第3話 蒼き稲妻
キマイラの翼で飛んできた俺達は、あっという間にマーダ神殿の町で下ろされる。
そこは丁度神殿の近くであり、町の北側に位置する場所だ。
俺は直ぐにでもマネアさん達と約束していた飯場に向かおうとするも、どうにも町の様子がおかしい。
「あれ? この町ってこんなにも人がいなかったっけ?」
そう口にしてみたものの、そんなはずはない。
俺がここを出発した時は、どこもかしこも人で溢れていた。
まだ日も出ているし、普通に人が通路を行きかっていてもおかしくないのに、誰もいないなんてありえない。
嫌な予感に俺の額から汗が滴り落ちてくる。
……まさか、この町は既に壊滅しているのか?
そんな事が頭を過る(よぎる)も、見渡す限り建物は全て無事だし、魔物に蹂躙されたような形跡はない。
もしも壊滅していたのであれば、サムスピジャポンの下尾のように、町は瓦礫の山になっているはずだ。
と言う事は、やはり何かあったのは間違いないけど、町が壊滅しているとは考えづらい。
そんな状況に不穏な空気を誰もが感じたその時、遠くから人の叫び声が聞こえてきた。
「助けてくれ――!!」
「早くしろ! 門を開けるんだよ!」
「来る! きちゃう! ねぇ早く! 誰でも良いから早く開けて!」
その叫び声は正に鬼気迫るもの。
どうやら、町が魔物の襲撃にあっているのは間違いないようだ。
「カリー!!」
「あぁ、わかってる。既に熱探知は使ってる。って、なんだこれ。やべぇぞ。」
俺はカリーに索敵スキルを使ってもらおうと思ったが、どうやらとっくに発動していたらしい。
「やばいってどういう事だよ?」
「いいか、サクセス。落ち着いて聞け。まずは朗報だ。町の住民はここから南側に集まっている。多分まだ無事だ。」
その言葉を聞いて俺は少しだけ安心した。
住民が集まっているという事は避難しているということ。
つまり、まだ間に合う。
しかし、「まずは」と言う意味深な言葉が気にかかる。
唾をゴクッと飲み込みながらも、俺は続く言葉に耳を傾けた。
「次に悪い方なんだが……この町の周りは千を超える魔物に囲まれている。人の熱もかなり多く感じるが、凄い勢いで死んでるみたいだぞ。急がねぇとヤバイかもな」
カリーは冷静に分析して話しているが、顔に焦りが窺えた。
それはつまり、今直ぐ助けに行かなければヤバイってことだ。
「みんな、聞いての通りだ。いまいち状況は把握できないけど、とりあえず外に出て魔物を迎え撃つぞ。」
俺がそう告げると、全員が強く頷く。
「わかった。それとサクセス。魔物がいるのは北と東と西。南はほとんど感じねぇ。一番やばそうなのは北側だな。」
どうやら今回は三方向からの同時襲撃らしい。
一番ヤバイのが北側なら、まずはそこの魔物を一掃し……いや、待てよ。
パーティを分ける方が確実か?
今の俺の仲間達なら一人でも大軍を押し止める事が可能だろう。
それこそ、ウロボロスのような規格外な存在でもなければ……。
そんな話をしている内に、門が開くような鈍い音が聞こえてきた。
それと同時に叫び声が大きくなり……そこには悲鳴も混じっている。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
誰かが町の中でやられた。
いや、誰かじゃない。
声の数が多いぞ。
「サクセス! 魔物五匹が町の中に入ったぞ!」
「わかった。みんなも続いてくれ、俺が先に行ってそいつらを仕留める。」
俺はそう告げると全速力でその場から声がする方へ向かって走っていった。
するとすぐに開いた門が見えたのだが、そこには数えきれない程の人が溢れている。
あれでは門の外には出られない……と思ったがそんな事を考えている余裕はなかった。
なぜならば、その集団の至る所から血が噴水の様に噴き出ているからだ。
どうやら入ってきた魔物が逃げて来た兵を殺しているらしい。
「くそっ! 間に合え!」
敵は虎のような姿の魔物。
それがものすごい速さで動き回ると、そいつが通った場所から次々と血が吹き上がっている。
だが速いといっても俺より断然遅い。
俺ならやれる!
そこから俺は、先ずは一番近くにいた魔物に接近すると、剣の一振りで一刀両断する。
弱い。これなら!
あまりにも手ごたえのない感触に、入ってきた魔物は直ぐにでも一掃できると確信した。
「一つ! 二つ! 三つ!!」
そこから一気に視認していた魔物を瞬殺した。
だが一匹は見失ってしまったようだ。
俺がここに到着する前に町の中に入っていったのかもしれない。
どうする?
探すか?
それとも外へ……
俺が一瞬迷って立ち止まっていると、後方からカリーの声が聞こえてきた。
「サクセス! 残りは俺達に任せろ! お前は門の外をやってくれ!」
ありがたい。
そうだった、俺には仲間がいる。
それもとびきり頼りになる奴らが。
ーーーなら!!
カリーの言葉を聞いた俺は、迷うことなく人の集団を飛び越えて門の外へ飛び出した。
それと同時に門の中に押し寄せる大量の魔物達。
先頭にいるデカいやつは……ゴーレム?
あれは遅いから後だな。
それよりもこいつらからだ!
俺の横をすり抜けて門に入ろうとするのは、ガーゴイルとドラゴンパピー。
「行かせるかよっ!!」
俺はその場で体を回転させて剣を振り払うと、二匹同時に塵へと変えた。
……弱い。
さっき戦った虎型の魔物もそうだが、今の二匹も相手にならない。
今回敵の数は多いが、一匹一匹の強さはそうでもないようだ。
これならサムスピジャポンで戦った強化された魔獣の方が厄介だった気がする。
とはいえ、どちらも一撃で倒せる事に違いはないが……。
いずれにしても、この感じなら門に押し寄せてきている魔物は直ぐに片付くだろう。
そう感じた俺は、目にも止まらない速さで剣を振り続け、一分もかからぬ内に門周辺の魔物を一掃した。
もちろんその中には反射スキル持ちのヘルゴレムスという、以前ビビアンが苦戦した魔物の強化版もいたのであるが、サクセスの前ではただ図体がでかくて動きが遅い雑魚に過ぎない。
それだけ今のサクセスの力は常軌を逸していた。
「とりあえずこれで少しは時間が稼げるか……くそっ!!」
ひとまず町に入れる距離にいる魔物がいなくなり、少しだけホッとした俺だが、眼前の光景を前に怒りが込みあがってくる。
周辺の魔物がいなくなったことで、今回の悲惨さがより鮮明になったのだ。
そこから見える光景は正に地獄だった。
死屍累々に散らばっている屍の山。
大地は人の血で赤く染めあがり、人の体と思われるものや、胴体から離れた頭部がそこら中に散らばっている。
そのどれもが恐怖と苦痛に塗れた(まみれた)顔をしており、思わず目を背けてしまった。
まさかここまで酷い状況だとは思わなかったが、カリーが見せた動揺は正にこれを感じていたという事なのだろう。
そして、今なおこちらに押し寄せてくる魔物の大群。
既にそこには人の姿がない。
それは余りに悲惨な状況とも言えたが、逆に言えば、気兼ねなく必殺技をぶっ放せるという事だ。
この地獄のような状況を直ぐにでも終わらせなきゃ!!
俺が強くそう思った瞬間、突然魔物の動きが止まった。
理由はわからないがチャンスだ!
まだ少しだけ魔物との距離はあるが、それでも足の速い魔物は既に俺目掛けて向かってきている。
広範囲のスキルを使いたいが、敵との距離が近すぎれば上手く狙いは定まらない。
しかしどういう訳か今は向かってきていた魔物も急に動かなくなったため、やるなら今だった。
俺は上空に向けて剣を掲げると、剣から溢れ出した蒼き光が空をも貫く。
それは大地から舞い上がる蒼き稲妻。
ステータスが更に上がった俺のディバインチャージの威力は、以前とは比べ物にならない。
これならば押し寄せている魔物を一掃できるだろう。
魔物の大群は遠くまで列を為しているため、後続から押し寄せる魔物を片付けるには横より縦だ。
そう感じた俺は、そのまま剣を縦に振り抜く!
【ディバインチャージ】
俺が剣を振り抜いた瞬間、まるで大地が怒りに叫び声をあげたかのような轟音が辺りに響き渡る。それと同時に、極大まで大きく広がった光の斬撃が、瞬く間に魔物達を塵に変えていった。
その蒼き光の破壊力は凄まじく、北側の森を越え、その先に見える山まで破壊する。
これで生きている魔物がいるとすれば、ウロボロス位だろう。
例え魔王クラスがいても生きてはいまい。
自分で放っておきながら、ぶっちゃけ驚いている俺。
すると、後方から声が聞こえてくる。
「サクセス、町に入った魔物はもういないぜ。」
どうやらカリー達が町に入った魔物を倒してきたようだ。
思ったより早いな、流石だぜ。
そして見ると、他のメンバーも全員揃っている。
シロマに至っては古龍狼形態のゲロゲロに乗っていた。
「サンキュー、カリー! よし、みんなやるぞ!」
俺がそう声を上げると、なぜかシロマがゲロゲロから降りて俺に近づいてきた。
「サクセスさん、一時的ですが魔物を魔法で止めました。だから焦らないで下さい。」
どうやらさっき魔物の動きが止まったのはシロマの魔法のようだ。
まさかシロマがそんな事までできるようになっていたとは驚きであるが、それよりも……
そうか。俺は焦っていたのか。
確かにこの光景を前に少し冷静さを欠いていたかもしれない。
そうだな、一呼吸おこう。
シロマにそう言われた俺は、その場で息を大きく吸い込み、それをゆっくりと吐き出す。
すると、なんというか頭が軽くなるのを感じた。
自分では冷静なつもりでいたが違ったみたいだ。
確かに俺は強くなったが、今の状況をまだ全く把握していない。
ここで勝手に俺が行って暴れたら、味方にも被害が及ぶ可能性があっただろう。
そこにまるで頭がいっていなかった。
本当にシロマは俺の事を良く見てるな。
「ありがとうシロマ。それでカリー。俺達に指示してくれ。今の状況を一番把握しているからな」
「ふっ。お前は本当に良い女と出会えたな。時間はなさそうだから簡単に言うぞ。」
そう言われて、顔を赤らめるシロマ。
余裕がある時ならそれをじっくり眺めていたいがそういう訳にもいかない。
「今のサクセスの一撃で北側は大丈夫そうだ。んで、東と西には魔物もそうだが人も多い。だからあまり広範囲な技は避けてくれ。それと、俺とイモコはゲロゲロに乗せてもらって西に行く。東はサクセス。お前に任せる」
カリーは周囲の状況を的確に分析して、明確な指示を送った。
やはりカリーは凄い。
「なるほど。わかった。ん? シロマは?」
「シロマちゃんは、ここで生きている者の回復をお願いしたい。」
確かにそれがベストか。
それにこの後も負傷した者が沢山出てくるだろうし、シロマの魔法は温存しておきたい。
「わかりました。できる限り多くの人を助けます。以前と違って精神力もかなり上がってますので、任せて下さい」
シロマは力強くそう答えた。
なんというか、以前よりも格段に逞しくなった気がする。
それはそれで嬉しいが……ってそんな事考えている場合じゃないか。
「ちなみにシロマ、時を止めるって後どのくらいなんだ?」
「すみません。もう動いています。今の私では範囲を絞っても三秒が限界でした。」
どうやらゆっくりしすぎたかもしれない。
さっきのシロマの言葉は俺を落ち着かせる為に、あえてあんな風に言ったんだな。
流石に時を止めるなんて反則技がそんなに長く持つはずがないか。
周りに魔物がいなかったので気付かなかったよ。
「いや十分だ。後の精神力は回復にとっておいてくれ。カリー。アレを」
「心配すんな。もう渡してある。けど、あまり無理しないでくれよシロマちゃん。サクセスが子供のように泣きそうだからな」
こんな状況にも関わらず軽口を叩くカリー。
いやこんな状況だからか。
お蔭でさっきまで残っていた焦りが少しだけ和らいだきがする。
「ば、ばか。泣かねぇよ。いいから早く行くぞ。シロマも頼んだ」
「はい。任されました。サクセスさん達も油断しないように気を付けて下さい。」
こうして俺達は元の大陸に戻って早々、魔物の大群を相手に戦うことになるのであった。
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