第35話 ガイアの剣
「おいおい、無様だなぁ。散々、俺達を煽っていた割にはもうお終ぇか? なぁ、色男さんよぉ。」
渦潮に落ちてしまったカリーは、ノロの言葉に返す事ができない。
なぜならば、今なお、激しい濁流にのみ込まれ、体の自由も聞かなければ、呼吸すらも危うい状態だったからだ。
(このままじゃやばい……くそ! まだ陸地まで距離がありすぎる。)
身動きが取れないまま、どうにかこの状況の打開を考えるカリー。
しかし、海面に浮上した時に息をするのが精いっぱいで、とてもではないが、どうにかできる状況ではなかった。
そして
ーー現実は残酷
リヴァイアサンもとい、ノロが口から高圧水砲を連続で吐き出してきたのだ。
ピュン! ピュン! ピュン!
「お? 中々当たらねぇなぁ。だが、もう慣れた。そこだぁぁ!」
「ぐぼぉぉあぁぁぁ!」
海面に一瞬浮上したカリーに、遂に水砲が当たってしまう。
突然の痛みに、呼吸をとることもできず、再度海に沈んだ。
「おおあたりぃ~!」
最初の数発は運よく外れたが、同じスピードで流され続けているため、遂には命中してしまう。
カリーの腕から赤い血潮が流れ出した。
「おぉ! こりゃいいぜ。見やすくなったなぁ、おい。次はドタマぶち抜いてやるぜ。」
上手く標準を合わせられなかったノロであったが、カリーの腕から流れる血の色が、その位置を明確にする。
「おい、遊んでる場合か? さっさとそいつを殺して、もう一人のガキを追うぞ。」
「うるせぇ、黙ってろガンダッダ! 俺がどうしようと、俺の勝手だろうが。」
ノロはなんだかんだ言って、今の自分の能力に酔いしれていた。
人間だったころであれば、到底歯が立たない相手。
そして、何よりもカリーに殴られた恨みは消えていない。
それを今、思うがままに痛めつけられるのだ。
こんな面白い事を簡単に終わらせる気は、さらさらない。
だが、ガンダッダは違った。
「そうだな。じゃあ俺がどうしようとも俺の勝手だよな?」
今度はガンダッダの口元に青い光が集まっていく。
ノロの遊びとは違い、その光は大きく、確実にカリーを一撃で屠るのが見て取れる。
カリーにとって、正に絶体絶命のピンチであった。
「おい! やめろ、ガンダッダ! あれは俺のオモチャだ。手を出すんじゃねぇ!」
ノロが叫ぶが、ガンダッダは見向きもしない。
ガンダッダが見ているのは、渦潮に浮かぶ赤い点だけ。
そして、完全にカリーの位置を捕らえると、遂に巨大な高圧水砲を吐き出した。
ビューーーーー!
ザバァァァァ!
ガンダッダの巨大な水砲の威力はノロの比ではなかった。
あまりの破壊力に、海は陸地が見える程削らせれ、渦潮すら消滅させてしまう。
海の中にぽっかりと大穴が出来上がった。
「て、てめぇ! ふざけんなよ! よくも俺のオモチャをやってくれたな!」
「ふん、そんなことはどうでもいい。早く……ん? 誰だ!?」
ノロは今の一撃で確実にカリーを殺したと思ったが、ガンダッダは何かに気付く。
カリーがいた位置から少し離れた場所……いや、空に。
昇り始めた朝日に照らされた翼のある男。
「あっぶねぇ。危機一髪だな。おい、カリーしっかりしろ!! 【ライトヒール】」
ピンチに現れたのは、龍化したサクセス。
まだ飛翔のコントロールはおぼつかないものの、どうにか直線に高速で飛ぶことができ、カリーを拾い上げたのだ。
運がいい事に、カリーから流れ出る血潮は、俺にもその位置を伝える。
それめがけて一直線に飛んできたのだ。
「あ……ん? お、おまえは? サクセス……なのか?」
「あぁ、すまねぇな。また説明している暇がないんだ。とりあえず、船に戻るぞ。」
カリーの目の前に突然現れたサクセス。
ライトヒールによって、カリーは一瞬で回復し、意識を取り戻す。
カリーが回復したのを見て、再度俺は船に飛んで戻ろうとした。
が、その時。
ピュン ピュン ピュン!!
そこに、3発の巨大な水砲が飛んできた。
「てめぇは……くそ。なんで、飛べるんだよ! こぞおおお!!」
不意打ちの水砲を避けられ、ガンダッダは叫んだ。
サクセスを認識した瞬間、本能がそれを危険と察知し、3つの頭はそれぞれ、水砲を俺に向けて放ったのだが……
当然俺は、それを余裕で躱した。
攻撃に気付いてからでも避けられる程、俺のステータスは上がっていたのである。
「うっわ! おっそ! なにそれ? 水鉄砲? そんなもんいくら吐いたって当たらねぇって。」
「まて、おら!! 逃げるじゃねぇよ!」
必死で俺を目で追う三つの頭。
しかし、あまりの俺の速さに、動きを捉えきれない。
「あぁ、後でちゃんと相手してやるよ。俺に追いつければな?」
俺は一度空で停止し、はニヤリと笑ってガンダッダを挑発する。
陸地への誘導作戦は終わってないのだ。
「おのれぇぇぇ! 言わせておけばぁぁぁ! ノロ! あれをやるぞ! ダイダリックウェーブだ!」
「あぁん? なんだそれ、知らねぇよ。 やりたきゃ勝手にやれ!」
ガンダッダが何を言っているかよくわからないノロであったが、おもちゃを奪われた怒りから、言う事を聞く気はない。
そっぽを向くノロ。
しかし、それはガンダッダの逆鱗に触れた。
「そうか、なら、もうお前はいらない。完全に俺の養分となれや。」
ガンダッダはそう言うと、大きく口を開けて、一瞬でノロの頭をかみ砕く。
バリ! ボリボリボリ!
ムシャムシャムシャ……
うわ!
共食い……
きもっ!!
俺は既にその場から船に向かって飛んでいたが、一瞬振り返った瞬間、ガンダッダの頭部がノロ頭を貪っているのを見てしまい、吐き気がした。
だが、そんな事よりも先にカリーを船に運ぶのが優先だ。
正直、自分が飛べる今、カリーが囮をやる必要はない。
「すまねぇ、サクセス。約束破っちまった……。」
「いや、カリーは十分やってくれた。お前はマジですげぇよ。尊敬する。だから……後は俺に任せてくれ。」
「あぁ……わかった。」
カリーはそれだけ言って、黙ってうなづく。
渦潮に落ちた事は、完全に自分の油断だ。
あれだけ大見栄きって失敗したのだ、サクセスに会わせる顔はない。
だが、それでもサクセスは
「尊敬する」
と言った。
カリーにとって、その言葉は特別な言葉。
昔、同じように自分もフェイルに投げかけた言葉であった。
本当に信頼している相手にしか口にはしない。
だからこそ、カリーも信頼する。
「後は任せろ」
と言ったサクセスの言葉を。
そして1分後、俺達は船に辿り着いた。
ペリー号の全力でも10分はかかる距離を、俺はその10倍の速さで飛んできたのだ。
飛翔に慣れていないとは言え、そもそもの能力が桁違いに高いからこそである。
「イモコ! 悪いが、カリーを頼んだ。俺は、奴を仕留めにいく。」
「御意! 某に任せるでござる。」
俺は、イモコにそれだけ伝えてカリーを甲板に降ろし、すかさず飛び立とうとする。
「待て! サクセス! これをもっていけ。」
カリーは飛び立とうとする俺を引きとめ、一本の剣を投げつけてきた。
パシッ!!
「これは!?」
【ガイアの剣】
攻撃力55 スキル 地殻変動
「ガイアの剣だ。そいつのスキルがあれば、地面を盛り上げることができる。そうすれば、一部だけだが海面が消えるはずだ。使い方は簡単だから安心しろ。海の地面に向かって投げつけるだけだ。」
「投げ捨てろって……もったいなくないか?」
「気にすんな。そんなの、また作ればいいだけだ。それに、もともとそれは使い捨ての武器。必要なければ使わなくていいが、持ってるにこしたことはないだろ?」
作ればって……。
どうみても、付与しただけの剣には見えないんですが……。
まぁいい、このまま倒しちまえば使うこともないしな。
「わかった。どうしても必要になったら遠慮なく使わせてもらうぜ。」
「すまねぇ、俺にはこれぐらいしかできそうにねぇ。本当は、陸地近くで使いたかったんだけどな。」
「なるほどな。まぁ、今更言ってもしょうがねぇだろ。とりあえず任せとけ!」
「あぁ、任せたぜ。相棒……。」
戦う前、俺とカリーはお互いを思うがあまりぶつかってしまった。
だが、それは本当に相手の事を大切な仲間だろ思っていたからである。
そしてこの戦いを経て、カリーの中で、俺を本当の意味で仲間だと思うようになった。
だからこそカリーは、
【相棒】
という言葉を自然に口にした。
そして、カリーから【ガイアの剣】を受け取った俺は、早速空に飛び立ち、リヴァイアサンのところへ向かう。
どうやら、共食いも終わったようで、頭が二つの水龍がこっちに向かってきているのが見えた。
「うし、んじゃパパっとやっつけますかな。」
遂に俺とリヴァイアサンの戦いが始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます