第28話 潜入
「さて、んじゃ行ってくる。イモコ達は逃げる奴がいないか、よく見張っててくれ。」
「わかりました、ご武運を!」
俺とカリーは、イモコ達に見送られながら、小型船「覇王丸」に乗り込むと、ノロの船が停戦している岩礁に近づいていく。
流石に、ペリー号を横づけするとバレる可能性があったことから、今回は人が5人位しか乗れない小型船に乗って向かう事にしたのだ。
ゲロゲロォ~(僕も行きたかった!)
ゲロゲロは最後まで俺と一緒にいたいと駄々をこねていたが、何とか説得を続ける事で、待つ事に納得してくれた。
ゲロゲロの説得のせいで、少し到着が遅れてしまったが、あれ以降、誰かが岩礁から出てくることもなかったので、とりあえずは問題ないだろう。
それから俺達は、オールを使って覇王丸を岩礁へと進めていくと、突然カリーが質問してきた。
「んで、サクセス。なんか作戦はあるのか? 流石に正面から堂々と行くわけじゃないよな?」
作戦か……
作戦ね……
作戦……
「すまん。作戦ないわ。行けば何とかなるとしか考えてなかった!!」
「……あほか!! 相手はモンスターじゃないんだぞ。全員皆殺しっていうならそれでもいいけど、捕縛するんだろ?」
「う、うん。ごめん……。」
怒られちった。
まぁ、そりゃそうだ。
「ったく! まぁいい。俺がいて良かったな、サクセス。俺の熱探知スキルがあれば、人間の体温を察知して、敵に奇襲ができる。それと、武器は俺が渡すこの棒を使え。剣じゃ……いや、素手でも殺しちまいそうだからな、サクセスは。」
カリーは、そう言うと、普通のひのきのぼうを俺に渡す。
んん? 棒?
【ひのきのぼう(雷)】
攻撃力1
スキル 気絶
その棒を手に取った時、能力が判明する。
「!? これは……まじか! つまり、これで優しく叩けばいいと!! おまえ天才か!?」
「あぁ、それなら殺す事なく無力化できるだろ。そいつはただの棒なんだが、俺は属性を付与できるんでな。こういう対人戦でも、結構役に立つんだわ。このスキル。」
カリーすっげぇぇぇ!
イモコもカリーもまじで頼りになるな!!
「じゃあ、とりあえず隠しアジトに付いたら、足音をできるだけ立てないように、かつ、瞬足で進んで行くってわけでいいかな?」
「あぁ、それでいいと思うぜ。俺達の速度なら、相手が気付いた時にはもう遅いだろう。とりあえず、俺の熱探知スキルを頼りに進むから、サクセスは俺の後ろを歩いてくれ。敵の数も、マップの広さも未知数だ。油断するなよ。」
「あぁ……わかった。おし、この辺でいいだろう。お? まじであったぞ、入口が。」
俺はノロ達が船を止めた場所から少し離れた岩礁に船を停める。
日中ならダメかもしれないが、この真っ暗な中であれば、多分見つかることはない。
そして、俺も大分目が慣れたせいで、少しだけ見えるようになっており、ノロ達の船の先に、人が一人入れそうな穴を見つけることができた。
「見えたな。ここからは出来るだけ音をたてないようにしてくれ。まだ外は波の音で漏れないとは思うが、あの中に入ったら、外とは逆に音が反響するはずだ。できるか?」
カリーは真剣な目で聞いて来る。
こういうカリーは初めて見るが、なんだか兄貴みたいだな。
「あぁ、頑張る!」
「頑張る……か。まぁいい。なんとかなるだろう。それじゃ、行くぞ!」
カリーはそう言うと、洞窟の中に入って行く。
当然俺も後ろから付いていくが、カリーはものの見事に足音を全くさせない。
どうやら、レンジャーのスキルも持っているようだ。
まじで、この男……万能すぎる。
隠しアジトの中に入ると、入口は狭かったものの、中はかなり広い。
人が5人は横に並んで歩ける道幅の通路となっており、それが蟻の巣のように、分岐しまくっている。
「カリー、どうだ? 近くにいそうか?」
俺はゆっくりと前を進んで行くカリーに小声で話しかけた。
「あぁ、まだここらへんにはいないが、うじゃうじゃいるな。ざっと100人はいそうだぜ。だが、ラッキーだ。全員バラバラってわけじゃなさそうだ。いくつかの部屋に10人位づつ纏っているみたいだぜ。とりあえず、一番近いところから順々に回っていくぞ。」
カリーは、止まることも、振り向くこともせずに答えると、そのままの足で進んでいく。
これだけ道が分岐していても、カリーの歩みに迷いはない。
「止まれ……。あの扉の向こうは比較的広くなっていそうだ。扉を開けた瞬間、俺は左から敵を気絶させる。サクセスは右側を頼む。一瞬で終わらせれば、気付かれたとしても応援は呼ばれないだろう。」
カリーが初めて歩みを止めると、俺に指示した。
俺達の前には、今までは見なかった扉が設置されており、その隙間から光が漏れている。
扉の中から、酔っ払いのような笑い声が響いていることから、中で宴会でもしているのだろう。
つまり、敵は油断している。
「わかった。それじゃあ、合図をしてくれ。」
「あぁ、三つ数えるぞ。3、2、1……!」
カリーは1と言った瞬間に、音をたてないように扉をゆっくり開いた。
やはり扉の中では、盗賊のような恰好をした男達がジョッキを掲げて、酒を飲んでいる。
扉が開いたのに誰も気づきやしない。
今だ!!
俺達はそこから最大速度で盗賊たちに駆け寄ると、一瞬で盗賊たちを気絶させていった。
あまりの速さに、盗賊たちは自分が気絶したことにも、襲われた事にも気づくことができない。
そして、あっという間に全員を気絶させると、魔法のロープを使って縛り上げ、更に、声を出せないように口を布で縛った。
「ふぅ~。とりあえず出だしは完璧だったな。流石カリーだ。」
「いや、サクセスもだ。俺が半分やるころには、お前もうそっち全部片づけて、こっちの奴まで気絶させてたからな。お蔭で気づかれることなく、片付いた。」
俺とカリーはお互いを褒め合った。
なんだか、さっきまで何の役にも立っていなくて、迷惑ばかりかけてたせいか、素直に褒められたのを嬉しく思う。
こうして俺達は、順調にアジト内の盗賊を捕縛していくのであった。
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