第124話 割り切れぬ想い 後編
「サクセス。文句なら後でいくらでも聞く。だけど、今は協力してくれ。頼む!」
そんな俺に対して、カリーは再び俺に頭を下げる。
カリーの必死なその姿に、すぐに「わかった」と素直に言えない自分が嫌になりそうだ。
俺だって、今こんな話をしている場合ではないのはわかっている。
ーーだから
……わかったとは言わない。
それは思考を止める事と一緒だ。
俺は最後まで探し続ける。
その上で、カリー達も守る!
「……それで、どうすればいいんだ? 教えてくれ。」
「あぁ。ウロボロスはその核を壊せば倒す事ができる。本来奴に核はないらしいが、卑弥呼のお蔭でそれを作る事に成功した。そしてそこに今イモコが向かっている。そこであいつが……核を壊す。」
核を壊すと聞いて、それが卑弥呼を殺す事だという事は何となく伝わった。
しかし、それについて今更言っても仕方ない。
多分それを俺にやらせないのは、俺だと精神的にできないと思っているのだろう。
だからこそ、俺は卑弥呼を救う事を諦めない。
「なるほど。それで俺はどうすればいい? あと一応言っておくが、それでも俺は卑弥呼を救う気持ちは諦めてないからな?」
「わかってる、お前はお前の思うように動いてくれ。だが……止めるなよ? イモコもセイメイも相応の覚悟を背負って動いている。お前にそれがわからないはずはないよな?」
カリーはさっきまでとは違い、睨みつけるような目で俺を見てきた。
それはまるで敵に向ける目と一緒である。
その理由もわかるが、それが少しだけ悲しい。
「……わかった。」
俺がそれだけ返すと、カリーは説明を続けた。
「今セイメイが四聖獣を召喚しているが、それが現れたらイモコの傍に向けてサポートさせるつもりだ。そしてそのサポートには俺も加わる。だからサクセスにはその間、セイメイを守って欲しい。その召喚はかなりセイメイの命に負担を強いるし、召喚後もまともに動けないだろう。」
四聖獣?
よくわからないが、カリーとそれがいればウロボロスに接近できるという事か。
つまり、俺が行く必要はない……と……
「なるほど、あくまで俺を卑弥呼に近づけさせたくないんだな?」
「違う……とは言い切れないが、これは本来この国の人間が背負う宿命だ。わかってくれ、サクセス。」
カリーはそう言うも、俺は返事を返さない。
代わりにセイメイを守るように、その前に移動した。
「シロマ、フォローを頼む。それとゲロゲロ聞こえるか? 無理はするな、囲まれたら戻ってこい。」
「はい!」
「ゲロ(わかった)」
空中で戦っているゲロゲロにも俺の声というか、意思は伝わったようだ。
そしてシロマは俺の隣に来ると、ディメンションアローでゲロゲロから抜けてきた龍頭を穿つ。
その様子を見て安心したのか、カリーはそれ以上何も言わずイモコの下へ駆けつける。
俺はその背を目で追うと、カリーの向かっている先には多くの龍頭が群がっていた。
どうやらイモコは既に龍頭に囲まれているらしい。
しかしカリーが到着した事で、イモコを囲んでいた龍頭達が減っていく。
二人の力が合わされば、いくら龍頭が多くとも捌くだけならば可能のようだ。
とはいえ、未だに前には進めていない。
今のところ、次々と押し寄せる龍頭を捌くので精一杯らしい。
一瞬、ここを一時的にゲロゲロとシロマに任せて、カリー達の応援に向かう考えが過ったが、その時後ろからセイメイの声が聞こえてきた。
「サクセス様!! いけます!」
どうやら召喚の準備が完成したようである。
次の瞬間、目の前に見た事がない巨大な魔獣のようなものが四匹現れた。
そしてそれに向かってセイメイは頭を下げて命令する。
「行って下さい! 四聖獣様!」
セイメイがそう叫ぶと、その魔獣……いや、聖獣達はイモコ達の下へ向かっていった。
「大丈夫か!? セイメイ。大分苦しそうだぞ?」
地面に置いた巻物に手を突きながら、セイメイは苦悶の表情を浮かべている。
「これくらい……なんともありません。卑弥呼様や、皆様に比べれば……ただ、もしよろしければ精神力を回復するアイテムをいくつかいただけるとありがたいです。」
そう言いながら作り笑いを浮かべるセイメイ。
どう考えても、俺に心配かけないためにやせ我慢をしているのは明らか。
やはりカリーが言ったように、この召喚はかなりセイメイに負担が掛かっているようだ。
「あぁ、辛くなったらこれを飲め。あいにく一本しか今はないが……」
俺は懐に入れていたお嬢様聖水をセイメイの横に置く。
「十分でございます。それと……カリー殿や卑弥呼様を恨まないで欲しいのです。こんな時に言う言葉でありませんが、二人は誰よりもサクセス様の事を案じております。」
こんな状況でも、セイメイは仲間や俺達を気遣った事を言う。
本当は、自分が一番辛いはずなのに……
「わかってる。わかってるけど……本当にそれでお前はいいのか? 卑弥呼は大事な人なんだろ?」
「はい。先ほども述べましたが、私の命よりも大切な御方です。しかし、だからこそ私はあの方の力になりたい……」
苦しそうな表情のまま、セイメイはその目に揺るぎない決意の色を見せていた。
そこまでの決意であれば……と割り切れれば楽なんだが、それでもやはり俺は誰一人死なせたくない……。
結局何を聞いても割り切れない俺は、黙ってセイメイを守る事に集中した。
戦いは続く……
※ サイダーム:僧侶の覚えるシュワっと素早さを上げる魔法
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