第68話 真実と夢

 俺は、目の前の光景に目を疑った。


 ここは宿屋の2階であり、寝る前にこの部屋の鍵は掛けている。

 それにも関わらず、俺の目の前には、モンスターが立っていた。



 これに驚かない者はいないだろう。



 俺は突然のことだったので、ベッドから飛び起きてしまったが、何故かそこまで警戒する気にはならなかった。

 相手が普通に話しているからなのか。

 それとも心の中で、このヘルアーマーがちびうさの父親であると感じているからなのか。


 いずれにせよ、こいつは俺に襲いかかる気配はない。



 ならば、話をしようじゃないか。



「突然驚かせてすまない。もう気づいているかも知れないが、私は、ちびうさの父親だ。」



 そいつの声は、俺の頭に直接響いてくる。

 隣で寝ているゲロゲロが全く起きない様子を見てもわかるが、多分音は出ていない。



「やはりか。しかし今は魔物だろ? なんで話せるんだ?」



 俺は率直な疑問を述べた。



「君が魔物つかいだからさ。そして君の光の加護が、私をここに連れてきてくれた。違うな、光の加護が君を導いてきたと言った方が正しいか。」


「光の加護??」


「まぁそれはいい。一つだけ君に問う。この国を救う覚悟はあるか?」



 え?

 何故いきなりそんなでかい話に?

 だが俺の答えは決まっている。



「国とか正直興味はないが、目の前に悲しみがあるなら救いたいと思う。これだけじゃダメか?」



 ………………。



 俺の返答にヘルアーマーはしばし沈黙した、そして……。



「いいだろう、これから俺はいくつか大事な事を話す。どうするかは自分で判断してくれ。」



 それだけ言うと、ヘルアーマー(ちびうさの父親)は語り始めた。



 城の地下の牢獄にある、自分とヌーウの亡骸の下にヌーの鏡があること。


 ヌーの鏡は光の加護を持つ者しか使えない、そして闇の者は触れることができないこと。


 ボッサンが実は殺された王の息子であること。

 

 そしてボッサンが案内した隠し通路は、結界の罠があるから絶対に行くなと言うこと。


 最後に、明日の午後三時にカジノの裏側に来ること、そこに地下に通じる本当の隠し通路があるから、そこでヘルアーマーと合流すること。



 どうやら、こいつは俺たちを案内するつもりらしい。

 色々と謎も多いが信じるつもりだ。

 プランを大幅に変更しないとな。



「わかった、全て信じるよ。俺が偽物の王を倒せば悲しみは消えるんだな?」



 俺の問いにまたヘルアーマーは沈黙した。

 そして……。



「あぁ、俺はそう信じている。そしてそれは君にしかできないことだ。」


「わかった。ちびうさには会わなくていいのか? 寝てると思うけど、ちびうさはあなたに会いたがっていたよ。」



 俺がそう告げると、ヘルアーマーはもどかしそうに何かを言おうとしている。



「俺もできるなら、ちびうさを抱きしめて謝りたい。しかし、それは出来ないんだ……出来ないんだよ……。」



 鎧の下から深い悲しみが伝わって来る。

 理由は分からないが、無理というなら無理なんだろう。

 すると、ヘルアーマーは突然、体が発光し始めた。



「すまない、もう時間だ。それでは明日待っている。」



 それだけ言うとヘルアーマーは、光の粒子となり消えていった。



「まだ聞きたい事がたくさんあったんだけどなぁ……ふぁぁ~なんだか俺も急に眠気が……。」


 

 俺は、ヘルアーマーが完全に消えるのを見届けると、そのまま眠りってしまった。




 その夜、俺は夢を見た。




 最初は、とても楽しい雰囲気の夢だった……。

 しかし起きた時には、俺の目に涙が溜まっている。



 その夢の中でば、ちびうさが父親と母親に可愛がられ、楽しそうに笑っていた。

 二人とも本当にちびうさを愛しているのがわかる。

 しかしその後、父と母が消えていき、最後にはちびうさが一人になる。



 ちびうさは、一人で親を待ち続けていた。

 来る日も来る日も待ち続ける。

 日に日にちびうさは痩せ細っていった。

 そして最後に楽しそうに笑うと、そのまま二度と起きる事はなかった……。



 最後、ちびうさには何が見えたのか? 

 それはわからないが、その笑顔が俺にはとても悲しかった。



 本当に偽物の王を倒せばちびうさは救われるのだろうか?

 俺は、ちびうさを救えるのだろうか?

 答えはわからない……。



 俺は目に溜まった涙を拭くと、気合を入れた。



「俺は……俺に出来る事をやるだけだ!」




 この後、俺にどんな結末が待っていようとも、俺はちびうさを救ってみせる。



 そう強く心に誓うのだった……。

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