそう言うと、シロマは少し照れたのか、火照った顔を更に赤くする。どうやらシロマは俺が来る前に朝風呂に入っていたようだ。髪がしっとりと濡れていて色っぽい。



 むらむら……。ムクッ!



 くそ……。

 もう少し早くきていれば……ミラージュを使って覗けたのに!



「シロマはもうお風呂に入ったみたいだね。お、俺も今から入るわ。」


「はい。覗けなくて残念でしたね。」


「ちょ!? なんば言いよっとね!? そげなことせんばい!!」


「ほんとですかぁ~? 言葉が変ですよぉ~?」


「じゃ、じゃあ! また!!」



 俺はそれだけ告げるとその場から逃げ出した。なぜならば、俺の息子が完全覚醒をして、シロマに挨拶をしようとしていたからだ。あの状態じゃ言い訳なんてできない。てかさ、いい加減、焦ると訳のわからない言葉になるをどうにかしてくれ! とんずらめぇぇぇ。



 とまぁ、そんなこんなでみんなが起きるまで、俺はゆっくりと朝の露天風呂を堪能した。そして全員が起きて、一緒に朝食とった後、俺達はセイメイの案内で皮肥城に向かう。出発する前、何故か宿に戻っていた重兵衛達であったが、イモコに何かを言われると付いて来る事はせずに、俺達を見送ってくれた。



「なぁ、イモコ。重兵衛達の件なんだけどさ。」


「心配いらないでござるよ。ちゃんと昨夜わからせてやったでござる!」


「わからせて……?」



 何したんだろ? ボコボコにしたのかな?



「重兵衛達は某の弟子にしたでござるよ。師匠にご迷惑はかけないでござる。」



 そっちか! まぁイモコは大将軍様だからな。俺の弟子になるより、数倍学べると思うよ。



「おぉ、ならよかった! てかさ、イモコってマジでこの大陸で有名なんだな。みんなお前の噂をしていたぜ。」


「恥ずかしいでござる。某は師匠に比べたら芋虫みたいなものでござる。」


「芋虫って……。卑下しすぎだろ。つか、イモコは優秀だよ? それは俺もよく知ってる。」


「ありがたき御言葉にござる。その言葉に恥じないよう、精進するでござる!」



 精進かぁ……。そういえば、イモコのレベルはもう99なんだよなぁ。上級職に転職できればいいんだけど、その辺も含めて城主に聞いてみるか。


 そのまま俺達はしばらく城下町を歩いて行くと、目の前に大きな建物が見えてきた。


 あれが城主のいるお城らしいけど、今まで見てきたお城とは大分違うな。

 なんというか、古風というか……戦いを想定したような作りというか……。



「サクセス様。あれが皮肥城でございます。サクセス様がいらっしゃった大陸では珍しい造りかと思われますが、この大陸では、ほとんどがあのような形をしております。この大陸には、戦国時代と呼ばれた時期がありまして、その当時、こういった造りの城が増えたようです。」



「なるほどな。んで、あれはなんだ?」



 俺は城の周りにある小さな城っぽいものを指して聞いた。



「あれは小天守ですね。今サクセス様が指しているのが二の丸とも呼ばれ、国の側近等が住んでおります。その奥にあるもう一つの小さな建物が三の丸です。その他にも、あの高い塔のような建物は物見櫓と言って、周りの状況を見たり、そこから矢を放ったりもできる場所でございます。」



 ほえぇ~。なんか、凄いな。

 ちょっと見てるだけでワクワクすっぞ!



「なんか……凄いね。じゃあ、あの一番でかい建物が?」


「はい。城主様が住む本丸でございます。本日は本丸に招待されておりますので、そちらまで向かいます。お城に入ってからも迷路のようになっておりますので、私にしっかりついて来てください。」



 そう言いながら、セイメイは俺の手を取った。それはまるで、子供が母親に連れられて歩くような感じである。


 って!

 いやいや、おかしいだろ!



「お、おう。でも、別に手を握らなくてもいいんじゃないか?」


「はっ! すいません。つい、サクセス様が迷子にならないようにと、無意識に……。」



 じ~……



 なぜかそれをシロマがジト目で見ている。いや、でもセイメイは男だし、名声が欲しいだけらしいから違うよ?

 え? 違うよね?? 



 なぜか言い得ぬ不安を感じつつも、そのままセイメイの後ろに続いて城の中を歩いていく。



「着きました。ここが本丸にございます。それでは城主の間までご案内します。」



 セイメイがそう説明すると、俺達は厳つい門を開けて中に入った。中に入って直ぐに靴を脱ぐように言われた為、そこで靴を脱ぎ、木製の床を歩いて城主の間に向かう。



「失礼します。セイメイでございます。サクセス様をお連れしました。」


 

 虎の絵が描かれた豪華な襖の前でセイメイが中に声を掛ける。



「うむ。ご足労をかけた。入りたまえ。」



 中から聞こえた声は大分渋い声……というか、おじいちゃんっぽい声だった。セイメイはその声を聞いて襖をあけると、中は畳敷きの大広間となっており、両サイドにイカツイおっさん達が立ち並び、奥に綺麗な女性と高齢のお爺さんが立っていた。



 なるほど、あれが噂の城主か。顔がなんつうか、他の人と違うな。この大陸でいうと外人風って感じか。俺達が住む大陸には多い顔だけど。年齢は60歳は越えている感じか? しかし、隣にいる女性はどう見ても10代だろ? まさか……あれが妻……とかだったら、城主はロリコンなのかもしれない。



 俺は、そんな失礼な事を考えながらも城主の前まで歩いていく。すると俺達が近づくに連れて、城主の様子がおかしくなる。まるで、信じられないものを見たが如く、目を大きく見開き……そして号泣し始めた。



 ええええええ!!

 ちょちょちょ!? どういうこと!?



 これには、周りに控えているおっさん達やセイメイも驚く。一体何が……。

 全員が城主の様子の変化にオロオロしていると、突然城主が叫びだした。



「フェイル様! そしてカリー……!! よくぞ無事で……。おおおおおおぉぉぉぉぉ!!」



 その言葉を聞いて、カリーが一歩前に出て、城主の顔をマジマジ見ている。すると、カリーもハッとした顔をして何かに気付いた。



「お前……ま、まさかソレイユか? ソレイユなのか!?」



 そういえば、カリー達の世界でソレイユという仲間がいたと聞いたな。

 でもカリーと同じ年齢だと言っていたような……。どういう事だ?



「そうだとも! ワシ……いや、俺っちは正真正銘のソレイユドシルクでがす。」


「その話し方……間違いない。ソレイユ! ソレイユ生きていたのか!? 探したぞ! しかし、まぁ、なんでそんなジジィになってんだよ!? まぁそんなことはどうでもいい! 良かった! 生きててくれたんだな!」


 カリーはそう言うと城主を抱きしめ、そして城主ことソレイユもまたカリーを強くハグした。どうやら、城主はやはりカリーの仲間だったようだ。


 

 というか、ワシから俺っちって……。

 それで判別するとか、ちょっと笑えてしまうが、感動の再開に水を差すわけにはいかないから我慢だ!



 俺は一瞬吹き出しそうになるのをグッと堪えると、それを見ていた側近が突然叫んだ。



「貴様!! 殿に対してジジィとは無礼千万!」



 俺が必死に我慢していたのに、お前、水差してんじゃねぇよ。馬鹿なのか? 見れば知り合いだってわかるだろ。



「黙れ!! 貴様こそ、俺っちとカリー達との再会を邪魔するんじゃないでがす!」


「し、しかし……。」


「お前たち、全員出て行くでがす!」


「い、いえ、殿を一人にする訳には……。」


「俺っちの言う事がきけねぇって?」



 その言葉に側近達は遂に引き下がった。そして、なぜか側近達は俺を睨みつけてそのまま城主の間から出て行く。


 えええ?

 俺、なんもしてないんすけど……。

 まぁとにかく、カリーが探している人が見つかって良かったよ。



 城主は側近を怒鳴り飛ばすと、今度は俺の方に近づいて跪く(ひざまずく)のであった。

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