第34話 龍化

 その後もカリーは、後方に逃げ続けていくと、やっとペリー号の先に陸地が見えてくる。



「おし! いいぞカリー! あと少しだ!」



 正直ここまで順調に来れた事が奇跡に思える。

 というよりも、俺の予想の何倍もカリーが凄かったのだ。



 ここまで来たら作戦は第二段階に向けて一直線。

 俺の中から不安が消えてゆく。



 だがしかし、やはりそうは簡単に終わらせてくれる相手ではなかった。

 俺が安堵してしまった瞬間、カリーの前に大きな渦潮が現れる。



 カリーもそれに気づき、高くジャンプをして飛び越えようとするも、渦潮が大きすぎる。

 

 リヴァイアサンは、カリーの動きを見て、この時をずっと待っていたのである。

 途中から海上に見える波が小さくなっていたことに俺もカリーも気づかなかった。


 カリーの後ろを追っていたのはリヴァイアサンではなく、召喚された他のモンスター。

 リヴァイアサン本体は海中を深く潜って先回りしていたのであった。



 それでも咄嗟にジャンプをして越えようとするカリーの反射神経が凄すぎる。

 完全に不意打ちだったにも関わらず、即座に反応したのだ。



 しかし、渦潮の端まで跳んだカリーであったが、わずかに届かない。

 渦潮の端に着地してしまった。

 

 カリーの直下では、さっきまでと同じように海面が凍ったのであるが、その瞬間、激しい波の渦に氷が砕けてしまい、そのままカリーは渦潮に飲み込まれた。



「っち! どじったぜ!」



 ドボン!!



「カリーーーーーー!!!」



 水洗トイレに流されるが如く、激しい渦に飲み込まれるカリー。

 ここからでも、カリーが必死にもがいている様子が見て取れるが、渦が激しすぎて身動きがとれないようだ。


 そして渦潮の中央からは、やはりリヴァイアサンが浮かび上がってきた。



「がっはっは! 鬼ごっこは終わりだなぁ、おい。」



 浮かび上がったリヴァイアサンに、新たにもう一つの顔が現れる。



「ガンダッダ!?」



 なんとリヴァイアサンの頭は二つではなく、三つあったのだ。



「よくもやったなぁぁあ! ガンダッダァァァァァァ!」



 ノロの頭が、ガンダッダに恨み言を吐きながら噛みつこうとするが、ガンダッダの頭はそれを躱す。



「うるせぇ、お前も強くなれてよかったじゃねぇか。それよりも、先にこいつを殺せ。舐められたままでいいのか?」



「うるせぇ! 俺に命令するんじゃねぇ! だが……そうだな。先にこいつだ。こいつを殺したら、次はお前の頭も食い千切ってやる!」



 ノロの頭は、視線をガンダッダから海面を周るように流されているカリーに向けた。



「どういうこと……だ? いや、そうじゃない!!」

 


 驚いている場合じゃない。

 このままじゃ、カリーが殺される!!



 俺は焦って、すぐさま海に飛び込もうとする。



ーーが、何かが俺の服を引っ張って止めた。



 ゲロォォォ!(だめ! 僕を使って!)



 俺を止めたのは、いつのまにか古龍狼に変わっていたゲロゲロだった。



「ゲロゲロ!? 放してくれ、急がないとまずいんだ!」



 ゲルルルルゥ!(だめ! 僕の力を使って!)



「使うって……そうか、あれのことか! よし! ゲロゲロの力を借りるぞ。【集気】……じゃない?【フュージョン】?」



 俺は、ゲロゲロの力を借りて能力を向上させる【集気】というスキルを使おうとした。

 だが、そのスキルは違う名前に変わっている。

 俺の脳内にある、スキル名は【フュージョン】だった。


 どうやら、魔心に転職してスキル名が変わったらしい。

 なんでもかまわない、とにかく急がなくては!



 俺はためらうことなく新スキル【フュージョン】を使う。



 すると、突然ゲロゲロの体が赤と青のオーラに包み込まれ、そして……消えた!?



 それと同時に、俺の体に赤と青の螺旋が纏わりつく。



「ぐっ……う……な、なんだ……。どうなってんだ。」



 突然、激しい痛みを感じた俺は、じっとそれに耐える。

 まるで体中の血液が激しく逆流するかのようだ。



 痛い!!

 熱い!!

 苦しい!!



「い、息が……できない!!」



 ゲロォン(頑張ってサクセス! 僕も一緒だよ!)



 壮絶な苦しみに心が折れかけた時、俺の心に、ゲロゲロの声が聞こえてくる。




 ゲロォォ!(負けないで! サクセスならできるよ!)



 常人ならば耐えきれない程の痛みであったが、その声が俺に勇気を与えた。



「うおおおおぉぉぉぉ!!」



 俺は叫んだ!

 ただひたすらその苦しみに立ち向かうべく、必死に叫び、そして耐え続ける。



 そのまましばらくすると、徐々に全身に回る痛みが治まっていき、俺の体に吸収されていた赤と青のオーラが完全に消えると、やっと苦しみから解放された。


 実際には、ほんの数秒しか続いていなかったのだが、俺には数十分に感じるほどの長い苦しみであった。



「はぁはぁはぁ……。くそ! なんだったんだ……よ? ん? なんだこれは……力が……力が溢れる!!」



 全身にかつてないほどの力を感じる。

 それも時間が経つほどに、どんどんその力は膨れ上がっていき、俺の体のキャパを越えそうな勢いだ。

 

 それと、よくわからないが体も大きくなっているようだ。

 視線が今までよりも高い。



 いや、そこじゃない。

 これだよ! これ!?

 ま、さか……。



 体の違和感に気付いた俺は、そっと手を背中に伸ばす。



「翼!?」



 俺の手が触れたのは、ふわふわの大きな翼。

 鏡がないからよく見えないが、振り向くと、俺の後方に大きな翼が見える。

 理由はわからないが、どういうわけか、俺の背中に翼が生えていた。



 バサッ! バサッ! バサッ!!



 試しに翼を動かす事に意識してみると、まるで自分の手を動かすかのように、自由に翼がはためいた。



「もしかして……飛べるのか!?」



 ブワッ!!



 今度は、ジャンプをした後に激しく翼を動かしてみると、なんと体が空中に浮いたままになった。



「いける……いけるぞ! これなら!!」



 予想外な事に飛べるようになった俺は、とにかく翼を激しく動かす。

 すると圧倒的なスピードで、空中を飛び回るが、まだ慣れていないのかコントロールがきかない。

 


 だが、練習している暇などない。

 今は一刻を争う。

 


「カリーを助けるんだ!!」



 俺は、真っすぐ進めるように意識することにより、なんとかカリーが飲まれている渦潮に近づいていくのであった。





 サクセス(龍化) 

 聖戦士(魔心) レベル45


 ちから ???

 体力  ???

 知力  ???

 うん  777

 素早さ ???

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