第4話 勇王と修羅
【仲間視点】
ゲロゲロに乗ったカリーは、上空から戦場の様子を俯瞰(ふかん)する。
直ぐにでも飛び降りて魔物と戦いたいところであるが、熱探知で分かっていた通り、戦場は魔物と人で入り乱れていた。
適当な場所に降りて戦うのは得策ではない。
できる限り多くの者を救う
そう考えているのはサクセスだけではなく、カリーもまた同じだった。
「敵の数は多いけど、結構うまく連携がとれているな。」
「左様でござる。ただ大分戦線が下がってきている故、このままでは長く持たないでござるよ。」
イモコやカリーが言うように、西の戦場は北に比べればかなりマシだった。
とはいえ押されているのは事実であり、しばらくすれば完全に部隊は瓦解(がかい)するだろう。
「あぁ、急がないとな。ゲロゲロには前線から離れた魔物を任せるとして、俺達は……あそこだな。」
カリーが指すのは第三ラインの中央。
冒険者たちはまだいくつかのグループが第二ラインで戦っており、それを第三ラインから支援しているのが賢者部隊だ。
しかしながら第二ラインの近接部隊は既に崩壊しつつあり、その間を縫って魔物達は第三ラインに襲いかかろうとしていた。
第三ラインでは盾になれる者も少ないようなので、もしも第三ラインが崩れれば、支援の無くなった第二ラインも総崩れとなるだろう。
それをどうにかしようと、第三ラインでは激を飛ばす者がいた。
どうやらその者が総指揮官のようだ。
「見つけたぜ、あそこだ!」
カリーが上空から探していた者、それこそがその総指揮官だった。
考えていた作戦としては、まずは総指揮官に話をつけ、全軍を最終防衛ラインまで下げてもらい、その後全ての魔物を自分達だけで倒そうというものである。
行くべき場所も見つかったことから、後はゲロゲロに注意だけして
……と考えたところで、カリーは致命的な事に気付いた。
(そういや、ゲロゲロって俺の言葉はわかるのか?)
そう。ゲロゲロだ。
この作戦は如何に(いかに)して冒険者達に被害を与えないよう、敵を殲滅するかというもの。
カリーとイモコだけが理解していても、ゲロゲロが敵味方関係なしに暴れれば間違いなく被害が大きくなる。
ーーーしかし
「ゲロゲロ、俺の言う事がわかったら一回鳴いてくれ。」
「ゲロ(うん)」
カリーの言葉にゲロゲロが反応した。
どうやらゲロゲロは人の言葉が理解できるらしい。
普段からサクセスの言葉を聞いて、なんとなくだが人の言葉をゲロゲロは理解している。
といっても、カリーにはゲロゲロが何を言っているかわからないが……。
「よし、いい子だ。まずは俺達をこれから指差すところで落としてくれ。それとゲロゲロはできるだけ遠くにいる魔物を殲滅して欲しい。わかるか?」
カリーは半信半疑ながらも作戦を説明する。
それに対してゲロゲロは力強く鳴く事で理解したことを伝えた。
「ゲロォォ!!(任せて!)」
「おぉ! 本当にお前は賢いな。じゃあ頼んだぜ、ゲロゲロ」
カリーはそう言いながら総指揮官がいた場所を指差すと、ゲロゲロは下降しながらその場所へ飛んで行った。
「今だイモコ! お前は、こっちに来る魔物を頼む。その間に俺が話をつけてくる。」
「わかったでござる」
二人はゲロゲロから飛び降りると、それと同時にイモコが駆け出す。
「きゃぁぁぁ!!」
第三ラインでは、今まさに賢者の女性がジャイアントグリズリーの爪に引き裂かれようとしていた。
しかし……その攻撃が届く事は無い。
なぜならば、イモコが一刀のもとにその巨大な胴体を真っ二つに斬り伏せていたからだ。
「全員下がるでござるよ、後はそれがしにまかせるでござる」
「は、はい。えっと、え?」
その女は困惑して直ぐに動くことができない。
そしてそれは、その周りにいる賢者達も同じであった。
誰もが突然現れた謎の男(イモコ)の強さに驚きはしたが、それでもリーダーからの命令なく下がることはできない。
今なお第二ラインでは必死に仲間の冒険者達が魔物を食い止めていた。
その状況で自分達だけが更に後退すれば、それは仲間を見捨てる事と同じこと。
だが迷っている間にも、次々と魔物達は第三ラインに襲い掛かってきており、仮にこのままここにいたとしても、まともに第二ラインへの援護は無理だろう。
そう分かっていても、やはり自分達だけでは判断できなかった。
イモコの出現は賢者部隊にとって幸運とも言えるし、逆に部隊に混乱を招いたとも言える。
しかしそれでもやはり幸運だったのだろう。
なぜならば、誰もが固まって動けない状況になろうとも、迫りくる魔物は全てイモコの前に魔石と成り果てていたのだから……。
それからしばらくして、リーダーの叫ぶ声が聞こえてくる。
「全軍後退! 第四ラインに集まれ! 繰り返す! 全軍後退!!」
どうやら無事にカリーの説得が成功したようだ。
カリーはリーダーに接触するも、中々上手く話が通じなかった。
指揮官からすればそれも当然である。
いきなりどこの馬の骨ともわからない者が現れて、「俺達に任せて撤退しろ」と言われても、「はい、わかりました」とは言えるはずもない。
しかしカリーは、実際にイモコが次々と魔物を瞬殺する様子を見せることで強さを示し、更には自身の冒険者カードを見せることで納得させた。
カリーの職業とステータスを見て総指揮官は腰を抜かしそうになったが、それ以上に、その強さならばこの状況を打開できると考えたのである。
これにより、全軍の撤退が始まった。
ーーーそして
「待たせたな、イモコ。とりあえず第二ラインの奴らを下げる為にも前に出るぞ」
「御意。二手……でよろしいでござるな?」
「あぁ、右と左に分かれて殲滅する。説明が要らなくて助かるぜ」
二人は短く言葉を交わした後、すぐさま第二ラインに向かい、その道中にカリーは背中から雷と炎の双剣を取り出した。
【雷炎乱舞】
無数に渡る黄金と紅蓮の剣閃が、戦場の魔物を斬り裂いていく。
今回カリーが双剣を選んだ理由は、その攻撃速度と正確性にあった。
冒険者と魔物の間を縫うようにして駆け抜け、すれ違いざまに魔物のみをシュパシュパと殲滅する。
カリーが通り過ぎた後に残るのは、魔石になった魔物と茫然と立ち尽くす冒険者だけだった。
その動きは速くも美しく、危険な戦場であるにもかかわらず、その美しい乱舞を前に戦っていた冒険者でさえ見入ってしまう。
ーーだが
「ぼーっとしてんじゃねぇ!! 直ぐに第四ラインに戻れ! 指揮官の声が聞こえなかったか!?」
カリーは固まっている冒険者達を怒鳴りつけると、ようやく状況を理解した彼らは後退していった。
「ったく。まぁこれで安心して戦えるな」
これよりその場はカリーの独壇場となる。
ブレイブロード(勇王)の力が今まさに解き放たれようとしていた。
一方、カリーとは逆の戦場では……
「……居合いでござる」
まるで瞬間移動したかのように、魔物の集団をすり抜けるイモコ。
その後ろでは十匹以上の魔物が塵となり、魔石がボロボロと地面に落ちていく。
居合斬りといえば、その場からほとんど動くことなく魔物単体を斬り伏せるものであるが、イモコのは違った。
それは光速移動を得意とした義経の移動を応用した居合斬り……否! 居合抜けであり、集団相手にも通用する必殺技に昇華されている。
それは斬られた事すら理解できぬまま、線上に立つ魔物達を塵へと変えた。
更にイモコは今の技で開けた(ひらけた)場所に移動すると、今度は地面に神刀マガツカミを深く突き刺す。
【激震烈地斬】
次の瞬間、大地が地響きをたてながら大きく揺れると、突き刺した神刀の延長線上が地割れを起こし、それは魔物と冒険者の間に深く大きな溝を作った。
「今のうちに戻るでござる。この戦場。それがしが引き受けたでござる!」
今の揺れで立つことができなくなった冒険者達であるが、その言葉を受け、ボロボロの体に鞭を入れて立ち上がる。
既に第二ラインに残った冒険者達は、精根尽き果てようとしていた者ばかりだった。
第三ラインからの支援魔法も止まり、後は死ぬのを待つだけとなった彼らにとって、これは生き残る最後のチャンス。
何が起こったのか正確に理解できる者は誰一人としていないが、それでもこれだけはわかった。
自分達はまだ生き残ることができる
……と。
「た、助かった!! 生きて戻ったら一杯奢らせて(おごらせて)くれ!」
そう言いながらも冒険者達は次々と第四ラインに引き返していった。
そして残されたイモコは、目の前に広がるあまりに膨大な数の魔物を前に目を細め……そして不敵な笑みを浮かべる。
「これで思う存分暴れられるでござるよ」
長い船旅で鈍った(なまった)体に、一気に身体中の血液がマグマのように沸き立つこの感覚。
イモコの体は震えていた。
それは恐れではなく、歓喜によるもの。
その姿……まさに修羅と呼ぶにふさわしいものであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます