第20話 勇者の噂

「とりあえず冒険者ギルドだな。このガーディアンの魔石がいくらになるかが楽しみだ。」


「そうですね、魔石は濃度と大きさで値段が違うと言います。このガーディアンの魔石は濃さも大きさも見た事がありませんから、きっといい値段になると思いますよ。」 


「ゲロロォ。」  



 現在俺は、シロマとゲロゲロを連れてテーゼの冒険者ギルドに来ている。 

 その間、リーチュンとイーゼには先に宿屋に戻ってもらった。 

 魔石の交換に人は必要ないし、馬車の整備や荷物の積み込みもあるため、二手に別れたのだ。 


 最初は、イーゼが俺と二人で行くとゴネて、それにリーチュンが対抗して喧嘩になった為、二人にはそっちを任せることをした。 

 俺を取り合う美女2人の姿は眼福であったが、俺達は冒険者パーティだ。 

 ちょっとした不和が全滅にもつながると聞いているので、あんまり嬉しい事ではない。 


 というわけで、二人には俺達のいない間に仲良くなってもらう事を期待する。



「すいません! 魔石の交換をお願いします。」 



 俺はカウンターのおっさんに声をかけると、集めた魔石を渡した。 

 それをみたおっさんは面白い程、顔を変化させて驚く。 



「これは……。ちょっとまってください。珍しい魔石なので少し鑑定に時間がかかります。失礼ですが、これはあなた達が倒した魔物から出たものですか?」 


「はい、ガーディアンというボスモンスターを、ダンジョンで倒した時にドロップしたもので間違いありません。」 


 俺の代わりにシロマが答える。 



「それは本当ですか? そんな恐ろしいダンジョンが近くにあったという事ですか?」 


 

 その言葉に慌てるおっさん。 



「はい。ですが、そこはエルフの隠しダンジョンですので、初心者パーティがうっかり入ってしまうような事はないので安心してください。」 


「そうですか……。それならよかった。ここは駆け出しの冒険者も多いので、少し心配になってしまいました。それではしばらく時間がかかりますので、そちらでお酒でも飲んで待っていてください。」 



 そういって親父は奥に消えていく。

 少し足取りが軽いのは気のせいだろうか? 

 珍しい魔石が嬉しいみたいだ。 


 暇になった俺達は、言われた通り冒険者ギルドで時間を潰すことにする。 

 ここも夜になると酒場になるらしく、丁度ギルド内にテーブルが置かれ始めていた。 

 いつのまにか、外は夜になっていたようだ。 



「おし、シロマ。二人には悪いけど、ここで食事にするか。ゲロゲロもお腹が空いているだろうし。俺は酒に弱いから飲まないけど、シロマは飲みたかったら飲んでいいぞ。」 


「ゲロゲロォォ!」 



 ゲロゲロは嬉しそうに鳴きながら俺の足に頭をこすり付けている。 


 ういやつめ。 

 でも、今のはシロマに言ったんだぞ? 

 ゲロゲロに酒はまだ早い! 



「ありがとうございます。私もお酒は苦手なので飲みません。でもお腹は空いてきましたね、それでは食事にしましょう。二人には何か買って帰ればいいかと。」 



 シロマも賛成したことなので、俺達はここで食事をすることにした。 


 現在所持金は150ゴールド。 

 まだ換金していないため、そこまで多くはないが食事だけなら十分足りる。 


 シロマと二人で外食か……。 


 はっ! 

 これはもしや、噂のデートっていうやつなのでは? 

 まぁ、ゲロゲロもいるがペット同伴のデートと思えばいい。 



 そう考えると、なんかドキドキするっぺな。 

 席についた俺達は、手頃な物を注文すると直ぐに料理が運ばれてきた。


 これはちょっとあれか? 

 食事の前に、君の瞳に乾杯とか言うべきであろうか? 

 わからない! イケメンが憎い! 



「どうかしましたか、サクセスさん?」 


 シロマは、窺うように俺を見つめながら聞いてくる。 

 食事に手を付けない俺が気になったらしい。 


 しかし、俺はそれどころではなかった。 

 なんせ、人生で初めて母親以外の女性と二人で外食、いやデートだ。 

 考えれば考えるほど、極度の緊張が俺に襲いかかってきた。 



「な、なんでもないっぺよ! うまそうだびゃー! さぁ食べるペ食べるぺ!」 



 ぐは! またやっちまった! 

 うむ、俺にはイケメンの真似は無理だ。 

 

 諦めた俺は無心で目の前のご馳走を貪り食う! 

 それをシロマは微笑みながら見ていた。 



「良い食べっぷりですね。心配しちゃいました。サクセスさんのその言葉遣い、私好きですよ。なんだか安心します。」 



 ブッ!! 



 突然シロマの口からの出た、好きという単語に驚き、口に入っていた物を噴き出してしまった。 



 ゲハッゲハッ!! 



 喉に食べ物が引っかかる。 



「大丈夫ですか? これを使ってください。」 



 俺の目の前に白くほっそりとした綺麗な手が見える。 

 その手には白い布が握られていた。 



「綺麗だ……。」 



 シロマと目が合うと、俺は、うっかり心の中の声が表に出てしまう。


 何を言っているんだ俺は! 

 見てみろ、シロマの顔が真っ赤だぞ! 

 え? 真っ赤? 



「あ! 違うっぺ! 違うっぺよ! この布がキレイだっぺ! 布ありがとうっちゃ!」 



 俺は、手渡された布でガシガシと自分の顔を拭いて誤魔化す。 

 顔を拭き終えた俺は、シロマの方を見てみると、いつの間にかシロマは笑顔に戻っていた。


 どういう事? 



「サクセスさんは本当に優しいですね。私、男の人と二人でご飯を食べるのは初めてだったので、本当は緊張していたんです。お蔭でなんか緊張が解けました。」 



 どうやらシロマも俺と同じように緊張していたらしい。 

 そうは見えなかったが、なんだかそれが嬉しかった。 

 まるで初々しいカップルの初デートみたいに甘酸っぱい。 


 その後も俺達は、楽しく料理を食べていると、後ろの方から他の客の声が聞こえてくる。 



「なぁ、あの話聞いたか?」 


「あぁ、遂に16歳になったみたいだな、アリエヘンの王様に挨拶にいったらしいぜ。」 


「おお、じゃあもしかしたら今頃仲間を募集しているかもしれないぞ。こうしちゃいられねぇな。」 



 何の話だろ? 

 アリエヘンの王様に挨拶? 


 俺は頭に疑問を浮かべていると、シロマも聞いていたのか俺に耳打ちした。 



「サクセスさん、多分勇者様の事だと思います。そういえば今年16歳になるというのは聞いていました。」 


 

 ぬおっ! 

 シロマの顔が近い! 

 ドキドキするからやめて! 


 しかし、勇者って本当にいるんだなぁ。 

 勇者って何するんだろ? 

 やっぱ魔王を倒すのかな? 



「しかもよぉ、今回の勇者は女らしいぜ。噂だと超可愛いとか!」 


「うっひょぉぉぉ! まじで! 俺そんな勇者のパーティなら死ねるわ!」 


「パーティメンバーは強い男を募集だってよ! 行くしかねぇなこりゃ!」 


「馬鹿、お前じゃ無理だよ。せめて20レベルにはなってねぇとな。だが俺は行くぜ! 昨日20になったからな!」 


「そんなんじゃ無理無理。なんでもルルーさんから推薦がないと、候補にも入れねぇらしいぜ。」 


「まじかよ! くっそーー。こんな事ならアリエヘンでルルーさんに胡麻すっときゃよかった!」 



 ふむふむ、勇者は女で美少女と……。 

 求めているパーティは屈強な男か。 

 興味はあるがどうでもいいな。 

 俺は今のパーティが気に入ってるし。 


 そんな事を考えてぼーっとしているとシロマが不安そうな目で俺を見ていた。 



「あの……。やっぱりサクセスさんも勇者パーティの募集に行くのですか?」 



 潤んだ瞳で見つめてくる。

 控えめにいってクソ可愛い。 


 俺は、シロマの頭を撫でて安心させた。 



「大丈夫だ。俺はシロマの事が好きだから他のパーティにはいかないよ。」 


「えっ?」 



 え? 

 今俺何を言った? 


 シロマの声で今自分が言った言葉を振り返る。 


 シロマの事が好きだからいかない? 

 馬鹿か! 



「ちっちがうっぺ、言葉を間違えたっぺよ! シロマが好きとかないっぺ!」 



 今度は焦りながら必死に否定すると、シロマは少し悲しそうな顔をしている。



「あ、そうですよね。ビックリしました……。」 


「あ、違うっちゃよ! みんな好きってことだっぺ。シロマも好きだっちゃ。」 



 もう滅茶苦茶だった。 

 何か言えば何か間違える。

 状態異常「混乱」ってやつだ。 

 誰だ、俺に混乱魔法(オザパニ)の呪文を唱えた奴は! 叩ききってやる!! 



「今日のサクセスさんはなんかいつもと違いますね。なんか新鮮です。」 



 俺が錯乱状態に陥っていると、いつの間にかシロマに笑顔が戻っていた。

 シロマの心が読めない。

 でも笑顔に戻ったならいいとするか。 


 そうこうしていると、カウンターから声が聞こえてきた。 



「サクセスさん、お待たせしました。遅くなって申し訳ございません。」 



 その声を聞いて、俺達は席を立ちあがりおっさんのところに向かう。 



「それで、いくらになるのでしょうか?」 ドキドキ……いくらかなぁ? 


「はい、まずはこの袋を……。中に3000ゴールド入っています。」 


「3、3000!!」 



 思ったより高いぞ! 



「はい、これがあのガーディアンの魔石分です。それとこちらもどうぞ。」 



 親父はもう一つ小袋を俺に渡した。 



「その中には660ゴールド入ってます。それが他の魔石分です。」 



 つまり今回の換金額は3660ゴールド。 かなり大金だ。 

 もともとの所持金の150ゴールドと合わせて3810ゴールド。 

 それに食事代を差し引いて3800ゴールド。 

 いきなり金持ちになってしまった。 


 これだけあれば、リーチュンの壊れた武器を買い直せるかもしれない。



「ありがとうございます。ここのご飯も美味しかったです。またよろしくお願いします。」



 俺はおっさんにお礼を言うと冒険者ギルドを出た。 

 でもなんか忘れている気がする……。 



「あ! ゲロゲロ!!」 



 そういえば静かだと思ったら……すっかり忘れていた。



「そういえば静かだったので私も気づきませんでした。」 



 俺達は、急いでギルドに戻ると、ゲロゲロは俺が座っていた椅子の下で丸くなって寝ている。 

 お腹いっぱいで眠ってしまったようだ。 


 俺はゲロゲロを抱きかかえて、今度こそ冒険者ギルドを後にし、お土産を手にリーチュン達が待つ宿屋に戻るのであった。

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