第57話 闘技場とモンスターレース

 早めの昼食を終えた俺達は、一度サービスカウンターでコインを大量に預けた後、300コインだけ持って地下に向かった。



「なぁ、ここ……広すぎないか?」


「はい、一階の三倍以上ありますね。地下は円形になってるんですね。」



 俺達が地下に降りてまず最初に驚いたのは、この広さだ。

 外枠が網で覆われた円形となっており、説明するならこんな感じである。



   ⦿



 ……。



 これでわかってくれるだろうか?

 形と柵から見て、多分だが外周はモンスターレースのコースとなっていて、中心の凹んだ円形が多分闘技場である。

 降りて来た階段の背にコース、前に闘技場といった作りになっていた。

 これも予想だが、レースの関係で地下は大きく作られているのだろう。


 それにしても凄い作りだな。

 降りる階段が長いから、地下が深いとは思っていたが、深さじゃなくて広さに驚くとは……。



「あ、サクセスさん。見てください。掲示板があります。」


「お、ほんとだ。隣にカウンターがあるけど、あそこでコインを支払って、賭けるのかな?」



 階段を下りて、直ぐのところに大きな掲示板と小さな小屋を見つける。

 小屋の中にはバニーさんがいて、コインと紙を交換していた。


 俺達はさっそく掲示板を確認しに行くと、そこに書かれていた内容は、今日の闘技場の対戦表とオッズ。

 それとレースの予定表と出場モンスターだった。


 そしてそこには、さっきボッサンが言った通り、第五試合にヘルアーマーの対戦が載っている。

 オッズについても、ボッサンから聞いていたとおりであった。



「なるほどね、レースと闘技場は交互に行うのか。こりゃ、たしかにたまらんわ。」


「ですね、まだ第五試合まで時間があります。せっかくですから、100コインづつ賭けて遊びましょうか。」



 シロマは、やる気満々である。

 だが、しかし、なんだろ……。

 多分、シロマは全部コインを無くすような気がする……。



「そうだな! ここまで来てやらない理由はないしな。」



 俺達はそういうと、闘技場とモンスターレースに早速コインをかけることにした。


 モンスターレースも闘技場も、一つ言えることは、基本的に参加するモンスターの種類が違うという事。


 一番最初は闘技場だった。


 対戦表は、



  惑わしチョウチョ  10.8倍

  海賊カニ       3.5倍

  オオアルマジロ    9倍 

  デスカラス       4倍



である。


 俺は、とりあえず初見は賭けない事にしたが、シロマは、大分悩んだ末、デスカラスに20コイン賭けていた。



 そして、戦いのゴングが鳴らされる。


 戦闘が始まると、シロマは凄い集中した目で観戦し、体を動かしながら叫んでいる。



「ちょっとなにやってるんですか! ダメです! 惑わしチョウチョを先に狙って……あぁ! もう!」



 最初にやられたのはオオアルマジロであったが、次はデスカラスだった。


 序盤は優勢であったが、海賊カニと一騎打ちをしてしまい、更には、お互い惑わしチョウチョの幻覚を食らって、共倒れである。


 つまり、勝者は大穴の



 【惑わしチョウチョ】



 そして、シロマは始終大興奮。


 こんな激しい一面が見れるとは……。

 ちょっとお尻をさわさわしてもばれないかもしれないな。



「残念です! 悔しいです! 次は絶対当てます!」



 シロマはそういうと、次のレースの対戦表をメモし始めて、なにやら書き込んでいる。

 持ち前の知識で勝率を上げようという算段だ。


 悪くはないけど、やはりギャンブルだからな。

 色々と難しいと思うよ、シロマ。



 一方闘技場内は、試合が終わると観客達が一斉に何かを投げ入れている。

 そしてそれらは、ヒラヒラと地面に落ちていった。


 もうわかると思うが、外れ券だ。


 周りから「クソ!!」「サノバビッチ!」などと言う罵声が飛び交っている。

 第一試合から会場は大盛り上がりである、色んな意味で。


 かく言う俺も、今回は賭けてはいないものの、かなり興奮していた。



 正直言って、クソ面白い。

 こんなに面白い世界があったなんて、びっくりだ。

 次は絶対賭けよう!



 次に行われたのはモンスターレース。


 対戦表は、



  ニッカクラビット  7.7倍

  ゴンドラフライ  6.2倍

  惑わしチョウチョ  8倍

  オオアルマジロ   3倍



であった。


 それらのモンスターは、丁度アリエヘンの北側の森に生息するモンスターで、俺にもある程度の能力はわかる。

 どうやら試合が進むにつれて、出てくるモンスターも強くなっていくようだ。



「サクセスさん、私決めました。さっき惑わしチョウチョが勝ってましたので、今日はそういう日だと思います。なので、私は惑わしチョウチョに30ゴールド賭けます!! サクセスさんはやっぱり見送りですか?」



 その目は、完全にギャンブルジャンキーの目だった。


 いや、さっきメモしてたけど、あれ?

 論理的に判断するんじゃ……。

 完全にそれって、ゲン担ぎ系じゃね?


 どうやらシロマは、ギャンブルになると正常な思考からタガが外れるらしい。

 まぁそれはいいとして、今回は俺も賭ける。


 さっきは余裕ぶって見送ったが、今回は初見でも参加するべきだ。

 なぜならば、後半に出てくるモンスターは知らないのばかりだったからである。


 俺が賭けるなら、やはり序盤が勝負!



「いや、今回は俺も賭ける。ニッカクラビットに100ゴールドだ!」


「えぇ!! それ、外れたらもう終わりじゃないですか? 大丈夫ですか?」


「まぁ、そん時は第五ゲームまで大人しく観戦してるさ。俺は、行くときはズバッとやるタイプなんでね。」


「負けて泣きついたって貸しませんよぉ。」



 シロマは余裕そうに笑っている。

 何を根拠にしているのかわからないが、もう勝った気でいるみたいだ。


 まぁ、もしも無くなったらシロマは貸してくれるだろうけど、俺は借りない。

 もちろん、預けているコインからも引き出すつもりはない。


 ここで負けるならば、多分この先もっと負けるだろう。

 だから一番最初こそが勝負だ!



 そして、待ちに待ったモンスターレースが始まる。



「頑張って下さい! 信じてますよ! チョウチョさん!」


 シロマは、魔物に祈りを捧げている。

 しかも、見るからにガチだ。

 正直、こんなシロマを見れるならコインなどかけなくていいわ。


 十分楽しめる。



 レース序盤は素早さ勝負であった。


 1位 ニッカクラビット

 2位 オオアルマジロ

 3位 ゴンドラフライ

 4位 惑わしチョウチョ


である。



「大丈夫です! まだ序盤です!」



 シロマは、コブシを強く握り締めていた。


 レースが中盤に差し掛かると、少し状況が変化する。

 なんと、ゴンドラフライがオオアルマジロに攻撃を仕掛けたのだった。

 オオアルマジロの攻撃を飛びながら翻弄し、最後には痺れ針を刺して麻痺させる。


 すると、その隙に順位が入れ替わった。


 なんと、惑わしチョウチョは、他の二匹が戦闘をしている隙に、ガンガン進んで行ったのだ。


 そして落とし穴にハマったニッカクラビットを追い越し、一位に返り咲く。



「やった! やった! やりましたよ! 見てますかサクセスさん! 一位ですよ! 一位!」



 大はしゃぎして飛び跳ねながら俺に抱き着いて来るシロマ。


 俺は当然、その隙に柔らかいお尻様をサワサワしている……がシロマはまるで気付かない。



 うへへへ、ねぇちゃんいいケツしてはりまんな~。



 俺の顔は、はたから見たら下衆の極みであろう。


 だがいいんだ。

 俺は堂々と触ってる!

 これは断じて痴漢ではない!



※ 痴漢ですので真似しないで下さい。



 そうこうしている内に、レースは終盤に差し掛かった。


現在の順位



 1位 惑わしチョウチョ

 2位 ゴンドラフライ

 3位 ニッカクウサギ

 4位 オオアルマジロ(リタイヤ)



 ここでなんと、ゴンドラフライが惑わしチョウチョに追いついた。

 焦った惑わしチョウチョはゴンドラフライに鱗粉をかけようとするが、ゴンドラフライの素早さがそれをさせない。


 そしてなんと、ゴンドラフライのかみつき攻撃が、惑わしチョウチョにヒットする!

 その二匹は、終盤になって熱烈な戦いを繰り広げていた。


 一方、少し後方に位置していたニッカクラビットは、二匹による空中戦をよそに、地上をひたすら突き進んで行くと……なんと、単独でゴールしてしまう。


 まだゴールの前で戦っていた惑わしチョウチョは、最終的にゴンドラフライの攻撃をくらうと、羽がもげて落した。


 つまり、リタイヤである。

 結果は……



 1位 ニッカクウサギ

 2位 ゴンドラフライ

 3位 惑わしチョウチョ(リタイヤ)

 3位 オオアルマジロ(リタイヤ)



「う、うそでしょ……何で? 何でそこで戦っちゃうんですか! 逃げて下さいよ!」



 シロマは、あまりの結果に悲痛な叫び声をあげて、目に涙を貯めている。


 どうやら相当ショックのようだ。


 そして俺は、大当たりであったため、100コインは一気に770コインになった。

 逆にシロマは、二連敗により残り50コインである。



 やべぇ、俺当たっちゃったから、なんて声をかければ……。



「あの~シロマさん。元気だそうね。まだまだ試合はあるから……。」



 俺は、おそるおそる声をかけた。

 もしこの場で発狂されたり、泣きつかれたら、俺は、どう対応すればいいかわからない。


 恋愛経験ゼロの童貞には無理難題だ。

 しかし、シロマは……違った。凹んでなんかいなかった!

 むしろ、闘志を更に燃やしている。



「次こそは、次こそは大穴を当ててやる……絶対当ててみせるんだから……!」



 だめだ、この子。

 生粋の負け体質だわ……。



 その後、第五ゲームまでの間に、シロマは全てのコインをスった。

 しかも、全部なくなったのは次の闘技場の試合でだ。


 なんとシロマは一番の大穴に、持ちコイン全てをベットしたのである。

 当然、大穴など早々来るものではない為、速攻で死んだ。


 そしてシロマの目も死んだ……。


 あまりに可哀そすぎたため、俺はシロマにコインを貸す旨を伝えた。


 正直、そういう貸し借りにはシビアだと思っていたので、拒否されるかと思ったら違った。



「絶対倍にして返しますから、安心してください!」



 と、何の根拠もない自信を元に、結局三回も100コインづつ渡すことになった。

 そして、第五ゲームが始まる前にそれらは全て泡に消えるの。


 全てのコインが消えた瞬間、シロマの表情も消えた。


 完全に燃え尽きていた。


 これから大事な事があるので、それまでには復活してほしいものである。

 どうしても復活しなかったら、そのパパイヤを指先でツンツンして起こしてみようと思う。


 ちなみに、俺はその後、地味な賭け方をしたり、時には思い切った賭け方をして、最初の100コインは、2500コインまで膨れ上がっていた。


 シロマに300コインを渡したところで、全然勝っている。

 やはり、これも運のステータスのおかげなのだろうか?


 しかし、300コインでシロマが一喜一憂している姿を拝めるんだから、やめられない。

 途中から俺は、試合やレースよりも、夢中になっているシロマに夢中だった。


 当然、その際に

 

 ねぇちゃん、コイン貸して欲しければ、ちょっとその体、貸してもらいまひょか?



 等という下衆な事は言っていない。

 ほんとですよ?

 ただ、ちょっぴり色々とボディタッチが多くなっただけさ!



 えへ。



 こうして俺達は、地下カジノを満喫しながら時間を過ごした。

 次は遂に、約束の第五ゲームである。

 この時俺は、まさかあんなことになるとは思いもしなかったのだった……。

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