第79話 裁判員調停裁判
「皆の者、静粛に!! これよりエルフ族とダークエルフ族に対する裁判員調停裁判を始める。裁判長を務めるのは、わたくし、キノコ・タケノコノコである」
その宣言により、これから裁判員調停裁判という謎の会合が始まる。
ところでキノコ・タケノコノコと名乗るこの人物……いや、このキノコ人間は一体なんなのだろうか?
っと、その疑問はひとまず置いておくとして、既に裁判所内にはエルフ族が左側に座り、ダークエルフ族が右側に座っている。
そして北側に位置した場所に座る自分達が裁判官だと思っていたのだが、俺達の座る椅子の中央に、いつの間にかキノコ人間が現れてさっきの宣言をし始めたのだ。
もう何がなんだかわからないけど、どうやら俺達が判決を下す訳ではなく、この謎キノコが下すようだ……と思っていたのだが……
「サクセスさん、どうやらこれは裁判ではないみたいですね」
困惑している俺の横で、シロマがそう呟く。
「裁判ではない?」
「はい、調停と言っていたので、私達やこのキノコさんが直接判決を下すのではなく、両者の言い分を聞いて、話を纏めるという感じだと思います。その上で私達もその判断の助けになるといった感じでしょうか?」
ふむ、なるほど。
よくわかんないけど、わかった。
ようはやっぱり会合ってことでいいってわけね。
それなら少しだけ安心したぜ。
「ではまずは、ダークエルフ族の代表。前へ」
そう裁判長が口にすると、ダークエルフ族長老がお立ち台(証言台)の前に立って話し始める。
「我々ダークエルフ族は、これまでエルフ族と上手く共存していたにもかかわらず、エルフ族によって多くの子供が無残にも殺されてしまった。その件について、エルフ族に対して厳重な罰を求める」
そのようにダークエルフ族の長老が口にすると、エルフ族側からは次々と非難の声が上がった。
「冤罪だ!! むしろ殺されたのは我々の方だ!」
「我が同胞の仇、決して忘れぬぞ!!」
「滅べ、ダークエルフ!!」
なんとも過激な言葉と罵声の数々に、場内は収集がつかなくなる。
しかし、そんな状況にもキノコ裁判長は冷静に……
「静粛に!! 発言は私が許した者のみとする。以後、これを守らなかった者には退場してもらうので、忘れぬように」
その言葉が場内に響き渡ると、飛び交う罵声がピタリとやんだ。
流石は裁判長……やるな謎キノコ。
タケノコなのかキノコかわからないが……。
「では次にエルフの代表前へ」
裁判長の言葉に、今度はエルフの長老が証言台に立つ。
「最初に伝えたい事として、我々エルフは今回の事件についての真相解明を求める。お互い言い分はあるじゃろうが、まずは状況の確認をしたいのじゃ」
ダークエルフの言い分とは変わり、エルフ側の申立内容は非常に理知的な内容だった。
エルフ側としても許せない数々について言いたい事もあるだろうが、本当に冷静な判断と言える。
これだけでも、俺達を含め、裁判長の心象は良くなるように思った。
そして次にエルフの長老はいくつかの情報を羅列して話し始める。
・エルフ族の者(トゥーイ)が行方不明となり、それがダークエルフ側による拉致と人族から言われた事。
・実際にはトゥーイは人族から打診されて、ダークエルフの国で使者として働いていた事。
・その後、トゥーイがダークエルフ族の子供を虐殺したとして、四肢を切断されて見せしめにあった事。
「以上がエルフ側の知る事実じゃ。ダークエルフ側はこの事についていかがと考える?」
「ではダークエルフ族の代表、答えなさい」
エルフの長老の申し立てについて、裁判長はダークエルフ側に答えを求めた。
しかしそれに対して立ち上がったのは、ダークエルフ族の長老ではなく、その隣に座る人族。
その者は証言台の前に立つと述べる。
「私はダークエルフ側の弁護人を務めるシュン・ブンと申します。中立である人族ではありますが、エルフ側の残虐非道な行いを知る者として、代わりに発言をお許しいただきたい」
どっかで見たエロハゲメガネがそう口にすると、裁判長はダークエルフ族の長老を見やり、頷いている状況から判断し、それを認めることとした。
「許可する。ではどうぞ」
シュン・ブンの弁明についてはこうだった。
・トゥーイという者に人族は関わっていない。
・目撃者等により、トゥーイという者がダークエルフ族領地に密入国し、悪事を働いていた証拠がある。
・トゥーイの潜伏先において、トゥーイがエルフ族の長老会から派遣されて事を成したという証言を聞いている。
・すべてはエルフ族が魔王軍と共謀して企てた計画であり、エルフ族には厳罰が下るべき。
以上がダークエルフ族に代わって述べた、シュン・ブンの見解だ。
当然それを聞いたエルフ族は全員が怒り心頭状態となり、今にも暴れ出す寸前であった。
しかしながら、ここで暴れれば不利になるとわかるからこそ、歯茎から血が出るほどに奥歯を噛んで我慢する。
証言台からエロハゲが去る際、エルフ族に対してニヤリを笑みを浮かべて挑発したのを俺は見逃さない。
本当にクソ野郎だわ、あいつ。
しかしそれでもエルフの長老は冷静だった。
「発言をよろしいでしょうか? 裁判長」
「よろしい」
「では、今の話にあった目撃者を是非連れてきてもらいたいのじゃが」
「よろしい。では証人がいるのであれば、前へ」
裁判長が認めたことで、シュン・ブンは「わかりました」と頷くと席を立ち、その後一人のエルフを連れて戻ってきた。
「こちらのエルフが証人になります」
「では証人、前へ」
裁判長から言われ、おどおどした感じのエルフが証言台の前に来る。
エルフ? ダークエルフでも人族でもなく?
と疑問に思うも、俺はそのエルフの言葉に耳を傾けた。
「わ、わたしは……A子と申します。じ、実は、えっと、あの……そ、そこにいるエルフの長老に脅されて、トゥーイの密入国をて、手助けしました。ひっ! こ、殺さないで下さい!!」
そのエルフは長老の顔を見て、怯えながらそう口にする。
その姿を見る限り、とても嘘をついているようには見えない。
しかもエルフというのがやっかいだ。
ダークエルフならまだしも、同じエルフ族からの証言というのは非常に大きい。
「ではエルフ族側から、証人に尋問があれば受け付ける」
裁判長がそう口にすると、早速エルフの長老が質問する。
「そなたはワシを見て覚えておるようじゃが、ワシはそなたの事を知らぬ。A子とやら、そなたの出身地、両親の名を教えてもらえるじゃろうか?」
そう長老が質問するや、すかさずシュン・ブンが手を上げた。
「異議あり!! 今の質問は裁判となんら関係がありませぬ!」
しかし……
「異議を却下する。では証人よ、今の質問にお答えなさい」
「わ、わたしは……えっと、わ、わかりません!! そこにいる長老から洗脳魔法を受けて、そういった記憶は削除されております」
「ふむ、それはおかしいのう。そんな魔法は知らぬし、そんな記憶状態でなぜさっきの話を思い出せるのじゃ?」
「異議あり!! エルフ側が不当に証人を脅しております」
「異議を認める、それを判断するのは裁判官である。よって今の反対尋問は認めぬ」
え? 異議を認めるんだ。
普通の質問だと思うんだけどな……
まぁ俺は裁判とかよくわからないし、何も言えないけど。
「わかりました。では、A子さんは都合の悪い事は魔法によって記憶を消されたのでわからないということで納得するのじゃ」
若干嫌味を込めて口にするエルフの長老。
それによりA子は証言台から戻っていった。
すると、シュン・ブンは立ち上がり更に裁判長へ確認する。
「裁判長! 他にも証人がいるのですが、連れて参っても良いでしょうか?」
「許可する。連れてきなさい」
こうしてダークエルフ側より、数々の証人が証言することとなる。
※ ※ ※
「私はエルフ族のB子と申します。私と友達はそこにいるエルフの長老に借金を盾に体の関係を強要されました。」
「異議ありじゃ! そんな事実はないし、そもそも今話し合っている内容から外れておる」
「異議を認める。以降関係のない供述は控えるように」
「わ。私からは以上です」
なんとB子の証言はそれで終わりだった。
一体何だったのだろう?
エルフ側が言うように全く関係ない話なような……まぁなんとなく今の証言でエルフの長老がエロく見えてしまったのは事実だけど……
証人ってこんなんでもいいものなのだろうか?
そんな疑問を他所に次はC子の証言が始まる。
「私はトゥーイの親友のC子です。トゥーイから相談されていた内容は、エルフの長老にその身を捧げるか、ダークエルフの国で仕事をするか選べと脅されていたそうです。トゥーイは家族が抱える借金の為……うっうっうっ……」
そう言って泣き崩れるC子。
今の話は……さっきのB子の証言と繋がるようにも思える。
そしてエロメガネはそれを聞いて、満足そうに頷いていた。
なんかうさんくせぇな、おい。
そして最後にD子。
なんと今度現れたのはダークエルフの者だった。
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