第55話 スーパーイモコ!?

 時は、サクセスが亀の魔獣を倒す前に戻る。


 その頃、カリーとイモコは、ライオン型の巨大魔獣を相手に苦戦を強いられていた。



「なぁ、イモコ。俺が前を相手にするから、イモコは後ろの奴をやってくれねぇか?」


「挟撃でござるな。了解っと言いたいでござるが、中々難しいそうでござる。」



 二人が相手をする魔獣は、頭はタテガミを生やしたライオンに似ており、胴体に翼があり、しっぽは大蛇といった姿だ。


 そして、その魔獣は全身に黒い炎を纏わせており、ライオンの口からは黒いブレスを吐き、蛇の口からは毒液を吐いてくる。


 その姿から分かるように、敵は一体であるが、実際には二体同時に戦っているのと同じだった。


 とはいえ、カリー達も二人で戦っているのだから条件は同じとも言えるが、問題は別にある。


 その巨体が纏う黒い炎。


 それが二人が苦戦している最たる理由であった。



 最初にイモコがその魔獣に攻撃を仕掛けようとした時、魔獣の横っ腹を狙って剣を振ろうと接近するも、咄嗟にイモコはバックステップして、攻撃をキャンセルする。


 イモコは攻撃する直前感じたのだ。


 

 その黒い炎に刀を触れさせてはならない……と。



 それはイモコの第六感ともいえるものだったが、その後直ぐにそれが正しかったとわかる。


 その黒き炎はただの炎ではなかった。


 いや、そもそも炎ですらない。


 イモコは試しにクナイをその胴体に向けて投げてみたところ、魔獣に刺さったクナイはボロボロに朽ちていった。


 それを見て、イモコは理解する。


 あれは炎ではなく、腐食ガスの類であると。


 つまり、金属製の武器で攻撃をすれば、もれなく武器は腐って使い物にならなくなると言う事である。


 それ故に、これまでカリーとイモコは遠距離攻撃に徹していたのだが、どの攻撃もほとんど効いているようには思えない。



 カリーの弓から放たれる矢は、全て蛇の吐く毒液によって防がれてしまい、イモコが飛ばす斬撃は威力が低い為、そもそも殆どダメージが通らなかった。


 しかしイモコの攻撃はともかくとして、カリーが放つ属性攻撃は、その魔獣が警戒している様子からもダメージに期待できる……のだが、蛇が邪魔で当てる事が難しい。


 その為に、蛇頭とライオン頭に分かれて攻撃をする事にしたのだが、それでもやはりダメージを与えられない時間が続く。



「天封剣乱れ斬り!」



 イモコは蛇の頭部に向けて連続で斬撃を放つも、それを蛇の頭はたやすく躱し続け、飛んだ斬撃はその胴体に当たるがダメージはない。


 カリーもまた、ライオンの頭部に対して、雷、炎、氷属性の矢を連続で放つも、蛇頭はイモコの攻撃を躱しながらも常に毒液を撒き散らしており、予め散布された毒液に防がれてしまう。



 完全に積んでいるといっていいその状況。



 唯一救いなのは、敵の攻撃もカリー達にヒットしていない事だろうか。


 二人は常に適正な距離を保ちつつ、遠距離から安全に攻撃を仕掛け続けている。


 それに苛立った魔獣は、カリーに向かって突進してくるも、イモコの攻撃に蛇頭が暴れまわることから、それが邪魔をして上手く突進する事が出来なかった。



 カリーに向けて突進した魔獣は、寸前の所でカリーの横を通り抜ける。


 あわや直撃するかと焦ったカリーは、額から冷や汗を流した。



「このままじゃジリ貧だ。イモコ! 俺に考えがある。少しいいか?」


「なんでござるか?」


「俺が奴の動きを少しだけ止める。同時にあの厄介な黒い炎もな。」



 その言葉に驚くイモコ。



「そんな事できるでござるか!?」


「できるできないじゃねぇ。やるんだよ。」


「わかったでござる。それで某は?」


「チャンスは一瞬しかつくれねぇ。だからその間に一発でかいのを決めてくれ。それと今からアイテムを作るから時間を稼いでほしい。」


「任せるでござる。では、カリー殿は少し下がっているでござる。」



 イモコはそう言うと、今度はライオン顔の方に向けて走ると接近する。



「お主の相手は某でござるよ! 天封剣!」



 イモコの斬撃がライオン顔の頬をかすめると、その目がギロリとイモコに向いた。


 その隙に後方へ退避するカリー。


 そしてある程度下がったカリーは、手に魔力を込めて何かを作り始めた。


 その間、イモコは蛇とライオンの二つの頭に攻撃され続けている。


 蛇の口から吐かれる毒の液体、ライオンの口から吐かれる黒い炎。


 その二つの攻撃をギリギリで回避し続けるイモコ。


 

 試練の間で培った経験が、ここにきて大きな成果を発揮していた。



 極限状態でこそ、イモコの潜在能力は輝きを見せる。心眼を使って避ける事に専念したイモコに、隙はない。



 しばらくその場で激しい攻撃が続くも、やがてカリーの声がイモコに届いた。



「待たせたな! できたぜ、とっておきの奴がな!」



 その言葉を聞いたイモコは、一瞬だけ目を開いてカリーに目を向けると、カリーの手には人頭サイズの丸い物がのせられている。



 だがしかし、その一瞬の隙を見て、蛇頭がカリーに向かって飛び掛かってしまった。



「しまった! 避けるでござる! カリー殿!」



 焦るイモコ。



 さっきまでうまく二つの頭に攻撃を続け、ヘイトを自分に向けさせていたが、それが止まった瞬間を狙われてしまった。


 カリーもまた、手に持ったアイテムの完成に気を抜いてしまい、回避が遅れる。


 そして飛び掛かる蛇頭の速度は想像以上に速い。


 既にカリーの面前近くまで来ていたそれは、もはや回避のしようはなかった。



――だがその瞬間、



 カリーの面前で蛇の頭が爆散する。



 一瞬だけ、光が飛んできた方に目を向けると、遠目にサクセスが映った。



 カリーは理解する。


 サクセスに助けられたと。



 丁度亀型の魔獣を倒したサクセスは、カリー達を方に目を向けると、カリーがヤバイ状況になっている事に気付いた。


 その為、まだ距離はあったが、高速で破壊力の高いライトアローを蛇に向けて放ったのである。



「危機一髪だったな。」



 まるで他人事のように、そう呟くカリー。



 すると、カリーは手に持った玉をライオン顔に向けて投げつけた。



「くらいやがれ! お前専用に作った特大アイスボムだ!」



 カリーが作っていたのは、ありったけの氷属性魔力を付与した特性の爆弾。


 その大きさは、普段カリーが使う物の十倍以上であり、当然込められている魔力も多い。


 その爆弾は魔獣の体に当たると大爆発を起こし、同時に魔獣の体を一気に凍らせた。


 とはいえ氷結爆発をくらって尚、魔獣の体には傷は見当たらず、凍った次の瞬間には氷が割れ始めてしまう。



 もって十秒。



 カリーはそれを見て判断した。



「今だ、イモコ! 時間はないぞ!」


「御意!!」



 カリーのその声を聞いたイモコは、新スキルである神気を解放させると、その体から金色のオーラが沸き上がる。



 イモコは刀を上段に構えると同時に、滑るように移動して魔獣に近づき、その刀を振り抜いた。



「真空瞬獄波動殺!!」



 その技はイモコが天下無双に転職した時、唯一解放された究極奥義。



 イモコが刀を振り抜いたその刹那、既にイモコは魔獣を通り抜けた先に立っている。



――そして次の瞬間……



 氷ついた魔獣の体がバラバラに砕け散っていった。



 まるで真空を移動したかのようにブレの無い動き。

 そしてそこから放たれる斬撃の波動は全てを滅殺する。



 その技を見たカリーは、目の前で行われた絶技に驚愕の表情を浮かべた。



「お前……なんだよその技!?」


「つまらないものを斬った……でござる。」


「何格好つけてんだよ。いや、それよりも凄い技だな、驚いたぞ!」


「これも、師匠やカリー殿の指導の賜物でござるよ。」


 

 塵と消える魔獣を前に、二人がそんな会話を交わしていると、そこにようやくサクセスが現れた。



「イモコ! 今の凄かったな! どうやったんだ?」


「今のは天下無双の究極奥義でござる。しかし、まだまだ師匠の足元にも及ばないでござる。」



 あれだけの技を披露しておきながら、一切増長しない、男イモコ。



 そして全ての魔獣を倒し終えると、黒い雨が降りやみ、空に広がっていた雲もいつのまにか消えていた。



「ゲロォ!(先に行かないでよ!)」



 そこに、少し遅れてゲロゲロも到着する。



「悪いゲロゲロ。とりあえずこれで全部倒したな。空も元に戻ったことだし、もう大丈夫だろ。」


「あぁ、今回はイモコにいいところをとらちまったがな。」


「そんな事はないでござるよ。カリー殿の爆弾も凄かったでござる。」



 カリーがイモコの肩に腕を回すと、照れたように笑うイモコ。



 そんな二人を見ながら、サクセスはゲロゲロの背中に乗った。



「じゃあみんなのところに戻るぞ。二人とも乗ってくれ。」



 その言葉にイモコとカリーが飛び乗ると、ゲロゲロは空へと飛び立つ。


 こうして、下尾を襲った謎の巨大魔獣は無事討伐されたのであった。




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