第56話 ボッサンの儲け話

「うまいな! このパスタって奴は!」


「このテリヤキチキンいうのも、美味しいです。流石は豪華なカジノなだけはありますね。」


 現在俺達は、カジノ1階の酒場で豪勢な料理に舌鼓を打っていた。

 ここの料理のほとんどは1コインである。

 1コインと聞くと、安く思えるが、10ゴールドと考えると高級料理だ。

 しかし、五万コインを手にした俺にとっては、痛くもかゆくもない。

 正直、タダで飯を食べている感覚に近かった。


 これが成金の心理だろうか……。



「サ、サクセスさん……はい、あ~んしてください。」


「あ、あ~ん。んん! うまい! シロマが食べさせてくれると格別だ!」



 照れながらあ~んしてくれるシロマは新鮮である。

 それを、ホッペを擦りながら満面の笑みで食べる俺。

 うん、完全なバカップルだな、これ。

 いい感じに溶け込んできたかも……。



 まぁ、シロマがこんな事をしてくれているのも、周りに馬鹿なカップルと思わせる作戦ではあるんだけどね。

 そうでもなければ、流石にここまでしてもらえないだろう。


 俺は、カジノという場に溶け込んだと思っていたが、実際にはかなり浮いていた。

 だが、逆に噂のラッキーボーイということもあって、目立つ事に成功しているのだった。


 それに拍車をかけるような演技。

 それもこれも、シロマのおかげである。


 すると、早速一人釣れた。

 さっきから、俺たちの様子を見ていた奴だ。



「よ、にいちゃん! まだ昼前だってのに熱いねぇ~。おじさんにもその熱さと運を分けてくれよ。」



 かかった!

 まずはコイツからだ。



 そいつは、褐色の肌にモヒカンヘッドの男。

 体はがっちりしていて、引き締まっているから、多分武闘家だな。



 俺は冷静にそいつを分析する。

 そして、馬鹿な演技を続ける俺。



「やだなぁ~からかわないでくださいよ。ところで運ってどういうことですか?」



 理由はわかっているが、知らないふりをした方が相手も調子に乗るだろう。



「何言ってやがんだよ。お前さん、今日一番の有名人だぜ。なんていったってスロットで大当たり出しちまったんだからな、みんなお前さんの事しってるぜぇ~。」


「そそそ、そうなんですか! やだな。なんか怖いですよ、そういうの。」


「はっはっは、安心しろや。ここは変な事するような奴は入ってこれねぇ。だから、間違っても無理矢理奪い取ろうなんて奴はいないさ。お前さんだって、ほとんどコインは預けてるんだろ?」



 そうか。

 コインは全部持ち歩くものじゃないのか。

 聞いててよかった。

 スられたらたまらないもんな、リーチュンじゃないけど。


 うん、後で預けよう。



「はい、盗まれるのが怖いですからね。それに100コインもあれば、ここで遊ぶには十分ですし。」


「お、若いのにわかってるねぇ。にいちゃん、名前はなんていうんだ? 俺はボッサンだ。普段は冒険者している武闘家だ、よろしくな。」



 ビンゴ!

 やっぱり冒険者だったな。



「俺はサクセスです。こっちはシロマ。俺達も冒険者をやっています。」


「そうか、同じ冒険者のよしみだ、仲良くしようぜ。」


「はい、俺達も来たばかりでよくわからないので、ボッサンさんみたいな人と知り合えて嬉しいです。」


「ばーろう! 照れるじゃねぇか。にいちゃん、なかなか気の良い奴だな。気に入った! よし、じゃあいい事教えてやるぜ。」



 お! きたきた! 

 こういうのが意外にフラグだったりするんだよなぁ。

 いい情報を掴めるかもしれない。


「おお! 是非教えて下さい。」


 するとボッサンは何か右手の親指と人差し指を擦りだした。


 なんの儀式だ?

 癖かな?



「だから、これだよ。流石にいくら気の良いにいちゃんでも、ただって訳にはいかねぇからな。」



 あぁ、金ね。

 いや、この場合はコインか。

 つうか、普通に口で言えや。

 田舎もんなめんなよ。



「そりゃそうですね。いくらですか?」



 今度は人差し指を上に立てる。

 だから口で言えや!



「1コインですか? わかりました。」


「ちげぇよ! なんでそんな安いんだよ。100コインだ。」


「100!? それは高すぎますよ。内容も聞いてないのに、流石にそれは無理です。」


「ば、ばか。声がでけぇよ。もちっと静かにしてくれ。にいちゃんにとっては100コインなんざ、痛くもかゆくもねぇだろ?」



 ふむふむ、コイツはただの詐欺師だな。

 信用できないから他に期待するか。


 俺がそう判断をした時、初めてシロマが会話に入ってきた。



「あの、すいません。その話お断りします。確かに100コインは出せると思いますが、先に渡して騙されたら、それが噂になって、色んな人が私達を騙しにくると思います。最初は、たった100コインであっても、その後のリスクが高すぎます。それなので、もう私達には関わらないでください。」



 すげぇシロマ!

 俺はそこまで考えてなかったわ。

 普通に怪しいからやめよってくらいだったのにな。



「こりゃ一本取られたな。お嬢ちゃん見かけによらず大した頭してるじゃないか。にぃちゃん、いい女捕まえたな。羨ましいぜ。」


「という事なので、お引き取り下さい。」



 最後までキリっとした顔で丁寧な口調を崩さないシロマ。


 格好いい! 

 好き! 

 抱いて! 

 抜いて!


 おっと、最後のは気にするな!

 ちょっと溜まってるだけだ。

 何がとは言わないぜ?



「いやぁ参ったな。まぁ警戒するのはわかる。でも最後までちゃんと聞かないと後悔するぜ?」


「ボッサン、それは脅してるのか?」


 俺はなんとなく、その物言いにイラっときた。


 脅す気なら覚悟するんだな。

 俺はやられたら倍以上で返す男だぞ。



「違う違う、そうじゃねぇ。俺は一度も先にコインを渡せなんて言ってないだろ? まぁ試すような事をして悪かったとは思ってる。だけど、俺だって警戒してんだ。わかるだろ? それじゃ話は戻すがよ、今回の話は、もしも俺の情報で儲かったら、100コインを渡してくれって話だ。だから信用できる相手じゃねぇと、最後までは話せねぇ。その点、そこの嬢ちゃんみたいに頭がキレる奴がいると信用しやすいんだ。悪い話じゃねぇ、どうだ? のるか?」



 俺はシロマの顔を見た。

 シロマも考えているようだ。


 うん、即決はダメだな。

 ワイフマンの時に思い知ったからな、うまい話には必ず毒がある。

 まぁ今日に関しては、俺に毒は効かないぜ。


 天才美少女シロマがいるからな!



「わかりました。ただすぐに決断できないですね。少しシロマと相談します。10分後にまた来てください。」



 俺がそう言うと、ボッサンは「わかった。期待してるぜ。」とだけ言ってその場を離れて行った。



「賢明な判断です、サクセスさん。ああいった話は、9割は詐欺ですからね。」


「いや、シロマがいてくれたおかげだ。流石はシロマだな。格好良かったぞ。」


「や、やめてください。そんな事言っても何もでませんからね。」



 両手で頬をおさえて、フリフリしているシロマ。


 その照れ方が非常にお上品で……


 そそる……。

 流石は元お嬢様だな。



「で、シロマ。どう思う? 乗るべきか、乗らないべきか。」


「はい、正直この話が直接ちびうさちゃんに関係があるかはわかりませんが、私はサクセスさんの運を信じてます。なので、乗るべきだと思います。」



 意外だった!


 何事も論理的かつ冷静に判断するシロマが運を信じて、乗ると言っている。


 まぁ、俺も今のところ話聞くだけならいいかなとは思ってた。

 儲かったら払えばいいというならば、悪い話じゃない。


 でもそういう話には必ず裏がある。

 だからこそ、シロマの論理的答えが聞きたかったのだが。



「うん、シロマが俺の運を信じるなら、俺はシロマを信じる。じゃあ決まりだな。」



「はい、話を聞きましょう。」



 ボッサンは、きっかり10分後に来た。

 そして尋ねる。



「どうだ? 決まったか?」


「はい、乗る事にします。話してください。」


「そうか、賢明な判断だぜ。話ってのは闘技場の事だ。今日初めて来たんじゃ闘技場の事は、よく知らねぇよな?」


「はい、行こうとは思ってましたが、詳しくは知りません。」


「わかった。じゃあ簡単に説明する。闘技場ってのは、ようは魔物同士の戦いを見て、最後に残ると予想をした魔物にコインを賭けるんだ。ここまではいいか?」


「そうだったんですね。てっきり人と人が戦うのだと思ってましたよ。」


「まさか! それじゃ死んじまうだろが。戦うのはモンスターだけだ。」



 そうだったのか! 

 人じゃないのか。

 ん? なんかおかしいぞ?


 ちびうさは、闘技場で父親に会ったと言ってた。

 つまりギャンブル狂いで、金をスって悪さして牢獄に?


 いや、それもおかしい。

 それなら帰ってくるはずだ。

 どういうことだ?

 まぁいい、とりあえず話を聞こう。



「なるほど、納得しました。それで続きは?」


「焦るなよにいちゃん。これから話すところだ。んでな、にいちゃんにはあるモンスターに100コインかけて欲しい。その試合のそいつのオッズは4倍だ。間違いねぇ。」


「すいません、オッズってなんですか?」


「そうか、にぃちゃん初めてだったな。4倍のオッズっていうのは、そいつが勝てば掛け金が4倍になるって事だ。つまりにぃちゃんの取り分は400コインの内、300コインで俺が100だ。どうだ、悪くねぇ話だろ?」



 うん悪くはないな、でもなんだろ。

 なんかもやもやする。

 よくわからないけど。



「ボッサンさん、いくつか質問してもよろしいですか?」



 俺の代わりにシロマが聞いてくれるようだ。

 頼んだぞ! シロマ!



「いいぜ、むしろここで質問してくれねぇようじゃ、この話は無しだ。ここまでなら漏れたところで痛くねぇからな。」



 どうやら最初からここまでは話す気だったらしい。

 こいつもかなり慎重だな。


「では、まずお金をかけるモンスターが必ず勝つ根拠が知りたいです。そして、もしそうならば、なぜもっと賭け金を増やさないのかが納得できません。話してください。」



 おぉ! そうか、そういうことか!

 確かにそうだ!

 俺のもやもやはそれか。

 普通に考えるなら、必ず勝てるならもっとコインをかけるよな。


 うんうん、流石シロマ!



「ほう、やっぱ気付いたか。いいだろう。じゃあ二つ目の質問から答える。理由は簡単だ、そもそも闘技場では、賭け金の上限が1000コインなんだ。そして、あまりに賭け金が高いとオッズが下がる場合がある。ちなみに、俺だけは200コインをかける。当然だ、俺が主催だからな。そしてお前たちの他にも、信頼できる奴が10人程同じ奴に賭ける手筈だ。そうすると、俺はそいつらから合計で1000ゴールドもらえる。そして俺が賭けた報酬を入れて1800ゴールドだ。ここまではいいか?」


「はい、理解しました。実際にルールを見ていないので何とも言えませんが、嘘とは思えませんので一応信じます。」


「疑り深いねぇちゃんだな。ほんといい女だ。よう、兄ちゃん。金は、いいからこっちのねぇちゃん……」


「それ以上言ったら殺すぞ? 今、ここでな。」



 俺は強い殺気を放った。


 ガタッ!


 ボッサンは俺の殺気にビビッて、椅子から落ちた。



「じょ、冗談だ。冗談だよにぃちゃん。そんな怖え事言うなや。見た目と違ってすげぇ殺気だな。小便ちびりそうになったぜ。」


「冗談でも、次同じよう事を口にしたら絶対許さねぇ。俺の女に手を出す奴は……」


「わかった! わかった! それ以上は言わなくていい! もう言わねぇよ、ほんとアブねぇ奴だな。そんな目をする奴だとは思わなかったぜ。」



 どうやら俺の怒りは伝わったようだ。

 実際、俺は間接的だが人を殺している。

 大切な者を守るためなら、殺す事にためらいはない。


 ふと、シロマを見ると、ぽぉ~っとした顔で俺の事を見ている。


「シロマ、おい、シロマ。どうした?」


「え? あ、いえ。サクセスさんのそういうところ見たの初めてでしたので……ビックリしたというか、嬉しいというか……見惚れてしまいました。」



 おいおい、随分ダイレクトにきたな。

 俺に惚れると火傷すんぜ?

 とは、言えない。

 普通に照れるからやめるっぺよ。



「いちゃついてるところ申し訳ねぇんだが、続きを話していいか?」


「あぁ、すいません。続けてください。」


「にいちゃん、あれだけの殺気放っておいて敬語はよしてくれ、もう普通にしてくれ。ちょっと逆に怖いんだわ。」


「わかりました、あ、わかった。これでいいか?」


「お、その方がいいぜ。まぁ相手を油断させるならさっきの方がいいかもしれねぇけど、俺に対しては、もう意味がないからな。っと話がそれた。じゃあ詳しいところを話すぜ。俺達が賭ける試合は、第5試合で行われるヘルアーマー四体の試合だ。ヘルアーマーAからDの内、時間がギリギリになってきたら俺がお前らに賭ける奴を伝える。伝え方は言えねぇがその時になればわかる。」


「同じモンスター4体か。それじゃ確かに優劣がわからないな。」


「そうなんだよ。普通は違うモンスター同士戦わせるからオッズが変わるんだけど、この試合は別だ。オール4倍だ。つまり普通にやったら四分の一の確率ってわけだな。どう考えても、店側が儲かる仕組みさ。」


「なるほどな、で、どうしてお前は勝つ奴がわかるんだ?」


「わりぃがそれは言えねぇ。ただ信じてくれとしか、俺には言えねぇ。だけど、にいちゃんみたいにそもそも沢山コインを持ってる奴からすれば外れても痛くはねぇだろ? だから声かけたんだ。もちろん、話してみて信頼できるか確認してだがな。ここまで話したんだ。嫌とはいわせねぇぞ?」



 う~ん、いまいち信用ならないんだよな。

 やっぱ一回騙されてるからかな?

 シロマはどう考えてるんだろ。

 聞いてみるか。



「シロマ、何かあるか?」


「いいえ、大丈夫です。私はいいと思います。正直な話、こうやって沢山の人に声をかけて、それぞれ違うモンスターにかけさせれば、必ず勝つという方法は浮かびました。それならば、ただ口車に乗せるだけで、少なくとも200ゴールドは手に入ります。でも、それだとおかしいのです。さっき、この人は自分は200ゴールドを賭けると言ってました。多分実際に賭けるかどうか、確認する人がいると思うのです。そして、さっき私が言った方法なら必ず最低でも200ゴールドは手に入りますが、自分が外したら儲けはゼロになります。そして信用も失います。つまりメリットがないのです。だから私は信じるとは言いませんが、乗ってもいい話だと判断しました。」


「……す、すごいなシロマ。お前やっぱ天才だよ。」



 なにこの子?

 頭の中どうなってるの?

 凄すぎて、すげぇしかいえねぇ。


 俺は目を真ん丸にして驚いた。

 隣を見てみると、同じようにボッサンも目を丸くして驚いている。



「こりゃ本当にたまげたな。そこまでわかってて乗ってくる奴なんざ、今まで一人もいなかったぞ。まぁもしかしたら内心では同じ事を考えてる奴もいたかもしれねぇが。」


「ふ、普通ですよ。そんなに褒めないでください。」



 シロマは顔を赤くしている。

 さっきまでの凛々しい顔が嘘みたいだ。



「まぁなんにせよ、わかった。じゃあ闘技場が開いたら俺も早速行ってみるよ。」


「おう、頼んだぜ。信用してるからな。じゃあ、また後で会おう。」


 そう言ってボッサンは去っていった。


 俺には今回の話がただの儲け話とは思えなかった。

 根拠はないが、なぜかちびうさの事に繋がっている気がする。


 関係ないなら関係ないで、儲かるだけだ。

 損はない。


 だけど、闘技場の話ってだけで、何かこの後大きな事が起こるような予感がするのだった。

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